第57話 アニマルテイマー

「まず、私がその本の主人公、アデルだ。そしてこいつは相棒のソキウス」

確認するように話す彼女は少しずつ顔に影が落ちていく。

「最終的に私がどうなったか覚えてるかな?」

「…町の英雄になって、えーと」


「どう思う?」

にやりと不気味な笑みを浮かべながら、こちらに顔を向ける。

「な、なにがよ……?」

「この話、本当だと思う?」


こちらに向けられたその漆黒の瞳は何もかもを吸い込んでいくようであった。

「私はね、英雄にすらなってないんだよ」

「……」


「町の危機を救うために大型魔物の討伐に行ったところの話は覚えてるかな?」

「あ、ああ」

「あの魔物と仲良くなったのが悪かったんだろうね」

少し悲しそうな顔をしながら、語り続ける。


「あなたもアニマルテイマーだよね?」

「……はい」

目線をこちらに向けられ、背筋が凍り付く。


「魔物と仲良くなって、変な目で見られなかったか?」

「まぁ、ときどき」

思い当たる節はあるけど……みんな最終的には仲良くなったし。


「私の場合は特別でね。もともと動物と喋れるし、仲良くなれる体質みたいで。

それが災いしたんだろうね」

「でも、なんで……あんな英雄譚に」


「魔物と仲良くなるから私のことを神聖視する人がいてね。それであんなゆがみきったものができたんだ」

相変わらずにこりと微笑み抱えてくる。


「昔話もやめにしよう」

首を鳴らし、彼女の顔から笑顔が消えた。


「アニマルテイマーの君ならわからないか?周囲からの奇異の視線が。その視線をすべて潰さないか?」

手をこちらに差し出してくる。

奇異の視線に悩まされたこともある。今もなお悩まされているといってもいい。


でも、この手を取ってしまったら――

レオンたちとの冒険を否定することになる。

クウガたちの死を無駄にすることになる。

仲良くしてくれた冒険職……ミマリさんやバリストさんの存在を認めないことになる。


「この手は、とれない」

「知ってるよ。念のため聞いたんだ」

その言葉とともに彼女は動き出す。


一気に大量の小さな黒箱を取り出し、開ける。

スライム、コボルド、ゴブリン、ウシ、イノシシ……

数多の魔物と動物が飛び出してくる。


「【トーンアップダークネス】」

その背後で彼女が指揮を執るように、能力を発動させる。

魔物と動物に黒い霧のようなものが纏わり始める。


「おいおいおい……やっぱ魔王じゃねぇか」

レオンたちも少しうろたえている。

「みんな、やるよ!!」


応戦するように私もイノーたちを呼び出す。

神様に言われたことが本当ならば、これは大陸をかけた戦いだ。

「【プラント】」


アデルの魔物を次々と木が貫いていく。

「【サモン・冷凍カジキマグロ】」

デリスは冷凍のカジキマグロを呼び出すと、アデルめがけて投げた。

魔物の間を華麗にくぐり抜け、アデルの顔面横に突き刺さる。


「君たちは面白い戦いをするんだね」

「【ポリッシング】」

バリストさんは剣を研ぎながら、一気に魔物を薙ぎ払う。


「【コンライン】、行こうか……ソキウス」

散っていった魔物をしまい、ギガントファーシープ……ソキウスを呼び出す。

「ぅ……ア、アタシも」


霊子は霊を大量に呼び出し、アデルとソキウスに襲い掛かる。

「君の攻撃は見えないから困るんだ」

また別の黒い箱を取り出し、魔物を呼び出す。


さっきの大きなコウモリだ。

バサリと羽を広げ、空高く飛ぶだけでこちらに攻撃しようとしない。


あいつは何を…?

