最終日

『地獄より呼び覚まされし紅蓮の炎よ、全てを無に帰す禍渦となれ!クリムゾンインフェルノ!』

 修行開始から一週間、最上級魔法を使おうとすると痛みが出てくる者と、出てこない者に分かれていた。

大地は連発こそ出来ないが上級魔法も詠唱破棄して発動出来る様になり、清華は最上級魔法を使える様になり、俊平は上級魔法を高速で詠唱をする事が出来るレベル、そして修平は何とか上級魔法を使える程度、の成長だった。

 蓮もデインの力を引き出していて、前よりも強くなり、そしてスタミナの使い方を勉強してより長時間戦える様になって来ていた。

竜太の力も徐々にだが上がっていて、それこそ最上級魔法を使わない場合は戦士達には絶対に負けないだろう、所まで来ていた。

『荒ぶる風よ、我が力の元に結集せよ!』

 俊平が出現させた溶岩流に、修平が魔力を混ぜようとしている。

『ブラストエア!』

 乱気流を発生させ、溶岩流をディンに叩きつける。

ディンは剣を一振りし、襲い掛かる溶岩流を割り、次の攻撃に備えて溶岩流を生み出している魔力を絶ち、消滅させる。

『瓦解撃!』

『ランドメイカー……!』

 蓮が氷の斬撃を繰り出してくる後ろで、大地が上級魔法を唱え、ディンの足元の地面を変動させる。

 一見不可避の攻撃、地面がせりあがって蓮の攻撃に衝突してしまう事が殆どだろう。

「なかなか良いじゃないか。」

 しかし、ディンは冷静に対処する。

まずは蓮の攻撃を弾き、怪我をしない様に蹴り飛ばして、その蹴り飛ばした足でかかと落としをして、大地の魔法をかき消す。

『降り注げ雷光、蹂躙の雨を!ブリッツトルメンタ!』

「そこだぁ!」

 息をする間もなく、清華の放った雷魔法により、天候が一気に暗転し雷が降ってきて、そこに竜太が攻撃を加える。

「まだまだ詰めが甘いな。」

 竜太と鍔迫り合いになった、と思ったら竜太が吹っ飛んでいて、雷を剣に吸収させてディンは攻撃を受け止めていた。

「くっそ!まだ行けっか!」

「俊平さん、少し、休憩をしたい、です……。」

 魔法を連発していた清華と大地が体力を消耗していて、少し疲れが顔に出ている。

特に大地は、何度か最上級魔法であるコメットチューンを発動している為、体力の消費が激しい。

「それじゃ、一旦休憩にしようか。今日が最終日だ、もう少しだけ絞るからな?」

「はーい!」

「ふぅ……。」

「……。」

 体力を消耗している大地と清華は、緊張が解けて地面に座りこむ。

 俊平と修平、蓮はまだいけそうだが、と思っていたが、それは魔法を連発していないからであって、清華や大地と同じだけの魔法を使えるか、と言われると使えないだろう。

 竜太は独り、緊張の度合いが違うのか、呼吸を乱しながら立っていて、ふぅと呼吸を整えながら、これからの事を考えている。


「大地さんは魔法が得意なご様子ですね。通常ですと、最上級魔法は一回唱えるだけでも相当スタミナを使うというお話でしたが。」

「大地君の先祖は魔法に長けてたからな、後は本人の魔力量もあるか。」

 結界を解いて、ディンは指南役達と話をしていた。

外園は特に、最上級魔法に関しても知識を持っていた為、戦士達の能力の高さに驚いていた。

 他の3人は、魔力が云々はわからないと言っていたが、確かにあの火力の技を発動するには、大量の魔力とスタミナを使いそうなものだが、と考察していた。

「最上級魔法、って言っても、色々とあるのね。ディン君は聖属性の最上級魔法も使えるのかしら?」

「ん?使えるよ?ただ、結界術だから使う理由が無いな。」

「聖属性ってのは特別だ、と外園君が言ってたがね、この世界で今使える存在はいないのか?」

「正確にはグリンが使えるけど、グリンは今この世界にいないからな、使える存在はいないで合ってると思う。後は精霊の誰かが使えるかもしれないけど、聖属性の精霊っていうのは存在しないはずだ。」

