後日談 窓の外へ
「ふーこんなもんか!」
今日の作業をはやめに切り上げて、さっさと家の中に入る。
自分の時間が作りたいってよりは、シンプルに腰が痛くなっちゃう。
引き戸をガラガラと開け、家へと帰る。
洗面所に行き、手を洗って自分を見る。
「【ブロッサム】」
「うーん今日はあんまり綺麗な色じゃねぇな」
左目に咲く真っ赤な花を撫でながら呟く。
俺たちが冒険者を引退してからもうすぐ一年が経つ。
魔王を倒してから有名にはなったものの、生産職のせいで批判を浴びすぎた。
「やっぱこんな感じで木こりしとくべきだったかなぁ?」
縁側に移動して、ゆっくりと座り込む。
ここからの景色は素晴らしい。
風を喜ぶようにざわめく森、咲き誇る花。
全部自分がやったと思うと誇らしい。
「あいつら、元気にしてるかなぁ」
視線を青々とした空へと向ける。
冒険者を引退して以降、あのメンバーで会うこともなく、時々手紙でやり取りする程度となった。
――まぁ一人……ヒカリだけはずっと連絡がついていないが。
デリスは冒険者の引退後、料理人になったらしい。
店を構えて、来た客に振る舞うというものではなく、移動販売といったほうが近いのかもしれない。
デリス曰く、そっちのほうがいろんな場所の名産品を食べられるらしい。霊子が店に一度訪れる機会があり、その感想を聞かせてもらったが……販売というよりボランティアに近いぐらい値段が安いらしい。
まぁ能力でサモンして、いくらでも作れるしな。
霊子は俺の紹介で俺とヒカリの生まれ故郷の神殿のシスターになった。
人見知りで内気な性格を変えたいという本人の希望もあったわけだし、最適だろう。学び舎として子どもたちと関われるしな。
少し不思議なのが、神様があれから出てくる頻度が少なくなったらしい。
忙しくなった~と吞気なことを言っているらしいが、特に増える業務もないだろうに。
俺はというと、花屋のおっちゃんと協力して事業を立ち上げた。
植樹、植栽の依頼や木や花の加工をする仕事だ。
アイリスも一枚噛んでおり、最も人気な植物である凍月草の生産を任せてる。
まあアイリスのメインはアイス屋さんだけど。
あれから冒険者界隈というのはちょっと緩くなった。
生産職は意外と強いし、トリッキーな動きで敵を翻弄できるから重宝される場合もある。
一周回って最近は冒険職が生産職にも進出する流行があるらしい。
俺らは職に振り回されて冒険者をやめたが、結果的に職の垣根が消えたという功績を残せたのはかなりの偉業だろうと自負している。
過去の出来事を遡っているとそういえばもう二人連絡を取っていない存在を思い出す。
バタンと倒れこみ、木目の天井をぼんやり眺める。
「バリストとミマリのおっちゃん……なにしてんだろなー」
なんて独り言をつぶやいた。
◆◆◆◆
風が鳴く。
砂にまみれる大剣を引きずり続け、蛇の尾を描いていく。
「……」
儂は今、どこに向かっているんじゃろうか。
二人を失って以来、ただただ歩き続けてきた。
いくつもの大陸を超え、いくつもの海を渡った。
「っ!」
何かに躓いたのか、顔から地面にダイブする。
「ぁぁ……」
地面の砂を握る。
「黒影ぇ……クウガぁ……」
右手の大剣を地面に斬りつける。
地面には大きな亀裂が入る。
「……」
なぜ儂を置いていった。
なぜ儂が代わりになれなかった。
おぬしらがおらんくなったら儂どうしたらええんじゃ。
儂を冷静に止めるやつもおらんし、呼び捨てにしてくるやつもおらん。
「【インフィニットシーケンスウェポン】」
過去に縋らずにはいられない。
ごとりごとりと重い金属音を立てながら武器が周囲に生成されてゆく。
「あぁ……これはあの川での……」
「これはかの龍と一戦交えたときの……」
彼らとともに歩んだ記憶……生意気な黒影や必死に止めてくるクウガのことを考えるだけで視界が滲む。
儂だけが残ってしもうたら――
なんとしてでも生きなければならんじゃろうが……。
◆◆◆◆
「よぉーし!ここか」
川を渡り、草をかき分け、山を登り……ようやくたどり着いたここは神殿。
「ここがシメノモ様の神殿か」
彼らと別れた後、大陸中を回って旅を続けていた。
そんな時、一つの噂話を耳にしたのがきっかけで旅に目的を見出すようになった。
――幻の神の大陸がある。
誰が言ったかは定かではねぇが、冒険心がくすぐられちまった。
神の大陸……なんていうからとりあえず神に片っ端から当たることにした。
もうすでに今まで住んで来た大陸のビャッシモ様たちには話を聞き終えてきた。
パラパラとメモ帳を広げ、情報を確認する。
"めい"を司る神、シメノモ様。真名は
信仰するものに二つ名を与える……と。
本殿は森を超えて、山を登り切ったこの場所……で合ってるな。
「よし、気合い入れっかぁ!」
パァンと頬を叩いて喝を入れ、神殿へと歩みだす。
数回目の神とのご対面とはいえ、緊張する。
ツタや木に囲われた立派な神殿へと入っていく。
◆◆◆◆
上も下も左も右も真っ白。
「っ……ホントに大丈夫なのかな」
生まれ故郷の神殿でしばらく神様と話した後、一つ……大きなお願いをした。
最初は断られたが、説得を繰り返して、魔王を討伐した報酬として許された。
しばらく神様の呪文を聞いていたら、全くもって知らないこの地に立っていた。
「説明なしは良くないよ」
愚痴を漏らしつつ、歩き続ける。
見える範囲全てに何もない空間をただひたすらに歩き続けること数十分、ついに変化が現れる。
窓のようなものが現れ、その向こう側には全く見たことのない景色が広がっていた。
「ふー……ここか」
一度深呼吸して落ち着く。
私は魔王討伐の重荷から逃げる。レオン、デリス、霊子……そしてバリストさん、ごめんなさい。
このままあそこで過ごし、ストレスによってアデルのような思考になりたくない。
私はすべてから逃げる。でも前に進みたい、強くなりたい。
だからこの先が最も私に向いていると思うんだ。
「行ってきます」
この世界に別れを告げる。
一時の別れかもしれないし、今生の別れかもしれない。
――窓をくぐると、知らない動物の音がする、匂いがする。
見たことのない建物が立ち並んでいる。
「よし!誰と仲間になろっかな」
#####
『レア職アニマルテイマーは最強なのか?』完結となります。
続編……別主人公のものを出しますが、アニマルテイマーの物語はこれで終わりとなります。
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読んでいただきありがとうございました。
レア職「アニマルテイマー」は最強なのか カモさん @kamonosuke
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