第25話 証(あかし)


「それで……これ、なんなんかしらね?」


「なんだ、それ?」


 ランジェが見下ろしているのは先ほどマカの後頭部から抜け落ちてきた金属片だった。


「なにって。マカから出てきたのよ、これ」


 しかし、マカはまったく心当たりがないようで首をかしげている。


「そういや、さっきからなんか身体が軽い気がする」


 ランジェはそれを慎重に手に取ってみる。


 熱くも、冷たくもない。どうやら害はないようだが、なんなのかは全くわからない。


 それはらせん状に渦を巻いた奇妙な金属片であった。ふと、その断面がうり二つなのを見てランジェはその両者を合わせ鏡のように近づけた。


 ほとんど無意識の行動だった。するとそれらは互いに引き合うかのようにぶつかり、組み合わさって、見る見るうちに一本の金属の筒状へと成形された。 


「こりゃあ、何らかの仙器だな。もしかしたら、結構な値打ちものかもしれねぇ」


 背後から四角い顎を撫でつつモンソンが言った。


「なんでそんな話になるのよ。ものの考えが生臭よねアンタ」


「そうじゃねぇ! 遺産かもしれねぇって言ってんだよ」


「遺産……それってもしかして、マカのお祖父さんが?」


「そうだ。なにもおかしな話じゃねぇだろ? こういう時のために先立つものを用意しといてくれたってことかもしれねぇだろ?」


「なぁランジェ。〝いさん〟ってなんだ?」


 一人、話を飲み込めないでいる風のマカが問う。


「つまり……マカのお祖父さんはこうなることを見越してたってことなのかな? これは……多分、マカが旅に出るのを認めてくれたってことなんだと思う」


「祖父ちゃんが……」


 マカはランジェから手渡されたそれを感慨深そうに見つめた。まるでアルミニウムのような乾いた質感の金属筒は静かに、……リィン、と鳴り響いた。


『それに……もしかしたら、これはマカの持っている巨大な力に嵌められていた〝タガ〟のようなものだったのかもしれない』


 一方でランジェは思案する。だとしたら、今のマカはそれが外れた状態ということになるのではないか?


 ランジェは未だに鳴動し続ける大穴を見る。抑制のないマカの全力…… それはもはやランジェの想像さえ及ばぬ領域の力だ。


「ま、祖父さんの形見ってことだな。それより、お前らはもう行った方がいいぞ。試験は正午からだ。会場には早めに着いといたほうがいい」


 モンソンが急き立てるように言ったことで、ランジェはそれ以上の思考をやめた。今からそれを案じても仕方がない。


「おう!」


「で、あんたはどうすんのよ?」


「おれはこの大穴を見張っとく。誰も来ねぇとは思うが誰か落っこちても困るからな」


 地を穿つ大穴の底からは、未だに何かが鳴動するような音が聞こえてきている。確かに放置するのは危険だ。


「さぁ、気合い入れてけよ! 本番はこんなもんじゃねぇんだからな!」


「あぁもう。最後までうるさいやつね……」


「へへ。でも、おかげで気合入ったぞ!」


 そしてモンソンを残し、二人は先へ進んだ。

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