18、初めてのお使い1
ドゥランナーは急足で七重天に戻った、バアルゼブルの研究室は階段に近いが、それでも、ルシフェルの宅邸までは遠い。
人気のない道を通り過ぎる。
幸い、天界の治安はとてもいい、特に七大天使などの住宅があるこの七重天。だが人がいないのもほんとだ、静か過ぎる、なんだか不安になる。
そんな時に、ついにルシフェルが住む屋敷が見えた。
「ルシ、ただいま」
あまり音を立てないように扉を開けた。
「ああ、よかった、迎えに行こうかと思った」
机に置いている、仕事の資料は全部片付けてある、ルシフェル本人も外套を羽織り、扉の隣に立っていた、外に出ようとしているのは一目瞭然。ドゥランナーが扉を開けて入ってくるのを見て、少しホッとした様子だった。
手を伸ばしてきたので、叩かれるのではないかと怖がったが、普通に頭を撫でられた。そして、彼はお疲れ様と口にする、ドゥランナーが彼を見上げると、「手に持ったカバンをぼくに渡して、休んでこい」と言って、手を目の前に差し出した。
その変わらない柔らかい態度に、ドゥランナーは逆に複雑な気分になった。
何を言っても、彼女はルシフェルの助けになれるように、毎日頑張っている。それが、自分の無茶のせいで、彼の生活や仕事に支障が出たら、元も子もないじゃないか。
「ごめんなさい…」
「いや、大丈夫、君の気持ちは届いてるよ」
ルシフェルは柔らかく笑う。
「君が頑張っているのは分かっている、だが、あまり無理はしないでくれ」
ここ数年、学校の勉強とバアルゼブルの尽力で、ドゥランナーは多くのものを学んだ、簡単な魔術から、一般の書類整理、少なくともやれないことはない。だから、「何か手伝えることはないのか」と聞かれたら、ルシフェルが出す答えの範囲は、家事から、仕事の補佐まで広がった。
ドゥランナーはそれがとても嬉しくなっていた。
しかし彼女の助けがあっても、ルシフェル仕事は忙しくなる一方だった、だからこそ、『今』に満足できない、ドゥランナーはまだまだ頑張るつもりでいる。家事、雑務、書類の整理、これだけでは、力になりたい彼女にとって、まだ足りない。
彼女の理想、それはいつか、半分くらいの仕事を担うことができること、そうなれば、夜中まで仕事することも減るだろうし、休める時間が増えるじゃないかと思っている。
どうやって有能になれるのか、どうやって力になれるのか、この日も、ドゥランナーはこんな悩みの中、夢へと落ちてゆく。
そして翌日、前に言った通り、また、休日というものを迎えてしまった。
彼女は学校に行く時より早く起きたが、階段を降りて朝食を準備しようとする時、普通にルシフェルはすでに下で仕事を始めていた。最近、と言っても数ヶ月はあるが、とりあえず、多くのシュンポジウムの研究課題は結果を出す、簡単に言うとその成果や報告も、彼の元に集中するはずだ。
そして彼の仕事は、ベリアルから得られた資料の情報で、それらの用途を決めること、次の研究計画を立てること。
とにかく統率的な決定を全部、彼はやらなければならない。
ドゥランナーはできるだけ足音を立てないでキッチンに滑り込んだ、ルシフェルは集中して資料を見ていたため、彼女の動きに全く気づいていない。晴れた空のように青く広がるマントは、椅子の背もたれに掛かり、静かに垂らしている、まるで、主人が眠りに耽ているように、動かないでいる。
ドゥランナーは少し心配そうにそれを見たが、仕事をしていたとしても、本当に寝ているとしても、どのみち邪魔になってはいけないし、静かに朝食の準備を始めるほかなかった。
魔力すらいらない、魔術を用いたコンロ、火の魔術を把握していないドゥランナーでも簡単に使える。ふんわりとしたいい匂いと共に、簡単そうに見えるが、一応彩り鮮やか、そして味も悪くない朝食が皿に乗せられたまで、それほど時間はいらなかった。
そして仕事ばかりかまけているルシフェルというと、ドゥランナーが呼びにきてようやく、朝食がまだだったことに気づいて、急いでテーブルを出して、ドゥランナーと共に食事を取った。
食後、彼女が食器を片付けると、彼はまた資料に目を落とした。
いつも通りこのように1日が終わると思って、ベッドに座り、本を読んでいると、30分もないうちに、ルシフェルの呼び声が耳に入った。
「すまない、仕事が多すぎた。いつもならちょうどいい時間にベリアルが現れるのだが、全く、どこで油売ってるのやら」
軽く愚痴をこぼしながら、手元は止まらずに資料の整理を行っている。瞬く間に、数枚の紙から、山のように積み上げていく。
「この資料を、資料館まで送り届けてもらえないか…バラバラにってしまったが、多分大丈夫だ」
資料館、といえば、二年前に行っていた図書館の真正面の建物。
道は多分大丈夫だろう。前回行ったのは二年前だが、大通りを行けば少し回り道をしなければならないが、多分、大丈夫だろう。
昨日悩んでいたことが、吹き飛んだような感覚だった、今彼女の頭の中には、「ようやく手伝うことができる」の一言だけ残っていた。
最近の数週間、ルシフェルはずっと一人、しかも机の前に座ってばかり、書類のことばかり気にするし、寝る時間も惜しんで仕事をする、まるで生きることはそれしかないのように。
自分がこの仕事を遂行することができるのかは、ちょっと心配なところもあるが、ルシフェルの負担を減らせるなら、どんな苦境も、乗り越える覚悟というものがあるので、やはり頷いた。
「任せて!ルシも、あまりこんをつめすぎないでね!」
少し硬い表情で、彼女は分厚い資料を受け取った。最後にまた振り返って、少し痩せたように見えるルシフェルを見ると、彼女は走っていった。背後から気をつけてというルシフェルの声が響く、彼女は楽しそうにはーいと答え、スタスタと行ってしまった。
両側の建物は、どこに行っても変わらずに白一色、形もかなり似ている、あまりここを歩かない人にとって、道を間違えたかな?と不安の種になり、徐々に、ドゥランナーの足も遅くなっていく。
七重天の建築は単調で、過多の装飾もないものばかりではあるが、どの建物も規模が大きい。道も、六重天や五重天のように明瞭ではなく、曲がり角が多く存在する。
簡単そうに見えるおつかいが、毎日の生活がさらに単調的で、行く道は二つしかないドゥランナーにとって、とても難しく感じる。
「えっと……」
周りをよく見てみた。
左手の建物の手前に、小さく景観植物があり、どこかの大天使の宅邸に違いない、右手には脇道、ここは直線に進むべきだっけ?それとも右に曲がるべきだっけ…。
記憶を呼び起こしながら、ドゥランナーは少し慎重になってみた。彼女に託されているのは、ルシフェルが食事も取らずに整理した資料、なんといっても、無事に届けなければならない。
だから彼女は焦った、ルシフェルの忠告も忘れ、大通りと小道の間で走り回った。
多く言わずともわかる、彼女は完全に迷った。
しかし道を間違えすぎて、体力が消耗されていることすら気にかけることができない、心の中には、そう、このおつかいをこなす、それだけが残っていた。
今回こなせば、次がある!
そう思って、彼女は走り続けた。
幸いというべきか、昼間でも七重天の通行人はあまりいない、まさに走り放題、だから少女は走る、脇道を大通りを、隈なく走り回る。
しかし標識もないし、ナビゲーターもいない、方向音痴とも言える彼女が、いつになれば目的地に着くのだろう?
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