武器の謎
「とうとう出発ね。あの子達、大丈夫かしら。」
「hahaha!大丈夫だろうさ、あの子も覚悟を決めているんだ、それを信じてやるのが、俺達の役目だぞ?リリエルちゃん。」
「それもそうね。まあ、もしもの事があったとしても、ディン君がいるのだし、大丈夫かしらね。」
港町に一泊して、次の日の昼、マグナ行きの船に乗っていた一行。
ここから二週間掛けて、マグナに唯一外国との交流がある、と言う港へ向かい、そしてそこから神々の支配している地域に向かう、それが今回の流れだ。
リリエルとウォルフ、セレンと外園は、甲板で話をしていて、これからの事を憂いている様子だ。
「武器は間に合わせたけどよ、正直まだ、あいつら使いこなせてねぇと思うぜ?なんてっか、武器の百パーを出し切れてねぇって言うか。」
「修行時間は短かったですからねぇ。ディンさんも、最低限の事しかしていない、と思われているのでしょう。……。ですが、彼らなら使いこなせる、そんな気がするのですよ。何故でしょうかね?楽観主義者になった覚えはありませんが、今の戦士達を見ていると、不思議と何とかなりそうな気がするのです。」
一番悲観的にものを見ていた外園、未来を視ていたのだから当然と言えば当然なのだろうが、しかしなぜか今は、希望的観測をしていた、その事が外園自身、不思議な様子だ。
セレンは武器の事をよくわかっているのか、使いこなせていない、まだまだ秘めている力がある、と感じ取っていて、ウォルフ達はその話に興味がありそうな様子だ。
「武器の性能を全て使いこなせてない、ってのは不思議な話だな、セレンよ。あの子らが使ってるのは銃じゃない、そして、あの子の動きは洗練されていると思うがね?」
「そう言うんじゃねぇんだよ。何かもっと、武器に秘められてる力ってか……。俺もわかんねぇぞ?でも、そんな気がすんだよ。」
「私の武器の様に、秘められた力がある、という事かしら。特殊能力、と言い換えても良いわね。武器を鍛造したセレンなら、それがわかるのもおかしい話ではないわね。でも、四神と共鳴して、武器の性能を上げた後なんでしょう?あれ以上となると、想像がつかないわね。」
ウォルフは、遠距離武器である銃ならば、性能をフルで発揮出来ていないという話二も納得だが、と言う感覚で、リリエルは何か思う所がある様だ。
リリエルの使ってる武器に通ずるものがあるのであれば、確かに戦士達は使いこなせていないだろうと。
「そういやさ、リリエルの武器ってどうなってんだ?二回くらいしか見た事ねぇけど、ありゃ何の素材で出来てんだ?」
「私の武器?そうね……。貴方達になら、話しても問題ないかしら。私の武器は、星の力を媒介として発現する、気の一種よ。何故この武器を持っているのか、と言われたら、ある日そこにあった物、としか言い様が無いのだけれど。ある日、私の寝ていた枕元に、まるで贈り物の様に置いてあった、そしてそれを使う術を私は知っていた、と言う感じね。」
「気で出来た刃、毒を使われるという事ですが、その毒の配合はリリエルさんの意思でされているのでしょうか?」
「そうね。私の知っている種類で、毒の配合は変えられるわ。ある程度、だけれど。」
リリエルの武器、妖刀アコニートは、その名の通り、毒を有する刃。
その成分はリリエルの意思である程度変えられる、基本的にはトリカブトの様に徐々に侵食する毒を与えるのだが、いつだったかレジスタンスのリーダーにした様に、激しい痛みと共に致死に至らせる事も出来る、それはリリエルの意思によって決定され、その都度成分が変わる為、ディンですらその刃を受ける事を躊躇う程だ。
それは、十五の頃だっただろうか、暗殺者に育てられていた頃、寝食をしていた部屋に起きたらあって、そしてリリエルはそれの使い方を自然と理解していた。
何故なのか、と聞かれるとわからない、が正しい所だが、それ以降、リリエルはアコニートを使い続けている。
師匠は何も言っていなかった、知らないとは言っていたが、使うなとも言わなかった。
だから、リリエルはこの武器が性に合っている、と思っていた。
「気って言われてもよ、鉱石じゃねぇから俺にはわかんねぇな。気ってあれだろ?念じる、みたいな。」
「そうね、それに近いかしら。形状を想像して、毒の成分を想像して、それを投影する、それが私の武器ね。ナイフの様に使う事も出来るかしら、暗殺の時にはそうしていたわね。」
