竜太の覚悟

「ここ、どこだ……?」

「来たのだな、聖獣の守り手よ。我はサラマンダー、炎の精霊。」

「うぉ!?トカゲ……?火ぃ噴いてっけど、熱くねぇんか?」

 俊平が気が付くと、朱雀に会った時の様な、柔らかい光の空間の中に、大きな体に炎を纏ったトカゲがいた。

俊平が驚いていると、自己紹介をするサラマンダーは、見た目よりも丁寧な性格をしているのだろうか、静かに声を発する。

「朱雀の守護者よ、お主に力を与える前に、試練を1つ受けてもらおう。」

「試練?何すりゃいいんだ?」

「この炎を突破する、それだけの事だ。それが出来れば、お主に力を与えよう。」

「炎……、うぉ!?」

 サラマンダーがそう言い終えると、サラマンダーの周りに炎が噴き出す。

俊平の周りにも炎が噴き出し、一気に熱さで倒れてしまいそうになる。

「突破って……!どうすりゃいいんだ!」

「それを知るのが試練なのだ。」

「くっそ!」

 洋服や皮膚は、纏っている魔力のおかげで燃えないが、しかしこのままでは死んでしまう。

自分が普段扱っているのより数段と強い炎の中で、俊平はどうすればいいのかと目を白黒させる。

「お主の魂に聞くがよいぞ、さすればどうすれば良いかは自ずとわかる。」

 そういうとサラマンダーの姿が見えなくなり、俊平の周りには灼熱の炎が残される。

「どうしろってんだ……!」

 激しい炎の中、俊平は戸惑う。

どうすればこの炎を突破出来るか、皆目見当つかない。

 これは本格的にまずい、と俊平は焦った。


「これは……!」

「あんたの魔力、魂に刻まれた力があれば、こんくらいの水、どーって事ないと思うんだけどなぁ?」

 尖った耳に青い肌、水色の魚の下半身という姿をした、精霊ウンディーネの元に来ていた清華。

ウンディーネの試練は、濁流ともいえるこの水を渡り切り、ウンディーネの元にたどり着く事。

 しかし、一歩間違えれば足を掬われそうな濁流の中で、清華は動けずにいた。

「ほらほら、そこで止まってちゃ終わんないわよ?そーれ!」

「これは、まずいです……!」

 ウンディーネが魔力を練ると、濁流の暈が上がってくる。

このままでは溺死してしまう、もう腰丈まで水が上がってきた。

「さぁどうするの?あんた、ここで死んじゃうの?」

「……!」

 ウンディーネがますます魔力を増幅させ、腰の上まで水が上がってくる。

清華は流されない事に精一杯で、打開策を見つけられないでいた。


「うわぁ!」

「貴方のお力はこのようなもので?もう少し魔力の使い方をお勉強された方がよろしいですわよ?」

 黄緑色の花を着た様な金髪の小人、シルフの試練を受けていた修平は、シルフの起こす風に吹き飛ばされそうになっていた。

だんだんと強くなっていく暴風に、地から足を離さないので精いっぱいだ。

「どうすれば……!」

「貴方の魂、それが答えをご存じですわよ?」

「魂、なんて言われても……!」

 シルフの言葉が理解出来ない修平は、巻き起こる暴風に手も足も出ない。

シルフは何か確信をもってその話をしている様子だったが、肝心の修平が理解できていないのでは意味がない。

「もう少し風を強めますわよ?お覚悟を。」

 シルフは、それを確かめる為に魔力を練り、更なる暴風を発生させる。

修平は成す術なく、ただただ堪えるしかなかった。


「ほうれほうれ!そろそろ首が沈んでしまうぞ!」

「……。」

 土色の肌をして、身長と同じ程度の茶色いひげを生やした小人、ノームの試練を受けていた大地。

その試練はノームの作り出した土から抜け出す、というものだったが、流砂の様に足が徐々に沈んでいき、もう上半身も半分沈んでいた。

「何をしちょるか!魂に刻まれた魔力を発現すれば、そんなもの一瞬で抜けられようて!」

「……。」

 ノームの言葉の意味が分からない大地は、魔法を使う時と同じ魔力を練ろうとする。

しかし、魔法が発動する気配も、普段感じている魔法が発動する時の感覚もない。

 どうやら、魂に刻まれた魔力、というのは普通の魔力とは違う様だ。

「……。」

 大地は熟考する、魂に刻まれた魔力とは何なのかを。

ヒントは今までの旅であったはずだ、誰かが何かを言っていたはずだ、と。

「……、そうか……。」

 魂に刻まれた魔力、その答えを大地は導きだす。

しかし、それを発動する手立てを知らない、そう感じた時。

(ふぉふぉふぉ!お主の力、やーっと理解してきた様じゃな!)

「玄武、か……?」

 頭の中に声が聞こえてきた。

それは、数か月前に精神世界で相対した玄武の声で、大地は体のうちから何かが湧き上がってくるのを感じる。

(それが、お主の魂に刻まれた魔力じゃよ!)

