第20話 修行(2)
「よし――っと、それじゃあマカ。私たちも始めよっか」
ランジェは輝くような
「おっし! 修行だな。おれ、なんでもやるぞ!」
〝そろそろ本格的に仙鬼としての技を教えておく〟マカにはそう伝えてあったのだ。
「そうよ。けどね」
ただし、その伝聞には少々の
「おぉぉしッ! やるぞォ!!」
「先に言っちゃうけど、マカにはほとんど必要ないんだよね」
あらん限りのやる気を見せていたマカは、そこで勢い余ってごろりと一回転してしまった。気を抜くとやはり頭が重いらしい。
「うぇえええ!? な、なんでだよぉ!?」
せっかくのやる気をそがれて、マカはお預けを食らった子犬みたいな顔をする。
「オホン。なぜかというとね? マカは最初からそれが出来てるからなのよ!」
ランジェはあくまで明るく朗らかな口調で言った。――あまり深刻に告げるべきことではないと思ったから。
マカの異形の身体。半分だけが人間とは全く別のそれを結合されているかのようなおよそ人体としては不自然な形態。
ランジェは村人の診察と並行して、これまでマカの身体をつぶさに調べてきたが、その機能・構造は明らかに無理のあるものだった。
獣のような、あるいはその
本来は――というより、最初は、まともに動くこともできなかったはずだ。赤ん坊のマカが自由に動けるようになるまで、どんな思いを経てここに居るのか。
ランジェはそれを想って、茨をそのまま飲み下すかのような痛みを胸の奥に感じた。
それでもなおマカがこうして自在に動き回れるのは、それを補うために「仙にとって最も必要な力」を常に練りながら動いているからなのだ。
マカが仙と見まがうような芸当を披露したのは錯覚でもなんでもなかった。やり方を知らないだけで、マカはすでに並みの仙どころではないその力、「
「けいりょく?」
当のマカは何が何やらという様子で途方に暮れている。どうやら、マカは修行と聞いて武術の鍛錬のようなものを想像していたらしい。
「そうよ。それが仙を仙たらしめる力であり、仙鬼にとっても最も重要な要素なの」
間違ってはいない。確かに戦うための術は必要だ。しかし、仙の本質はそこにはない。
ランジェがそのか細い身体で大岩を粉砕できるのは、武の力によるものではありえない。
「それって……つまり、なんなんだ? よくわからねぇよ」
「――ならば教えよう! 勁とは、複数種の基礎氣功術の併用によって発生する宇宙的物理基礎構造の再構築イベント、その結果を指すものである!! それ即ち、氣へのアクセスによるこの宇宙の抜本的破壊と創造の小宇宙に、あ、他、な、ら、ぬぅ~!!」
ランジェは一変、斜に構えつつ腕を組み、その豊かな胸を押し上げながらあらん限りに背をそらし、そしてこの上なく居丈高に、不敵に放言した!
「……ランジェ? どした? なんか変だぞ?」
「い、いいの! 仙たる者が教えを授けるときっていうのはね、こう、こんな感じで演出過多なくらいでいいのよ。そーいうもんなの!」
「お、おぅ?」
マカはもとより、遠巻きに見ている子供たちもよくわからないようでキョトンとしている。
「ちょ、ちょっとテンション上げ過ぎたかもね……。私もこういうのは初めてで……。オホン! でもいいわ。とにかく、マカはもうそれが出来てるの。だからあとはそれを再確認できれば、あとは自在に「勁」を生み出せるようになるってこと」
「そんなん言われてもなぁ……」
今の説明のようで説明でない大見得からでは、マカは「それ」が何を意味するのかもわからないようだ。
「じゃあ、……かみ砕いて教えるわね。要するには〝万象の基本骨子〟たる氣にアクセスることで、仙はこの世界を〝織り直す〟ことができるの。こう、
ランジェはちょっとだけしょんぼりしながら、より詳細な解説を始める。
「お。おれは聞いたことねぇぞ?」
「聞いたことない? 有名なところでは、例えば「
「あー……」
「あるー!」「聞いたことあるー!」マカが記憶を探りつつあいまいに頷こうとするのに先んじて、子供たちの声が響いてきた。
ランジェはうむうむ。と老練な教師のように頷く。
「お話とかでもよく出てくるし、見世物としてやってる人もいるわよね。要するに、自分の身体をどんどん軽くする氣功術よ。マカ、私を持ってみて」
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