生み出した者

「ぜぇ……、はぁ……。」

「だいぶ連戦が続いたな、ここいらで休憩しようか。」

「そうさせていただけると……、幸いです……。」

『竜陰絶界』

 半日、戦闘を続け進行していた9人だったが、ディンと竜太以外の7人は体力の限界が来ていた様子だ。

ディンが結界を張ると、緊張の糸を切らしてその場に座りこむ。

「お兄ちゃん、疲れないのぉ?」

「俺は、な。竜太も疲れてると思ったけど、だいぶ体力もついてきたみたいだな。」

「そりゃね、ちゃんと修行はしてきたもん。」

 結界を張ると、そこの部分だけ切り取られたかの様に闇が薄れ、大地の色が少し茶色になる。

 ディンの張る結界には、今では闇を祓う効果がある、破壊の概念に通じる程ではないが、これだけの闇を薄れさせるのだから、その効果の強大さが伺えるだろう。

 それくらいの能力が無ければ、この大地では生き残れないだろう、竜太の結界は五重結界、闇を祓う効果はない。

だから、ディンが出張って結界を張っている、とう理由がある。

「なんだか疲れやすいっていうか、何だろう?これも闇の影響なのかな?」

「それはあるだろうな。闇の濃い場所にいるんだ、精神を摩耗する事に変わりはない。明日奈はクェイサーの加護を受けてるから、まだ平気だろうけどな。」

「加護って、どういう事なのぉ?」

「それぞれの竜神によって、与えられる加護の強さが変わってくるんだよ。一番強いのが俺、次に竜太、そしてデイン、クェイサー、テンペシア、って順番でな。」

 加護の強さ、それには順番がある。

竜神王であるディンを一番として、次に使いこなせていないが竜太、そしてデインと王の一族が連なり、現在生きている竜神の中で、王の直系以外で一番強い加護を与えられるのがクェイサーだ。

 それは、破壊の概念に対しては効力は持たないが、輝竜という名の示す通り、闇に対する抵抗力を一番高く持っているのが、クェイサーというわけだ。

逆に、カテストロという闇を司る竜神は、強すぎる光に対する対抗力を持っていて、その強すぎる光が敵対した場合には、一番強い力を発揮する、という仕組みだ。

「僕が二番目なの?でも、僕加護って使えないよ?」

「竜太は意識して加護を発揮出来ないってだけだな。それが出来る様になったら、もしかしたら俺よりも強くなるかもしれない。前から言ってるだろ?竜太は潜在能力を全部発揮出来る様になったら、完全開放状態の俺より強いかもしれない、って。」

「竜太、凄いのね。あたし、ディンより強いのって想像出来ないわよ?三段階の開放でも、あたし達束になっても勝てないんだし。」

 事実、竜太の潜在能力はディンを超える、今ではわからないと言う部分もあるが、少なくとも二年前、ディンがまだ人間と竜神の混血だった頃は、竜太の方が強かった、と言うのは事実だ。

 現在はわからない、竜太の能力は半分程度は封印していて、ディンの完全開放の時と戦った事がない為、比べようがないのだ。

ただ、ディンは何処か確証めいた何かを持っている様で、竜太の方が強くなる、と考えていた。

 しかし、その代償は大きい、竜太が完全な竜神になってしまったら待ち受けるのはディンすら死んでしまった後の孤独だ。

完全なる竜神として、数百万年を生きなければならないのだから。

「竜太は強い、と言うのはわかっておったが……。ディン殿を、超え得る強さ、という事か……。」

「もし俺が死んじまったら、全ての力が竜太に継承される仕組みになってる、それも考えれば、元々の力に足して俺の力だからな。歴代最強の王になるだろうな。」

「ディンさんが負ける……。って言っても、俺想像出来ないよ。だって、ディンさん無茶苦茶強いじゃん?」

「俺にだって敵わない相手は多分いるぞ?例えば、竜神を生み出した神とかな。」

「想像出来ないよ、父ちゃん……。だって、千万年以上前の話でしょ?まだ生きてるかどうかもわかんないよ?」

 竜神の祖、初代竜神王ディンを生み出した存在、ディン達より更に高次元の存在。

その存在がディンを消そうとした場合、ディンは抗う事が出来ない、と考えていた。

 だが、そもそも論生きているのか、生物として成立しているのか、まではわかっていない、今でも世界に干渉しているのか、はたまた別の世界に目を向けているのか、手を出せないのか、不明な事ばかりだ。

