最上級魔法とは

「お兄ちゃん!ただいま!」

「お帰り、蓮。」

「私達も戻りました。ディンさん、もうマグナへと向かうのでしょうか?」

「いや、ちょっとだけ修行だ。最上級魔法と、武器の扱いに慣れて貰わないと。」

 5人が戻ってきて、ディンはこれからの事を説明する。

 蓮にもそろそろ竜の想いを使える様になってもらわないと、と考えていて、竜の想いに掛けたまじないを外すかどうかも思案していた。

「竜太も含めて、6人でだ。最上級魔法、使える様にはなってるだろうけど、最初は魔力をだいぶ消費するだろうしな。」

「お兄ちゃんは最上級魔法は使えないのぉ?」

「ん?あぁ、使おうと思えば使えるな。そうか、俺が使ってみてやり方を教える、って言うのも手だな。」

 蓮の質問に、そう言えばとディンは思い出す。

 基本的にディンはその世界にいる時はその世界の魔法を使用する事が出来る、マナの源流に触れずとも、最初から最上級魔法を使える。

だいぶ使っていないから忘れていた、と言った風だったが、事実ディンは基本的に体術や剣をメインで戦っている為、忘れていたのだろう。

「さ、時間がないことに変わりはない。修錬場に出てくれ。」

「父ちゃん、僕も?」

「竜太もだな。」

 ディンの言葉に納得したのか、そして指南役達は最上級魔法と言うのが気になったのか、全員で修錬場に出た。


「さて、最上級魔法なんだけど……。俺が一回使ってみるから、それを元にやってみると良いな。」

 ディンが結界を張り、清風を使って全員を宙に浮かばせる。

『限定封印、第四段階開放……。』

 ディンが第四段階の開放をする。

『海に浮かびし氷の巨塊、全てを止めし冷徹な風、吹き荒び我が敵の鼓動を止めよ。原初の氷塊は今砕かれた、さあ世界を包み凍てつかせろ!』

 ディンが詠唱をすると、強烈な冷気が周囲を覆い、そして足元が凍り始める。

「これは……、氷属性の最上級魔法ですか、強烈な冷気が周囲を包み込み、範囲を凍結させる魔法、だったはずです。」

『ジエロアバランシュ!』

 ディンが唱えると、地面が一気に氷に包まれ、氷塊が出来上がる。

結界ぎりぎりの所まで凍っていて、その範囲は半径50メートル程だ。

 ディンの魔力ならもっと広い範囲を出来そうだが、と外園は一瞬考えたが、それでは戦士達が真似するのは厳しい事になるだろう、と思考を纏める。

「こんな感じだな。これを皆には出来る様になってもらう。」

 ディンが籠めていた魔力を閉ざすと、氷が砕け粉雪の様に舞っていく。

 4人は、これを出来る様にならないといけないのか、と驚愕しつつ、しかし何処かで出来る様な気がしていた。

魔法が苦手な修平も、マナの源流に触れた事によって、ある程度は魔法は使える様になっているのではないか?と感じ取っている様子だ。

「詠唱については、それぞれもうわかってると思う。まずは大地君以外が上級魔法を唱える事が出来る様にならないとだな。大地君は上級魔法を使えるから、最上級魔法を使う事に専念してくれ。」

