奥義の使い道

「2人とも、大丈夫かな……。」

「大丈夫ですよ、きっと。今の所、お二人の気配は強くなってます。神の気配がわからない僕が戦況を伝えるのは難しいですけど、でも、戦ってます。」

「2人とも強いもんねぇ!僕達も頑張ろぉ!」

「そうだな……。」

 島を中央へと歩いていく4人、次に出てくるのはどの神か、と考えながら、大地と修平どちらかが残る事になる、と考えていた。

 島はそこまでは大きく無いのだが中央の闇が濃すぎて、竜太の探知では何があるのかまで詳細にはわからない、しかし、強大な闇、と言う認識はあった。

 そこにクロノスはいるだろう、島の様に大きいと蓮が言っていたクロノスが、どんな形をしているのかはわからないが、恐らく、そこにいるのだろう。

「そう言えば、ディンさんはどうしてるんだろう?」

「少なくとも、この世界にはいませんね。僕では探知が出来ない所にいると思います。今頃、破壊の概念と戦ってるか、それとも勝ってるか……。」

「お兄ちゃんなら負けないよ!」

「ディン殿は、とても強い……。しかし、破壊の概念、と言う存在は……。」

 どれ位の強さで、どんな姿をしているのか、を竜太以外は知らない。

 竜太は、ディンに聞かされていた、破壊の概念は、本来大蛇の様な姿をしていると。

 デインの闇の渦の時に見た、あれが破壊の概念の本体なのだと。

「……。来るぞ……。」

「そうだね、次は……。」

 修平と大地が、次の神が来る気配を感じ取る。

 周囲が暗くなり、青空に白い雲が散りばめられていたはずが、いつの間にか暗雲立ち込める空気になっている。

「ハデス様かな。なら、俺の出番だ。」

 槌数時間前に戦った、ハデスの贋作が出てくる。

 大地は悲鳴を上げ、苦痛にもがき、闇へと姿を変えていく。

「修平さん、任せました。」

「うん、行って。」

「負けないでねぇ!」

 3人は走り出す、島の中央までは、まだ少し距離がある。

 そんな3人を守る様に、修平はハデスの前に立ちふさがる。


「俺さ、神様なんて倒せない、って思ってたんだ。神様と戦う、って聞いて、何をどう間違えれば、神様なんて倒せるんだろうって。ただ、何だろう。貴方になら、勝てる気がするんだ。どうしてだろうね。偽物だから?」

「……。」

 ハデスが大鎌を振りかぶる、その動作は、本物のハデスとは似ても似つかない速度だった。

 修平が成獣の守り手達の中でも二番目にスピードが速い、と言う事を抜きにしても、この程度の攻撃だったら、受け止める程でもない、と感じる。

「せいやぁ!」

 大鎌の攻撃を避けて、懐に潜り込み、回し蹴りを一撃。

 大したダメージにはなっていない、それはわかっていたが、手ごたえはあった。

「……。」

 ディステアルミナス、闇属性の最上級魔法、闇のオーラを纏った極大のビームが飛んでくる。

 避ける、と思った瞬間、修平は一瞬視界が暗転し、何処かへと飛ぶ。


「修平君、君は強くなったね!僕、君達がそこまで強くなれるって知らなかったよ!」

「白虎君……。俺達、強くなったかな。頑張ってきたつもりだったけど、強くなれたかな?」

「そうだよ!竜神王様だって、君達を認めたから、自分の敵と戦いに行ったんだろ?なら、君達は勝てる、そう信じてくれてるんだよ!僕達だってそうだ!君達が強くなったと思ったから、魂を共鳴させて武器を上げたんだよ!」