「今はディンさんが一番つえぇのは間違いねぇんだろ?敵がどんなだって、負けねぇって言ってたじゃねぇか。」

「そうだな。俺はこの世界群の誰にも負けない、負けてはいけない、それが事実だ。ただ、俺でも勝てない相手がもしいたとしたら……。それは、世界の崩壊を意味する。だから、誰が相手だろうと負けられないんだよ。」

「世界を守る……。それは、大変な事なのですね。私達がこの世界一つ守るのにもこんなにも大変だと思っているのに、ディンさんは幾千の世界をお守りになられている……。私達が勝てないのも道理、というわけですね。竜太君は、ディンさんの本気のお姿を拝見した事はあるのでしょうか?」

「完全開放、って言っても、あの時は不完全だったんでしょ?今の父ちゃんの本気は、見た事が無いですね。当時でも、魔物を数百万体相手に圧倒してたけど……。でも、今の父ちゃんの方が強いとしたら、僕は見た事がない、で正解だと思います。」

 竜太がディンの完全開放を見たのは二回、一回は意識が無い状態だったが、一回は目の当たりにした事がある。

 優しい力だが、鬼神の如き強さを誇る、ディンの完全開放。

あれが、まだ不完全な状態での発動だった、と言うのが信じられない程度には、ディンは強かった。

 命を魔力に変える力、と言うのも使っていた、その時と今とではどちらが強いのか、もわからない。

「さ、休憩はここら辺にしとこう。そろそろ行くぞ?魔物が集まって来る前に、突破しないと無限湧きだからな。」

「はーい!僕、頑張る!」

 結界に守られている間は魔物の心配をする必要はないが、結界を解いた瞬間、周囲に魔物の気配がし始める。

 気を抜いた瞬間死ぬだろう、それは肌で感じ取れた。


「そこです!」

「喰らいやがれ!」

 少し進んでは魔物と戦い、また少し進んでは魔物に阻まれ、一行の進軍は順調とは言えない状態だった。

 今も魔物が百体程出現している、ディン以外の8人総出でかかっているが、魔物の強さは今までとは段違いだ。

 そもそも、魔物と言う魔物と戦ったのは、ソーラレスで餓鬼と戦ったのが最後だった6人にとっては、ここでの魔物の強さは比較しようが無い程度には強かった。

明日奈とピノは、魔物に対する実戦経験自体が初めてだ、苦労は多いだろう。

『鳴神!』

 明日奈の雷属性の符が敵を蒸発させ、その間にまた新しい魔物が大地から生み出され、無限にも思える戦いが続く。

『雷咆斬!』

 蓮の得意技、雷咆斬で複数の敵を一気になぎ倒す、しかしまだ魔物は消えない。

俊平達の魔法は、マナの流れが止まってしまっている為使えない、肉弾戦での戦闘を余儀なくされているのも、疲弊する原因の一つだ。

 何せ、自身が持ちうるマナの流れのみ、つまり体内を巡っているマナだけで戦っているのだ、今までは大地や大気に満ちていたマナを取り込み、使っていた魔法による身体強化も、今は体内を流れているマナだけでしなければならない。