「うむ……。」

 不思議と、発現する方法がわかる。

自分の魂を鳴動させ、その内側にある根源的な魔力を発現する。

 ノームの発生させた土の流砂の様なものが、自身の体から離れていく。

それは、魂の魔力を以て、ノームの魔力をかき消した。

「合格じゃな、お主のその力は確かに四神の戦士の末裔のものじゃ。」

「これが……?」

 力が湧き上がってくる様だ、自分自身では制御しきれない程に。

制御方法をまだ知らないというのが正しいのだが、確かにこのままセスティアに戻ったら、化け物と断じられるのも無理はないだろう、と感じる程力が漲ってくる。

「行くがよいよ、お主はもうちとばかし強くならねばならんからな!」

「感謝する……。」

 大地は目を閉じる。

ノームの強い気配が近くにあったが、それがだんだんと遠のいていき、気が付けば神殿の大きな扉の前に立っていた。

 他の4人はまだ戻ってきていない、それを魔力を通して感じる。

大地は、無事に4人が戻ってこれることを、祈った。


「君が守護神の力を使っているのかい?にしては物騒な闇を持っているんだね!」

「だあれ?」

「僕はウィル・オ・ウィスプ!君の力を引き出したいんだけど、ちょっと難しいなぁ。」

 蓮の目の前には、白い火の玉に目と口がついている様な姿の精霊、ウィル・オ・ウィスプがふわふわと浮いていて、困った様な声を出していた。

物騒な闇、とは何のことなのか、蓮にはさっぱりわからなかったが、蓮の本能が、その正体について知っている、様な気がする。

「君の闇を取り払いたい所なんだけど、僕の力じゃ無理だねぇ。それなら、僕の光の力を全部は使えないかなぁ。」

「そうなのぉ?僕、闇ってよくわかんないや。」

「君の闇はねぇ、世界の闇なんだよ。人々の闇を抱えてる、こんなケース見た事ないよ!」

 世界の闇、とはいったい何だろうか。

そんな事を蓮が考えていると、ウィスプはまあ仕方がないか、とため息をつき、魔力を練る。

「これから君が受ける試練は、君の光を信じてする試練だからね。闇に負けちゃいけないよ?」

「僕、負けないよ!」

「信じるからね。」

 そういうと、ウィスプの姿が見えなくなる。

かと思えば、あちらこちらに人影が現れて、実体を持ち始めた。

「お兄ちゃん?」

 その後ろ姿はディンそのもので、ディンが沢山蓮に背中を向けている様な状態だった。

「お兄ちゃん!」

 蓮は叫ぶ、そして一番近くにいた人影に手を伸ばす。

「おとう……、さん……?」

 しかし、人影が振り向いてみると。

その顔は、かつて自分が殺した父そっくりのもので、昔向けられていた様な下卑た笑みを浮かべていた。

「や……、やだぁ!」

 蓮の声に応じる様に、人影が次々に振り向く。

その姿は、母や自分をいじめてきた同級生、見放された島の人々の姿だった。

「やだぁ!」

 蓮は、その場にしゃがみこんで震えてしまう。

あの頃に戻るのは嫌だ、もう関わる事も無いと思っていたのに、と。

「お兄ちゃん……!」

 助けてと願う、それは間違いではない。

あの状況から救ってくれたディンに、助けを求めるのは悪ではないだろう。

「なんで……、僕……。」

 怖い。

その感情は、蓮の中の闇を揺り起こし、精神を揺さぶる。

「でも……。」

 闇に飲み込まれてはいけない、と心が叫ぶ。

ここで闇に飲み込まれてしまったら、蓮は帰ってこれないだろう。

それを本能で理解しているから、かすかな光がそれを阻止しようと、蓮の中で強く輝く。