「そっか。それなら良かった。」

「さ、君は知ってるはずだ、君のご先祖様が使った、最終奥義をね!僕と魂を共鳴させてる今なら、使えるよ!」

「ありがとう、白虎君。きっと、勝ってみせるよ。」


『まだ幼い西方を守護する虎よ、俺は君の力を受け継ぐ一族だ。みんなを守る為に、力を貸して!風神雷華!』

 修平が意識を取り戻す、それは一瞬の事で、ハデスの贋作からうち放たれたビームが、丁度修平の目の前に飛んできていた。

 修平は高らかに唱える。

 風と雷、2つの属性を最大限開放し、そしてディステアルミナスを正面から受け止める。

「負けるもんかぁ!」

 贋作とはいえど、最上級魔法である事に変わりはない。

 しかし、それを修平はうち払い、上空に軌道をそらして弾いた。

「今度はこっちから行くよ!」

 風と雷を四肢に纏わせ、連撃を繰り出す修平。

 ハデスの贋作は、それを大鎌でうち払おうと応戦するが、雷の魔力によって自身の進退強化を限界までしている修平の方が、一歩優勢の様だ。

 本来常人であれば、体中が焼き切れてもおかしくないレベルの雷の魔力、それを平然と扱う修平は、魔法が苦手とは思えない程だ。

 魔力操作が苦手で、魔力を体外に放出する、つまり魔法が苦手な修平は、逆を取れば体内で魔力を操る事には長けていた。

 だから、常人では死んでしまう様な量の魔力を体に流したとしても、その体に合わせた魔力を流し込んでいる為、何の問題もないのだ。

「てやぁ!」

 全力全開、ここで全てを使い切ってしまったら、3人の後を追えないのはわかっている。

 しかし、全霊をもって戦わなければ、神に勝つなどもっての外だろう。

 自分は賢くない、馬鹿だと自覚していた修平だったが、しかしこの戦いや修行の中で、戦闘に関する事に関しては、嫌と言う程叩き込まれたのだ。

 そんな甘ったれた事は言わない、今使える全力を持って、この贋作を打ち倒し、そして3人の後を追う。

 それを理解していた、それを目的としていた、だから、最適解を自然と思いつくのだ、と。


「ふー……。さて、次のターゲットはどうかね?」

 タルタロス第三層、衛星迫撃砲で大概の敵を倒したウォルフは、タルタロスの闇によって生まれてくる、新たな魔物と相対していた。

 足元の泥、闇の膿は消えていたが、それと魔物が出現しない事はイコールではない様子だ。

「まったく、魔物とは悲しい存在だな。技量の差を測る事も出来ず、眼前の生物に襲い掛かる、とは。Umm,些か刺激には欠けるがね、まあそれも役目だ。」

 生まれてくる魔物を片端から撃ちながら、ウォルフは戦況を考える。

 セレンと外園はまだこっちには来ていない、という事は、まだ戦っているという事だろう。

 第四層はリリエルが任されている、ならば安心だ、とも。

「クールじゃないな、お前さん達は。戦場ってのは、スマートな奴が生き残るのだよ。とっても、お前さん達に言葉は通じないんだったか。さて、次だ。」

 銃弾を魔物の急所に当て、一撃で絶命させながら、ウォルフは1つ気がかりを覚えていた。

 ディンが向かった先、と言うのがどういった世界なのかはわからないが、ディンの完全開放と言う、途方もない力を使って、使い続けて、世界が持つのか、と。

 実際の所は、ディンは現実と空想の間、曖昧な狭間の世界に行っている、どれだけ力を開放して、どれだけの力を行使しても、世界の存続にはあまり関係が無い。

 ただ、ウォルフ達はそれを知らない、どんな世界でディンが戦っているのか、勝っているのか、負けているのかもわからない。

「まあ、負けていたら、世界が滅ぶって話だ、竜神王サンは負けんだろうな。」

 負けたら即世界が滅ぶのか、と問われると違うだろうが、ウォルフを使役している神からは何も言われていない、つまりディンは負けてはいない、と取れる。

 世界の崩壊にウォルフを付き合わせるつもりはないと言っていた、世界が滅ぶのであれば、その前に強制的に離脱させられるだろう。

 ならば、ディンは負けていないか、勝っているかのどちらかだと、ウォルフは考えていた。

「ふむ、次だ。」

 魔物をもう何千体倒したか、キル数は数えていなかった。

 ただ、際限なく湧き際限なく襲ってくる魔物相手に、どこまで戦えるか、何処で離脱するか、と言う話だ。

