拾弐章 神々との戦
マグナに向かう道中
「今日から移動だ、まずは港町まで行って、そこからは船だな。マグナの南側につけて、そこから俺の魔法で飛んで国に入る。皆、覚悟は出来てるな?」
「それで間に合うのかしら?神の気って言うのは、大きくなっているのでしょう?そんなに悠長に構えてて大丈夫なのかしら。」
「まだぎりぎり大丈夫だな。転移で飛ぶのもありだけど、それはまた別の問題が出てくる、出来るだけ使いたくないんだ。」
修行の最終日を終え、翌日朝。
外園お手製のパンを食べながら、一行は最終決戦へと向かう準備をしていた。
特に聖獣の守り手達の緊張度合は大きい、ここまで来たら戻れない、とは言われていたが、本当に後戻りが出来ないのだから。
四神と共鳴した時点で戻れない所に来た、と言うのは理解していた、そして今更降りるつもりもない、しかし、緊張しない訳ではない、と。
「俺達、やれっかな、頑張って来たけどよ、ホントに神様なんて倒せんのかな。」
「出来ると信じてるよ。神々を打倒して、世界を守ってくれるって。そうじゃなかったら、ここまで修行もつけてないし、そもそもこの世界に来る事もなかっただろう。」
「……。私の予言では、世界は滅びました。皆さんは無残に神に屠られ、世界は崩壊へと進んでいく、それが私の見たヴィジョンでした。しかし、ディンさんが現れてから全ては見えなくなった、私にも、どうなっていくのかはわからなくなりました。……。信じています、皆さんなら、生還してくださると。」
外園は、改めて自分が世界の未来を視えなくなった事を告げる、それはもう、誰にも結末はわからない未来へと変わってしまったと。
だから、なのだろうか。
戦士達を信じている、信じるほかない、ならば信じよう、と外園は考えていて、そして、この戦士達になら、世界の命運を託せると感じていた。
「私達もついていくけれど、ここから先は基本的に不可侵になってしまうわ。貴女達が何とかしないと、ディン君も安心して破壊の概念と戦えないと言ってたのだし、私も信じているわ。貴女達なら、きっとやり遂げるって。」
「リリエルさん……。そうですね、私達が気弱になってしまったら、ディンさんが本来の敵対する者と戦えないのですよね。気を引き締めましょう、私達だって、今まで修行を積んできたのですから。」
「そうだね。俺達が頑張らなきゃ、ディンさんがホントの敵と戦う余裕が無くなっちゃうんだもんね。それは世界の崩壊を意味する、って言ってたし、俺達も頑張らないと。」
「うむ……。破壊の概念、と言う者が何者かはわからぬが……。ディン殿が本気で戦わねばならぬ相手、という事は真実なのだろう……。ならば、儂らがこの世界を守らねばな……。」
破壊の概念、それがどんな存在なのか、は戦士達もわかってはいない。
竜太はその全貌ではないが、一端は知っている程度、指南役達も、ディンから話を聞いたから少し知っている程度だ。
ディンが本気を出して戦わなければならない相手、ディンですら勝てるかわからない相手、それがどれだけの強さを持っているのか、どれだけの脅威なのかを、正しくは理解出来ていないだろう。
しかし、ディンがそれだけの事を言う、という事は、相当強いのだろうな、と言うのは理解していた、その相手との戦いに集中する為にも、自分達が頑張らなければと。
「お兄ちゃんは、僕達と一緒には戦わないの?」
「最終的にはそうなるかな。多分だけど、皆が豊穣の神クロノスと戦ってる時くらいに、俺は破壊の概念と戦ってる、と予想してる。」
「リリエルさんは、ついて行かないんですか?復讐を自分の手で遂げる、それを邪魔する存在はなんであったとしても排除する、って言ってましたけど……。」
「そうね……。今の私は、破壊の概念を殺す事に執着していないかしら。もしもディン君しか相対せない相手だと言うのなら、そのサポートをする。私自身の手で成し遂げる、と言う執着は、捨ててしまったのかもしれないわね。」
竜太の疑問は尤もだろう、リリエルは竜太達にはまだ、今の本心を語っていなかった。
その言葉を聞いて、清華以外の6人は驚く、それもそうだろう。
リリエルは変わってきている、変化しているとは気づいていたが、最終的な執着である破壊の概念を殺す事、をディンに任せても良いと言っているのだから、それは驚くだろう。
