5、聖なる焔
天界での生活、順調とも言えるのだろう。
少しずつではあるが、この数週間で、ドゥランナーはついに六重天から七重天に戻るまでの、その長い道のりを覚えた。これもしがたないことだ。なんせどの階層も広すぎるし、完全に直線というわけでもないし、七重天さえたどり着けば、残りは簡単ではあるが、ルシフェルの仕事場もその七重天の一番奥にあるし。それに、そもそも六重天にあるこの学校は、一般人向けのものであるため、その位置はほぼ五重天に通じる階段の隣になっている。同じくそこにある図書館や資料館なども含めて、一般人でも出入りしやすくするために、階段の近くに建っている。
だから、毎日放課後、ドゥランナーは大量の建築を通り抜き、それでようやく今住んでいる、大天使長の邸宅まで戻れる。たまには五重天の喧騒に心惹かれることもあるが、流石にまだ各階層を自由に出入りする許可を持ってないので、勝手に歩き回るのも良くないし、彼女はまだ五重天特有の演出や、芸術の展覧などを目にしたことはない。
彼女は未だに、天界に対して無知である。
逆にルシフェルといえば、彼の毎日の仕事は忙しい、それでもドゥランナーが家に戻るとき、そこに誰もいないのは心の健康に良くないと思い、彼女が不安にならないため、その時には戻っているように努力している。そのせいで訪問の仕事は全て午前中に前倒しした、そのため、急がなければならないが、天使長たるもの、流石に走るのはあまりにも見苦しいので、飛ぶことにした、これで天界の住民たちがその五彩に輝く白翼を拝む機会も増えた。それがだんだんと噂にもなっていた。
それでも、当然ではあるが、この噂は彼のイメージを汚すことなく、相変わらず空の果てに咲く高嶺の花だ。
「あれ…?」
ある1日のことだった、ドゥランナーは放課後、大天使の仕事場まで戻ると、一人男と出会った。その男はルシフェルと酷似していて、まるで髪の毛をきちんと整理しなかったルシフェルみたいな人だった。しかし彼は鎧を着込んでいて、明らかに違う人である、左肩には鮮やかな赤に近いオレンジのマント、あれがとても眩しくて、目を奪うほどのものだった。だがしっかり見えれば、鎧の下に、ルシフェルやこの前の長髪の男と同じような、学生服に少し似ている、純白な制服。しかし何故か、この男が人に与えるイメージは、前のあの二人と全然違う。
「あの…」
彼がルシフェルの屋敷の前にずっと立っていたから、ドゥランナーは警戒しながら、言葉遣いに気をつけながら、話しかけようとした。何故ならば、話を聞いてみないと、自分の部屋に入りにくいというか。
「あ?どこからきたんだ、おまえ。七重天は子供が来るどころじゃねぇぞ」
「ひっ!」
青年はぐっと彼女を睨んだ、オレンジの瞳はまるで火が灯しているように、ギラギラと光る。じって睨みつけられて、彼女は小さな悲鳴をあげて、少し後ずさった。
「え、あの、あなたはルシフェ、あ、いえ、ルシに会いにきたのですか?」
目の前の人は確かに十二分迫力あるが、でも、何をどう言っても、ルシフェルがいなければ、この屋敷は、自分に任せられているにも同然だから、聞いておく必要はあるだろう、と、彼女は勇気をふり絞り、聞いてみた。とはいえ、ルシフェルをあだ名で呼ぶのはまだ慣れていないので、危うくまた間違うところだった。まあ今間違っても、指摘する人は、ここにはいないのだが。
「ル、ルシ!?」
青年は彼女の言葉でものすごくびっくりして、目を丸くした。だはすぐにさっきよりも恐ろしい顔をして、彼女を鋭く睨みつけた、それでドゥランナーはまた後ろに一歩下がった。
「お、おまえ!至高無上の天使長様をそんな称呼で呼ぶなぞ、よほど身の程を知らないようだな」
彼は今すぐ取り消せと言いたげな目をして、片手を伸ばし炎を纏った、殺気すら感じるようにドゥランナーに近づいて来る。
「うぅ…」
外見で既に話せる相手ではないのを知ったが、まさかここまで怒らせるとは思わず、ドゥランナーは恐れ慄いた。これもルシフェルが人々に愛されているからこそのことではあるが、流石に今この瞬間、恐怖は喜びにまさった、彼女は震えながら、頭を抱えて蹲った。
「あまりいじめるな、ミカエル」
柔らかく舞い落ちる白い羽と共に、十二枚の巨大な羽で羽ばたく天使が、ゆっくり降りてきた。
「ルシフェル様!」
ミカエルと呼ばれる青年はもう一度ドゥランナーにキッと睨んで、人が変わったかのように、キラキラした目でルシフェルを見た。
「おかえりなさいませ!このミカエル、お待ちしておりました!」
ミカエルは右手で拳を作り、胸元に軽く叩くように持ち上げるという、天界特有の、尊敬する人に対してするような敬礼の姿勢を取った。ルシフェルは笑みをこぼしながら、彼を見た。兵士でもなければ、自分に対してこのポーズを取るのは、もはや彼だけではないのかな。
「ああ、中で話そう。さ、ドゥランナーも」
そして彼は振り返って、ドゥランナーの前にしゃがみ、恐怖で丸くなった彼女を慰めるように、背を撫でた。
「ルシフェル様…」
涙すら浮かんできた彼女を見て、ルシフェルは苦笑いしかできなかった。彼女の頭を撫でて、彼は立ち上がり、二人と共に屋敷に入っていく。
部屋の中で、ドゥランナーはベッドに座り、ルシフェルは机前に座った、そして来客であるミカエルというと、机の隣に立っている。ドゥランナーは毎回立っていながら仕事する彼らを不憫に思い、席を立つことも多いのだが、自分が離れても彼らは立っていることに気づき、諦めた。
ルシフェルによると、もともとこの部屋にはこのベッドがなく、逆に、四人ぐらい座れる大きいなソファが置かれている。しかし来客は皆「恐れ多い」といって、誰も座ってくれない。しかも七大天使に客用のソファより、自分が休憩に使えるベッドがいいと言ってきて、万が一のことで彼が過労で倒れないように、彼らも一応ルシフェルのために全力を尽くしている。だからこそ、困惑の中、ベリアルが全て整えて、今のこの部屋になった。
これも天使長の威厳ゆえ、なのでしょう。
ドゥランナーの顔は締まりが効かなくなってた。
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