一難去って
「ん……。あれ、僕達……。」
「竜太君!」
「蓮君?」
竜太が目を覚ます、そこは記憶にあった、荒野で寝ていた。
致命傷を負って倒れたはずだった、4人も倒れていて、と記憶を呼び起こすが、何があったのだろうか、と考える。
「父ちゃん……?」
「うん、お兄ちゃんとリリエルさんと、ウォルフさんが来てくれたんだよ!すっごい強かったんだぁ!」
「リリエルさん達まで?」
4人はまだ眠っている、日の明かりを見ると、自分は二時間程度気絶していたのだろう。
荒野を見渡すと、明らかに地形が違うと言うべきか、巨大な穴と一直線に抉れた跡が残っていた。
確かに、これはリリエル達がやったので間違いないだろう、と竜太は考えを纏め、まだまだ自分達が未熟である事を痛感する。
「ウォルフさんがね!でっかいビームをビーってやったんだよ!すっごいお空まで飛んでた!」
「ウォルフさんが……。そんな技持ってたんだ、あの人……。」
竜太はウォルフの技である、衛星迫撃砲を知らない、聞いた事すらなかった。
ただ、これだけの地形変動を起こす技、と言うのは、使える存在は限られて来るだろう、とは考えていたから、驚きはしなかった。
「……。儂は……。」
「大地さん、おはようございます。」
「竜太……、蓮……。儂らは、どうなったのだ……?」
「敵は父ちゃん達が倒してくれたみたいです。僕も致命傷を負ったはずなんですけど、多分父ちゃんが移癒で治してくれました。」
最初に大地が目を覚ます、大地は一番最初に気絶した為、戦況がよくわかっていなかった。
しかし、魔力の残滓、膨大な魔力が放たれた痕跡を感じ取って、ディン達が戦ったのだと言う事を理解した。
「不甲斐ない、な……。儂は……。」
「そんな事ないですよ、大地さんの全力がなければ、今頃全滅してたと思います。」
「大地さん、凄かったね!あんなにおっきな魔法だったなんて、わかんなかった!」
大地が眉間にしわを寄せ、反省している所に、他の3人も目を覚ます。
「……。私は、死んだのでしょうか……?」
「どうやら、生きてるっぽいぜ?」
「痛い、ってレベルじゃなかったね……。」
「皆さん、良かったです。」
痛み、と言うよりは、それ以上の何か。
死を直感したレベルの衝撃、それはなかなか拭えないだろう。
「でも、生きてる!」
「そう、ですね……。恐ろしかったです、死んでしまうのだと、直感して、これが死の痛みなのだと。……。竜太君は、これを経験なさって来たのですね……。怖いです、正直に申し上げるならば、凄く怖いです。しかし、戦うと決めたのだから、戦わないといけませんね……。」
「痛いってレベルじゃなかったもんな……。ホントによ、死ぬって呆気ねぇって言うか、軽くやられただけだったはずなのによ、死んじまうんだって思って……。怖ぇな、ホントに。」
「でも、戦わないと……。俺達が死んじゃったら、くじけちゃったら、皆死んじゃうんだもん。だから……、だから、戦わないと。」
死の痛み、死の寸前まで追い込まれた事、それは十分な恐怖となりえるだろう。
竜太も初めて痛みを経験した時は、戦いを放棄したくなった、くじけそうになった、そして、戦う事を選んだ。
4人も、それを理解した、大地は致命傷を負った訳ではなかったが、3人の言葉を聞いて、その恐怖をなんとなく理解する。
「……。行きましょう、僕達の戦いは終わってない、僕達の死ぬ場所は、ここじゃないはずです。」
竜太の言葉で、一行は覚悟を決める。
まだ恐怖が消えた訳ではない、しかし、戦うと決めたのだから、と。
「あちらは大丈夫でしょうかねぇ。ディンさん達の戦いを後ろから見物させて頂きましたが、ああも神を蹂躙する力、と言うものには、些かの恐怖すら覚えますがね。」
「ディン達がつえぇってのは知ってたけどさ、あそこまで一方的に戦うんだとは思わなかったぞ?ディンがこの世界群の誰にも負けねぇって言ってた理由はわかったけどな。ありゃ勝てねぇわ。」
マグナの港近く、集落の宿に泊まっていたディン達。
この集落は、神に異を唱えた者達が、神に影響されない居場所を求め作った物で、外国の人間に対して好意的な感情を抱いていた。
神に異を唱えた人間は、プリズへと収監される、それを逃れた人間達の集落だ。
簡素な造りの木造建築、マグナのよく雨の降る環境にはあっていないが、しかし雨風しのげるだけでも僥倖、と、神の支配地域外であるこの場所に、集落が造られたと言う経緯があった。