「ある日突然現れた武器……。何故リリエルさんがそれを使うに至ったのかが不思議ですが、リリエルさんが守護者だというディンさんの予想が正しいのであれば、それも星によって与えられたのかもしれませんね。或いは、上位世界の意思、などでしょうか。」
運命を定められる、それは苦痛だとリリエルはずっと考えていた。
運命、と言う言葉に縛られるのが嫌なのであり、そしてそれに従うしか道はない、と言うのも嫌悪している。
ならば、何故シードルとリリエルは敵対しなければならなかったのか、と。
「竜神王サンなら、何か知っているかもしれないな。」
「そうね……。彼、私達の事を調べていたのでしょうし、何か知っているかもしれないわね。」
「呼ばれて飛び出てなんとやら。俺の話か?」
リリエルが、ディンなら何か知っているのではないか、と考えた所に、ディンが甲板にやってくる。
戦士達には、6人で過ごす時間が必要だろうと話をしていて、今は修行の為に竜陰絶界を張って手持無沙汰だからこっちに来た、と言う感じだ。
「今日も天気は良いな、波も荒れてないし、大地君の船酔いもない。二週間、何を得られるか楽しみだ。」
「ねぇディン君、私達を調べていた時間があった、それは間違い無いわよね?」
「ん?そうだな、皆の事は調べさせてもらった、経歴や魂の在り方まで、出来る範囲でな。」
「じゃあ、私の武器に関しての情報はあるのかしら?」
ディンは、それを聞かれる日がとうとう来たか、と少しだけ驚いた顔をする。
リリエルがいつか、心を開いてくれたら話そうと思っていた事、そして今の今まで話すタイミングを伺っていた事だ。
「妖刀アコニート、それはリリエルさんがつけた名前だったな。その所在、つまり出自を聞きたいって事で良いのか?」
「えぇ。私はある日、起きたらこの武器を持っていた、知っていた、それは何故?」
「……。リリエルさんの武器には、魂が宿ってる。それは、リリエルさんを守ろうという意思が籠められていて、魂が呼応してリリエルさんの武器になり得た。成らばその魂の主は誰か、そこまではわからなかったんだ、前はな。」
「前は、という事は、今はわかっているの?」
ここまで話せば予想が付きそうなものだが、とディンは少し考える。
これは正しいかわからない、ディンの予想でしかない、と前置きをし、その魂の主を伝えようと考える。
「シードル君と、ご両親だろうな。その武器には三つの魂が宿ってる、ならばそれは誰か、話を聞いてるうちに気づいたんだ、シードル君とご両親が、リリエルさんの助けになる為に、その魂を変質させたんだ、って。リリエルさんの世界には、そんな方法は本来はない。ただ、セレンのお父さんがそうだった様に、シードル君とご両親は、リリエルさんの助けになれば、と思って、破壊の概念の干渉を逆手に取った、と俺は考えてる。なら、リリエルさんを守りたいって言う、魂の意思の理由も出来るだろう?」
「シードルと、両親が……?」
「これは希望的観測でしかない。セレンのお父さんが最期に何を感じ取ったのか、と同じで、俺の予測だ。ただ、そんな気がするんだよ。その武器は、魂を内包してる、なら、ってな。」
リリエルは心底驚いていて、ウォルフやセレン、外園も驚いていた。
魂を武器に変える、そんな方法があった事に驚きであり、しかしそれを何処かで聞いた事がある気がする、と外園は一瞬考え、そして答えを出した。
「まるで、ディンさんや竜太の使う竜神剣の様ですね。確か、お二人の剣は魂の根底にある在り方を武器にしている、と言うお話だったかと。」
「そうだな、それに近しい物を感じるな。リリエルさんの持ってるアコニートは、俺達の武器に近い性質を持ってる。魂の物質化、と言う意味合いでは、セレンの槌にも似通ってるな。」
「Hey,そんな事が竜神以外に可能なのか?ただの人間に出来る芸当とは思えんがね?」
「破壊の概念の干渉を逆手にとった、っていうのはそこだな。破壊の概念は、存在の魂の在り方を歪めて、干渉して世界を破壊しようとしてる。魂の在り方が変わる可能性、それに気づいたのであれば、それを逆手にとって魂を別のものに変える事が出来る、って言う話だな。俺達の竜神剣とは少し違うけど、概ねその認識で合ってると思うよ。」
魂の物質化、それは賢者の石と言う前例がある。
セレンの肉体を構成する要素であり、そしてセレンがピアスにしている槌、戦槌にもなるそれと同じ様な原理で出来ている、とディンは考えていた。