「リリエルさん、なんか旅の中で変わったんな……。最初はよ、むっちゃ怖ぇ人ってイメージだったけどよ、今は優しいってか、なんていうかさ。」
「リリエルちゃんは変化している、それはお前さん達と同じ様なもんだろうな。旅の中で何かを感じて、何かが変わっていく、それは若さの特権とも取れるな。Umm,そうさな、俺もルーキーだった頃は色々と変化したもんだ。」
「俺も変わった気がするぜ?何かよ、踏ん切りが付いたって言うか、そんな感じだ。おめぇらの武器造る時、ちょっと躊躇ったんだけどな、でもよ、世界を守る為に使う武器なんだから、って思ってよ。」
各々、旅の中で変化はあっただろう。
蓮は仲間と言う友を見つけ、戦士達は戦う覚悟をして、竜太は世界を守る為には時に冷徹にならなければならない事を知り、セレンは家族の想いを知り、リリエルは復讐以外の道を知り、各々変化してきた。
ディンと外園、ウォルフは、もう旅の中で変化する、と言う様な年齢ではなかったが、しかしそれでも、多少の変化はあっただろう。
「さて、話をするのも良いけど、そろそろ出発だ。また二組に分かれて馬車に乗って、それで港まで行く。そこから先は戦場だ、何があったとしても、戦わなきゃならないだろう。たとえそれが人間相手だったとしても、神相手だったとしても、魔物相手だったとしても、戦う以外の選択肢は残されて無いだろう。……。俺達は少し別行動になるだろうな。竜太、竜太に道中の事は任せる。」
「うん、分かった。食料とかは、転移で取り出せば良いの?」
「現地の人間の協力を得られそうだったら、それを優先してくれ。それが出来なかったら、俺が備蓄してる食料を使ってくれて構わないよ。転移のアクセスは出来るだろうから。」
この旅が終わったら、この戦いが終わったら。
それぞれ考える、その先の未来を。
「それでディン君、破壊の概念の居場所は特定出来そうなのかしら?」
「大体の居場所はな。ただ、まだあっちの守りが強くて、侵入出来ない。恐らく、豊穣の神クロノスの干渉に集中した時に、その守りが薄くなると思う。だから、そのタイミングで、俺は戦いに行くよ。」
「破壊の概念、中々に手ごわい相手の様ですね。ふむ、私達の記録になかったのは、何故でしょう?この世界の記録にも、テンペシア様からも聞いた事はありませんでしたが。」
「破壊の概念、その正体を知る者は、本来竜神王だけだった。俺が話しても問題ないって事は、竜神の掟的には問題ないんだろうけど、本来は話すべき事でもないのかもしれないな。破壊の概念、それは世界滅亡の為の破壊装置。竜神王はその脅威から世界を守る為に生み出され、そして戦ってきた。言うなとは書いてなかったからな、俺は話したってだけで、歴代の竜神王はその事を話さなかったんだろう。」
それはディンの予想でしかない、先代は、ディンにすら破壊の概念の正体を明かさなかった、それは何故なのか。
そして、その破壊の概念に干渉された者達、ここにいるウォルフ以外の3人、そして蓮、そしてアリナ、デイン。
共通点を上げるとしたら、何だろうかとディンは考える。
「……。」
セレンとリリエルは、世界を渡るだけの力を持っていた守護者だから、と言う話で一応説明がつくが、外園はわからない、ディンも可能性として、破壊の概念の干渉を提起しているだけだ。
アリナとデイン、蓮はわかる、それは他者の闇を抱え込み、そして世界を呪った存在、世界に呪われた存在。
デインは破壊の概念に乗っ取られそうになった頃に封印された、その頃には、世界の醜さに気づいていたのだろう。
「竜神王サン、どうかしたかね?」
「いや、何でもない。」
破壊の概念、そしてそれに干渉された者達。
結びつける事は出来なかったとしても、これから先、悲しみを連鎖させない方法はあるのだろうか。
ディンは改めて、自分が最期の王と呼ばれた理由を考える。
破壊の概念の完全消滅を意味するのか、それとも自身の敗北を意味するのか。
それはわからない、ディンには未来を視る術はない。
「ディン、そういや蓮には言わなくて良いんか?」
「そうならない様に頑張ってるんだ、ここで言っちゃったら、それを運命にしてしまう可能性があるだろう?」
「そうなんか。難しいんだな、そこら辺の話ってのも。」
