武器を受け取って
「ここは……。」
ディンに転移で飛ばされた先、そこは玄武の祠だった。
丘の上にある祠から下の村が見渡せる、滅んでしまった村がどうなったかと少し気になって、ちらりとそちらを見る。
「復興、しているのだな……。」
焼け朽ちた村は再建をしている最中の様で、耳を澄ませると大工が金槌を打つ音や、人間が怒鳴っている声が聞こえてくる。
間に合わなかった、全滅してしまったと思った村だったが、生き残りがいたのだろうか?と大地は疑問を持った。
「……。」
祠に目を戻す。
社の中、真ん中に、土色をした六尺棒が鎮座していて、それは大地がかつて父親から言い伝えられていた、心月家に代々伝わるとされる武具、にセレンが手を加えた物であろう事が伺える。
「ふぉふぉふぉ!武具は揃った様じゃな!お主は強うなった、神々の争いを鎮めるにあ対する力を持った様じゃな!」
「玄武、か……?」
「そうじゃ。儂が力を貸す、その為にここに来たのじゃろう?ほれ、目を閉じると良い!」
「……。」
言われた通りに目を閉じて、玄武の話に集中する。
玄武の用意した、そしてセレンの鍛造し直した武器は、強い力を発揮していた。
それこそ、アルディナでは太刀打ち出来ない程に、竜神の作った武器よりも、聖獣の生み出した武器の方が強い、と感じ取れる。
「儂はお主に力を与える、最上級魔法も覚えて来た様じゃしな、この技もいつか使いこなせる日が来るじゃろうて。さ、手に取るが良い、儂の魂の一部に、新たなる力を与えた武器。そうじゃな、聖獣棍玄武、とでも名づけるかのう?」
「聖獣棍、玄武……。」
玄武の武器を手に取り、握る。
力が溢れてくる様だ、まるで、今までの武器が使えなかったかの様に、手になじむ。
「お主の力はまだ最大まで発揮されとらんのじゃ、後は修行あるのみ、じゃな。」
「感謝する……。」
「良い良い、儂らとて、お主らが居ねば世界を守れんのじゃからな。」
玄武が一瞬顔を見せ、その顔が何処か心配そうに見えている、と言う風に取った大地。
だが、勝つしかない、勝たなければ世界が滅ぶだけだ、と認識を新たにし、社を去った。
「これが貴女の武器、聖獣長刀青龍、そして聖神流装刀。短刀の方には雷の魔力が、長刀の方には水の魔力がよく馴染むでしょう。セレンさんと仰られましたでしょうか。彼は、素晴らしい鍛冶師です。私達の力を上手く扱い、そして更に魔力を流しても壊れない様にと、加工をしてくださいました。彼がいなかったら、貴女達の力に武器が耐えられなかったでしょう。」
青色の刀身をした長刀と、黄色の刀身をした短刀を受け取った清華は、並々ならぬ力を感じ取っていた。
元の武器が良いというだけではない、セレンの加工技術や、使っている鉱石の力、と言うのが凄まじいのだろう、と考える。
「青龍さん、私は……。」
「貴女達なら、世界を守ってくれると信じていますよ。きっと、世界を守るに足り得る覚悟を持っているのですから。」
「そうなのでしょうか……。私はまだまだ決意が足りない、覚悟が足りないと感じています。それこそ、ディンさんの様には、と。」
「あの方と比べる必要はないのですよ。竜神王様は数多ある世界を守護する存在、そして貴女はこの世界を守護する戦士。覚悟が違ったとしても、それは立派なものですよ。」
清華は、間近でディンを見ているからか、少し不安な様子だ。
ディンの様に強くはない、ディン程の覚悟は持っていない、それでも良いのか、と。
「あの方が世界を守護するのは人々の為、貴女が世界を守護するのはこの世界の為なのです。竜神王様がなんと仰れようと、あの方は人々の為に世界を守っている、そうデイン様から聞いています。人間を真に疎んでいるのであれば、新たな秩序の世界に善なる人間だけを連れて行けば良いのだ、と。」
「……。ディンさんは、人間が嫌いだと仰られていました。その理由も、理にかなっている物だと感じます。しかし、それでも人間を、世界を守る理由、それは……。」
「とある守護者の方との、約束なのだとか。その方がどうなったか、は貴女には話すべきでしょうか。その方は、人間を守護する者として生を全うした後、人間に殺されたのだと、デイン様は仰られていました。とても悲しい存在だと、デイン様はそう仰られて居ましたね。貴女達に記憶を封じるかどうかをお聞きになられたのは、そういった過去があったからなのでしょう。貴女達を失いたくない、と言う事でもあるのではないかと。」