 聖属性を司る精霊、と言うのは、フェルンには存在しない。

外園の知る限りでは、と言う話だが、事実として存在していないのだ。

 聖属性、それは異端とも言える属性で、使える存在はごく僅かと言われていた時代があったが、現在ではグリンのみが使える特別な属性、とでも言えば良いのだろうか。

光属性を司るクェイサーやウィルオウィスプは上級魔法は使えるが、最上級魔法となると、本当にグリンしか使えない、と言うのが現在だ。

「聖属性、それは異端者の発動する力、とフェルンの書庫にはありましたね。フェルンでも何名か発動者の記録がありましたが、殆どが実験に利用されていた様ですが。」

「実験?ってなんだ?人体実験でもされてたんか?」

「そうですねぇ。聖属性は、マナの源流に最も近いと言われている属性でした。マナの根源を模索していたフェルンとしては、利用しない手はなかったのでしょう。しかし、結局はどれも不完全な研究で終わってしまった、とか。」

 外園の知っている記録としては、マナの根源に至る研究の為に人体実験をされ、そして死んでいった、と言う記録がある。

 フェルンが一万年間続いた国家として、しかし数名しか発現しなかった属性、それが聖属性なのだと。

「聖属性がマナの根源に近いって言うのは、ちょっと違うんだけどな。先代竜神王は、無数に存在する属性と言う概念の中から、9つの似通った属性をこの世界に割り当てた。その中でも聖属性が少ないって言うのは、そもそも竜神にも聖属性を司る存在がいないからだな。精霊にもいない、竜神にもいない、神にもいない、だから、極端に使える者が少ないんだ。」

「しかし、グリン様は?」

「グリンは別に、聖属性を司る竜神ってわけじゃないよ。そもそもグリンは、数多ある世界の中で、この世界を守る守護神の役割を持って生まれる子だったんだ。それが、俺がデインを守護神として過去に送った事で、歴史が変わった。グリンはその守護神の枠組みを外れて、デインと親子の様な関係になった。それで、今は世界を見て回ってるんだ。俺が見えない部分、破壊の概念の干渉やら何やらを探してもらってるんだよ。」

 現在のグリンは、ディンのメッセンジャーとでも言えば良いのだろうか、ディンが探知を万が一漏らした場合の、保険として旅をしている。

 本人はそれが性に合っている様で、嫌がっている様子もないのだが、ディンは破壊の概念との戦いが終わりを告げた場合、好きに生きろと言ってある。

「歴史が変わった、貴方は過去に干渉する能力もあるという事?」

「限定的に、だけどな。時空超越、それは俺自身か対象を過去に送って、歴史を変える為の魔法、だと思ってたんだ。でも、結局それは、歴史じゃなくて世界軸が変わる結果をもたらす、特に俺自身が過去に行った場合はな。デインを過去に送った事で、世界軸を移動するかとも思ったんだけど、不思議とそうならない予感がした。もしかしたら、今の俺なら世界軸を移動せずに過去に飛べる、のかもしれない。」

 やるつもりはないが、とディンは言葉を纏める。

 もしも世界軸が移動しなかった場合、色々と過去を改変して救える命もあるだろうが、もしも世界軸を移動してしまった場合、元に戻る術をディンは知らない。

また自分の存在しない世界で、デインを倒してやり直す、と言うのは嫌なのだろう。

「世界軸が移動した場合、ディンさんの存在は無かった事になってしまう、と言うお話でしたね。ふむ、確かにリスクが大きすぎて使う気にもなれませんね。もしも世界軸の移動が発生した場合、世界はどうなってしまうのでしょうか?」

「それこそ、破壊の概念の力で滅びる。前の世界軸はそうやって滅んだ、俺がいなくなった事で、世界を守護する存在がいなくなってしまったから。竜神王がいて、破壊の概念がいて、拮抗して存在してる世界だからな、竜神王がいなくなってしまったら、破壊の概念と戦える存在がいなくなる、つまりそれは世界の終わりを意味する、って事だろう。」

 ディンは、一度闇に呑まれかけた事がある。

それは、世界の業と言う、破壊の概念が生み出した闇を全て記憶の中に背負って、世界を渡った為であり、破壊の概念に乗っ取られかけた、と言う意味合いでもある。

 竜神王の魂をもってしても、破壊の概念の生み出した業全てを背負ってしまうと乗っ取られかける、一竜神であるデインがその一端で乗っ取られたのも、ある種当たり前と言えるだろう。