「俺、初級魔法しか使った事ないけど……。出来るかな?」

「きっと出来る、それだけの素養はある。」

 ディンが全員を地上に降ろし、指南役達を結界の外に出す。

 今は隠匿の魔術は使っていない、結界の外からでも戦闘の様子は見える。

指南役達も、戦士達がどこまで成長したのかを知るには良い機会だろう。


『美しき清流よ、清き風よ、今こそ魔を討ち果たせ!』

 清華が詠唱をして、その間ディンと5人が戦っている。

 詠唱は早く唱える事は出来るが、魔力を練るのには時間がかかる、だから1人が魔法を使っている間、他の5人でサポートをする、と言う戦法だ。

『アクアテンペスト!』

「うぉ!?」

 清華の放った上級魔法によって、水と風が巻き起こり、結界の中に氾濫する。

 それはディンを狙った攻撃のつもりだったが、丁度つばぜり合いをしていた俊平にも攻撃として発動してしまい、俊平は濡れながら後ろに飛び下がる。

 氾濫した水がディンの足元をおぼつかせ、次の攻撃の起点となる。

『フルミネブルクスト!』

 修平は、まずは中級の魔法を使ってみよう、まだ初級魔法しか使った事がないのだから、と中級魔法を発動する。

 濡れているディンの体に、雷の弾が発射される。

「良い連携だ。」

 ディンはそれを弾くと、次の攻撃を待つ様に誘っている。

「えいやぁ!」

「そこ!」

 蓮と竜太が近接攻撃を仕掛けて、ディンは竜の意思を右腕に変えてそれを迎撃する。

バチバチと帯電したディンの剣を受けた蓮の剣が帯電を始める、何やら何かをしようとしている様だ。

『雷咆斬!』

 ディンに流れていた雷の魔力を利用して、雷咆斬の効力を上げる蓮。

普段より三割程度威力の上がった雷咆斬と、竜太の剣を受け、ディンは成長を喜ぶ。

『宇宙の果てより来たる流星……、母なる大地に眠りし引力……。降り注ぎ全てを穿て……!原初よりありし星々よ……!今こそ全てを破壊せよ……!』

 大地の詠唱を聞いたディンが、蓮と竜太を結界の端まで飛ばす。

『コメットチューン……!』

 直後、空より小さな隕石の弾丸が降り注ぐ。

「伏せろ!」

 小さな隕石、と言っても隕石に変わりはない、衝撃に備えろと俊平が怒鳴り、ディン以外の全員が頭を伏せる。

『竜神術、氷冠』

 ディンが唱える、すると結界をぐるりと氷の壁が覆う。

『封』

 続いてディンが唱えると、頭上にも氷の壁が出来上がり、隕石の弾丸を防ぐ。

「わあぁ!」

「これは……!」

 激しい揺れ、隕石が氷冠にぶつかり、漏れた衝撃波が6人を襲う。


「ふむ、土属性の最上級魔法、ですか。大地君は魔法のセンスが高いですね、逆に修平君は魔法が苦手なのだと仰られていましたが、はてさて。」

「あれが最上級魔法なのね。ディン君が使っていたのが氷、そして大地君が使ったのが土。この世界には8つの属性があると言っていたし、最上級魔法もそれぞれなのかしら?」

「文献によると、9つの属性だそうですよ、リリエルさん。聖属性と言う、特別な存在しか使えない属性が存在していたそうです。今では、使い手はいないのだとか。」

 外園が学んだ歴史では、聖属性と言うのは特殊で、八柱の竜ですら使わない、と言う話だった。

デインなら使えるかもしれない、と聞いた事があったが、どうやらデインも使えない様子で、確かグリンと言う竜神が聖属性の魔法に長けていた、と言う話だった。

「グリン様と言う竜神様が、聖属性に精通していたそうですが、グリン様は現在旅をされているのだとか。この世界にはいない、とデイン様は仰られていましたね。」

「聖属性、ってのはどんな魔法があるんだ?特別な属性ってのはわかるがね、中身が見えんな。」

「それが、そこまではフェルンの文献にも載っていないのです。ドラグニートの秘蔵書物庫には書いてある事がありそうですが、私にはわかりませんでしたね。」

「魔法の事で外園が知らねぇってのも意外だな、魔法型だから詳しいんかと思ってたわ。」

 セレンは、外園は魔法に関する造詣はとても深い物だと思っていた為、知らない魔法がある、という事に驚く。

 リリエルも、外園が知らないこの世界の魔法がある、という事には少々驚いていて、ディンなら何か知っているか、使えるのだろうな、と考える。

「私も勉学には励みましたが、世界の神秘にはほど遠いのですよ、セレンさん。私も、デイン様に出会うまでは、世界が幾千にも分かれている事も知りませんでしたしね。」

「それはウォルフさん以外知らなかったんじゃないかしら?私だって、世界を渡る力を知ったのはつい最近、ディン君に出会った時だったわね。世界を渡る力があると知らされて、試してみたら出来てしまった、なんて所かしら。」

「ウォルフは知ってたんか?この世界とか、俺のいた世界の事とか。」

「Umm,難しい話だな。この世界群の事について、なら物語として知ってた、って事になるな。実際あるかどうかなんてのは、俺のあずかり知らぬ所の話だった。それが、俺の所の神サマが、急にこの世界に穴を開けて通路を作ったから行ってこい、なんて言うもんだからな、俺も正直驚いたもんだ。」