「お兄ちゃん……!」

 蓮は、ディンを探そうと立ち上がる。

皆後ろを向いている時はディンそのものだったが、振り返ると姿が変わる。

ならば、蓮の中の光が、ディンを見つけてくれるのではないか、と。

「お兄ちゃん!」

 叫ぶ。

数多ある人影の中から、ディンを探す為に。

 走る。

心の叫んでいる方向へ、光の導く方へと。


「あれ……?」

 しばらく走って、少し呼吸が乱れてきた。

蓮は立ち止まって休憩していると、微かに光をいくつか感じていた。

 この感覚は覚えがある様な、いつもそばに居た様な、そんな感覚。

蓮が見えていなかった、ディン以外の光の存在。

「みんな……?」

 その光は、蓮の中にある光。

蓮が意識していなかっただけで、ずっと傍にいてくれた光。

「竜太君?」

 1つの人影に声をかけると、人影は振り向く。

「正解だよ、蓮君。」

 竜太の姿をしたその小さな光は、微笑みながら消えていく。

蓮は、何をすればいいのかを理解して、めげずに次の人影を探しに行く。

「大地さん!」

「蓮よ……、待っておったぞ……。」

また一つ。

「清華さん!」

「蓮君、私達はずっと、そばに居ますからね。」

 1つ見つけると、次々に見つかる、その光。

「俊平さん!」

「蓮、俺達だって仲間だぞ?」

「修平さん!」

「蓮君、頑張ったね。」

 まだ足りない、まだ光はあるはずだ。

それを探す為、蓮は広大な空間の中を走り続ける。

「リリエルさん!」

「蓮君、貴方が今、幸せでいてくれて嬉しいわ。」

「ウォルフさん!」

「oh!見つかったな!蓮よ、大事な事を忘れちゃいかんぞ?」

 走り続ける、心の中にある光を探して。

蓮は、自分の中の光が、少しずつ強くなっているのを実感する。

「セレンさん!明日奈さん!ピノちゃん!外園さん!」

呼びかければ、応えてくれる仲間がいる。

ずっと欲しかった友達が、大切な仲間が、大切な存在が。

「お兄ちゃん!」

「蓮、よくやったな。もう、大丈夫だ。」

 最後に、ディンを見つける。

ディンは、まるで本当にそこにいるかの様に笑い、蓮を抱きしめ、光となって消えた。

「合格だ!君の光は沢山の人々によって支えられている、それを忘れちゃいけないよ?」

「うん!」

 ウィスプが現れ、微笑む。

蓮の中の光、その可能性は、マナの集合体であるウィスプにはよくわかっていた。

 だから、それを試し、闇に負けない力を持っているか、を試したのだ。

「僕の力、うまく使ってね!」

「ありがとぉ!」

 ウィスプが消え、目の前が眩しく光る。

蓮は眩しくて目を瞑ると、その空間から消えていった。


「では、貴方は人間と竜神の間の子だと?」

「はい、そうなりますね。」

「それで、人間の魔力が混じっているはずですわね。貴方を御生みになられたのは、どの竜神でしょうか?」

「10代目竜神王、ディンです。僕は、10代目竜神王の息子なんですよ。」

 試練の扉のすぐ近くの応接室にて、10代目と聞いてディアーヌは疑問を浮かべる。

竜神王は先代の話は聞いていたが、現代の竜神王に関しては情報がなかったからだ。

「10代目は今どちらにいらっしゃりますの?貴方が代理でいらっしゃられたのでしょうか?」

「今は別の所にいます、他の仲間が控えているので、そっちにいるんじゃないかな。」

 外園と何処かにいる、とは言えない。

フェルンが外園を求めている可能性がある、と言っていた以上、余計な情報は与えられない。