「あれはまだ弱い方だったからな、楽だったよ。戦士達に力を与える代わりに、自身は弱体化する、そういう仕組みだったんだろう。もしも、戦士達に与えてた力を全て吸収して、ってなったら少しだけ苦戦したかもしれないな。」
「やけにあっさり終わったと思ったら、そういうからくりがあったのね。でも、あの戦士達、そこまで強かったかしら?兵士としては二流、と言う感じだったと思うのだけれど。」
「Umm,リリエルちゃんがそれだけ強いって事なんだろうが、確かにあれは、神の戦士を名乗るには少々弱かったな。竜神王サン、そこら辺の情報ってのはないのか?」
「ん、あれは元々は人間だからだな。人間を無理やり神の戦士に置き換えて、戦わせてたんだ。ウォルフさんとリリエルさんは会った事があるだろ?マグナの使者を名乗る戦士達。それの強化版だよ、あれらは。」
アテナの戦士達、と言うのは、アテナが自身の神の力を分け与え、無理やり戦士として成立させていた存在だ。
それを100万と使役しているのだから、アテナの実力も相当なものではあったのだろうが、それをしたが故に、自身の能力が低下してしまっていた、と言う話の様だ。
「千年前の大戦の時、神の戦士は殆どがその命を落とした、それはそれだけ大きな戦争であって、豊穣の神クロノスがそれだけ強かった、って話だ。だから、失った戦力を、アテナはその身をもって補填した。その結果が、人間を無理やり神の座に引き上げて、戦士にする、って言う結果だ。あれらは元人間の神の末端、とも言えるな。」
「人間を神に押し上げる、って事かしら?そんなこと出来るの?神って、普遍的な存在だと思っていたのだけれど。」
「この世界では、神も実体を持つ存在だ、老いる事があれば、死ぬ事もある。そして、神の気に当てられ続けた存在は、その末端に魂を変異させてしまう。俺達竜神も、同じ事が言えるな。俺達竜神も、力の弱い存在、意志の弱い存在の近くで力を発現し続けると、相手の魂を変質させてしまう、竜神の魂に人間の魂を寄せて、力を無理やり呼び起こす事も出来るな。」
試した事はない、ディンは生まれた時からその事を知っていて、そしてそれを防いできた。
竜太に関しては、魔物がいない場所では力を発動出来ない様に、と枷を掛けていた、だからセスティアでは、魂が変質した存在、と言うのは限られていた。
「いつだったかな、レヴィノル、先代竜神王の弟の影響下にいた人間達が、知らず知らずのうちにその魂を変質させて、魔物になってた、って事があった。俺達はそれを是としなかった、人間は人間として、力を持たずに生きていくのが正しいと思っていたから。ただ、レヴィノルはそう思わなかったんだろうな。」
「人間を変えちまうって、まるで破壊の概念みてぇだな。破壊の概念は意図的に人間の運命いじくってたんだろ?」
「少し違う様で、本質は似てるな。意図的か偶発的か、の違いだけだから。人間の運命を狂わせるか、魂を変質させるか、その違いもあるけど、本質的には人間の持つ魂に干渉して、それを歪めるって事だから、間違ってない。」
それは、ディンが破壊の概念と自分が何処か「似ているな」と感じていた部分だ。
竜神であったレヴィノルは、人間に干渉し、人間を使役し、その結果としてその人間達は魔物に魂を変質させ、そしてディンがそれを救った。
それ以前から知ってはいたが、まさか本当に、と思っていたディンは、それ以降人間の前で能力を使う事を、極端に警戒した。
どれだけの干渉、どれだけの開放で、人間に影響を出すのか、そして魂を変質させてしまうのか、がわからなかったからだ。
「しかし、戦士達の前では能力を使用されていますよね?彼らの魂が変質してしまう可能性、はないのでしょうか?」
「そうだな、あの子達に限った話でいえば、限りなくゼロに近い。そもそもが聖獣の加護を受けている魂だからな、竜神が少し力を使ったくらいじゃ、魂は変わんないんだろう。それだけ、聖獣の加護って言うのは、強いんだ。」
「それで、あの子達の前では力を使っていたのね。それじゃ、私達は?」
「ここにいる皆に関しては、そもそもが破壊の概念に干渉されてたり、特殊な存在で、強い力を持っているから、大丈夫なんだよ。ただ、完全開放をした状態で、何年もってなると、影響は受けるだろうな。」
破壊の概念の干渉を受けた存在は、竜神王であったとしても、その変質を止める事は出来ない。
出来る事はそこから開放する事だけだ、とディンは悟っていた。