先代は信じてくれた、それは事実だ。
どう足搔いた所で孤独が待っている、それは破壊の概念を消滅させた所で、ディンが消滅するわけではないと考えているからだ、遠くない未来の話、ディンは独りになる。
恐らく、デインや他の竜神達とも、違う寿命を持っている、それは感覚的に理解している。
全ての竜神が逝った後、ディンは果てしない孤独への旅路を辿る事になるだろう。
それでも良い、それでも世界を守ると決めた、だから守る。
ディンは、改めてそれを覚悟した。
「帰ったらさ、皆で会おうよ。ディンさんの家とかでさ、皆でちょいちょい会いたいね。」
「ディンさんと竜太君がお住まいなのは、どちらなのでしょう?」
「千葉の北西ですよ。東京の近くです。」
「じゃあ、俺と大地が一番行くの大変なんだな。あでも、飛行機って考えると、修平が長崎だから一番遠いのか?」
馬車に揺られながら、少しでも緊張をほぐそうと、終わった後の話をしていた6人。
竜太が住んでいるのが千葉の松戸、清華が千葉の館山、大地が北海道の稚内、修平が長崎の佐世保、俊平が沖縄の那覇、そして蓮が東京三宅島だ。
蓮は帰ったらディンと共に生活する予定な為、他の4人が向かうのが一番良いだろう、と修平は考えていて、ウォルフが来れない事を少し悲しんでいた。
「でもさ、ディンさんに転移使ってもらえれば、あっという間でしょ?俺達高校生だし、バイトしてるのも俊平君だけだから、ちょっと金銭的にはあれだし……。でも、会いたいなって思うんだ。一緒に世界を守る運命を背負った人同士、じゃないけどさ、せっかく出会えたんだから、会いたいなって。」
「私もそう思います。せっかく出会えたのに、この戦争が終わったら縁が切れる、と言うのは、少し寂しいです。皆さんと会えるのは、嬉しいと思いますし。」
「そうだな……。」
「皆でパーティーしたいね!一緒にご飯食べて、お兄ちゃんのお家で!」
想いは変わらない、と言うのが6人の共通認識の様だ。
この戦争が終わったら、自分達も指南役達も、それぞれの生活に戻る。
それが寂しい、また会えたらと願っていた。
「竜太君は転移を使えるんでしょ?」
「はい、次元転移までは出来ないですけど、僕とちょっと周りの人、くらいなら出来ますよ?」
「じゃあさ、皆で集まる時に集合掛けてよ!竜太君は俺達の家の場所とか知ってるんでしょ?」
「そうですね。父ちゃんは多忙ですし、僕が集めるって言うのは良いかもしれないですね。皆さんと会えなくなるの、寂しいですしね。」
竜太は、ディンが許せば、という前置きをして、転移で皆を集める事には賛成だと言う意思表示をする。
緊張しながら、ぎこちなく笑い、きっとうまくいく、きっと世界を守れる、と念じる様に信じていた。
笑顔がぎこちないのは5人も一緒で、緊張しているのは変わらないんだなとお互いに認識していて、それが少し緊張をほぐす要因になる。
共に死線を潜り抜けてきた、共に厳しい修行を耐えてきた仲間、思った以上に、お互いを信頼していて、受け入れていた。
最初の方のつんけんした態度はどこへやら、ぎこちない態度はどこへやら、いつの間にか、互いを大切な仲間と認識して、守り合ってきた。
「きっと、僕達なら出来ます。きっと、世界を守って、帰れるって、信じてます。」
「そだな。俺達がやんなきゃ、誰がやるんだって感じだしな。この世界も、俺達の世界も、大切なんだからよ。」
「きっと出来るよぉ!僕達、頑張ってきたもん!デインさんだって、出来るよって言ってくれたよ!」
共に戦う仲間、それは運命づけられていた事かもしれない、予言によって決まっていた選抜なのかもしれない。
しかし、戦うと決めたのは自分達だ、守ると決めたのも自分達だ。
それは交じりっ気のない想い、誰に強制されたわけでもない、決意。
それを分かち合える仲間がいる、それが嬉しかったのだろう。
「そろそろ王様がマグナに到着するよ。」
「おお!やっとか!戦士達ってのも、強くなったんだろうな!」
「あの甘ちゃん達がどこまで強くなったのか、なんて見ものじゃない?」
「がはは!フラディアは厳しいからのぅ!儂は戦士達の気概を買うがのぅ?」
ドラグニートの中央都市、エレメントの神殿に集っていた8柱の竜神。
