修行という名の
「お、丁度戻ってきたとこか?武器、回収するぜ?」
「セレンさん!俊平君!武器って、セレンさんに貰った武器ですよね?」
「竜神から貰った武器回収っつったら、おめぇら戦えねぇだろ?」
宿の入り口で、ばったりと会う6人。
もう夜も更けていて、夕食を食べるにはギリギリの時間だろう。
大地達は夕食を食べ、風呂に入り部屋に戻っている。
「うっし、おめぇらの武器またつくっか!」
「しかし、竜神様から頂いた武器では足りないのでしょうか?魔力を流すのに適している、とディンさんは仰られていましたが……。」
「まぁ、念のためだ。ディンに依頼されたのは、そういう武器だからな。」
「……?」
セレンはまだ武器を鍛造する予定がある様だが、清華達はその意味が理解出来ない。
それならば、何の為に竜神から武器を受け取ったのか、理由がわからないからだ。
しかし、ディンがそういったのであれば、何か意味はあるのだろう、自分達にはそれがわからないだけかもしれない、と考えられる。
「とりあえず飯にしないか?昼飯を抜いちまったから腹が減った。」
「そうね、食事にしましょう。今日のメニューは何かしらね。」
「俺は部屋にいったん武器置いてくるわ。」
セレンだけ別行動で、他の5人は食堂へ向かう。
武器を抱え、階段を上がって部屋に入ったセレンは、ふむと一言唸る。
「なぁディン、あの武器も相当な力籠ってるみてぇだけど、俺武器造る必要あるんか?」
「四神の宝玉、それを使った武器が一番いいからな。それには、ルベにもこの世界の武器の仕組みを知ってもらう必要があっただろう?」
セレンが部屋についたのとほぼ同時に、風呂上りと思われるディンが部屋に入ってくる。
セレンは自信なさげに問うと、ディンは何か確証めいた物がある様で、すらりと答える。
「つっても、俺は光から武器なんて造れねぇし……。」
「様は理論の問題だよ。どういう形で造られた武器でも、それに則した理由がある。竜神達の武器の魔力の流し方を、学んで取り入れれば良いんだ。」
「それにしたって素材がねぇよ。」
「それはこれから、旅の中で探そう。俺もこの世界で一番の素材が何かは知らない、だからルベの力も必要になってくる。」
ディンはセレンと2人きりの時だけ、セレンを「ルベ」と呼ぶ。
その呼び名は、かつて家族に呼ばれていた名だ。
セレンにとっては、家族との繋がりを辿る1つの依り代、とでも言えば良いのだろうか。
だから、皆の前では安易に呼ばない、それはセレンの心に影を落とす可能性があるから。
「頼りにしてるよ、ルベ。」
「おめぇにそう言われっと、なんでか知んねぇけど気持ちが軽くなるんだよな。」
暗い顔をしていたセレンだったが、頼られるというのは気持ちがいいものだ。
プレッシャーが無いわけではないが、それ以上にモチベーションや気分を上げてくれる。
特にセレンは、幼少期から体が不自由だった為、誰かに頼られるというのは嬉しい様だ。
「さ、飯食べてきな。俺達はもう食べたから。」
「おう、武器は工房に転送してくれよな。」
「了解。」
セレンは少し元気になると、食事を食べに部屋を出ていく。
ディンは転移を使い回収された武器を外園邸の工房へ送り、蓮がいる部屋へと戻った。
「おっはよー!」
「え、どちら様ですか……?」
「私?明日奈だよ!宜しくね!」
「明日奈さん、ですか。私、鈴ヶ峰清華と申します。」
朝、朝食を食べに食堂に降りていた四神の使い達と指南役。
そこに遅れてディンと蓮、外園にピノと明日奈が降りてきて、明日奈が知っている竜太と大地に声を掛けた。
清華達は誰だこの人は?という感じで、ディンの方を見た。
「こっちは明日奈、ちっこいのはピノ。協力を要請した、戦士だよ。」
「明日奈さんにピノちゃん?協力って何ですか?」
「これから先、2人の力が必要になるかと思って協力を頼んでたんだ。」
協力を頼んだ、という事は指南役ではない、とリリエルとウォルフは理解する。
セレンもなんとなくだが、自分達とは違う役割なのか?と頭の隅で考える。
「まずこの銀髪のお姉さんはリリエルさん、こっちの黒人はウォルフさん。メッシュでツナギ着てるのはセレン、ブレザーにパーカーなのが俊平君で、空手着なのが修平君だ。」