悲しい事実だ、清華はそう感じた。
ディンはいつも飄々としていると言うべきか、悟らせない立ち回りをしている、とは思っていたが、あの言葉の裏にはそんな想いがあったとは、と。
記憶を封じる事、それは人間に恐怖されない為にと言っていた、そしてその真実は、人間に殺された守護者がいた、と言う経験から来ていたのだと。
「さあ、私から話す事は終わりました。後は貴女達に任せるほかないのです、頼みましたよ、私の愛する戦士よ。」
「……。世界を、守った後……。私達がいなくなってしまったら、この世界はどうなるのでしょう?」
「大きな戦争が起こる、とは予言はされていません。小さな諍いはあるでしょうが、私達や貴女達の力を必要とする様な大きな戦争は、という事です。」
「それは安心しました、後世の子孫に争いを継がせなくても良いと言う事ですからね。」
清華は、安心して戦いに臨もうと決意した。
自分達がいつか子孫を遺し、この世界に来る事があったとしても、戦争の禍根を遺さずに済むのだ、と。
「痴れ者よ、少しは強くなった様だな。」
「あぁ。少しは強くなってきたぞ?俺達だって、覚悟したんだ。」
「……。我が武具、存分に振るうと良い。だが愚か者よ、貴様はまだ、我の力を全ては使いこなしていないのだ。」
「そうなのか?」
朱雀の祠にて、聖獣直刀朱雀、と言う紅い刀身をした直刀を受け取った俊平は、少し朱雀と話をしていた。
あの頃は痴れ者だ愚か者だと言われて怒っていたが、今ではその言葉の意味も理解出来るとでも言えば良いのだろか、ある程度聞き流せる様になってきた。
「我々の力、それは貴様らの魂に刻まれた力。まあ、あの竜神王の事だ、何か策はあるだろうがな。」
「ディンさんって、ホントに神なんだな。あんたが認めてるって事は、相当って事だろ?実力は知ってたけどよ、ホントに神様だってのはちょっと信じてなかったんだ。」
「無理もなかろう。貴様らの世界では神とは目に見えぬ者、存在するのかしないのかは個人や集団の中で形成されていくものだ。貴様が神を信じていないと言うのならば、神はいないとも言える。」
難しそうな話だが、セスティアではそれは当たり前のことだ。
信仰があり、宗教があり、そして信じる者信じない者がいる。
俊平の家系は代々四神、つまり朱雀を信仰してきたのだが、俊平自身はその事を最近まで知らなかったし、興味もなかった。
神に縋るのはみっともない、人間なら自分の足で歩け、が宗教な俊平にとって、信仰とは理解の出来ない、相容れない存在だった。
「親父がさ、朱雀様をってずっと言ってたのも、あんたの事だって考えたら納得出来るんだよな。だからって、俺が信仰心なんて持つとも思えねぇけどさ。」
「構わん。我は信仰によって成り立つ神ではない、ただそこにある神だ。どれが信仰し、どれが不信仰であろうと、そこにあり続けるしかないのだからな。信心深い人間と言うのも嫌いではない。が、貴様の様な心意気の人間もまた、尊いのだ。」
「尊いって……。そういうのはハズイからパスで、でもそういう神様の方が信頼出来っかもな。」
朱雀は、話をしながら千年前の事を思い出す。
あの時の戦士、つまり俊平の先祖も、朱雀の村に生まれながら、信仰心を持っていなかった。
ただ、朱雀と波長が合うから、と言う理由で選抜され、嫌々と言いながら、しかし役目を果たし帰ってきた。
まるで、その時の戦士との会話を繰り返している様だ、と。
「貴様も玄武の戦士を見習い、少しは寡黙になる事を覚えるべきかもしれんな。しかし、貴様を見ていると、彼の戦士を見ている様だ。」
「千年前のか?」
「そうだ、愚か者。貴様によく似た、愚者だった。ただ、世界を守るという事には、誰よりも熱心だった。自分は信仰心はねぇ、と言いながら、しかし我の話を聞き世界の危機に立ち向かった。」
千年前の記憶、朱雀にとってはまだ遠くない過去の記憶で、俊平にとっては知らない世界の記憶。
朱雀は、信仰心のない者が村にいる事には気づいていた、そしてそれも良いと黙認していた。
そして、その信仰心のない者が、戦士に選ばれたと知った時には、悲しみを覚えた、と。
「俺もさ、世界守れっかな。千年前のご先祖様みたいにさ、世界守って戦えっかな。」