 ウォルフは、戦士達は大丈夫か、いや大丈夫だろう、と考えを纏めた。


「あら、まだいるの?」

 第四層、リリエルは、軽やかな舞でも踊っているかの様に攻撃を繰り返し、敵を倒していた。

 魔物相手には毒は必要ない、と言うよりも、毒で弱らせて、と言う戦法が合わない、と感じていたリリエルは、一撃一撃に力を入れ、確実に魔物を屠っていた。

 第三層までの3人が来る様子はない、そして第五層から誰かが来る様子もない、という事は、戦いは続いているのだろうという予想がつく。

 ただ、ここは時間感覚が狂うとでも言えば良いのだろうか、どれ位戦っていて、と言う感覚が薄かった。

 リリエルは戦士達より強い、対個人でいえばディンを除けば一番強い、それは変わらない事実なのだが、大群戦となってくると話が変わってくる。

 大群用に羽ばたく彗星を何度も最大限の気を籠めて放つが、際限なく湧いてくる魔物に、少しうんざりしている、と言うのが正解だろう。

「本当に、魔物って言うのは哀れなのね。実力の違いなんて関係なく、突撃してくるんだから。」

 リリエルも、魔物を相手にするのはこの世界に来てからが初めてだ。

 リリエルのいた世界では、そもそも魔物とは超常現象的存在であり、それは天災や厄災として語られてきた、程度でしかなかった。

 リリエルが幼少の頃に読んだ絵本に、ずっと昔に異形の存在がいて、そしてそれを討伐した勇者がいた、と書いてあった、それが物語ではなく事実だとしたら、遠い昔に現れた事がある、程度だろう。

 そもそも人間同士での戦いが主だったリリエルの世界では、魔物と言う存在を使わずとも、滅ぶ事を予見されていた、とも言えるだろう。

「だからって、滅んでいい世界なんて、あるのかしらね。」

 富と権力が腐敗し、独裁者によって統治されていた、リリエルの世界。

 その独裁者をリリエルが暗殺し、そしてそれからの事は知っている訳ではないが、代替の統治者が現れた、とはディンは言っていなかった。

 ならば、滅んで行く世界だとしても、おかしくはないだろう。

 独裁者をリリエルが暗殺した、そしてその直後にディンに出会い、この世界にやってきたリリエルは、本来の目的である、運命を狂わせた存在への復讐、に集中していた為、元居た世界のその後を知らないのだ。

 ディンは何か知っているだろうが、闇によって滅ぶのが全て世界群の崩壊に繋がるわけではない、と言っていたし、破壊の概念が干渉していない世界や物事で世界が滅んだとしても、世界群の存続には何の支障もないのだろう。

 ただ、ディンが個人的感情として、魔物による世界の滅びを止めている、と言うのがリリエルの認識で、それはディンにしか出来ない事ではなく、その世界の守護者であれば出来る事だ、とも今ではわかっている。

「……。」

 ディンは、リリエルを守護者だと言った。

 確信があったわけではない、と言っていたが、それは嘘なのだろう。

 ディンは、最初からリリエルを守護者と認識していた、それが正しいのだろうと、リリエルはふと思い至った。

 ただの暗殺者を仲間に加えるとは思えない、そして、世界を渡る力を持っている、と言う話であれば、外園を仲間に加えた理由が少しずれてくる。

 ディンは、それぞれの世界の守護者たる存在を認識していて、その中で世界を渡る力を持っていた、セレンと自分を選んだのだろう、と。

「まったく、彼には勝てないわ。」

 自分が守護者だとは、一寸たりとも思わなかった、自分は暗殺者で、闇に生きる存在なのだからと。

 しかし、ディンは言った、闇の中にも、失われない光があると。

 そしてそれは、リリエルを守っていた、リリエルを守護者として生かしていた、世界を守るだけの存在として成立させる為に、リリエルに力を与えた。

 ならば、星の力、と言うのも、リリエルの世界においては守護者の証なのかもしれない、それは聞いていなかったが、もしかしたら、と。

 ただ、それが今では心地良い、守護者と言われる事を、以前のリリエルならば忌避していただろう。

 それが、今では心地良いと感じる、守護者としてディンと同じ様にする気はない、戦士達に倣うつもりはない、自分は自分だ、とリリエルは思っていたが、しかし、それでも守護者であると言うのであれば、それを受け入れるのも吝かではない、と。