「いっぺんに言われても覚えきれないわよ……。まあいいわ、あたしはピノ、皆よろしく!」
「ピノちゃんは何歳なのかしら?蓮君と同じ位に見えますが……。」
「あたしは17よ!あんた達と同い年!まったく……、何回同じこと言ったのかしら。」
ピノが年齢を言うと、一同は驚く。
それもそうだ、どう足掻いた所で蓮と同い年位にしか見えない、少女の姿なのだから。
ピノは、本当に何度言えばいいのか、と若干うんざり顔だ。
「そうなのですか!?申し訳ありません、ピノさん。お若いお姿ですので、間違えてしまいました。」
「わかってくれればそれでいいのよ?」
「さ、話してるのもいいけど、そろそろ飯食べて修行開始しないと。」
話が済んだ所でディンが横やりを入れ、それもそうかと各々朝食を食べ始めた。
「さて、今日から一週間で、連携を覚えてもらおうか。武器の使い方も、その間に覚えられるだろ。」
翌朝、朝食を終えた一行は、エレメントの一画にある広い演習場に来ていた。
ここは武芸者や冒険者、各神殿の守り手などを育てる為に用意された、ある程度壊れてもいい場所だ。
その証拠に、というわけではないが、所々地面は抉れ、囲いも壊れた形跡がある。
「あの、ディンさん。私、二刀流をと竜神様に言われたのですが、ディンさんが二刀流を使うというのは本当なのですか?」
「フラディアかボルテジニから聞いたのかな?そうだなぁ、たまに二刀流になるよ、俺。」
「ディンさん、片腕しかないのに二刀流するんですか?どうやって…?」
「まあ慌てない慌てない。」
ディンは演習場の中央に立っていて、それを四神の使い達を蓮が囲い、指南役達と外園にピノと明日奈は少し離れた場所に立っている。
その中でも、竜太はどうやって二刀流になるかを知っていたが、知らない面々はざわつく。
「さて、どうやって二刀流になるか、だね。」
ディンは早々に答え合わせをしようか、と右腕を前に出す。
肘手前までしかないその腕は、パーカーが風に揺られてひらひらとしていた。
「竜神王剣竜の意思よ、我が右腕となり、我が力となれ。」
ディンが呟くと、光がディンの腕付近に零れだし、形を形成していく。
ひらひらと風に揺られていたパーカーの袖が、固定される。
光が収まると、ディンの右腕の先に銀色の腕と手があった。
「これが俺が二刀流出来る理由だよ、剣を腕に変えてるんだ。」
右手をひらひらさせながら、ディンは修行の段取りを考えていた。
「ねぇ竜太君、ディン君は竜神王剣、って今言ったわよね?竜神剣は1人1つじゃないのかしら?」
「竜神の剣は生死のやり取りによって、譲渡されるらしいです。昔一度デイン叔父さんを討ったから、竜の想いを。家族や他の竜神達とは、色々あったって話ですよ。」
ディンが右腕を出すと、リリエルが疑問を竜太に投げる。
竜太は事情は知っている様で、リリエル達には話しても構わないか、と指南役達にだけ聞こえる様に答えた。
その言葉に指南役達は少し驚く、まさか同族を手にかけていたとは、と。
「デイン様が一度討たれている、というのはどういう事でしょうか?」
「デイン叔父さんは僕が生まれる前の時間軸で、父ちゃんと戦ったって話です。その時に、竜の想いを受け継いだんだって。」
「そういやテンペシアが、ディンは一度時間を逆行してる、とか言ってたっけか。」
「その前の話らしいですよ、今の時間軸では無かった事だけど、父ちゃんは当時は兄弟だった今の子供達を失ったって。」
竜太も詳しく聞いたわけでもなければ、詳しく覚えている訳でもない。
消えてしまった時間軸、その話はかいつまんで聞いただけだ。
タカ派の竜神達との戦争の話も聞いていたが、今はそれは話す事でもないか、と考える。
「それじゃあ、竜神王サンは他にも武器を持ってるって事か。」
「はい、そういう事になります。」
竜太は余計な事を言わない様に、言葉数を少なくする。
知られてはいけない訳でもないとは思うが、ディンが話していない以上、自分が話す様な事でもないか、と。
皆は各々、何か疑問を持ってはいたが、竜太に聞くのも違うな、と聞かなかった。
「清華ちゃんは二刀流を学びたいんだったね、俺の流儀に合わせる必要はないから、思った通りにやってみるといいよ。」