「出来ると信じる他ない、貴様らが神々の争いを鎮めなければ、世界が滅ぶのだからな。」
「そっか、サンキュ。」
俊平は、朱雀が本心でそう言っているわけではないと感じていた。
ツンデレ、と言うのは少しハイカラか、しかし、信じてくれているのだと。
「武器、大事に使ってね!」
「うん、ありがとう、白虎君。君達の力、使わせてもらうね。」
聖獣拳白虎、と言う風色のグローブを受け取った修平は、少し白虎と話がしたいと思っていた。
「あのさ、白虎君。俺がここに来る事って、決まってたんでしょ?父さんじゃなくて、俺が。そしたらさ、父さん達が死んじゃう事も、決まってた事なの?」
「ううん、違うよ、修平君。君のお父さんの事は聞いた、それは悲しい事だと思う。でも、それは宿命とは別の話、お父さんが生きてたとしても、君がここに来たんだよ。」
「そっか……。俺んちはさ、昔から白虎君を祀ってた蔵があったんだけどさ、この武器はそこにあったの?」
「そうだね!君の家系に代々伝わる武器、それにセレン君が強化をしたのが、今君が持ってる武器だ。千年前の記憶は僕にはないけど、そうだって先代が言ってたよ!」
そう言えば、白虎は500歳前後だ、とだいぶ前に聞いた様な気がする、と修平は思い出す。
神に寿命がある、という事にも驚きだったが、代替わりしているのだと。
「父さんは、この事を知ってたのかな。じいちゃんは知ってたんだろうけど。」
「どうだろうね?僕はセスティアに行く権限はないし、そっちでの話っていうのもあんまり聞いてこなかったから。でも、知ってたとしても、おかしくはないかな?」
修平はそれを聞いて、自分が生かされた理由を理解する。
きっと、修平の父は、血を絶やさぬ様にと、次代へ続く道が途絶えぬ様にと、修平を守ったのだろうと。
車で起こった事故、それは避けられなかった事なのかもしれない、しかし修平だけは守り抜こうとしたのだろうと。
「……。俺、きっと父さん達に生かされてたんだ。俺と綾子が死んじゃったら、役目を果たす人がいなくなっちゃうから。きっと、父さんも母さんも、わかってたんだ。自分達は死ぬ、でも俺達を生かさなきゃって。」
「お父さんとお母さんに会いたい?竜神王様なら、出来るかもしれないよ?」
「ディンさんに……。ううん、良いんだ。会いたいけど、きっとそれは今じゃない。いつか、俺が死んだ時に、父さんと母さんに会いに行きたいって思ってるんだ。それがいつになるか、はわかんないけどね。」
「そっか、なら良いね。良し、行っておいで!世界を、守ってね!」
修平は、一瞬悩んで、答えを出した。
確かに、ディンならそう言う事を出来そうではある、事実として、招霊式封と言う、式紙に魂を18時間だけ宿す術を使える。
しかし、それは今ではない、と修平は答えた。
「あ、デインさん!」
……蓮、元気だったかな?……
「うん!」
ドラグニートの竜神の祠、デインの元にやってきた蓮。
ドラゴン体のデインが出迎え、ディンがここに蓮を連れてきた意味を考える。
「お兄ちゃんが、デインさんから力を受け取ってこい!って言ってたよ!」
……力……。うん、わかった。今の蓮なら、僕の力を4割は使える様になってる、封印開放の段階をあげても良さそうだね。……
デインからすれば、デインの力を使えば使うだけ、蓮の魂が竜神に寄っていく、つまり人間のそれとは違ってきてしまうのだが、ディンはある程度算段をつけているのだろうと考え、蓮に貸している力の段階を少し上昇させる。
……蓮、君は竜の想いを使えそうかな?……
「えーっとね、まだ使った事ないんだ。僕、使えるのかなぁ……?」
蓮が竜の想いを使った事がない事を話すと、デインは何処か安心した様なため息を漏らす。
竜の想いを使う様な場面がなかった、そしてそれはまだどうなるかわからないが、持っているだけでも破壊の概念に対しては有効なはずだ、と。
……さあ、ディンの所に戻ってあげて。……
「うん!あ、そうだ!デインさん、ずっと先かもしれないけど、お兄ちゃんと一緒に暮らすんでしょ!じゃあ、僕も一緒だよ!」
……ありがとう、蓮……
蓮が去り際に一言告げる、それはデインにとっては長い長い未来の話かもしれないが、蓮にはそこまでは理解できていなかった様だ。
……蓮、君は……
デインは祈る、蓮が無事に還って来る事を。
ディンなら間違えない、と信じていたが、しかしそれでも戻ってこれるかどうかはわからない。