体力の消耗はいつもより激しい、そう認識していた修平と俊平、その認識は間違っていないだろう。

『白狼!』

 明日奈が呼び出す式紙も、明日奈自身の霊力を消耗して発動する為、体力を消耗する。

白狼と言う、万能型の式紙を使役して周囲の敵に対抗しているが、この体力がいつまでもつか、と言う不安が残る。

「まだいんのか!」

「泣き言は後です!今は戦闘に集中してください!」

「って言っても、キリが無いよ!」

「……。」

 蓮はまだ封印開放をしていない為、体力には余裕があるが、4人は徐々に体力を消耗している。

「仕方ない、か。」

 それを見ていたディンが、ため息を一つついて、左手を前に出す。

『限定封印、第一段階開放。竜神王剣、竜の誇り。全てを喰らう雷よ……』

「父ちゃん……?」

「全員飛べ!」

「え!?」

 ディンが怒鳴る。

瞬間、指示を理解した前線の6人が、その場で跳躍した。

『雷咆斬』

 ディンが雷を纏った竜の誇りを一閃、刹那爆音とともに雷光が大地をなぎ倒す。

数百体いた魔物が蒸発し、あたり一帯が静かになる。

「ディンさん、今のって、蓮君が使ってた技……?」

「そうだな。雷咆斬、雷の技の基本形だ。」

「威力が違いすぎねぇか……?」

 着地して、魔物がいなくなった事を確認した5人が、驚愕する。

蓮はだいぶ前にディンの放つ雷咆斬を一度だけ見た事があったが、それは空に向けられて放たれた状態であって、魔物に放ったものではなかった。

 今の蓮が封印開放をした場合、大体魔物を一度の雷咆斬で十体から二十体程度倒せる、と仮定すると、その威力の違いに驚くのも無理はないだろう。

「昔より威力上がってない……?今の淵絶雷咆斬と一緒に見えたけど……。」

「そうだな、俺の基本的な能力は、あのころに比べると比にならないと思うぞ?」

 淵絶雷咆斬、それはディンが第四段階の開放以上を行って、初めて使える技だ。

今のディンの基礎的な能力、それはセスティアでの最終闘争の時よりも格段に上がっている、それは初代から八代目までの竜神王の魂が、今のディンの中に眠っているからだ。

 幾千の竜神の剣を保有している、かつ先代や母の力、アイラやケシニアと言った王の直系の力を持っているディンは、歴代最強と言っても過言ではないだろう。

その力を継承した場合、竜太はさらなる力を手に入れる事になる、だからディンは、竜太の方が強くなる、と言っているのだ。

「ディンさんとか蓮君の技って、俺達みたいにマナを使ってるんじゃないの?」

「俺や蓮、竜太の使う魔法や技は、基本的に魂の持っている魔力を基にして発動してるんだ。君達が大地のマナを利用してるのとは、少しばかり違うな。今君達がしてる、自身の身体に保有してるマナを使ってるのと、少し似てるかな。」

「あたしもそんな感じって言ってたっけ……。それで、竜太から見てディンが強い理由って、何なの?淵絶雷咆斬、っていうのがあるんでしょ?」

 ピノは、もちろんディンの本気を見た事はない。

興味本位、とでも言えばいいのだろうか、ディンの今の本気と言うのが、どれくらいの強さなのか、と言うのが気になる様子だ。

「そうだな……。例えば、淵絶雷っていう、第四段階以上の開放で使える様になる魔法がある、それが一撃でこの世界の神なら吹き飛ばせる程度、かな。勿論、それだけじゃ倒しきれない敵もいる、だから確実な方法としては、完全開放の淵絶雷哮砲を使う事だな。この技は、大概の敵なら一撃で落とせる。」

「竜太君は使えないのぉ?」

「僕は魔法の才能が無いから、難しいかな。探知とかは修行してたから使える様になったけど、でも他の魔法は清風くらいしか使えないんだ。それに、竜神王術は王じゃないと使えない、って父ちゃんが言ってた気がするし……。」

 竜神王術、それは歴代の王にしか使えないとされている、禁断の術だ。

威力が竜神術とは段違いであり、効力も竜神術より強い為、扱えるのが王しかいなかった、と言う話もある。

「淵絶雷咆斬、って言うのは、淵絶雷を剣に纏わせた、いわば雷咆斬の強化版だな。竜太がいつか使える様になるかもしれない、でも、使える様になっては欲しくない技だ。」

「欲しくないとは……、どういう事なのだ……?」

「それは、竜神王にしか使えない技だ。つまり、俺が死んで、竜太が跡を継承する形にならないと、使えないって事だな。俺は竜太より先に死ぬつもりはない、だから竜太が使える様になって欲しくないんだよ。」

 それは、竜太の寿命を人間と同じと考えた場合、なのだが、それは話すべき事でもないな、とディンは考えていた。

 完全なる竜神王、そしてその力を継承した場合、竜太の肉体は人間のそれではなくなってしまう、今現状としては、魂が人間と竜神のハーフな竜太が、肉体がそうなってしまった場合、耐えられるのかどうか、と言う話でもある。

 もしも耐えられなかった場合、竜太の肉体はそれにふさわしい器、つまり竜の姿になってしまう。

それをディンは望んでいない、竜太には人間として生きて行って欲しい、人間として命を全うして欲しい、と言う願いがある。

 竜神は人間と竜の姿を持つ、しかし完全な竜神ではない竜太が竜になってしまった場合、戻ってこれないだろう。

デインがそうである様に、竜太もまた、そうなってしまうのだ。

「ディンさんのお使いになられる魔法、その威力は凄まじいものがありますね……。私達では勝てない、と言うのも当たり前でしょう、そもそも、戦場を生き抜いてきたディンさんと、魔物との実戦経験が少ない私達では、話にもならないでしょうし……。しかし、私達にしか出来ない事がある、それもまた事実だという事はわかっています。ならば、私達は私達に出来る事をしなければなりませんね。」