「しかし、私は二刀流をした事がありません……。」
「勾玉を通して、千年前の戦士の記憶が教えてくれるさ。それを呼び起こす為にも、試しに使ってみるといい。」
ディンは左手を目の前に上げながら、清華に伝える。
清華だけではない、他の3人も勾玉に記憶が残っている。
だから、それを引き出す作業をすれば格段に力は増すはずだ、とディンは考える。
蓮は、封印開放をしていられる時間を増やすという、別の修行が必要だが。
「限定封印第二段階開放、竜神王剣竜の誇りよ。蓮、封印開放して修行だ。」
「みんなと一緒だと、お兄ちゃん大変じゃなあい?」
「第二段階解放したから平気だよ、蓮を中心に連携を組み立てる練習だ。蓮の封印開放、それについてこられる所まで行くのが目標だ。」
「あの力に……?儂らが、辿り着くのか……?」
直接対面した事のある大地は、蓮と自分達の実力差をよくわかっていた。
だから、あれに追いつかなければならないのか、と驚愕する。
他の3人も横で見ていただけだが、ディンのあの動きについていける蓮と同じレベルに、を1週間でというのに驚いていた。
「出来る……、のでしょうか……?」
「まあ俺に任せなさいな、思案はたっぷりしてきた。」
「じゃあ、僕封印開放すればいいの?」
「おう、皆武器を構えな。」
ディンに言われ、蓮は両刃剣をねじりくっつけ、清華は日本刀を右手に脇差を左手に、俊平と修平に大地もそれぞれ武器を構える。
「さ、修行開始だ。」
ディンが笑いながら宣告し、過酷な修行が始まった。
「封印かい……。」
「遅い!」
「わぁ!」
「蓮君!?」
まずは蓮が封印開放をしようとした所に、ディンが一瞬で飛び脇腹に蹴りを入れる。
手加減はある程度しているが、蓮は吹っ飛ばされ壁に激突した。
「蓮が封印解放するまで、君達は突っ立ってるだけか?」
「え……?」
「実践では、封印開放してるその一瞬を狙われる事もあるんだぞ?」
「お兄ちゃん、痛いよぉ……!」
手加減はしている、がある意味本気でもあるディン。
攻撃には手を加え力を加減しているが、実践を想定して本気を出している。
今のディンに攻撃を与えるには、文字通り5人が連携を組まなければいけないだろう。
「蓮君守って戦わないと!」
「わあってる!」
四神の使い達は、壁に激突した蓮をかばう様にディンに相対する。
ディンはまだまだ甘やかされると思っているのか、と少しため息をつく。
「ほら、君達のその陣形に意味があるか?」
「何……!?」
「蓮、ある程度力入れないと怪我しちゃうからな?」
「わかったよぉ……。」
四神の使い達に見えない速度で、蓮に近づくディン。
蓮の頭を撫でながら、さっさとかかってこいと挑発をする。
「守りばかりではいけない、という事ですね…。二刀流は初めてですが、そうも言っていられない様ですね!」
「お、清華ちゃんが最初に来たか。」
清華は両手の刀を右に寄せ、左右同時に振りぬこうとする。
が、清華の武器は日本刀と脇差、長さが違うのだから同じ様に振っても意味がない。
「そんなんじゃ俺に一撃与えるなんて、千年経っても無理だぞ?」
長刀の攻撃を剣で防ぎ、また飛ぶディン。
今度は5人から少し離れた場所に現れ、こいこいと挑発する。
「攻めないと、蓮君が封印開放出来ません!皆さん!」
「おう!」
「わかった!」
「うむ……!」
清華がディンの意図に気づき、全員で突撃する。
まずは一番足の早い俊平が、攻撃を繰り出した。
『ニトロバーン!』
「甘いよ。」
「うぉわ!?」
炎の魔力を練り、ニトロバーンからの一撃を加えようとした俊平、だがそれはディンに読まれていた。
右手でニトロバーンの魔力を弾くと、左足で蹴りを入れ俊平を吹き飛ばした。
「ぐぅ……!」
壁に叩きつけられた俊平は、今まで感じた事のない痛みに襲われる。
ゴブリンファングに叩きつけられた時より、強い衝撃。
叩きつけられた背中から、全身に痛みが走る。
「俊平君!」
「よそ見をしてる余裕があるのかな?」
「ぐ……!」
俊平の方を向いてしまった修平に、ディンが右手で掌底を腹に叩き込む。
