第60話 最強は――。
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「……風が、止んだな」
ヒカリが能力を行使した直後、アデルとヒカリの両方がぱたりと倒れ、動かなくなった。
どうしたものか。アデルにここでとどめを刺せる状態にはなっているが、おそらくヒカリは【リンクマインド】っていうぐらいから思考に入り込んだのだとすると……殺したらどうなるかは分からないな。
「とりあえず、俺らだけでも傷を治療して態勢を立て直そう」
「【レイニングフード】、さっき新しく手に入れた能力なんだが、俺の飯を食べれば自身の能力とかが強化されるらしいから食べときな」
「あまり空から降ってくるものなぞ、食べたくないんじゃけどな」
といいながらもバリストはむしゃむしゃご飯を食べている。
「……【心理掌握】」
霊子がじっとヒカリを見つめていたかと思うと、一言呟いた。
「ん?霊子どうした?」
「あっ……いや、誰かの思考に入ってる人の心って読めるのかなって……」
「どうじゃった?」
「ぇ、えと……ちゃんとわかります!今は何かを悩んでいる……?ですかね?」
「何か助けになれねぇかな」
ヒカリとはいえ、生身で敵の心の中に入るのはだいぶ危険だろうし、すぐに救助に向かいたいところだが――
「ア、アタシ一つ提案が……」
「れーさん大活躍だね~何するの?」
相変わらずデリスは雰囲気が軽いが、まあ今更だろう。
「アタシさっきのレベルアップのときに【欲の顕現】ってものを手に入れて……どうやら一人の思考内容を具現化させるってやつみたいで」
「よし、やってみようぜ!」
治療はしたものの、左目は全く機能していない。だからといって落ち込んでいる暇なんかないんだけど。
「……っじゃあいきますね【欲の顕現】!!!」
霊子がそう言うと、目の前が白んでいく。
紙に液体を垂らすようにじわりじわりと視界が切り替わると、そこは白い神殿のような空間だった。
身長を大きく超える柱がいくつも連なり、厳かな雰囲気を醸し出す。
床も柱も周囲の景色もすべてが白で統一されていて、平衡感覚が失われていく。
ゆっくりとその柱の間を通り抜けた最奥には鮮血が広がっていた。
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アデルのその声を聞き、反射的に目を瞑る。
しかし、いくら経っても痛みはこない。
恐る恐る目を開ければ――
私を斬り殺すはずだった彼女の鋼鉄の剣は彼女自身の腹に刺さっていた。
「……え?」
「おめでとう、君の勝ちだ。生産職が魔王を討ち取った」
にたりと彼女が笑う。
「君は賞賛され、これから生産職から冒険者が出てくるブームになるだろう」
ぽたりぽたりと滴る血が純白な白を汚していく。
「っ……やめ――」
「だが、やがて君への賞賛は批判に変わるだろうね。人間はそんなものだよ」
彼女は自らを貫いた剣を自らで引き抜く。
「そうなれば後は簡単だ。君が私になる、魔王になる」
彼女は剣の柄を私の方に向けてくる。
「私はもう疲れたんだ。ソキウスも君らに殺されたし、生きる意味はないが……死んでも神に一矢……報いたくてね」
そう言うと彼女は咳き込み、血を吐く。
「はぁ……これから君の人生は長い。頼んだよ」
「私はあなたみたいにならない。あなたを倒したのは私じゃなくて私たちだ」
もう既に彼女は倒れこみ、息をしていない。
だけど、自分に言い聞かせるかのように言葉を続ける。
「イノーたちも、レオンたちもいなかったら私はここに立っていない。だから、絶対魔王にはならないよ」
そう言い終えると走ってくる音が聞こえる。
「ヒカリ!!」
一番最初に駆けつけてきたのはレオン、それに次ぐようにみんなが駆けつける。
「大丈夫か?けがは――」
「してない。来てくれてありがとう……でもどうやって?」
「ア、アタシの能力で……」
バリストさんの後ろからひょっこりと顔を出してにこりと笑う。
「こいつは……死んでるな。現実ではどうなってるか分からないが」
デリスはアデルの脈を測り、死んでることを確認した。
「と、とりあえず【欲の顕現】の能力終了させるね」
霊子は目を瞑り、しばらくするとレオンたちがゆっくりと透明になって消えていった。
「私も、帰るか」
白と赤の空間、そして一人に別れを告げ、【リンクマインド】の能力を終了させる。
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目が覚めると、倒れ込んだままのアデルがいた。
みんなは死んでいることを確認したらしく、平屋のベッドに寝かせようという話をしていた。
アデルを寝かせた後は、門まで戻った。
クウガや黒影さんたちのそばでバリストさんは座り込み、ここに残ると言い始めた。
危険な可能性もあるからと反対したのだが、言っても聞いてくれなかったから仕方なくそこで別れることになった。
それからはなんの異常もなく……ただ私とレオンが冒険を始めてから、あるいはデリスや霊子が冒険を始めてからの思い出話をしながらのんびりと町へと帰った。
――しばらくは、私たちは凄腕の生産職冒険者として称賛を浴び、いろんな依頼が舞い込んで来た。
少ししたら批判も増え、冒険職たちからはすっかり嫌われ者となった。
……でも別にそれに対してどう思うとかはない。
生産職で、アニマルテイマーだから……プランテーションだから……フードイーターだから……サイキックだから……強かったわけじゃない。
私たちはその歩んできた経験と、出会ってきた人や動物たちの記憶があるからここにいる。
職業も、強さも関係ない。一つでも欠けていたら全てが違ったのかもしれない。
イノーを仲間にしなかったら――。
デリスと出会わなかったら――。
神様同士の争いを目にしなかったら――。
魔王の情報を手に入れなかったら――。
無くてはならない物事が私を強くした。私たちへの批判はその批判をしてきた人の経験が、出会ってきた人が、そう結論付けただけで……別に悪いことではない。それも一つの人生であり、その人と出会えば私の人生もさらに変化する。
私たちは全員、冒険者という肩書きを捨てることにした。
最後の依頼の夜、火を囲んでまた四人で話をした。
「ヒカリはいいなぁ。俺もイノーとかと意思疎通してみたい」
レオンがイノーを撫でながらそんなことを呟いていたのを覚えている。
私がアニマルテイマーになって良かったことは、戦力が増えたことや動物を飼えることじゃなくて、理解ができる仲間が増えたことだと勝手に思っている。
交流できる仲間が多かったことが、私がここまでこれた理由なのかもしれない。
今、私は私のすべてが始まった場所、生まれ故郷の子どもたちの学び舎、神殿に来ている。
日は暮れ、夕日が神様の像を照らす。
「いるんでしょ?神様」
経験や交流が私を強くさせて、魔王を倒し、ここまで来れたなら。
それならば、私は――。
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次回が『レア職アニマルテイマーは最強なのか?』最後です。
ぜひ最後までご覧ください。
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