ゼウスの意思
「ここがゼウス神のいる都市、ですね。」
「宙に浮かんでんのか?あれ。」
「何やら帯電している様にも見受けられますが……。」
西の山脈、ソーラレスとの国境に少し近い、ゼウスの都市。
それは、宙に浮かんだ空中都市であり、現在6人は、そのすぐ近くに来ていた。
直接都市に入る事も考えたが、向こうの意思次第で即座に戦闘になってしまう可能性、を竜太が考え、ここに飛んだのだ。
「すごおい!でも、どこから入るんだろう?」
「飛んでいくって言っても、竜太君の魔法じゃばれちゃうしね。」
6人は、上手く行く方法を考えようとするが、どうした所で都市に入った時点でばれるだろう。
ぽつぽつと雨の降る中、濡れながら考えている。
「うーん……。正面切って、しかないんですかね。」
「何か……、別の方法は……。」
「あ、なんだあれ?」
6人が唸っている中、俊平が何かに気づく。
都市の方から、光で出来た階段の様なものが、降りて来たのだ。
「来い、って事ですかね。」
「罠の可能性も否めませんが……。」
「行くしかないでしょ。だって、3体の神様が、タルタロスへの鍵を握ってるんでしょ?なら、結局行かないと。」
階段が足元まで降りてくる。
誘われている、来いという意思表示だろう。
「行くぅ?」
「……。行きましょう。結局、交渉しなきゃならないんです。」
光の階段を昇って、都市へ向かう。
階段を昇っていると、急かされる様に感じる、後ろを振り向くと、階段が少しずつ消えていっている。
これは後戻りは出来ないだろう、竜太が転移か清風を使えば可能だが、竜太が後戻りをするという判断をしない以上は、後戻りは出来ない。
「さて、次はゼウスか。戦いにならないとは思うけど、どう出てくるかな。」
「ゼウス神、彼の神は世界を掌握したいと願っていた、とテンペシア様が仰られていましたが、戦いにはならないのでしょうか?」
「あの子達の交渉次第な所があるだろうな。ゼウスにとって得があって、なおかつタルタロスの鍵を外せるだけの交渉材料、それはあの子達は持っている、って俺は思ってるよ。」
ディンが転移で出したポットから紅茶を注ぎながら、外園はゼウスの事を思い出す。
何度も歴史の勉学で出てきた、世界を掌握しようとした神であり、全能の存在と呼ばれている、と。
その全能の存在を、竜神と精霊達は抑え込んでいる訳だが、それを良しとしていないから、現状戦争に賛成派なはずだ、ならば、どうやってそれを回避するのか、と。
「子供達では、足りない様な気もしますがねぇ……。」
「それはあの子達次第だよ、外園さん。交渉が決裂した場合、戦う事になるだろうな、でも、あの子達は勝つだけの力を持ってる、それだけの力は持たせた。殺せないってだけで、倒せない訳じゃないからな。」
「それは興味深いですね。人に神は殺せない、それがこの世界の摂理であると、テンペシア様は仰られていました。神は神を殺せず、人は神を屠れず、と。しかし、打倒出来るという事は、殺す事も出来るのではないでしょうかね?事実、ディンさんは昨日アテナ神を討っていらっしゃった。」
アテナも神、神に神は殺せないと言うテンペシアの言葉が正しいのであれば、ディンの行動に矛盾が発生する。
しかし、事実として、ディンはアテナを消し飛ばした、まるで、この世から痕跡毎消し飛ばしたかのように、軽々と、あっさりと。
「この世界の、摂理だろ?俺や竜太はこの世界の摂理に縛られてない、つまり神殺しも出来るって事だな。テンペシア達は中立が基本的な立場だからしないってだけで、竜神であれば神を討つ事は出来るはずだ。テンペシア達は、それに枷を掛けて、殺せない様にした、って事だな。でも、俺達にまでそれを強制する力は無い、つまり、竜太と俺、蓮は神を討つ事が出来る、って事だ。」
「ふむ、ではウォルフさん達が戦えたのも、この世界の摂理には則っていない存在だから、でしょうか。私には出来ず、ウォルフさんやリリエルさんが出来る理由と言ったら、それくらいしか思いつきませんが。」
「そうなるかな。この世界の人間は、この世界の神を討つ事は出来ない、あの子達は、この世界の人間の子孫であり、魂の転生者だから、その摂理に引っ掛かる部分がある。」
引っ掛かる部分がある、という事は、全てが、ではないと外園は考えた。