それならば、本来人間では出来ない、意思の具現化、と言う原理二も説明がつく。
「守ろうとした意思、それが為し得た事なんだろうな。セレンのお父さんが最期の最期に破壊の概念の干渉に気づいた可能性があった様に、シードル君やご両親もまた、その可能性に気づいたのかもしれない。だから、リリエルさんは気が付いたらその武器を使っていた、使いこなせいてた、そして捨てようと思わなかった。」
「……。私を守った所で、何が変わったのかしら……。あの子は、私の両親は、もう死んでしまっていると言うのに。死んだ後の事まで面倒を見ようだなんて、おかしな人達ね。」
おかしな人達、と言いながら、リリエルは少し寂しそうに笑う。
もしその仮説が本当だったとしたら、自分はずっと独りでは無かった、友や家族が傍にいてくれたのだ、と。
「リリエルさんを守護者だ、って言ったのは、そういう部分でもあるんだ。守護者って言うのは、守るだけじゃない、周りからすれば、成熟するまでは死んででも守らなきゃいけないと思う対象になる事が多いんだ。それこそ、死んででも守らなきゃならない対象とも言えるな。俺がまだ受肉してなかった頃、悠輔が表だった頃、悠輔の家族や、守護者達の家族は、そうだったよ。」
悠輔の家族、と言うのは、悠輔の両親や、子供達の家族の事だ。
彼らは、予言によって、死ぬ事を理解していた、そしてそれによって起こる恩恵を是とし、死んでいったと言う、おぼろげな記憶がある。
リリエルの両親、シードル、セレンの家族もまた、そうなのではないか、そう思う事で報われるのではないか、とディンは考えていた。
それが正しいとは思わない、命によって守ろうとする姿は、褒められた事では無いのだから。
「……。皆、死して尚守ろうとした者がいる、という事ですね。ディンさんの予測ではありますが、確かにそう考えた方が、気が楽かもしれません。生かされた者として、何をすべきなのかと。」
リリエルは、シードルや両親に想いを馳せている、セレンも、ディンの言葉を思い出し、家族の事を考えていた。
生かされている、それは何故か。
何故、遺されたのか、何故、生かされたのか。
と。
「このあたりで休憩にしましょう。短時間での回復も、重要になってくるとディンさんは仰られていましたし、短時間での回復方法を、習得する必要があるでしょう。」
「って言ってもよ、そんなに体力使ってねぇぜ?もうちっと行けんじゃねぇか?」
「僕は清華さんに賛成です。これから先の戦いがどうなっていくかはわからないですけど、体力が残ってるからって言って、使いすぎると消耗しますから。」
ディン達が甲板で話をしている時、竜太達は修錬場で軽い組み手をしていた。
最上級魔法の鍛錬は出来ない、それはこの場所では狭すぎるからなのだが、基礎鍛錬を怠っては勝てる戦いも勝てなくなってしまうだろう、と言うのが、戦士達の共通認識だった。
上級魔法までなら使える、とディンは言っていた、ならば上級魔法を基本として修行をしようと、お互いにサポートし合い、連携を取れる様にと、お互いの使える魔法の確認などをしていた。
「大地君の上級魔法は、サポート型だよね。って事は、基本的に近接がメインになるのかな。」
「そうだな……。最上級魔法だけが、遠距離向けと言えるだろう……。」
それぞれの魔法の特性、それぞれの魔法の力、それを理解して、戦術を組み立てる。
前の戦士達だったら、そんな事は絶対に出来なかっただろう、それぞれがバラバラに攻撃し、そして巻き込み、と言う事になりかねなかっただろう。
しかし、自然と身についたと言えば良いのだろうか、仲間と言う存在を意識しているから出来る様になったのだろうか、今では戦術を組み立てて連携も取れる様になってきた。
まだ竜太の本気には及ばないが、戦士達もそれに合わせた攻撃が出来る様になってきた、それは喜ばしい事だろう。
「私の雷属性の魔法と、蓮君の雷咆斬、そして俊平さんの火属性の魔法と、爆塵波。さらに言えば、修平さんの風属性の魔法と、翔破閃は、相性が良いのでしょうね。蓮君の放つ技に合わせて魔法を打てば、威力が増している様な気がします。そう言えば、氷属性の魔法、と言うのは使える人がいませんね……。」
「氷属性は、風と水の属性を合わせれば使える、って父ちゃんが言ってましたよ?だから、修平さんと清華さんの連携で、瓦解撃も強くなるんじゃないかなって。」
