クロノスの意思

「竜太君、こっちから行く?」

「……。でも、隙が無いから……。」

 クロノスと対峙していた蓮と竜太は、互いに武器を構え合って固まっていた。

 クロノスが仕掛けてくるのを待っている、訳ではないのだが、こちらから攻めようにも、クロノスの構えに隙が無い、苦手なりにシミュレートして見ても、勝てる気配がない。

 それだけ完成された構え、ディンですら、修行の時には攻撃する隙を見せていた、それはディンがそうしないと修行にならないからという理由なのだが、隙の無い構え、と言うに慣れていない2人からしたら、攻める手立てが無い。

 封印開放を済ませていた2人だったが、攻める手段を見つけられない、と考えていた。

「来ないというのなら、儂から行くぞ、童達よ。」

「……!蓮君!構えて!」

「うん!」

 刹那、クロノスの姿が消えた。

 2人はかろうじて、クロノスが横から攻撃してくるのがわかった、それは右からの攻撃で、一撃で2人共を殺す攻撃だった。

「蓮君!」

「わぁ!」

 1人の力では太刀打ち出来ない、そう理解した竜太が、蓮の剣に剣を重ね、2人で攻撃を防ぐ。

 が、クロノスの力は思った以上に強く、2人共吹き飛ばされる。

「中々の速度だな、童よ。だが、それでは儂には勝てんな。」

 吹っ飛んですぐ、態勢を立て直し、次の攻撃に備える蓮と竜太、今度はこちらから攻めないと意味がない、と左右に分かれて攻撃を仕掛ける。

「そこだ!」

「えいやぁ!」

 左右からの偏差攻撃、タイムラグが少しある攻撃、普通の存在であれば、これを傷つかずにと言うのであれば、後方に回避するしかないだろう。

 だが、クロノスは、その僅かな攻撃タイミングの違いを把握し、先に攻撃してきた蓮の剣を受け、蓮を左足で蹴り飛ばすと、続いて竜太の攻撃を防御し、剣で竜太を飛ばす。

「強い……!」

「竜太君!」

 直後、竜太の方へ向けて、クロノスが突撃してくる。

 竜太は何とか態勢を立て直し、迎撃の為に剣を構える。

「っ……!」

 竜太が、クロノスの大剣を受け止めようとするが、防ぎきれずに更に吹き飛ぶ。

 空中で清風を使い、何とか止まるが、ここまで力の差があるとは思わなかった、と竜太は焦っていた。

 これでは、戦士達が総動員でかかったとしても、勝てるかどうかがわからない。

 自分や蓮より実力が少しだけ下である戦士達が、クロノス相手に何処まで戦えるのかもわからない。

「竜太君!危ない!」

「くっ……!」

 そんな事を考えていると、クロノスが更に追撃を仕掛けてくる。

「竜神の童よ、お主の力はそこまでのものか?」

「……!」

 クロノスの言葉に気づかされる、自分はまだ、全力を出していないと。

 竜太にとっての全力、それは封印されている分を除いた力、使っても暴走しないだけの力だ。

 しかし、それが変わってきている、その総量が変わってきているのに気づかず、無意識に今までと同じ能力で戦っていた、と。

「でも、なんで……。」

 しかし、何故それをクロノスは竜太に伝えたのか。

 竜太は考える、クロノスは今、破壊の概念に乗っ取られかけていて、そして世界を恨んでいる、とディンは言っていた。

 破壊の概念に乗っ取られかけて、と言う事は、まだ自我が残っている、という事にならないだろうか、その場合、クロノスの意思は何処にあるのか。

「竜太君!僕も戦う!」

 何合か打ち合いをしながら、竜太が考えていると、蓮が飛んできた。

 蓮も攻撃に参加し、クロノスとぎりぎりの所で戦う、ディンの気配が近くなってきている、そして戦士達の近くに闇はない、つまり、もうすぐここに到着する、という事だ。

 まずはそこまで持ちこたえる、そこから先は、全員で突破する。

 その為に、竜太は今出せる全力を出すべく、力を溜める。


「竜太君達とクロノス神は戦っている様子です、早く行きましょう。」

「そうだね、急がないと。」

「ディンさん、もう魔力はダイジョブだろ?」

「うむ……。」

 全員の魔力が回復した事を確認し、ディンはカテドラルアンジェラスの発動を止めた。

 満たされた感情に包まれていた一行だったが、このままでは蓮と竜太が危ないというのも事実だ。

 破壊の概念による干渉は酷くなってきている、これはディンが出張っても問題ないレベルだろう、と判断したディンは、これからの事をふと考えた。

「ディン君、貴方蓮君を……。いえ、今言う事じゃないわね。急ぎましょう、時間が無いのは、お互い様でしょう?」

「そうだな。リリエルさん達は後方支援、俺と俊平君達は前線で戦う事になるだろうな。恐らく、神の贋作を造り続けて繰るだろう、だから、そっちをリリエルさん達に任せて、俺達はクロノスに集中するのが良いだろう。」

「しかし、ディンさんは不可侵の方と……。」

「それは破壊の概念が関わっていなかった場合、だよ清華ちゃん。あれが関わった場合、逆に俺しか何とかする手段を持ってないんだ。竜太が全力を出した所で、破壊の概念には通用しない、それだけ、敵も強いって事だ。」

