超魔仙鬼! 異形の半身を持ち誰にも顧みられない少年と不相応な地位を与えられてしまった美貌の仙女とが出会い、共に夢をかなえようとする〝超中華ファンタジー絵巻〟
第27話 第一の試練(2)脅威! 黒刃の園
第27話 第一の試練(2)脅威! 黒刃の園
「しっかりしろよ。何が来るんだ? だいじょぶだぞ! おれが何とかしてやるからな!」
「私たちのほうが……いきなり?」
そこで背後を振り返ったランジェは絶句した。道がない。今まで歩んできた道がないのだ。
一匹の蛇の背のごとき万里の道はいつの間にか消え去り、そこは閉塞極まる、湿った岩壁に囲まれた地下壕のごとき場所へ変わっていたのだ。
道は幾重にも曲がりくねり、自分がどこから来たのかさえ判然としない。これは――まるで迷宮ではないか。
「転移させられた!? ……これは
それはつまり、自らがまんまと死地へ誘い込まれたという言うことを意味する。これが実戦なら、戦う前から地の利を失ったということになるのだ。何という失策か!
「と、とにかく気を付けるんだ! いきなり襲ってくるんだあぁぁぁぁッ!」
優男が二人の背後を指さしながら叫んだ。
その瞬間、周囲の岩壁は生動するがごとくうごめき、まるで吐き出されるかのように黒い突起のようなものが飛び出してきたのだ!
「ひぃいいいいッッ!!」
優男が悲鳴を上げた。まるで狙いすましたかのように伸びてくるその鋭角な黒い突起はあわや、男の喉を、四肢を、全身を串刺しにせんと意思を持って荒ぶるかのようだ。
「言ったぞ! おれが――何とかするって!!」
その間に飛び出したのはマカだ。巨大な黒い両腕を盾のようにして、無数に飛び出していた突起を受け止めた。
壁から飛び出した突起……もはや巨大なブレードと呼ぶべきそれは、自らの前進を阻んだ相手が何なのかを探るように、ぐりぐりと切っ先をうごめかしていたが、あきらめたかのように引っ込んでいった。
流動していた白い石壁も元通りになり、後には痕跡すら残っていなかった。
「だいじょぶか!」
「あ、ありがとう。キミはすごいな……あれを受け止めるなんて……」
「マカこそ、大丈夫なの!?」
ランジェが声を上げたのも無理はない。なぜなら、マカの両腕は先ほどのブレードによって見るも無残に切り裂かれていたからだ。
「ありゃ?」
異常だ。あの黒いブレードの強度、切れ味も何もかもが異常だと言わざるを得ない。
当のマカは気づいてもいなかったようで平然としている。不幸中の幸いというべきか、ざっくりと切り裂かれていた怪腕も見る見るうちに元通りに修復されていく。
「これはすごいな……。やはり君は半魔なんだね? どうしてこんなところへ」
「今はやめて! それよりこの状況のほうが異常よ! これって何なの!?」
アンジェは声を荒げる。たとえ血も出ず、痛みがなかったとしても、マカの頑強な四肢がこうも破損するなど初めてのことだ。
だからこそ驚愕せざるを得ない。焦燥に駆られざるを得ない。
「……もう察しているかもしれないけれど、これは試験なんだ。仙鬼になるための。もう始まっているんだよッ」
「どういことよ!? 試験は正午からだったはずでしょ!?」
まだ時間的には猶予があるはずだ。それとも地形的な意味だけではなく、時間経過の意味でも何らかの幻惑を受けていたのだろうか? 否。優男はかぶりを振ってそれを否定する。
「そうなんだ。僕らもそうだと思っていた。時間に余裕をもって会場入りしたはずなんだ。けれど、会場に着くなり〝逃げることが第一の試練だ〟と一方的に言い渡されて……有無も言わせずに試験がはじまってしまったんだ」
「なによそれ!?」
『あー、テステス。今来た人たちも居るみたいだから、改めて解説するねー』
そこで、唐突に声が響いてきた。直接頭の中に届いてくるかのような、まだ若い女の声だ。
「誰!?」
「おー、なんか面白いなこれ」
「し、試験官だ。きっとこっちの動向は把握されてるんだよッ」
マカがマイペースな声を上げる一方、優男は喉を掻きむしらんばかりに声を震わせる。残響する女の声はどこから発せられているものなのかわからない。
『わーるいんだけどね~。予定をね~、前倒しにさせてもらったよ~。なぜって? それは早く終わらせて帰りたいから!』
「はぁ!? 何言ってんのよ!? こいつ、どこのどいつよ!」
「そ、それは……」
しかしメッセージは一方的だ。ランジェは優男に詰め寄るが、抗議の声は当の試験官には届かない。あるいは無視されているのか。
『第一の試験は今君たちがいる迷宮から生きて抜け出すことだよ~。そのための方法は二つ。時間まで逃げ切るか、あるいは迷宮の謎を解くこと。おすすめは前者ね。なぜなら、この迷宮には恐ろしい怪物がいるからさ~。謎解きは難しいと思うよ~? だから、ボクがいいっていうまで逃げ回るのがおすすめだね~。以上。頑張ってくれたまえ若人たちよ!』
軽やかな声は言いたいように言って、それっきり断絶した。
「なんなのこいつ!」
「あわわわ……」
ランジェは憤慨のあまり優男の襟首をひっつかんだまま吠える。
こういう、人をおちょっくっった態度の相手が度し難いのは無論のこと、何よりも仙鬼の試験そのものを貶めるかのような言動が許せない。仙鬼への道筋とは、もっと、こう、厳正でいて、そして公正な……
「怪物ってなんだろうな?」
「マカ……」
「もしかしたら、おれみたいのがほかにもいんのかなぁ? 会えんのかな?!」
なっ! と、マカは笑いながらランジェに言う。するとランジェも我に返り、肩の力を抜いた。確かにこんなところで一人、いきり立っていても仕方がない。
「……そうね。仕方ないわ。試験官に文句言おうにも、まずはこの迷路から出なきゃならないみたいだし」
「わ、わかってくれてうれしいよ……」
解放された襟をさすりつつ、優男も息を吐く。しかし状況は彼らを放っておいてはくれない。
再び先ほどの黒いブレードが壁面から飛び出してきた。
「
ランジェが叫ぶ。三者は窮鼠がごとく飛びのいた。
マカの装甲すら貫いてしまうこのブレードの切れ味は異常だ。――たしかに、これは防御するよりも逃げ回るのが得策だ。
「は、走るんだぁ! 止まっていたら的になる!!!」
――
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