でなければ、ディンは出来ないと断言するはずだ、出来ないのであれば、それをさせる理由もない、と。
「そっか、外園さんは知らなかったのか。あの子達にも、竜神王の加護は掛けてあるんだよ。つまりそれは、俺の権能の一部にアクセスする権利を持ったって事だ。守護の権能に限った話だけどな、あの子達の魂は、俺の力で守られてる。」
「ディンさんの力に守られている、という事は、この世界の摂理を外れられると言うお話になるのでしょうか?」
「部分的にそうなる、って事だな。だから、神を屠ろうと思えば出来ない事はない、それが守護に限った話であれば、だけどな。」
守護に限った話、と言う部分が、外園には理解出来なかった。
ディンは守護者、そして戦士達も守護者、年輪の世界と言う膨大な量の世界を守護しているか、それともこの世界を守護しているか、の違いはあるだろうが、それがなぜ、神を殺すに至るのか、と言う感覚だ。
「何、簡単な話だ。守護者ってのは、世界を守る者。世界を守る為に必要であれば、神を殺せるって事だよ。例えばクロノス、あの神はもう、戻れない所まで来てる。だから、殺して開放する他、あれを救う方法はない。そして、それ以外に世界を守る方法はない。つまり、あの子達はクロノスに限っては、殺せるって事だな。」
「成る程、世界を守る為に、と言う大儀があれば、神をも討てる、という事ですか。……。しかし、それは彼らにとって重荷になってしまうのでは?」
「それは仕方がない。あの子達が生まれた時点で、世界を守るか殺されるかの二択だったんだから。なら、守って生きる方に行ってほしいとは思わないか?」
「それもそうですね。ディンさんがそう仰るのなら、それが正しいのでしょう。」
或いはそれは、神の重荷を取り去る行為でもある、とディンは考えていた。
破壊の概念の干渉によって、魔に侵食されてしまった神、もはや神としての形すら保っていられない程に、侵されてしまったクロノスを救う、それは世界の守護の為でもあるが、クロノスを闇から救い出す唯一の方法なのだから、と。
「ふぅ……。半日くらい経っちゃいましたね……。」
「長かったぁ……。」
天空へと続く階段を昇り切った戦士達は、都市の入り口で少し休憩していた。
歩くこと自体に疲弊していたわけではなかったが、しかし半日もずっと階段を昇り続ける、と言うのは、精神的に疲弊する。
もう日も沈んできた、しかし都市は煌めいていて、戦士達の興味を引かせる。
「きれいな所だね!」
「な、神様ってのはさ、綺麗好きなんかね。」
煌めいて、まぶしいとも思える様な、そんな都市を見て、6人は圧巻される。
門は開かれていて、入って良いと言われている様な気もする、が、警戒は怠らない。
ゼウスは世界を掌握しようとしている、と言う前提知識があった、だから、何があってもおかしくはない、と。
「都市自体はちっちゃいんだね。」
「そうですね、あまり大きくは無いように見受けられます。人の気配もあまりしませんし……。」
「都合が、良いかもしれぬな……。」
小休止していた6人は、都市の中へと足を踏み入れる。
「帯電しているのでしょうか?雷の魔力を感じます。」
「かもしれないね。ちょっとピリピリするっていうか、俺が体に電気流す時と同じ感じがするよ。」
都市中に電気が流れている、と言うよりは、雷の魔力に包まれている感覚だ。
ポセイドンの都市でも少し感じた、あちらは水の魔力だった為、あまり攻撃的な印象を受けなかったが、こちらでは違う、少しどころではない、攻撃的な魔力に包まれていて、居心地が悪い。
「あっち、ですかね。」
「人が居ねぇってのは不思議だな。」
今回も、竜太の清風で神殿まで飛んでいく、と言う算段だ。
人がまったくいない中、清風を使って神殿の方へと飛んでいく6人。
途中、ちらほらと人影を見かけたが、あまり気にも留められてない様子だった。
「聖獣の守り手です、ゼウス神に謁見しに来ました。」
「お前らが……。そうか、ゼウス様はお待ちになられている、通るが良い。」
「待ってる……。って事は、僕達の事はばれてたんですね。」
「アテナ様を討ったのはお前たちの仲間だろう?それをお知りになられているのだ。」
アテナを討った、それはディンの事だ。