もしも過去に戻って、破壊の概念の干渉を受けない結果を生み出したら、とも考えた事があったが、それは今いる彼らの存在を否定する事になり、そしてそれは悲しい事だ、と認識していた。
「ここら辺に人がいますね。敵対心も持ってない、かな?」
「村があるっぽいぜ?」
「行ってみましょう。」
夜になり、6人は一つの村に到着した。
竜太の探知で探知出来る範囲であれば、の話だが、今の所警戒はされていない、外国からの人間と言うのは殆どいないと言う話だったが、警戒はされてない。
「すみませーん!誰かいませんかー!」
「あ、蓮君。……。誰かいるのは間違い無いでしょうけど、どうなんでしょう。」
村の入り口に門番などはおらず、閑散としている様子が伺える。
フェルンでは、小さな村でも門番がいて、結界が張ってあって、守られていたが、そういった様子も見受けられない。
魔物が攻撃を仕掛けてきたら、すぐにでも滅んでしまいそうな、そんな村だ。
「誰かね?とうとう神が我らを討ちに来たのか?」
「初めまして、聖獣の守り手と言う者です。神の使いではありません。」
「聖獣の守り手……?では、世界は……。」
「何かご存じなのでしょうか?ご老人、貴方はこの村にお住まいなのでしょうか?」
蓮の声に、独りの老人がやってくる。
不格好な杖をつき、足腰が悪そうな、枯葉の様に細身な老人は、村の住人の代表か何かだろうか、と竜太は察し、正体を明かす。
老人は、少し何かを考えていた様子だが、6人を見て、ふむと唸って後ろを向く。
「ついてまいれ。客人に出せる様なものも無いが、外で話すのは古傷が傷むでな。」
「ありがとうございます。皆さん、行きましょう。」
「ダイジョブなのか?ついてって。」
「はい、この人は、悪意とか敵意を持ってないと思います。」
俊平が竜太に耳打ちをして、竜太がそれに言葉を返す。
その言葉を聞いて5人は、大丈夫なのだろうかと考えながら、老人の後をついて行って、古ぼけた木造建築に入っていった。
「それで、聖獣の守り手が来た、という事は、神が闘争を始めようとしている、という事じゃな?」
「はい。タルタロスに幽閉されている豊穣の神クロノスが、戦争を起こそうとしています。」
老人、村の長である長老は、家の中の焚火の前に座り、そして6人を案内する様にと使いに命じ、竜太と2人で話をする。
「クロノス神……。かつて、儂の先祖が、クロノス神を信仰しておった、と伝聞が残されているが……。彼の神は、何故闘争を?儂の家系に残された伝聞では、民草を愛し、世界に豊穣をもたらしたと書いておったが。」
「ある神に、唆されて狂ってしまった、その結果、世界を憎んで世界を滅ぼそうとしている、と言う話を、僕の父からされました。」
「その父とは、何者じゃ?彼の神の事を慮っているのであれば、神なのだろうか?」
「……。竜神です、ドラグニートを治める竜神が1柱、それが僕の父です。聖獣と、竜神は、この戦争を止めて、世界を守る為にと協力しているです。」
竜神、と聞いて老人は細い眼を丸々と見開いている。
まさか、竜神が戦争に口を出してくるとは思っていなかったのだろう、神々を大地に縛り付けた以降、何もしてこなかったのが、と。
「竜神が、世界を……?そうか、竜神は世界を守る為に存在しておる、と誰かがいっておったが、そうか……。して竜神の子よ、おんしは聖獣の守り手達と行動しておる、と?」
「はい、そうなります。一番小さい子、蓮君は、竜神デインの力を受け継いでいる子供です。」
「竜神の力を受け継いだ人間……。その様な存在は、伝聞には無かったのぅ……。して、この地に降り立ったは何故か?この地は神々の支配から逃れ、神々に追放された人間の住まう地、おんし達の目的がクロノス神であると言うのであれば、向かうべきはタルタロスであろう?」
「それが……。僕の力だと、タルタロスの鍵を握っているゼウス、ハデス、ポセイドンの居場所がわからないんです。分かればその神様達と交渉か、戦うかを選ばなきゃならないんですけど、それがわからなくて……。」
老人は、成る程と頷いている。
何か思うところがあるのか、それとも神々による支配から逃れたと言う事もあり、神々を疎んでいるのか、竜太の言葉が信頼に値するか考えている様子だ。
「……。おんしらは、神を打倒すると。」
「はい、その覚悟をしてきました。」
