聖なる反逆
21、岐路1
あれから、また何もない一年が過ぎた。
いや、その言い方は間違いである。
こんな平和な一年でも、多くのことが起きたと言えるだろう。ドゥランナーの頑張りが認められ、マレーでは飛び級できる学生と認定され、幼いまま、下級学府の上級クラスに入れた。
本来ならば、あと二、三年でようやく入れるそのクラスに、彼女は最も年少な生徒となる。
この成果を出すまで、バアルゼブルの協力はもちろん、彼女がルシフェルの力になりたい心こそ、必要不可欠なものとなったのだろう。
ルシフェルはこの状況を誇りに思ったが、完全に安心して、彼女の小さな成功を祝うこともできない。バアルゼブルももちろん同じ気持ち、頑張り過ぎて体を壊さないか、保護者たちにとって、そこが一番大事なところなのだ。
しかしそんな彼らの気も知らずに、ドゥランナーは満足していなかった、マレーの下級学府、いくら上級クラスに行ったとはいえ、授業の感じが変わるわけじゃない、実戦で使える魔術は伝授されず、せいぜい家庭で使い道があるものしかない、ドゥランナーが欲しいものと、かなり離れているとしかいえない。
だが正直にいうと、ドゥランナーの性格は臆病者の一言で説明できるようなもの、本当に実戦的なものを教えてあげても、使えるかどうかが怪しいところだ。
恐れずに前進できるのは、今のように、日常でも使えるものを勉強して、比較的に軽やかの学習の中だけではないか。
この日も課題を終えると、彼女はいつも通り一階のベッドに座り、仕事をするルシフェルの姿を眺めてた。最近彼の仕事はそこまで忙しくない、たまには二人で会話しながら、資料を整理する気ともある、だがそんな一人で処理するものよりも、来客と話を交わすことの方が多い。
今日も同じように過ごしていく。
リヴァイアサンは午後3時くらいに、マレーの運営資料を片手に訪れた。斜陽が窓をさす午後6時に、さらにソサエティーの研究員の助手数人が扉を叩いた、研究項目の進展を一旦報告しにきただそうだ。
彼らが去るや否や、バアルゼブルがドアを開けて入ってきた、彼の研究相手、人類に新たな動きがあったから、報告に書いて、ベリアルの元を訪ねたが、話し合った結果、ルシフェルに報告する必要があると判断したという。ここを離れる前に、再三にドゥランナーをよく見てくれ、とルシフェルに頼んだ、彼女は努力し過ぎたと彼は心配している。
そんな自分を信用していない言い方に、ドゥランナーは少し不満げに頬を膨らませた、だがそれも、晩餐の後に、皿を片付ける時には全部忘れた。
そろそろ1日が終わり、最後に本を読んで休むか、と寝室に向かっていると、ルシフェルに呼び止められた。
「明日は神殿に向かう、少し遅くなるかもしれない」
神殿というと、天界の『神様』が住んでいる、七重天より上にある『八重天』のことを指す言葉で、そこはルシフェルと専用の衛士以外、出入り禁止の場所だそうだ。
彼の目から、はっきりと心配の色が見えて、自分を心配しているのだと思った、だから彼女は自慢げに胸を叩いた。
「安心してルシ、自分のメンドウはちゃんと見れます」
彼女も不安そうに見える、しかしそれでもそう言ってくれたから、心配事が全部馬鹿馬鹿しく思えてきた、少なくとも、彼女は自分が信頼しなければと、彼は少し微笑んで、ドゥランナーの頭を撫でた。
「じゃ、おやすみ」
「はい!おやすみなさい」
まだ元気そうに聞こえる声で、彼女は返事した。
翌日、教師たちの研究に問題があったらしく、学校は休みになってしまった。
ドゥランナーが朝食を作ろうと下に降りた時、ルシフェルはすでに出発したようだった。少し寂しく感じるものではあるが、流石に仕事の邪魔はできない。ここまで考えると、ドゥランナーは軽く首を振った、大丈夫と頬を叩いてみた。
そして彼女はキッチンに入り、朝食を準備しながら、食後の自習内容を考えてた。
この日もこのまま、平和に過ぎゆく。
少なくとも彼女はそう望んだ。
しかし、夜も更けてくると、ルシフェルは今日帰ってこないと思ったその時、ドンとびっくりするほどの音と共に、扉が乱暴に開けられ、いや、むしろ何かがぶつかって開けた、と言った方が正確かもしれない。
ドゥランナーはこんな時間に来訪者?例えばサタンやミカエルのような、乱暴そうに見える者なら、緊急事態が起きたらこういう感じで突進してくるだろうと、彼女はびっくりしながら、呑気に考えて、階段の上から覗いてみると、そこには信じられない光景があった。
数名見たこともない、顔まで覆ってしまう銀色の鎧を着た人が、ルシフェルの手を背後に押し付け、まるで犯罪者を連行するように部屋に放り込んだ。そして、機械音混じりに、大声で言い放った。
『ここは貴様の牢獄となる』と。
こんな状況に、ドゥランナーはビビり、見られないように階段の上に身を潜めた。
幸い、あの兵士たちは彼女に気付いておらず、ただバァンと、扉を壊れるじゃないと思うほどの力で閉めた。
地面で放り出されたルシフェルは動かず、ただ茫然とした顔で、そこに座り込んでいた。
ドゥランナーはまだ怖く思っているが、そんな彼を一人にできずにいる、心配そうな顔で階段から降りた。
「ルシ」
声になっているのかと思ってしまうほど、小さな声で彼を呼ぶ。
それでようやく少し反応があった、咽び泣きしているかのように、彼の体は小さく震えた。
しかし、ドゥランナーは状況が読めず、自分にできることといえば、同じように地面に座り込み、変わらない小さい声で、彼に何かあったのかと聞いてみるだけだった。
ルシフェルが頭を上げると、眉を顰めて彼女を見た。
その苦く歪む、形容できない苦しみに満ちた複雑な表情に、ドゥランナーは何も言い出せずにいた。
いつも自分の頭を撫でて、柔らかく笑う彼が、こんな顔をする状況、今の彼女はとてもじゃないが想像できない。
彼の視線はドゥランナーの目を避けた、事情を説明すれば彼女を巻き込む、だからといって言わないのは、彼女を尊重しない行為。
彼はある種のジレンマに陥る。
しかし、答えが出る前に、彼は別のことを気づいた、ドゥランナーに自分と同じのように、地面に座らせるのは良くない、それだけははっきり答えがあった。
彼は素早くドゥランナーの手を引いて立ち上がり、ベッドに座らせた。とはいえ、もう机まで歩く気力もないらしく、そのまま、初めて彼女の隣に座った。
見ればわかる、今の彼に事情の説明は難しいことだ、だから、ドゥランナーも二度と聞くことなく、そのまま、彼の隣で静かに、眠らぬ夜を過ごした。
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