 クロノスは、必死に抵抗している、とディンは感じていた。

 話をしながら飛眼を使っていたのだが、竜太が全力を出せていない事を指摘していたり、神の贋作を生み出さずに戦っている事から、それが伺える。

 しかし、それもいつまで持つかはわからない、今のクロノスは、破壊の概念に乗っ取られかけている。

『同時転移』

 ディンが転移を発動し、一行はその場から消える。

 蓮と竜太に加勢するべく、そしてこの戦いを終える為に。


「蓮君!」

 竜太は、慣れない全力を行使しながら、蓮と共にクロノスと対等に戦っていた。

 蓮は、竜太がこれまでに見た事のないレベルで能力を使っているのを見て、少し驚いていたが、しかしそれにすぐについていく、蓮のレベルもそれだけ上がっている、という事だろう。

「竜太君!危ない!」

「……!」

 しかし、慣れない力と言うのは、そう簡単に扱いきれるものではない。

 一瞬の隙、それを突かれ竜太に大剣の一撃が繰り出される。

「ぎりぎりって所か?」

「父ちゃん!」

「お兄ちゃん!」

 現れたのは、第四段階開放をしたディン、竜の誇りを出現させ、クロノスの大剣の一撃を防ぐ。

「間に合ったか!」

「良かったです、ですが、ここからが本番です!皆さん!」

「わかってる!」

「うむ……!」

「みんな!」

 それぞれ奥義を開放した状態で現れた戦士達、そして指南役達。

 竜太は、ディンがここまで来たという事は、あと少しで、と言う事に気づく。

「父ちゃん、クロノスは……。」

「お主、竜神王か……。そうか、竜神王よ、儂を討ちに来たか。」

「半分合ってる、もう半分は違うな。お前は気づいてるだろう?自分が浸食されている事に。それに抗っている、それが良い証拠だ。ただ、それももう持たない。」

「……。九代目竜神王は、愚かな男だった。愚直、と言い換えても良いな。全てを一身に引き受け、世界を守った。……、お主は、仲間を見つけたのだな、十代目竜神王ディンよ。そうじゃ、儂はもう、意識を保っているのが限界じゃ。世界を憎む心、それを利用されたのじゃろう。かつて、聞き及んだことがあるのぅ、竜神王とは、世界を破滅に導く存在と戦っている、と。儂らが世界を統べる事を望み、争っている中、世界を滅ぼすという事だけに、注力している存在と戦っておると。……。儂の中にあるそれは、そうなのじゃろう?」

 ディンが登場した事で、クロノスは合点がいった、と言う顔をする。

 皺くちゃな顔を一瞬緩め、目を見開いて、全ての合点がいったと。

「そうだな。破壊の概念、それは初代竜神王から、ずっと俺達竜神王が戦ってきた存在。お前の中に巣くっている、他者の闇を利用した存在の正体だ。今お前から切り離した所で、お前を救うには少し遅すぎた。」

「……。そうか……。では竜神王ディンよ、1つだけ問う。お主は、世界を愛しておるか?」

「……。この世界は醜い、悪に満ちている。でも、その中でも失われない光がある、俺はその光の為に戦ってるんだよ、クロノス。」

「そうか。お主が竜神王だというのならば、それは間違いなのかも知れぬがな、先代の王を見ていると、お主の感情は正しいとも言えるじゃろう。……。哀れな儂を、救ってくれると言うのならば、儂は、それを甘んじて受け入れようぞ。そこの童よ、お主もまた、竜神王に救われたのじゃな。」

「僕?うん!お兄ちゃんが助けてくれたんだ!」

「……。真実を知るには、ちと幼すぎるのぅ。」

 クロノスが一瞬、蓮の方を見て微笑んだ。

 かと思えば、その表情は歪んでいき、醜悪な顔になっていく。

「フハハハハ!竜神王よ!先の戦いの様には行かぬぞ!貴様の守りたいと願う存在、それを屠られて、その余裕の顔が醜く崩れさるのが愉快だ!」

『……。限定封印、完全開放。竜陰術、竜陰絶界』

 完全に破壊に概念に乗っ取られた、クロノスの意思は、そこで消えてしまった。

 それを理解したディンは、完全開放を発動し、結界を張った。

「あら、やっぱりこっちにも来るのね。そう、貴方が破壊の概念、私の復讐相手。……、随分と、矮小なのね。他者を操る事で、自分の死を回避するなんて、卑怯者のする事だもの。」

「小娘が!貴様はさっさと死んでおけば良かったと思わせてやろう!」

「残念だけれど、そうもいかないのよね。私、生きて旅をしようと思っているから。そうでしょう?セレン、外園さん。」

「そうですねぇ、私の運命も、貴方に書き換えられた、と言うのであれば、私は全力で抗いましょう。それが、せめてもの手向けになれば。」

「俺達、舐められてんのかね。これ位の敵、さっきの魔物の軍団に比べりゃ楽だぜ?」

 破壊の概念がクロノスを操り、神々の贋作を生み出す。

 それは、先程ディンが土塊に還した神々であり、それよりも闇が濃くなっていて、レベルとしては強くなっているのだろう。

「Oh!俺はお前さんに個人的な感情ってのは抱いてないんだがな、まぁ乗りかかった船だ、最期まで付き合うとするか。」

「ディン君、そっちは任せたわよ。」

「あぁ。皆、構えろ。これが最終戦、これが終わったら、君達の戦いは終わりだ。」

 結界の外側で、リリエル達が戦闘を始める。

 クロノスは、その肉体を2つに分け、1つはそのまま、そしてもう1つは大蛇の姿になる。

「忌々しい小娘の封印が解けた今!我はこの姿で戦闘を行えるのだ!さぁ竜神王!貴様の死を持って、世界の終焉を!」

 戦いが始める、それぞれの戦いが、それぞれの使命を果たす為に。

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