「風と水、ですか。休憩を終えたら、試してみる価値はありそうですね。修平さん、よろしいですか?」
「うん、俺は全然。使える魔法は多い方が良いだろうしね。」
そろそろ昼食の時間だ、とディンが遠隔で結界を解き、修錬場を出る6人。
清華と修平は、上手く合わせられるだろうか、と考えながら、食事を取りに行く。
「修行は順調か?」
「うん!僕の技ね!みんなの魔法で強くなるんだって!」
「お、それに気づいたか。皆の使う魔法と、蓮の技っていうのは、相性が良いからな。相乗効果で強くなる、蓮の剣もそれに耐えられるだけの力を持ってる。出来れば竜神剣で発動した方が強くなるけど、まだ使えないから、そこは仕方が無いな。」
昼食を食べに食堂に集まった一行、蓮はディンに修行の結果を伝え、ディンは自力でそこに辿りついた事に喜んでいた。
蓮の魔法剣が強くなっている事、それはジパングでの修行の時点からだったのだが、本人達が気づかない事には、とディンは考えていて、それに自力で気づいた事は喜ばしいと考えていた。
「氷属性の魔法、と言うのは、私と修平さんの魔法をただ合わせれば使える様になるのでしょうか?」
「いや、上手く魔力を合わせないと発動出来ないな。うまい具合に配合して、合術ってのは初めて発動するんだ。そこを合わせていかないと、どっちかの魔力に引っ張られて、うまく発動出来ないんだよ。」
「じゃあ、俺と清華ちゃんが魔力のコントロールを合わせないといけないんだ。頑張らないとなぁ、俺魔力のコントロール苦手だし……。」
「それでもだいぶ上手くなってきてるから大丈夫だよ、修平君。白虎の守護者って言うのは、元来魔法が苦手だって話だけど、それでも千年前の守護者達も、光と闇、聖属性以外の魔法は使いこなしてた、って話だ。」
今のうちにたらふく食べておくと良い、とディンはあまり余計な事を言わなかったが、それぞれの先祖の魂の生まれ変わり達、と言うのは、どうにも似通う部分が大きいと思っていた。
玄武の守護者は魔法が得意だった、そして白虎の守護者は魔法が苦手だった、と記録にはあったが、その通りになっている、と。
「ディン殿……。儂は何故、1つの属性しか、扱えないのだろうか……?」
「玄武の守護者、先代の守護者もそうだったけど、扱える属性が一つな代わりに、強力な魔法を使える、って話だ。本来、人間が持つ属性は1人1属性でな、他の守護者達は、それを是としなかったから、2つの属性を扱える様になった、って記録があったな。玄武の守護者は、ある意味一番ストイックだったんだろう。1つの属性を極めた、と言い換えても良い。」
劣等感、ではない、純粋な疑問だろう。
大地は、他の3人2つの属性を操れるのに対し、自分が1つの属性しか使えないと言うのが、疑問だったのだろう。
マグナマインが言っていた、土属性に特化していると言うのは納得していたが、ならば何故、他の3人は2つの属性を扱えるのか、と。
「そもそもが、大地君の先祖である玄武の守護者以外は、属性に特化してなかったんだ。だから、四神がそれぞれ副次的に得意としてた、雷と風の魔法を覚えた。火は風と、風と水は雷と、それぞれ相性が良かったからだな。土属性は、強いて言うのなら水と相性が良いけど、玄武の守護者はそれを必要と思ってなかったんだろう。大地君が扱える魔法が土属性に特化してるって言うのは、そういう理由だよ。」
「私は聖属性以外は満遍なく扱いますが、それはどういった理由になるのでしょう?」
「それは外園さんがアンクウだから、って言うのが強いかな。後は、妖精は特定の属性に反映されない可能性がある、って言う話だ。」
成る程、と外園は頷いていて、戦士達はそれに興味を持った様子だ。
「はい!外園さんって、どの属性をどのレベルまで使えるんですか?」
「基本的には中級魔法まで、光と闇に関しては上級魔法まで使えますよ。最上級魔法は、そもそも使える存在が限られていますので、使えませんが。後は、聖属性は使えませんね。聖属性は、特殊な属性ですから。」
特殊な属性、とは何なのだろうか?と質問が出てくる。
ディンと外園は、休憩に気を散らすには丁度良いか、と話を続け、講義をした。
ウォルフとセレン、リリエルも、その話に耳を傾け、どの属性がどんな人間に適しているのか、と言う講義を興味深げに聞いていた。
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