「……。相分かった。おんしらに協力出来る事と言えば、この村の中に、3柱の神々の土地から逃れてきた者達がおる、そやつらに話を聞くと良いじゃろう。」
「ありがとうございます。」
「今日は休むと良い、明日、手配をしておくからのぅ。」
そういうと、老人は奥に引っ込んで、傍仕えと思しき女性が、二階建ての二階に竜太を案内する。
「それで、情報はわかりそうなんか?」
「はい、あのおじいさんが、明日それぞれの地域から逃げてきた人達に、協力を申し込んでくれる事になりました。」
「それでは、明日転移で移動し、神々と戦う事になると……。」
二階の寝室で休んでいた5人に、事の顛末を話し、明日からの事を考える竜太。
清華は、心のどこかで怖がっている自分を抑え込み、話を続けた。
「私達で勝てる相手なのでしょうか?ゼウス神、ハデス神、ポセイドン神と言いましたか、ギリシャ神話に出てきた神々、本当に戦わなければならないのですね。」
「戦わずにタルタロスに行ければ、一番良いんですけどね……。多分、そううまくも行かないと思います。じゃなかったら、ジパングの村に、使者を送って全滅させる、なんて事もしなかったはずですから……。」
「戦わねばならぬ……、それは、変えられぬ運命という事か……。」
「俺達がやらなきゃ、弱気になってたら、勝てなくなっちゃうよ。」
神々と戦う事になる、それは避けられない事なのだろう。
マグナが戦争を止めようとするジパングに使者を遣わせ、そして村を滅ぼした、と言う結果があった、それは戦争を止める事を是としなかった神々の仕業だろう。
ゼウス神やハデス神がそうだったのか、まではわかっていなかったが、恐らく戦いは避けられないだろう、と感じ取っていた。
その上で、打倒した上で、タルタロスと言う冥界に向かい、全ての元凶たるクロノスを倒さなければならないのだ。
「そう言えばさ、蓮君は剣引き抜いたんだって?」
「うん!竜の想い、いつでも使えるよ!」
「父ちゃんの掛けてた封印が解けたって事は、相当な事だと思うよ。僕も父ちゃんに能力封印されてる部分があるけど、中々解けないもん。」
竜太は、蓮が竜の想いを引き抜いた事に驚いていて、凄い事を蓮はしたのだと理解していた。
自身に掛けられた封印、それは竜太の潜在能力が暴走した時に、ディンによって施されたものだ。
自身の実力に合わせて、段階的に封印を解除出来る様になっていて現在は6割程開放出来ている、しかしまだ、4割は封印されている
「竜太君の封印って、あのお腹の模様の事だよね?あれはお兄ちゃんがしたんだ!」
「そうだね。僕が戦い始めて何か月か経った頃に、父ちゃんに修行をつけてもらって、それの最終試練の時に、封印されたんだ。僕の潜在能力が暴走して、意識を失って暴れちゃうからって。」
「竜太の、潜在能力、とは……?」
「僕自身が扱いきれてない、僕が本来持ってる力、って話です。そっか、皆さんには見えない様になってるんだっけ。蓮君はデインおじさんの力を使ってるから、竜神の封印が見えるけど、皆さんはそうじゃないんですもんね。」
竜太の封印、それはセスティアで不便をしない様にと、ディンが不可視の魔力を籠めてあった。
同じ竜神の力を扱う蓮には見えていたが、4人は竜神の加護を受けているだけで、竜神の力を使っている訳ではない為、見えないのだろう。
「竜太って今でもつえぇけどよ、まだ力残してんのか。」
「って言っても、僕自身扱えない力なので……。強さのうちには入らない、と思ってます。」
俊平達4人は、竜太の底しれない力の量、強さに驚く。
現状戦力として一番強いのは竜太、それは間違い無い、その竜太が、まだ力を制御しきれていない事も驚きだったが、まだ力を秘めている、と言うのも驚きだった。
「でも、あのディンさんの子供だもんね、竜太君は。それくらい強くたって、不思議じゃ無いかも。」
「そうですね。ディンさんの後継者で在られる竜太君なのですから、強くても不思議では無いですね。」
「僕もまだまだ修行中の身なんですよ。頑張らないと、父ちゃんと肩を並べて戦えないんです。」
竜太がさらなる高みを目指している、それは知っていた。
が、ディンに追いつく程に強くなる可能性を秘めている、それを改めて知った4人。
血の滲む様な努力、それを竜太もしているのだ、と再認識し、仲間として何が出来るか、を考えていた。
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