「お仲間の方というのも、竜神なのでしょうか?」

「いえ、竜神に選ばれた人達です。それぞれが特化した能力を持ってて、今は聖獣の守り手の指南役をしています。僕も、その一人ですよ。」

「1000年前にはいなかった方々ですね、何故今回はおつきになられているのでしょう?」

「……。とある神様が、マグナの神々に力を与えている、と竜神が言いました。」

 竜太は、うまく嘘をつく自信がなかった。

しかし、外界の事はタブーとされているし、何より外園の情報を与えるわけにはいかない。

だから、下手でも嘘を貫き通すしかないのだ。

「その神とは?」

「えっと……。クロノス、だったかな。」

「クロノス……?確か、1000年前の大戦の首謀者だったでしょうか?今は冥界タルタロスに幽閉されているはずですが、彼の神がまた戦争を起こそうとしている、と。」

「はい、そうだって僕達は聞いてます。」

 ディアーヌが勘違いをして、うまくミスリード出来た様だ。

事実、この世界の豊穣神クロノスが関わっているのは間違いではない、ただ外界の神クロノスが手を引いている、というだけだ。

 クロノスの正体はまだ竜太も聞かされていない、だから何かボロが出る心配もないというわけだ。

「世界が滅ぶという予言はされていませんでしたが、それは子供達がいるからなのでしょうかね。」

「え……?」

「この国には、アンクウという死を司る予言者がいました。その者は何処かへ逃亡してしまいましたが、直前まで何も言いませんでしたし。という事は、世界は滅ばないという事でしょう?」

「そう、なんですかね?」

 外園の事を言っているのだろう、ならば外園は、フェルン側には世界滅亡の予言をしなかったという事になる。

フェルンへの信頼がなかったからだろうが、まさか何も言っていなかったとは、と竜太は驚いた。

「アンクウはドラグニートでの目撃を最後に、消えてしまいました。貴方は、アンクウに、外園に会った事がありますか?」

「……。」

「まあ、聞かずとも貴方からは外園の魔力の残滓を感じますので、会っている事は確定なのですが。さぁ、何処で外園に出会ったのでしょうか?彼は今、何処にいるのでしょうか?」

 ばれている。

ディアーヌをはじめとしたハイエルフ達は、エルフ達よりさらに魔力の循環や状態に細かく反応出来る。

ディンや竜太の様に探知が使えるわけではないが、誰が誰と関わっていたか、程度には認識が出来るのだ。

「……。僕が話したとして、外園さんをどうするつもりですか?」

「それは決まっているでしょう?アンクウとしての職務に戻っていただかなくてはなりません。使命を放棄するなど、許される事ではありませんからね。」

「……、出来ません。確かに僕は外園さんの居場所を知っています。でも、貴女達に教えるわけにはいかない。外園さんは、命がけで今も戦っているんです。」

 竜太は、外園がフェルンを出た理由を、少ししか聞いていない。

しかし、命がけで亡命した事は聞いていたし、アンクウとしてここに戻る事は望まないだろう、とそれは理解していた。

 だから、ここで外園を渡すわけにはいかない。

「外園さんは、僕達の大切な仲間です。アンクウなんて、そんな事をもう一回させたくはありません。」

「それは困りました。竜神の子よ、良いですか?世界には、役割というものがあるのですよ。貴方が世界を守る事が役割である様に、外園はアンクウとしての役割があるのです。私達は、それを全うさせているに過ぎません。」