5人は、ディンの事をゼウスが知っている事に疑問を持ったが、竜太は、先代が世界を分けた時にはゼウスは存在していて、だから知っているのだろう、と考えを纏めた。
「矮小な者達よ、貴様らが聖獣の使いか。ふむ、それなりに力を付けてきた様だな……。」
「貴方が、ゼウス神ですか?」
「如何にも。儂はゼウス、全能の神にして、空中都市を治める神である。不敬、とは言うまい。貴様らは元より、儂の元にはいないのだからな。して、父君を討つ為に鍵を開けろ、と言う事だな?」
神殿の中央、豪奢な扉の奥に、人間と同じ程度のサイズの白髪に白髭の老人、ゼウスは座っていた。
神殿の中央はバチバチと目に見える程帯電しており、普通の人間だったら、ここに立ち入った時点でプラズマに焼かれ蒸発しているだろうな、と言う感想を持った。
「儂は世界を統べる事を目的としているのは知っておろう、ならば、替えに枷を外す事を竜神と精霊に求める。」
「枷……、つまり、この地域に縛られている、その枷を解け、って事ですよね……。でも、それは僕達に決められる事じゃ……。」
「ねぇねぇ、世界を統べる、ってどういうことなの?」
「世界を統べるという事は、世界の神になるという事。ほかならぬ、世界統一である。」
蓮が疑問を口にする、世界を統べると言われても、わからなかったのだろう。
ゼウスは、意外な事にそれに軽く答えた。
不敬だと言って、蓮を殺そうとすると一瞬竜太は思ったのだが、それほど気は短くない様子だ。
「世界統一……?じゃあ、デインさん達はどうするのぉ?」
「デイン?嗚呼、守護神デインの事か。ふむ、童、貴様は守護神の力を行使していると見える。ならば問おう、守護神と祀り上げたは、何やつか?」
「守護神として祀り上げた……。それは、竜神王である父ちゃん、なのかな……。でも確かに、デインおじさんは向こうに行っても問題ないだろうって……。」
ゼウスは世界分割の事を知っている、世界分割前には存在した神だからだ。
故に、その事や竜神王の事を知っていても、不思議ではないしむしろ納得出来る。
「儂の野望を叶えし際には、世界を安寧へと導く。それを交渉の材とする。」
「……。って言われても、俺達に決める権利なんてねぇしなぁ……。」
「そうだよ、俺達は別の世界の人間だもん、俺達が決めるなんて、出来ないよね……。」
そう言われたとしても、信じるだけの材料がない上に、自分達はこの戦いが終わったらセスティアに帰る。
だから、そう交渉をされたところで、うんとは言えない。
「ならば闘争は終わらぬな。儂は世界を統べる、我が弟ハデスを止めたくば……。」
「……。なら、こうしましょう。貴方に鍵を外してもらう事で、この国の中での戦争は認める、って。それなら、この国を統べる事は出来るでしょうし、他の神や精霊も文句はないでしょう。ただ、それが駄目で、どうしてもこの世界を掌握したいって言うのなら、戦うしかありませんね。皆さんはこの世界の摂理で神を殺せない、だとしても、僕と蓮君は違う、次代の竜神王として、竜神の力を使う者として、戦わなきゃならない。」
「儂に敵うと思うての狼藉か?」
「わかりません。勝てるかどうか、神様なんて倒した事もありませんから。ただ、僕は世界を守らなきゃいけない、それは竜神王の後継者として、家族を守る者としての意思です。ゼウス神、貴方の力はどれくらいなのか、僕にはわかりません。でも、僕は負けるわけにはいかない、おじさんが愛したこの世界を、好きにさせるわけにもいかないんです。」
「竜太君と一緒なら、誰にだって勝てるもん!」
そう言って、竜太は竜の愛を、蓮は竜の想いを構える。
ゼウスは何か考えているのか、暫く沈黙し、緊迫した空気が場に流れる。
「殺せない、と言っても、打倒出来ないと言う訳では無い、と私は考えました。竜太君と蓮君が戦うのであれば、私達も加勢します。」
「そうだな……。時間稼ぎ、程度は出来るだろう……。」
「やらねぇよかマシって事だな。」
「そうだね。」
4人も武器を構え、ゼウスと戦う覚悟を見せる。
殺せないのが摂理なのであれば、倒せば良いだけだ、倒す事すら出来ないのであれば、自分達が力を付けた理由がない、と。
「貴様らの覚悟とやら、父君に通ずるかもしれんな。」
「……。」
