第11話 祖父ちゃんの家
村人たちが寄り集まって相談をする間、ランジェとマカは許可をもらって村落の中を見て回っていた。
ランジェは無言で村……とも呼べないような集落の、そして周囲の岩壁を観察する。どうにかして、この村の人々に自活の術を身につけさせねばならない。
「ランジェ……それで、どうすんだ?」
マカはいまだに、少々不安げに見上げてくる。
あの後、村人たちはみなマカにこれまでのことで礼を言いに来たが、マカはどうしていいのかわからなようで、またランジェの後ろに隠れてしまった。
ランジェはため息を吐きつつ、マカを伴ってその場を離れたのだ。
マカは、誰かに感謝されることに慣れていない。それが何だが愛らしくもあり、同時にもどかしく、なおかつ腹立たしくもあった。
マカばかりが何もかも一方的に差し出すなんて言うのは間違ってる。せめて感謝の言葉くらい、もっと、当たり前にもらってもいいだろうに。
「病気の人もいるのよね……私が持ってきた『丹薬』じゃ全然足らない……まさか薬をあがなうお金もないんだろうし……せめて薬膳が作れれば」
呟きながら、ランジェは深々と思案する。とにかく、皆の病衰だけでも何とかしないと周辺の街や集落と交流を持つこともままならない。
「自分で作るしかないか……大きな
さすがに炉を一から造った経験はランジェにもない。
とにかく今は即席で丹薬を精製できるだけの設備を整えてしまわなければならない。
それには釜戸と材料、それにもろもろの道具も必要となる。少々手間がかかるが仕方がない。しかし、一から始めて試験の日取りに間に合うだろうか?
「あるぞ」
すると、沈黙思案するランジェの独り言に意外な声が応える。
「え?」
「炉だろ? 熱い火をおこすヤツだ。祖父ちゃん家にでかいのがあったぞ。今は誰も使ってねーと思うけど」
他でもないマカが、確かにそういった。
集落から少し離れた場所にある岩山に、半ば埋め込まれるようにしてその屋敷はあった。まるで人目をはばかろうとするかのようだった。
「じゃあこれ、マカの家なの!?」
結構な構えの屋敷だった。規模はともかく、その意匠も設えも、ランジェの知る屋敷や宮殿と比してなお遜色のあるものではない。
つまり相当に立派な代物だ。名のある仙の住み家といっても過言ではあるまい。
「おれの、ってーか祖父ちゃんのな。祖父ちゃんが死んじまってからしばらくは一人で居たんだけどさ」
「じゃあマカ、……家まで明け渡しちゃってたってこと?」
「んー。でもおれ、別に家とかなくても平気だからさ」
「……そう」
ランジェは切なさとも悲しみとも取れないものを抑えられなくなった。顔をそむけるようにして、先だって屋敷に入る。
屋敷は雑然として整頓されてはおらず、戸も開け放たれていた。
「……ひどいわね」
「そんなことねぇよ。たまに掃除とかしてくれてるみてぇだしさ」
村人は、おそらくここがマカの生家だと知らないのだろう。苦にもしていないマカを、しかしランジェは抱きしめたいような心持ちになった。
「そっちだ。祖父ちゃんの仕事場だったんだけどさ」
マカの指示に従って金属製の重く分厚い扉を開ける(常人には開けられない代物だ)。するとその先には一段下った地下の空間が広がっており、また天井も相当に高かった。
土壁で囲まれた壁の上下の高さは5、6メートルはあろうか。その巨大な、空のプールのような空間には鈍く照り輝く金属の多面構造体が床に据え付けられるようにして屹立していた。
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