「その気概が大切だな。俺にはこの世界の戦争は止められない、止められるのは君達だけだ。それに、俺が敵と戦ってる間、ここを任せられるだけの存在ではあると思ってるからな。」

「破壊の概念、だっけ?ディンさんが戦ってる、高次元の存在って言ってたよね。私達の運命を狂わせて、世界を滅亡に向かわせてる存在、だよね。」

「あたし、そこらへん聞いてなかった気がするけど、ディンの敵って何者なの?」

 明日奈は、プリズで聞いた事を思い出し、ピノはその詳細を聞いていなかったと思い返す。

 ディンはここまで来たらある程度は話しても大丈夫か、と一瞬考え、結界を張って休憩出来る様にしてから、話を始める。

「破壊神クロノス、またの名を破壊の概念。それは、初代竜神王ディンが生まれる前、混沌の中にあったこの世界を滅ぼすべく産み落とされた、破壊装置の名前だ。それを是としなかった神によって、竜神王は生み出されて、それ以降一千万年間戦い続けてきた。そして、一千万年間、竜神王と破壊の概念は戦い続けていた。九代目竜神王ディンが、世界を分けた時、破壊の概念は魔物を排出する機構を用いて世界を滅ぼそうとしていたんだ。それを何とかする為に、先代は世界を分けて、セスティアの文明と共に魔物を封印した。それが、竜神王に語られる真実だよ。」

「あれ?でも、デインさんはずっと前にいた人なんでしょお?魔物がいなかったの?」

「それは千年前の話だな。千年前、魔物がセスティアに現れて、それに対する対抗策として、デインはセスティアに独り降り立って、戦った。千年前の破壊の概念は、デインに封印される形で一旦脅威を失ったんだ。ただ、その封印も盤石ではなかった、だから、今こうして俺が何とかしようとしてるわけだな。」

 この話をすると、蓮の可能性に気づかれるかもしれない、とディンは一瞬考えたが、子供達がそこに行きつく可能性は小さいだろう、と直感し、話をしていた。

 竜太は、ディンから直接その可能性について言及されていた為、蓮がそうなった場合の事を聞いていたが、そして明日奈も、ある程度の話は聞いていた為、蓮がそうなる可能性と言うのを理解していたが、ディンがそれを話さないのには理由がある、と感じ取っていて、黙っていた。

「じゃあよ、その破壊の概念ってのを倒せば、世界から魔物とか、世界崩壊の危機ってのはなくなんのか?」

「理屈ではそうなるな。ただ、その破壊の概念っていうのが、どう足搔いた所で倒しきれないんだ。十代目である俺にまで出番が回ってきたのは、一千万年間破壊の概念を完全には消滅させられなかった、その証左になる。」

「えっと……。じゃあ、ディンさん達はずっと、戦い続けなきゃならないって事?」

「今のところはそうなるな。俺は最期の王って予言されてる。ただ、何をもってして最期かまではわからないんだ。先代は、自分達を必要としない世界が来るという事だ、って言ってくれたけどな。」

 或いはそれは、世界の崩壊をもって最期の王なのかもしれない。

ディンは何処かで考えていた、近いうちに、破壊の概念との決着がつくかもしれないと。

 それが世界の崩壊なのか、それとも破壊の概念の消滅なのか、それはわからない。

しかし、直感とでも言えば良いのだろうか、そう感じ取っている、程度の認識だが、永遠に続くとも考えられていたこの闘争に、終わりが来る様な気がしていた。

「……。君達は、君達の敵と戦う事に集中するんだ。じゃないと、俺も向こうとの戦い二集中出来ないからね。ある意味、君達を信頼しているからこそ、俺は破壊の概念との戦いに集中出来るんだよ。」

「僕達頑張るもん!お兄ちゃんが大丈夫だって言ってくれるくらい、強くなる!」

「その調子だ、蓮。皆、頑張ってくれよ?」

 その結末は、誰も知らない。

初代竜神王ディンですら、予言しえなかった事なのだ。

 外園が予言出来なかったと言っていたのは当たり前だ、それは世界の範疇を超えた存在の未来なのだから。

そんな中ディンが直感しているのは、初代の力を得た事に起因するだろう。

 まだ、ディンは未来を見通す力には目覚めていない。

しかし、遠くない未来、その力を発現する可能性を秘めている、その予兆なのではないか、と。

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