 ウォルフにとってこの世界群は、物語の世界だった。

竜神の創りし年輪の世界、と言う童話があって、その話を母親にせがんだ覚えがある、と。 

 まさかそんな世界が本当に実在するとは思っていなかった、と言うのが正直な感想で、出来ればこの世界を見て回りたいと思っていたが、ウォルフの世界の神と言うのが、あとどれくらいの間世界を通る穴を開けていられるかわからない現状、それは叶いそうにもない。

 最悪、ウォルフが元居た世界に帰れなくなる可能性もある、それはウォルフの望む結果ではない。

「最悪、お前さん達より先に離脱する可能性もあるな。神サマが踏ん張ってくれる事を祈ろうか。俺も中途半端ってのは後味が悪い。」

「そう言えば……。初めて会った時、ディン君の正体を知らなかった様に話していたのは何故なのかしら?貴方、知っていたんでしょう?」

「oh!それを覚えているとは、流石リリエルちゃんだ。あの時は、竜神王サンがどう出るかわからなかったからな、お前さん達に俺の正体を知らせたくなかった場合、または知らててはいけなかった場合、なんてのを考えた結果、だ。」

「確かに、最初はウォルフさんのいた世界に関しては、情報をいただけませんでしたね。ディンさんにとっても、例外中の例外だったのでしょうか。竜神の掟、それは守らなければ世界が崩壊してしまう、と仰られていましたし、どこまでが掟の範疇で答えられるのか、と言うのを模索していた、と言うお話なら納得も出来るでしょう。」

 外園の予想は概ね合っている、ディンはこれまで世界を渡る存在を知らなかったし、ウォルフの様な存在の事も知らなかった。

そもそも世界群の外側に世界があるというのも、ディンはウォルフに出会ってから知ったのだし、当然と言えば当然だろう。

 ディン自身、まだ知らない事が多い、自分が世界群の外側に行けるのか、そして破壊の概念をもしも完全消滅させた場合、自分が存在を許されるのか、と。

そして、先代が言っていた、閉じる者と言う言葉の意味も、まだディンは知らない。

「むずいんだな、そこら辺の塩梅って。」

「そうだな。世界ってのは、制約が多いもんだ。俺からしたら、この世界群ってのは異質だがね。だが、存在する以上は、守れと言われた以上は、守るだけさ。」

 ウォルフは、そんなディンの考えを察して、心中を慮っていた。

英雄と言われてもおかしくはない、それ以上の功績を残しているにも関わらず、自分がいつか消えなければならない日が来るのかもしれない、と言うのは酷だと。


『空より届きし恵みの雨、恵みを運びし優しき大地……。っつ……!」

「清華!どうした!」

「すみません、体に痛みが……。」

 今度は清華が最上級魔法を使おうとしたら、全身に痛みが走る。

激痛、と言う程ではないが、詠唱を止めてしまう程度の痛みを感じる。

「魔力がまだ馴染んでないな。体内の魔力を使う為の回路が、ちょっと痛みで知らせてるだけだ。もうちょっと上級魔法で体を慣らした方が良いな。」

 ディンが修行の手を止めて、清華の状態を見る。

その状態を見るに、まだ魔力の回路が活性化しきっていない、最上級魔法を使う為には、体内に存在するマナと大地のマナを上手く配合して放たなければならない、その為の仕組みが出来上がっていない。

 使える様になるのも時間の問題だが、無理をして発動しようとすれば、大地のマナの流れに魔力の回路を焼き切られてしまうだろう、と。

「無理はしない様に。ここまで来て、負傷で離脱、なんて洒落にならないからな。無理して発動しようとしたら、最悪一生魔法が使えなくなるかもしれない。そればっかりは、俺の移癒じゃ治せない。俺の魔力の仕組みと、君達の魔力の仕組みが違うから、移癒では移せないんだ。」