「良い。儂は最終的に、この世界を統べる事が出来るかどうかは構わぬ。そうだな、強いて言うのであれば、世界の安寧を求める神なのだ。闘争の果てに、安寧があると、闘争の果てにしか、安寧はないと、そう考えているが故に、儂は闘争を求める。貴様らがそれをせずに世界に安寧をもたらすと言うのであれば、それは儂にとっても都合が良い。」
「って事は……。」
「父君の封、解いてやろう。だが、ハデスはこう簡単にはいかぬぞ。彼奴は世界を憎んでおる、破壊してしまいたいと願っておる。ならば、闘争の他に選択肢はないだろうな。鎮魂の儀、貴様らに与えられた、鎮魂の力が通ずるとも限らん。それでも、安寧を求めるか?」
ゼウスが言葉を発するまで、遠い時間が過ぎていった様な気がした。
しかし、ゼウスが発した言葉は、戦士達にとっては以外と言えばいいのか、拍子抜けと言えばいいのか、そういった答えだった。
「よく聞くが良い。我が弟ハデスは、冥界の門を守護する神にして、先の闘争の首謀者である。世界を恨み、憎み、疎み、そして崩壊へと導かんとした。儂とポセイドンは、それを止めるべく、闘争へと足を踏み入れた。父君をタルタロスへ封じたは、ハデスの意思を鑑み、そして闘争を収めるにはそれしかなかった、と言う事実があった。儂達兄弟の力を以て、父君を封じる事で、ハデスの留飲を収めたと言う事だ。ハデスは父君を恨んでおった、憎んでおった、であるからして、封じる事となった。」
「ハデス神とは、戦わなきゃならないって事ですね……。」
「ハデス様って、どんな神様なのぉ?冥界を守ってる神様って事は、怖いのかなぁ。」
ゼウスは深くため息をつき、ハデスの事を憂う。
ハデスに冥界の守護をさせる様に取り決めたのは、神話ではゼウスだったが、この世界ではクロノスが決めた事だった。
だから、ハデスはクロノスをタルタロスに幽閉すれば、そこから開放される、と信じていたのだろう。
しかし、そうはならなかった、竜神と精霊の封印により、冥界の門を離れる事は叶わなくなってしまった。
そして、それから千年、ずっと世界を恨んできたのだ。
「父君に何かが干渉している、それはわかっておる。竜神王は、それを対処しに来たのだろうとな。ハデスは、それを利用し世界を滅ぼそうとしておる、簡単にはいかぬぞ。」
「……。わかりました。僕達に何処まで出来るかわかりませんが、精一杯やってみます。」
「そこの童、貴様であれば、ハデスの感情もわかるかもしれぬな。」
「僕?」
「そうじゃ。貴様の他者の闇、それはハデスに通ずる事柄だろう。ならば、貴様にならハデスの心を融かす事が出来るやもしれん。」
他者の闇、それをハデスも抱えている、という事だと竜太は理解した。
クロノスもそうだとディンは言っていた、クロノスは、他者の闇を抱え込み、世界を憎んでいるのだと。
ハデスも同じ様な状態になっている、確かにそれなら蓮と同じだ、と。
「では行くが良い。ハデスの地に赴いた際には、闘争は避けられぬだろう。ハデスの使者は、それこそハデスを心酔しているが故に。」
「ありがとうございます、じゃあ、行きますね。」
竜太がそういうと6人は転移でその場から去った。
「……。」
ゼウスは、ハデスに冥界の門の守護を任せた事を反対した覚えがある、と思い出す。
世界が分割された直後、クロノスは、誰かがこの世界の冥界の門を守らなければならないと言い出し、そしてそれにハデスを選んだ。
ハデスは最初、信じていた父の言葉を飲み込み、冥界の門の守護に勤しんでいた、そしていつからか、世界を憎む様になってしまった。
結果、ハデスはクロノスを冥界タルタロスに幽閉する、と言う結果を生み出し、そしてそれに関与したと言う事で、神々は大地に縛られた。
ゼウスはそれが、自身に課せられた罰なのだと思っていた、それも致し方なし、同じオリュンポスの神と呼ばれる存在なのだからと。
しかし、世界を滅ぼそうとしている存在がいる、それはゼウスにとっては歯がゆい状況だった。
自身が動ければ、神同士で殺す事が許されていれば、決着を付けようとしていたのだが、それはこの世界の摂理によって叶わない。
ならば、託すしかないと。
聖獣の守り手が現れた、と聞いた時、ゼウスは少しだけ安心したのだろう。
世界を守る人間がいる、世界を存続させる為に聖獣達が動いている、と。
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