今回の議題は主に戦士達の事、そしてグローリアグラントの事に関してだ。
「グローリアグラントは無事に光を取り戻した。僕達が不可侵を貫いてたから、あの地は闇の地と化してしまったんだ。今回は、それぞれの都市から従者を派遣する、それで良いかい?」
「結局王様ったら、明日奈に転生術使わせんだよね。ぜーったいに使わせないでよ!って言っておいたのに。明日奈、記憶を無くしちゃって、ピノちゃんも悲しそうだよ。」
「……。それは仕方のない事でしょう、クェイサー。明日奈の秘術はあの地を復活させるには必須だった、それを理解していたから、明日奈を戦場に赴かせたのでしょう?」
「そうだけどさ、そうならない選択肢はなかったのかなって。王様もそれはわかってたって言ってたけど、でも結局さ、自分が全部背負い込むつもりでいるんでしょ?」
閃竜ボルテジニに窘められたクェイサーは、それだけじゃないと反論する。
ディンが全てを背負おうとしている、独りで全てを抱え込もうとしている、と言うのが、嫌なのだろう。
そのうちディンの方が年上になるだろう、と言うのは重々理解しているが、今はまだ、自分達の方が年上で、竜神としても長く生きてきていて、同じ世界を守る者同士なのに、と。
そんなディンが、自分ひとりで全てを背負おうとしている、それが悲しい、と。
「ディン様は全てを独り背負おうとしている、私達はふがいないと嘆いたところで、あの方は考えを変えないでしょう。……。クェイサー、貴女の戦士に関しては、残念に思います。しかし、世界の為にと戦った戦士を、無かった事にはしたくはないでしょう?私達に出来る事は、世界を守り続ける事、この世界の守護なのですよ。」
雹竜ブリジールの言葉、それはクェイサーも重々承知している。
ディンが世界を守る為に動いている、世界群を守る為に動いている、それをサポートする為に、明日奈を鍛えていたのだから。
ただ、転生術を使う事に関してだけは、絶対にしてほしくない、と願っていた、と言うだけで。
「明日奈は今はどうしているんだい?今度、クェイサーの所に行って挨拶をしようかと想っているんだ。」
「今はピノちゃんが付き添ってくれてるよ。この戦争が終わったら、セスティアに送ろうとも思ってる。セスティアのお父さんの事も忘れちゃってるから、ちょっと複雑だけどね……。でも、お父さんの所に送ってあげる事が、一番だと思うんだ。」
明日奈は、幼少の折何度かこの会合に参加した事があった。
と言っても、クェイサーが独りになりたくないと言う明日奈を連れてきて、膝にのせて話をしていた、と言う程度だが。
そんな明日奈の事を皆案じていたのだろう、テンペシアは、明日奈に会いに行こうと話をした。
「まずはこの世界を何とかしないとだけどね。王様もそろそろ動くと思う、敵がどこまで干渉をして、どこまで尻尾を見せているか、なんて言っているけれど、恐らくもうすぐ動くと思う。だから、僕達に出来る事をしよう。今は、フェルンとマグナが動く前に、グローリアグラントに従者を派遣しないといけないね。選抜は千人程度で良いと思う、各都市から千人ずつ、グローリアグラントに使者を送る。復興が終わった後も、警護の為に幾人か残しておこう。」
最年少だが、一番発言力の高いテンペシアが、話を纏める。
「そうだ、王様からお願いされてた事があったんだ。サウスディアンの内紛を、どうにかしてくれって。それについては、僕の従者を送ろうと思ってるんだけど、構わないかな?」
「おめぇさんがそういうなら、かまいやしねぇよ。マスケットの製造法が流れたってのは、俺様の責任だけどな。ま、今以上にきつく秘密にしときゃダイジョブだろ?」
「じゃあ、今回はこれで。ひとまず早急に、グローリアグラントに送る使者を選んで欲しい。あの大地は浄化された、という事も伝え忘れない様にね。」
それで解散、とテンペシアは転移で消える。
他の7柱の竜神も、それぞれの役目を果たすべく転移を使い、それぞれの神殿に戻る。
「……。」
テンペシアは、神殿に戻ってきてから、少し考える。
自分達も知らなかった、ディンの敵の正体。
破壊の概念、その正体とディンの行く末について、案じていた。
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