「でも、外園さんは苦しんでいました。そんな役割、無くたって生きていけるはずです。」

「……。どうしても、外園の居場所を教える気はないと、そういう事でよろしいので?」

 ディアーヌは最後のチャンスだと、竜太に問いかける。

竜太は意見を変える気はない様で、普段は優し気な瞳で真剣な眼つきをし、ディアーヌを見ていた。

「では、交渉とまいりましょう。子供達を無事にこの国から出してほしいのなら、外園を差し出しなさい。」

「……、断ります。」

「では、子供達はここで一生を終えてもらいましょう。精霊の試練を受けたという事は、私達ハイエルフの魔力が通じるという事です。貴方にも、私達の国を盤石とする為の贄となって貰いましょうか。」

 ディアーヌがそういうと、応接室の門が開かれる。

外から屈強な体格をしたトロルやゴブリン達が入ってきて、その妖精達は何かを持っている様だった。

「これは子供達の魂の核、今現在試練の扉の中にいる子供達の、いわば本体とでも言えば良いでしょうか。これを破壊したら、どうなるか。それは、頭の悪そうな貴方でも、わかるでしょう?」

「……。」

「さぁ、外園の居場所を言いなさい。そうすれば、貴方達は無事にこの国を出て、使命を果たす事が出来るでしょう。」

 ディンが竜炎で作り出すのよりも大きい、手のひら大の黄玉。

それが魂の欠片や核である事は、竜太の探知でも理解出来た。

 それを破壊してしまったが最後、魂を失った肉体は壊れてしまうであろうことも。

「……。僕、そんなに甘く見られてるんですかね。」

「なんでしょう?」

「確かに僕は、父ちゃんに比べたら弱いです。意思が弱ければ、身体的な強さも追いつかない。でも、仲間を守りたいっていう気持ちだけは、負けてるつもりはないんですよ。」

 刹那、竜太が動いた。

 誰にも反応出来ない速度で、ディアーヌでさえその揺らぎに気づけない程の速度で、魂の核を持っているトロルとゴブリンの腕を切り落とした。

「皆さんが世界を守ると決めた様に、父ちゃんが家族を守ると決めた様に。僕だって、家族や仲間を守るっていう覚悟はあるんです。その為に、誰かを傷つける事になったとしても。それが、罪であったとしても。」

トロル達が斬られた腕から血を滴らせながらうめいている中、魂の核が無事である事を確認すると、竜太は今までした事のない事を出来ると感じていた。

『陰陽術、五重結界』

 5つの魂の核を囲う様に、結界が展開される。

それは、竜太がずっと使えないと思っていた結界術、ディンが使えるはずだと言っていた結界術だ。

 怒りに身を任せたわけではない、竜太は瞬時に、自分が何をするべきかを理解したのだ。

「破壊しなさい!」

 ディアーヌが叫ぶ。

ゴブリン達が、一斉に魂の核に向けて攻撃をしようとする。

が、届かない。

竜太の張った結界に阻まれ、攻撃をする事が出来ないのだ。

「これ以上は話をしても無駄ですね、僕達をここから出さないというつもりなら、僕は貴女を、斬る。」

「生意気な……!人間風情にこの私が負けるとでも思っておいでで!?」

「僕は継承者、11代目竜神王になる。それは、この世界の誰よりも強くなきゃなれないんです。その覚悟は、この旅の中で嫌という程出来ました。」

 餓鬼に攻撃をためらっていた竜太と、同じ人物とは思えない、今の竜太。

それは、仲間に危害が加わる可能性に直面して、覚醒したと言えるだろう。

 優しさだけでは何も救えない、それはただ弱いだけだ。

それを痛い程感じているから、竜太は心の中で折り合いをつけられていた。

「戦いたいっていうなら戦います。でも、僕は負けない。仲間を守る為なら、僕は負けるわけにはいかないんです。」

「……!」

 優しげな竜太からは想像がつかない程の気迫を感じ、ディアーヌは後ずさる。

この眼は本気だ、戦えば最後、自分は殺されるだろう。

 それを直感してしまったディアーヌは、1つの選択肢しか残されていなかった。

「わかり、ました……。子供達を、無事に、この国から……。」

「……、わかっていただけて良かったです。それでは、僕はこれで。」

 そういうと、竜太は魂の核を持って応接室を出ていく。

ディアーヌは、あの気迫は何だったのか、ただの子供のはずなのに、と震えるしかなかった。

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