「私は血塗られた手で、何かを掴みたいのかしらね。」

 攻撃の手を止めず、しかし思考も止めず、リリエルは戦う。

 この戦いが終わったら、故郷に一度帰ってみるのも良いかもしれない、どうなっているかわからないが、良い方向に転んでくれていたら、などと考える。

 これも、以前のリリエルだったらありえない事だろう。

 世界の存続を望み、世界の安寧を望むなど、リリエルの感情には無かったのだから。


「ふぅ、これで終わりか?」

 第一層、セレンは幾千もの魔物を打ち倒し、少し疲れた、と考えながら、次の魔物が現れない事を確認していた。

 第二層への門は破壊されたままだ、少しだけ休憩を取って、次の階層のメンバーの手伝いをするのもありだろう、と考える。

「にしても、俺……。」

 ここまで自分が戦えるとは思っていなかった、この戦いで死ぬつもりは無かったが、生き残れるとも思っていなかった。

 ここが命運の終わり、戦士達を庇って死ねるのなら、それもありかもしれない、と思っていたセレンからしたら、この状況は僥倖とも取れるし、散り際を間違えたとも言える。

「……。」

 セレンに魔物や神を探知する能力はない、つまり今戦士達がどうしているか、下の階層のメンバーがどうしているか、そしてディンが何処で何をしているか、はわからない。

 ただ、ディンは勝っている気がしていた、それはただの勘なのだが、ディンは戦いを一旦終わらせている様な気がしていた。

 破壊の概念は、クロノスを操り戦士達を殺そうとしている、そしてその後、蓮に乗り移ってディンを殺そうとするだろう、とディンは言っていた。

 セレンは考える、蓮は破壊の概念の干渉から逃れる事が出来るのか、と。

「ディン……。」

 ディンは言っていた、沢山の光に囲まれて、包まれて、初めて破壊の概念の干渉から解き放たれ、正常な運命に戻る事が出来るのだ、と。

 蓮にとって光とは、戦士達の事であり、自分達の事だろう。

 光に帰還する為には、何が必要か、それはわかっている。

 ただ、蓮がそれに値するのか、蓮がそれだけの光に包まれているのか、がわからない。

「蓮……。」

 仮にも、一年は共に過ごしてきたのだ。

 蓮が戦士達が来る半年前にディセントに来た時、最初は怯えられたな、と思い出す。

 セレンはパッと見怖がられそうな見た目をしている、それはわかっていたが、ああもわかりやすく怯えられる事は新鮮だった、そして、その後少し時間を掛けて、懐いてくれた事は嬉しかった。

 そんな蓮と、ディンは戦わなければならない。

 ディンと蓮はとても仲が良かった、約一年間と言う短い間だったが、絆を深めて、兄弟として生きていた。

 そんな2人が戦わなければならない、それは悲しい。

 だが、それを止める術を、セレンは知らない。

「さて、そろそろ行きますか。」

 戦槌をピアスに戻して、第二層へと向かう。

 これからの事、蓮の未来を、案じながら。


「これで終わりですね、ふむ、あまり手ごたえは無かったですねぇ。」

 第二層、魔力武装を解いた外園は、皆と合流する前に一服、とパイプに葉を詰め、火を灯した。

 前線で戦うのは想定外、そして1人で戦うのは初めてだったが、意外と上手くいくものだ、と考えていた。

「未来、それは……。」

 外園の知らない、不確定な未来。

 そこに向かって走って行く勇気、未来が視えずとも、歩みを進める心、それは、外園が失ってしまった心だった。

 未来が視える様になってから、それをずっと見て来た、そして視るしかなかった外園にとって、未来が視えないと言うのはある意味新鮮で、不安で、恐怖で、美しい。

 未来が視えない事、それでも進む事、歩いていく事、それを自分もかつてはしていたはずなのに、何百年かそれをしなかった間に、その心を忘れてしまっていた。

 それを思い出そうとしている、未来が視えない事で、歩みを止めてしまってはいけないのだと。

「私は、変わってしまった、彼らならそう言うのでしょうか……。」

 アリサ、テイラット、トリムントスの魂は、今グローリアグラントにある、とディンは言っていた。

 セスティアに行く前に、一度だけで良い、会いたいと願う。

 若くして亡くなった友人達、アンクウと言う忌々しい者になってしまった時に、殺めたと言っても過言では無い友人達。

 けれど、彼らは外園に会いたがっている、とディンは言っていた。

「恨みを持っても良いでしょうに……。」

 暗い、闇に包まれた冥府の中で、外園は光を灯しながら、考える。

 自分は恨まれても仕方がないと思っていた、恨まれていると思っていた、許されないのだと、許しを請うてはいけないのだと。

 しかし、それを友人達は、彼らは、会いたいと言ってくれたのだ。

 一度セスティアに行ったら、自由にディセントには戻ってこれないだろう、と外園は考えていた、ディンに頼めば出来そうな事ではあるが、本来外園が世界を渡る力を持っている訳ではないのだから、それは許されない、と。

 一度行ったら戻ってこれない、片道切符。

 セスティアで骨を埋める事になるだろう、人間ではない外園が受け入れられるかどうかはわからないが、そこはジパングにいた頃と同じ様に、耳を隠して、居住地を転々とすれば問題はないだろう。

 外園は暫し夢想する、これからの事、これまでの事、自分がしてきた事、自分が犯した罪。

 許されるべきではない、許しを請うてはいけない、しかし、己を許す事が出来るのも、また己だけなのだ、と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る