支配されていたデインですら、どうなるのかはわからないのだから、きっとそれは、誰にもわからないのだろう。
「皆武器を受け取ったな。セレン、良く間に合わせてくれた。」
「まあな、伝説の鍛冶屋の息子、面目躍如って所だろ?」
「俺は最初から期待してセレンを呼んだんだけどな、まあそう思っても間違いじゃないだろうさ。」
ディンが飛眼を使い確認し、そしてそれを指南役達に伝える。
セレンは誇らし気で、自分も役に立てると言う事実が嬉しい様だ。
「それで、この後のプランはどうなっているのかしら?もうこのまま、マグナに向かうのかしらね?」
「ちょっとだけ修行だな。一週間を目途に修行して、魔法と能力の確認と強化をする。それで間に合わせる、って感じだ。」
「hey,魔法ってのは、最上級魔法の事か?」
「そうだな。使える最上級魔法を確認しないと、ぶっつけ本番でやって失敗したら困るだろ?」
最上級魔法、それを覚えたは良いのだが、まだ使った事も使えるかどうかも試した事はない。
そんな状態でマグナに行った所で、返り討ちに合うのが関の山だろう。
「最上級魔法……。失われた伝説の魔法、それを生で拝見できると言うのは、なんとも言えない衝撃ですが。彼らの魔力で使えるのでしょうか?」
「使える様になる為にも、聖獣達の武器が必要だったんだよ。文献によると、最上級魔法っていうのは、神の加護とマナの源流、そして神の鍛造した武器が必要だ、って書いてあったんだ。だから、彼らはそれをクリアした、つまり使える様になってるくらいには魔力も強くなってるって事だな。」
「確かに、大地さん達の気配、凄い事になってるね。僕でもわかるって事は、相当何じゃない?」
「竜太は感じるか。よしよし、その調子で世界中に探知を広げられる様になると良いな。細かい所までの探知は難しいかもしれないけど、それくらいなら出来る様になるさ。」
竜太とディンは、武器を受け取った戦士達の気配が膨大になっている事に気づいた、恐らくデインと竜神達も気づいただろう。
では、ディンはどこまで探知を広げられるのか、と問われると、セスティア全土に足して破壊の概念の干渉に関しては年輪の世界全体、それだけ探知出来る能力を持っている。
それは竜神王として必要な素養、セスティア1つだった頃は必要なかったのだろうが、現竜神王であるディンにとっては、必要最低限の能力だ。
そしてそれは、いつかの未来に竜太が必要最低限となる可能性のある能力でもある。
「軽く言わないでよね……。父ちゃんみたいになるのには、何百年も修行しなきゃでしょ?」
「hahaha!膨大な時間だな、竜太よ。竜神王サンの様になるには、まあそれくらいは必要だとは思うがね。しかし竜神王サンよ、お前さんは竜太を遺して逝く気はないと言っていなかったか?」
「そのつもりは毛頭ないよ。ただ、そうなる可能性も、無くはない。諦めじゃないけど、そうなった場合には全てを竜太に任せなきゃならない。俺も、気を引き締めないとな。」
ディンは竜太を遺して死ぬつもりはない、つまり戦争で死ぬつもりはない、と言っている。
それが竜太にとってどういう意味になるのか、までは慮る事は出来なかったが、竜太が独り遺される事は無いだろう、と言う言葉でもある。
「ディン君の力を全て受け継いだ竜太君の力、と言うのも興味はあるけれど、それは悲しい結果の末だものね。」
「ディンが死んだ場合だっけか?俺、ディンが負けて死ぬって未来がわかんねぇよ。」
「そうですね……。僕は、父ちゃんが死んだ場合、全ての力を受け継いで竜神王になる、って話でした。なりたいなりたくないじゃなくて、なるしかないんだって。」
「そうだな。もしもの事があったら、竜太に希望を託さなきゃならない事になる。それをするつもりがないって事だよ。」
笑いながら、竜太の肩を叩くディン。
笑っているが、本心ではそれをずっと嫌がっている、拒否しているとでも言えば良いのだろうか。
竜太を独り遺して逝くつもりはない、つまり自分が最期の竜神王であると言う予言に賭ける、と言う気持ちがないわけではなかった。
それ以上に、これ以上破壊の概念と竜神王の争いを次世代に残したくはない、と。
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