「あぁ、不可視の人型を呼んでいるのか」

自然は幽霊たちに向いている。

「み、みみ…見えるの!?能力なしで…」


当然、霊子は驚いている。

「能力なしというか……彼のおかげかな」

と先ほどのコウモリを指差す。

「彼は不可視のものをなんでも見えるようにしてくれる優れものなんだ」


アデルは霊のいる空間になにか合図をしたかと思うと、地面から巨大なミミズのような生物が現れる。

「っ!」


ひどい砂埃に顔を覆い、なんとか難を逃れる。

「ソキウス」

その彼女の一言とほぼ同時に強い衝撃が全身に襲いかかる。


気づいたときには吹き飛ばされており、その着地点には別の魔物がワラワラと群がっている。

「やばっ…プルブル!!」


咄嗟に呼び出し、着地と共に魔物を覆う。

「イノー!!」

イノーをこちらに呼び、なんとか魔物を処理していく。


「みんな、大丈夫?」

ようやく処理が終わり、振り返った頃には激戦と化していた。


「【マインドフード】!!……どんだけ湧いてくるんだよ」

額に汗をかきながらデリスは数体を相手取っている。


「…っ!よ、用意できました!!」

「ナイスだ!【パラサイト】」

レオンと霊子は協力して霊体に植物を寄生させて逃げ道をなくしながら、アデルと戦闘。


「おぬし嫌いじゃ」

バリストさんはソキウスと戦っている。

披露が蓄積されてきているのか、みなそこそこ傷を負っている。


「急がなきゃ!」

一気に肩をつけるために、アデルの下へと走り出す。


一気にプルブルで跳躍し、レオンたちとアデルの間に割り込む。

「おーちゃん!!」

背後からおーちゃんが襲い掛かり、頬に傷をつける。


「うん、やるね」

動揺もしない彼女をよそに、今度はレオンに向かって叫ぶ。

「さっきのやつに一気に生やして!」


「了解!【プラント】!!!」

霊から木が生え始め、一本の大木になる。

「ぅ…ごめんなさい幽霊さん…」


おーちゃんと私で急いで大木の元に駆け寄る。

「プルブル、全力でやっちゃっていいよ」

そう呟いて、一気に持ち上げる。


メキメキという音を立てながら地面が揺れる。

「いくよ!おーちゃん」

一気にアデルに向かって走り出す。


「【トーンアップダークネス】」

さらに魔物を呼び出し、黒い霧を纏わせていく。

魔物たちは大木を停止させるために隊列を組み、こちらに向かって走り出す。


どしんと両者がぶつかりあって一度停止。

「おーちゃん、押し切ろう」

力を弱めることなく、押し出していく。


「わ、わたしも手伝います!!」

背後からレオンや霊子、大勢の霊が共に魔物を蹴散らしていく。

「【トーンアップダークネス】」


黒い霧が一層濃くなり、魔物の力が強くなったのか、押され気味になり始めた。

それと同時に、何か苦痛が与えられているのか、魔物たちが呻いている。

「【トーンアップダークネス】」


「イノーも、ビーチューも、ボスも手伝って」

地面が削れるほどに押されていく。

「【チェンジフード】」

魔物たちの地面がケーキに代わり、動きが鈍くなり始めた。


「魔物、狩り終わったよ」

デリスも息が上がりながらも押し始める。

「バリストさんは?」


ふと気になり周囲を見渡すと、未だソキウスと戦っている。

「儂はこやつを倒しきる。すまんがそっちは頼んだぞ」

ソキウスはもうボロボロだ。もうあと数分すれば倒しきるだろう。


「【トーンアップダークネス】」

さらに押され、そして魔物が苦しんでいく。

魔物の体はすでに瀕死なようだ。

……瀕死?


