第55話 魔王
「っぐぁ!!」
ギガントファーシープのタックルでその反発する毛も相まって、人間は数十メートル吹き飛ぶ。
なんとか今は受け身を取って最低限のダメージで済んでいるが……いつ致命傷をくらってもおかしくない。
「【ポリッシング】【ポリッシング】……」
ギガントファーシープの攻撃をすんでのところでかわしながら、バリストさんは黒影さんから受け継いだ大剣の切れ味を強化し続けている。
その反発する毛を貫通できるほどの切れ味は存在するのだろうか。
そんなことを考えている矢先、次にやってくるのは地響きだ。
ギガントファーシープが地面を強く踏みつけると、地の果てから鳴る轟音と共に地割れが発生する。
「イノー!!」
私に突進してきたイノーにつかまり、なんとか崩れ落ちる真下の地面からはなんとか逃れる。
「おいおい、きつくないか?」
なんとか地面に空いた穴からレオンが這いあがってくる。
「ちょ、ちょっと……危ないわよ!」
霊子がレオンを引き上げながら霊を集めている。
「ありがとう霊子助かったぜ。【プラント】」
背後から迫りくるギガントファーシープの進路を妨害しながら礼を言う。
「【サモン・自家製濃厚醬油】!!」
そこにデリスが液体をその毛にかけて、反発する性質を失わせようとするが……液体もすべて跳ね返り、デリスに全部かかった。
「うえぇ!」
「なにしてんの」
デリスがびしょびしょになってるのを横目にギガントファーシープの正面に立つ。
「ねぇレオン、懐かしいよね」
「なにが?」
「初依頼で討伐したのはファーシープだったよね」
「ん、ああ。そうだったな」
「あの作戦、使えないかな」
「足元に木生やして吹っ飛ばすやつか」
少し思案したレオンは口を開く。
「よし、やってみるぜ」
手をギガントファーシープに向けて叫ぶ。
「【プラント】【プラント】【プラント】【プラント】!!!」
ゴゴゴという音を立てたかと思うと、若干ギガントファーシープが浮く。
「あれ?」
だけど、それより吹き飛ぶことはなく、ギガントファーシープは少し地団太を踏む。
「なんか、こいつ重すぎるかもしれない」
そう言った瞬間、行き場を失った木は上に伸びることができないため下へと伸び、再び地割れを起こす――それも四か所。
「あ、ヒカリ。すまん」
それと同時に凄まじい轟音が辺りに響き、蛇が這うようにして地面が割れだす。
「わー!!!」
そこら中に穴ができて、なんとかそれを回避する。
「【サモン・ビッグピザ】!!!」
……各々好きな方法で逃れているようだ。
そんなところにギガントファーシープが突っ込んでくるのだから避けようがない。
「ふぐぁ!!」
周囲の景色が一気にスクロールされていく。
「っ!プルブル!!」
私に纏っていたプルブルが先に地面に着地し、私のクッションとなる。
「あぶなかった……ありがとう」
とにかくこの方法はダメか……ほかに何か手はないか?
思案しながら、ギガントファーシープのもとへと戻っていると、右側を吹っ飛ばされたレオンが肩をかすめる。
「【パラサイト】!!!」
自らの腕に植物を寄生させ、その植物の根を地面に突き立ててなんとか耐えたようだ。
「おいヒカリ!一個案を思いついたから、時間を稼いでくれ」
「えっ……分かった!てか腕は……」
血が噴き出しながら植物が絡んでいるその右腕はかなり痛々しい。
「とりあえず大丈夫だ、準備するから頼む」
そういうとギガントファーシープにまた手を向ける。
レオンに狙いがいかないようにしないと。
「おーちゃん!!」
おーちゃんにギガントファーシープの右側へ、私がギガントファーシープの左側に移動する。
「霊子、幽霊たちを後ろ側からタックルさせて」
バインバインと黒い影がギガントファーシープのお尻の方に突っ込み、弾き飛ばされていく。
それに気づいたのか、ギガントファーシープは背後を向き、霊子の方に視線を移す。
これで一応ターゲットがレオンから霊子に変わった。
でもこれだと戦闘できない霊子が殺される。
「よし、せーの!!」
だから全力で左右から殴る。
「っ!」
瞬間、吹き飛ばされてギガントファーシープが粒のようになる。
「……プルブル大丈夫?」
衝撃を吸収してくれるとは言っても体中が痛い。
「急いで戻ろう」
体中が痛むが、それでも走り続けて戻ってくる。
状況はさほど変わっていない。
しいて言えばデリスがめっちゃ攻撃してるということ。
「【サモン・カジキマグロ】【サモン・焼き鳥】」
次々と尖ったものを投げてその毛の隙間に突き刺している。
「デリス、ナイスだよ!」
ギガントファーシープは致命傷とは至っていないものの、かなりのダメージが入っているようで苦しそうに声を上げている。
「ちょっと狙われ過ぎてヤバイから助けてくれ!」
ある程度投げた後、全力で走って逃げだした。
ギガントファーシープもかなりご立腹のようで、全力で追いかけまわしている。
「よっしゃ!時間稼ぎありがとう!」
デリスにその体当たりが当たろうかというときにレオンが叫ぶ。
「【プラント】!!!!!!!」
先ほどよりも大きな地響きがあたりに響く。
「あの時は多分、全部一気に放出する感じで……」
何か小言を呟きながらレオンが集中している。
ギガントファーシープの真下の地面が盛り上がると、一気に天空を貫く大樹が顔を出す。
「コテン洞窟のときよりでっかいぞ!」
ガッツポーズをしながらレオンが叫んでる。
「すごぉ」
思わず声が漏れる。
ギガントファーシープと思われる塊は天高く打ちあがっている。
その塊は凄まじいスピードで落ちてきたかと思うと、地面ではねた後着地した。
「えっ」
「やば……いか?」
ギガントファーシープが走り出す。
そして、それと同時に私たちの前に一人の影が現れる。
「おらああああああ!」
その影はバリストさん。
大剣を一気に振り下ろす。
ギガントファーシープの毛を貫通し、ダメージ与えたうえ、地面すら斬ってしまう。
ギガントファーシープはドシンと倒れこむが、息をしている。
「バリストさん……」
「すまんかったの、遅くなって」
バリストさんははぁと座り込む。
「トドメ、刺すか……」
デリスが武器を呼び出し、ギガントファーシープにちかづいていく。
「【コンライン】」
突如として目の前の巨体は消える。
「ヒカリなんかした?」
デリスがこちらに振り向くが、私の視線はデリスの向こう側にあった。
一人の女性がそこにいる。
「……デ、デリス前見て前」
私以外も見えてるようで、霊子が指を指している。
「えっ誰?」
その女性はゆっくりとこちらに歩み寄ると口を開く。
「私はアデル、うちのソキウスに何か用でもあった?」
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