「さて、もうちょっとしたら修行再開だぞー。」

「はーい!」

「ディン君、貴方は……。」

 ディンが話を終えて、戦士達の方に戻る。

 リリエルは、そんなディンの背中を見て、思い出す。

自分がいなくなってしまった事、自分が存在しなかった世界に、今ディンはいるのだと。


「疲れたぁ……。」

「父ちゃん、結構力入れてましたからね。」

「でも、俺達も頑張ったよね!」

「んだな。」

 最終日の修業を終え、夕食を食べていた6人。

不安げな顔をしている清華と大地、そして少し楽観的な修平と俊平、夕食に夢中な蓮、何考えている竜太と、それぞれだ。

「明日には出発という事ですね……。私達は、役目を果たせるのでしょうか……。」

「出来るって思わねぇと、出来るもんも出来なくなるんじゃねぇか?ディンさんも、セレンさん達も、俺達の事信じてくれたんだ、それに応えねぇと。」

「そうだな……。儂達が、戦わねば……。世界が、滅ぶのだからな……。」

 夕食を口に入れながら、俊平と修平は修行で強くなれた事を理解していて、逆に大地と清華は修行が足りないのではないか、と感じていた。

 この一週間、最上級魔法を使える様にと修行をしてきたが、結局修平と俊平は最後まで発動出来なかった。

しかし、それをつつく気にはならない、それぞれ得手不得手があるのだから。

「竜太君はどう思いますか?私達で、神々の争いを鎮められると思いますか?」

「え?うーん……。僕には神様の気配ってわからないし、なんとも言えないですけど……。でも、信じてます。皆さんなら、きっと世界を守って見せるって。僕も頑張らなきゃですね、皆さんと一緒に世界を守るんだから。」

「竜太君、怖いお顔してるよぉ?」

「ごめんね、蓮君。ちょっと緊張って言うか、なんて言うか……。」

 竜太の表情は険しい、それは修行が足りていないと思っているからではない、ただ単に緊張しているだけだ。

しかし、その緊張の度合いは強く、険しい顔になってしまうのだろう。

「きっと大丈夫だよ、俺達頑張ったんだしさ。」

「そだぞ?俺らが信じなきゃ、誰が守るってんだ?」

「それもそうですね……。私達が守らなければ、世界が滅んでしまうのですしね……。」

「うむ……。」

 決意を新たに、心配はあれど、不安はあれどやると決めたのだ。

戦士達は、鼓舞し合い立ち向かう、それはどの世界でも変わらないのだろう。


「それでディン君、貴方の見立てではあの子達は勝てるのかしら?」

「そうだな、今の子供達と神の気配は同等か少し子供達が劣るくらいか、だな。勝てるかと言われると、現状では拮抗してる。」

「そこまであの子らが強くなったってのは、感慨深いものがあるな。しかし竜神王サンよ、万全を期すんであれば、もう少し修行をするのが良いと思うが?」

「これ以上は、豊穣の神クロノスが破壊の概念の干渉を受けすぎて、倒せなくなる。破壊の概念を俺が先に倒したとしても、豊穣の神クロノスの強さは変わらない、つまり子供達が倒せなくなる。俺も守護者を失うのは嫌なんだ、世界の為だなんだって言って、犠牲にするつもりもない。」

 戦士達が夕食を食べている最中、茶室にて話をしていた5人。

 現状、破壊の概念がどこにいるのか、がまだ分かりきってはいない。

豊穣の神クロノスを通じて探知を張っているディンだが、まだ尻尾を掴み切れていないという事である。

 そして、これ以上の干渉は、戦士達にとって良くない結果を生み出しかねない、そしてそれはディンの望む結果ではない。

戦士達が死ぬ可能性は極力潰しておきたい、そしてそれは、確率的には明日出発する方が生存率は高い、という結果だ。

「俺らも行くんか?俺の役目ってのは終わったけどよ、あいつらの旅の終着点ってのには興味があるって言うか、見届けてぇんだけど。」

「そこは自由にしようか。外園さんは行くだろうし、俺もついていく、セレンとリリエルさんとウォルフさんはどうするか自由だよ。」

「そう、ならついて行こうかしら。戦いに参加しないとしても、旅の終着点、確かに気になるわ。」

「hahaha!俺もついて行こうか。あの子らが世界を守る所ってのは、ロートルとしては見ておきたい。」

 どうやら、全員が引率として行くつもりの様だ。

ディンは最終的にはいったん離れるが、これは嬉しい誤算も生まれてきそうな予感がする、と感じる。

「感謝するよ、俺の話に乗っかってくれて。まあ、各々目的はあったにせよ、こうやって集ったのも何かの縁だろうな。」

「俺は家族の事だろ?んで外園は予言か。でリリエルは復讐相手、そんでウォルフは神様が使いに出した、か。合縁奇縁ってか、不思議な縁だよな。」

「復讐を自らの手で遂げなくても良い、なんて考えるとは思わなかったわ。きっと、貴方達に出会っていなかったら、ずっと見つからない破壊の概念を探し続けていたのでしょうね。……。変わってしまった、それが良い事なのかどうかはわからない。でも、私はこの変化を良い事だと思ってるわ。」