「プルブル、レオンに装着して」

「何すんだ?」

「ちょっとごめん。耐えてて」


あの魔物たちが瀕死なら、もし助けを求めているならば、私の仲間になってくれるかもしれない。

「一瞬の隙も逃さない。ありったけの魔力を込めて……【テイム】!!!」

キラキラと光る紐が魔物たちに絡みつき、動きを一瞬だけ止めさせる。


今しかない。紐はまだちぎれていない。

「【フェロー】」

手をかざし、優しく魔物たちをなでる

白い光が周囲を包みこみ、やがて収まる。

魔物たちの頭上にはあの画面が。


/////

〔名付けをしてください〕

種類︰レッドスライム・コボルド・スノーゴブリン・イノシシ……

特技︰やけど・ひっかき・氷魔法・突進……

心︰90%

/////


「レオン!今だよ!!」

一気にアデルへと距離を詰め、その大木を振り下ろす。

「っ!【トーンアップダーク――


ドシンという衝撃音と土煙、地響きが鳴り続ける。

そして静寂。自分の心臓の音すら聞こえてしまいそうなほどに静かだ。

誰も口を開こうとしない。


最初に聞こえたのはバリストさんの方から空気を斬るような音だった。

「ギガントファーシープ、討伐じゃ」


「……本当に、殺してしまってよかったんでしょうか」

「儂は黒影たちの敵をとって、依頼を達成しただけじゃ」

そのバリストさんの顔には影が落ちている。


「じゃ、かえ――

レオンが口を開いた直後にもう一つ、空気を斬るような音がする。

「私が鋼鉄と言われた理由を話してなかった」


その声は倒れた大木から聞こえている。

木から白き刃が天に向かって伸び、木が真っ二つに斬られた。


「なぜ、私が鋼鉄の少女なのか。仲良くなった魔物から土産にと鋼鉄の剣をもらったんだ。私はそれを友好の印だと町に持って帰り、伝えようとした。ただ、その時点で私はもう彼らにとって化け物だったみたいでね」

彼女は大木から出てきて、私たちの前に立ちはだかる。


「あまりに攻撃されるもんだから、命の危機を感じて一人……たった一人殺してしまった。あれ以降手は汚していない」

「でも魔物は町を……」

「私自身は指示しただけだ。何一つ手を汚していない」


「古い逸話がある。神が職業なんか与えなかった頃にも、アニマルテイマーというのはいたんだ。アニマルテイマーにとって相棒は唯一無二である、といった人が。その人は相棒以外はすべて道具として扱ってきた」

彼女の目にもう光が宿っていない。いや、もともとなかったのかもしれない。


「君のレッドアウィスはいい飛び道具。君のスライムはいい装備品。君のイノシシはいい爆弾。君のルナレクスはいい大きな盾。君のハチネズミはいい毒針だ」

「イノーたちは仲間だよ!!」


「魔物たちを危険な目にあわせて、自分は楽々しているときだってあっただろ?」

「あった……けど、今全員で協力して――」

「効率が悪いんだよ。最も強くなるには大量の魔物を生産して、どんどん使うんだ」


「話がそれたね。鋼鉄の剣はそういう理由で手に入れた私の宝物なんだ。だから奥の手ではあったけど……君たち相手なら出さざるを得ないみたい」

そういうと、彼女は剣を構えなおす。

「それじゃあ、第二ラウンドといこう」


一気に距離を詰め、こちらに斬りかかろうとした瞬間に不可視の壁のようなものに阻まれる。

「あーごめんごめん、ちょっとストップね」

空から神様がおりてくる。


「ちょ、何してるんだ!」

レオンたちも驚き焦っている。

「よし、多分……みんなに見えてるね。そろそろレベルアップだ。君も、君たちも」

アデルと私たちをそれぞれ指さす。


「アデル、君はすごいね。アニマルテイマーでいける最大レベルだよ……まあ冒険職じゃないから見えないだろうけど」

アデルは神様を睨みつけている。

その気持ちはわかるよ……あいつのせいでアニマルテイマーになったし。


「今、この場で聞くことではないと思うが……転職、するかい?」

「いや、私が向いているのは気が向かないがアニマルテイマーだから変えないよ」

「おーけーおーけー。じゃ、みんな若干頭痛くなってね!ばいばーい」


底抜けに明るい声を出しながら、神様は消えていく。

そして、頭痛が襲ってきた。


#####

カモさんです!

よかったらハートとフォローお願いします!

気軽にコメントもどうぞ!


Twitterのほうも良ければフォローお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る