 そもそもが、魔法を使える様になってから数か月、回路を活性化させてからそれくらいの新米だ。

最上級魔法を大地が使えたのは、大地がそれだけマナの流れや源流と相性が良く、そして大地の先祖が魔法の扱いに長けていたから、と言う理由だ。

 本来であれば、清華の様に痛みが全身を巡り、暫く動けなくなるのが当たり前で、清華がすぐに痛みを無くなったと感じたのは、清華の先祖の魂の力の残滓のおかげだろう。

「まずは上級魔法を使い慣れる所からだな。君達の力なら、上級魔法くらいなら詠唱をせずとも使えるはずなんだ。まずはそこを目指そう。」

「でもよ、時間ねぇんだろ?」

「だからこそだ、俊平君。時間がないから、無い中で一番丁寧に修行をする。丁寧にやる事で、焦りから来るミスとかを無くすって意味だよ。」

 そう言う事なら、と俊平達も意識を切り替える。

「そういや、大地は平気だったんか?」

「うむ……。痛みもなく、発動した……。」

「大地君のご先祖様っていうのが、魔法に長けてたのが理由だな。順番に大地君、俊平君、清華ちゃん、修平君のご先祖様が、魔法に長けていたそうだ。」

 修平は、そう言えば自分の先祖と邂逅した時に、自分も魔法を使うのが苦手だった、と言っていた事を思い出す。

 しかし、使えないと言う訳ではない、使うのが苦手だと言うだけで、使えるには使えるのだ。

それを理解していたから、魔法を使う事を諦めようとは思わなかった、それは逃げる事だから、と。

「さ、修行を続けよう。一週間しか無い事は事実なんだ。」

「はーい!僕も頑張るー!」

「蓮も、デインの力をもうちょっと上手く使える様になると良いな。」

「うん!」

 それぞれが意識を切り替えて、まずは自分の課題を見つけていく。

修行の中で、頭を使いながら立ち回る、という事を覚えてきた様で、上手くお互いの弱点となりそうな所をカバーしあいながら、ディンに食らいついていく。


「ふー……。後6日かぁ……。」

「疲れたな、ホントにディンさんってつえぇよ。」

 一日目の修行が終わり、風呂に入っていた5人の男子。

竜太と蓮もくたくたになっていて、改めてそこで顔色一つ変えずに修行の相手をしているディンの凄まじさを感じていた。

「父ちゃん、第四段階開放してますからね……。多分、最上級魔法に備えて、って事だと思いますけど、僕も修行中に三段階までしか開放した事なかったですし、皆さんの成長が、そこまで来てるって事だと思います。」

「そう言えば、ディンさんって五段階の封印?してるんだっけ。全部開放したら、強いんだろうなぁ。」

「実際、父ちゃんが完全開放したら、凄いですよ。威圧感っていうか、僕達は守ってもらってるってわかってるはずなのに、怖くなっちゃうくらいに……。でも、何処か優しいんです、父ちゃんの力って。本当に、傷つける為じゃなくて、守る為の力なんだなって、肌でわかるっていうか……。」

「ディン殿の優しさ……。それが、力に反映されている、という事か……?」

 ディンの完全開放、それは不完全なものだった。

竜太が知っている完全開放は、人間と竜神の間の子だった頃の完全開放であって、今の完全なる竜神王としての完全開放は、見た事がない。

 そう言った意味合いでは、竜太すら知らない、ディンの本気。

今のディンの雷咆斬が、昔の淵絶雷咆斬に似た威力、だとするのであれば、現在の淵絶雷咆斬はどれだけの威力なのか、と疑問に思う。

「お兄ちゃんは優しいもん!だから、きっと力も優しいんだよ!」

「そうだね、ディンさんは優しい人だよ。ただ、修行になるとちょっと厳しいけどね……。」

「それも俺達が死んじまわない為に、だろ?あの人は優しい、そりゃ世界守ってんだから怖ぇとこもあんだろうけどよ、基本的に優しいだろ。」

 ディンが厳しい指導をする理由、それも理解していた。

それは、かつて戦士達の親がそう育ててきた、と言うのもあり、身に染みて理解した、と言った所だろう。

 特に俊平は、落ちこぼれと言われても父親が見放さなかった意味、と言うのを知って、少しだけ父親と仲直りしたいと思っていた。


「ふぅ……。あの痛みがなくなると良いのですが……。」

 ここ最近はピノがいたり明日奈がいたり、独りで風呂に入る時間と言うのが久しぶりで、少し寂しい。

リリエルに一緒に入らないかと言おうと思ったのだが、照れくさくなってしまって言えずじまい、こうして独りで湯船に浸かっている。

「明日奈さん……。」

 明日奈はもう目を覚ましただろうか、ならば全てを忘れてしまっているのだろうか。

あまり関わりがあったわけではない、そこまで親密であったわけでもない、しかし、仲間であった事に変わりはない。

 明日奈が記憶を犠牲にして、自分達は最上級魔法を手に入れた。

ならば、それを使いこなせないという事は、明日奈の犠牲を無駄にしてしまう事になってしまうだろう、と。

「……。」

 一週間。

一週間で、出来る様にならなければ。

 清華は覚悟を決め直し、湯船を出た。

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