第14話 龍縛の網とマカ
マカの背後にはボロを着た村人がいた。どうやらランジェが網を掛けられている間にマカを呼びに行ってくれたらしい。
「……マ、カ……ッ」
ランジェが息も絶え絶えに声を漏らす。自分のことよりも、マカに危機を知らせねばと思った。こいつらは厄介な網を持って……。
「おっと、余計なことは言うなお嬢ちゃん」
髭面の男がうわずる言葉を押しとどめるようにランジェの口をふさいだ。
「ランジェ!? よ、よくわかんねぇけど、なんかすげぇことしてんな! ……なんか、なんかわかんねぇけど。す、すげぇきれいだ……」
開口一番、柔な肉体を締め上げられて横たわるランジェを見たマカは、どこかもじもじと視線をさ迷わせつつ、切なげに呟いた。
どうやら直視してはいけないということはおぼろげに理解しているらしい。――が、この場合はそれが不運であった!
マカの背後には、まるで無数のコブラが鎌首をもたげるようにして赤く妖しく濡れ光るような網が展開していくのだ。
ランジェにを拘束しているのとは別の網だ! それがまるでマカの逃げ場を封じるように広がっていく。
もじもじと視線を落とすマカには見えていない。嗚呼、何とかしなければマカも捕らえられてしまう!
「バヒ! 気が合うじゃねか。久しぶりだなアラカン。お前、危ないところだったんだぜ?」
「危ない? 何がだよ? ランジェはなんか――すげぇことなってるけど、なんかちょっと嫌がってるじゃねぇか! それに、お前らもう悪いことしねぇって言ったじゃねぇか!」
ちょっとじゃない! とランジェは抗議したかったが、網はさらにきつく身体を締め付け、もはや口を開くことさえままならない。それに、どうやらマカはこのならず者たちと顔見知りらしい。
「悪いことなんてしてねぇさ。オホン。いいかアラカン。この女はな、悪い奴だったんだよ。貴族で、俺らを使い捨ての
「おれを……?」
マカがキョトンとして不思議そうな顔をすると、それを見下ろすならず者は髭面を破顔させた。
「そうともぉ! お前に叩きのめされてよぉ。俺たちは会心したのさ。心を入れ替えたんだぁ。ほんとだぜぇ? だから聞いてくれよ。――――そう、だからなぁ。だ・か・ら――今度はしくじらねぇやり方を選んだのさぁ! やれぇい!!」
機を見計らった髭面の男の一喝と共に、「「そぉい!!」」と手下たちの声が呼応する。ランジェの時と同じようにマカの身体に網が掛けられ、急速に引き絞られていく。
ああ、なんということか……ッ! ランジェは音にもならぬ苦悶を漏らす。
「バァヒヒヒヒィ! やったぞ! これで」
「よくわかんねぇよ? なんでそれでランジェが悪い奴になるんだよ? ランジェはいい奴だ!」
マカはそしらぬ様子で言いながら、――ぶちぶちぶちぃ。無造作に、龍をも捕らえるはずの網を引きちぎってしまった。
「――――ッ」
ならず者たちは――無論ランジェも――そろいもそろってあんぐりと口を開き、絶句した。
「いくらおれがバカでも、だまされねぇぞ! お前ら、またなんか悪りぃことしようとしてんだろ? ランジェだって嫌がって――」
「に――、にに逃げろぉぉッ!!」
「んお?」
マカの言葉が終わるよりも先に、ならず者たちは駆け出していた。
まさか、まさかこの特注の、それも仙の作った龍縛の網が破られるなんて。ありえない! なんて理不尽! いくらアラカンが相手だからって……こんなことがあるはずが――
そんな髭面の男の思考が暗転する。
「逃がすわけ――ないでしょ!?」
しかし逃げ惑う男たちの前方に、まるでインターセプトするようにランジェが立ちはだかった。
「うげぇ!? なななんでお前までぇ……」
「自慢できることじゃないけど、邪魔がなければ抜けられるわよ。私のこと放置したのは失敗だったわね。――ほんと、自慢できることじゃないんだけど」
柔肌に縄痕も痛々しいランジェは、おのれの身体を憩いながら溜息を漏らす。本当に自慢できることではない。
だが、今は置いておこう。揺らめく翡翠色の瞳がキッ、と男たちを睨み据えた。
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