「皆さん、旅の中で変化はあったのでしょうね。私も、セスティアに行って学びたいと願った、キュリエの話していた、自分らしくあれと言う言葉に従おうと思ったのです。ダークエルフの迫害の歴史を終わらせると言う選択肢もありましたが、それはきっと私の役割ではないのでしょう。」

 セレンは旅を終えたらどうするのか、この戦いが終わった後の事は考えていなかったが、リリエルは旅に出ようと、外園はセスティアに行こうとしていた。

それぞれが、この戦いの旅の中で変化してきた、思惑とは違う結果になろうとも、それを受け入れようと。

「若いってのは良いもんだな、竜神王サンよ。」

「そうだな。変われる若さってのは、俺達が失ったもんだろうな。って言っても、外園さんの方がウォルフさんよりは年上だけどな。まあ、妖精と人間じゃ寿命の感覚が違う、って言うのはあるだろうな。」

 それを言うのなら、本来ディンもまだ15かそこいらの精神年齢であってもおかしくはないのだが、そこは竜神王としての経験の量による違いだろう。

いつかアリステスと言う竜神が言っていた、寿命と密度の問題、竜神の住まう世界で過ごした時間があっという間だったのは、そう言った要因があるのだろう、と。

 現在1500歳のディンではあるが、経験の量と質で言ったら、それ以上の年齢と変わらないだろう。

「まずはこの戦いを終わらせないと、だな。」

「それもそうだ、あの子らの戦いの他に、竜神王サンは独り戦わなきゃならないんだからな。」

「……。いつか完全消滅させられたら、ディン君、貴方はどうするの?」

「ん?考えた事が無かったな。この前外園さんとちょっとだけ話した覚えがあるけど、そうだな……。俺の子供達が全員逝ったら、何処かの世界に永住するとかするかもしれないな。それこそ、その時には年輪の世界の外側に行く手だてが出来て、そっちに行くかもしれない。わからないよ、俺も未来は視えないからな。」

 どう足搔いてもセスティアは離れる、魔法のない世界でもしも、自分が死んだ後に魔法を悪用でもされてしまったら、先代に示しがつかないのだから。

 年輪に分け隔てられた世界、それは歪で異質な世界群かもしれない、しかし、守ると決めたのだから、自分が死んだ後に禍根を遺す様な事はしたくはないと。

「ディンって、何歳まで生きんだ?確か、一番年長のやつが200万歳とかだろ?」

「それ以上には生きるかもしれないな。俺の中には数多の竜神の魂が混ざってる、普通の竜神より寿命は伸びてる可能性もあるな。もしかしたら、不死の命になってる可能性だってある。」

 悲しい、とリリエルは感じた。

 愛する者達、愛してくれた者達は数十年で天寿を全うする、そしてその後にどれ程の孤独が待っているのか、と。

 愛する者達との別れ、それはわかりきっているのだろう、そしてその後の孤独も理解しているのだろう。

しかし、それでも守りたいと願った、だから今のディンがいるのだろうと。

「……。ディン君、貴方は……。」

「ん?」

「なんでもないわ。きっと、貴方ならやり遂げると信じてるわよ。」

「そうですねぇ。ディンさんならやって下さると、私達は皆信じています。」

 何を言われるでもなく、ディンは理解しているのだろう。

 誰かを守る事は誰かと戦う事、それは共通認識。

そして、ディンにとっては、誰かを愛するという事は、その相手との避けられない別れを意味するのだと。

 それでも誰かを愛そうとする、それはディンの本質なのだろう、愛する事は素晴らしいのだと、本気で思っているのだろう。

「さて、皆も覚悟を決めたかな。今日はここまでにしよう、明日出発だ。」

 ディンは心を閉ざす事をしようとはしなかった、それが果てしない孤独が待ち受けている事が決定されていたとしても、愛する事を選んだ。

 だからこそ、なのだろう。

最期の竜神王、と予言されたディン、何を以てして最期と予言されたかはわからない、とディン本人は言っているが、きっと世界を守って見せるのだろう、と。

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