一瞬の事に反応出来なかった修平は、俊平と同じように吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
ミシミシと骨が悲鳴を上げている音が、修平の脳に痛みと共に響き渡る。
「修平さん!」
「お兄ちゃん!酷いよぉ!」
「酷い、か。蓮、今のまま神々と戦って勝てるか?」
「え……!?」
蓮が俊平の、清華が修平の元に駆け寄り、蓮が涙声で訴える。
しかし、ディンは怯まない。
逆に、今のまま戦場に送り出す方が、無駄死の一途を辿ると理解しているから。
「ほら、一撃喰らった位でそんなだと、死ぬぞ?さっさと起きてかかってこい。それに蓮、いつ封印開放が出来るんだ?」
「儂が、時間を稼ぐ……。蓮よ……、あの力を使え……!」
「……、うん!」
ディンの言葉の意味を理解した大地が、ディンと蓮の間に立つ。
ディンはただ強いわけではない、自分達を強くする為にあえて悪役になろうとしている。
大地はそう考え、それならばそれを汲み取らなければ、と感じた。
「せい……!」
「大地君、気概は買うけど1人でいいのか?」
「1人ではありません!私もいます!」
大地が棍を思い切り横に振り、ディンはそれを竜の誇りで受ける。
火花が散り、ガキンという音がしたのとほぼ同時に、清華が走ってきた。
左手の脇差を水平に振りかぶり、ディンの右側から一閃を喰らわそうとしている。
「上手いと言いたい所だけど、俺の右手は何で出来てるか忘れてないか?」
「え!?」
清華の脇差の一撃を、右手で掴んでしまうディン。
金属がぶつかる音がして、それに清華と大地は驚き、一瞬固まってしまう。
「これくらいで集中力切らしてたら、死ぬよ?」
「きゃあ!」
「くっ……!」
そこを見逃すディンではない、掴んだ脇差を思い切り握り、清華から奪って柄で胴防具を刺突、竜の誇りを持っている左手に力を籠め、大地を棍ごと吹き飛ばす。
刃を掴み刺突したのだから、威力は落ちそうなものだが、清華は地面に転がり衝撃にむせる。
大地はなんとか足を地面につけ、転ばずにまた戦闘態勢に入る。
「蓮、俺だっていつまでも甘いまんまじゃいられないぞ?」
「う、うん!」
再びディンと蓮の間に立つ大地と、痛みに慣れてきたのか戦線復帰する俊平。
ディンは清華の方へ脇差を投げると、大地と俊平を迎え打とうと構える。
「蓮!てめぇはさっさと封印開放しろ!」
「わ、わかった!」
「大地!2人で迎撃するぞ!」
「うむ……!」
武器を構える2人は、いつディンが攻めてきてもいい様にと構えを取る。
しかし、ディンの速度に反応出来るかどうかさえわからない状況で、それが吉と出てはくれない。
「俺はこっちだぞ?守りに入って俺の速度に追いつけるか?」
「な!?」
「ほら、これでもうダメだ。」
ディンが消える。
刹那、蓮は首筋に強い衝撃を感じ、気を失ってしまう。
倒れそうになる蓮を、ディンは右腕で抱えて倒れない様に支える。
「蓮に封印開放させる事すら出来ない、それが今の君達の実力だ。」
「そんな事……、言われたって……。ディンさんが、強すぎて……。」
「まだ五段階中二段階しか能力開放してないのに、そんな泣き言吐き出すのか?これから先、今の俺より強い奴がいたら、諦めるのか?」
「相手が…。相手がどんなに強くとも、私は諦めません…!」
ディンが若干呆れていると、ゲホゲホと咳込んでいた清華が立ち上がる。
まだ終わりではない、まだ戦えると、脇差を拾い、構える。
その構えは、二刀流を知らない人間がする様な構えではなかった。
清華自身も何故その構えを取っているのかはわからない、しかしその構えが自然体である気がした。
「その通り、君達は諦めちゃいけない。竜太、蓮を頼んだよ。」
清華の言葉を聞いて少し黙った後、ディンは嬉しそうに笑いながら、抱えていた蓮を竜太に預けた。
竜太は蓮を抱えると、何処か不安げな顔をディンに見せる。
「父ちゃん、やりすぎじゃない……?」
「良いんだよ、これで。」
ディンはそれだけ言うと、清華達に向き直る。
修平もダメージから少し回復しており、今度は4人が相手になりそうだ。
「さ、仕切り直しだ。」
「皆さん!一斉に攻撃すればディンさんも対応が遅れるはずです!」
「わかった!」
清華達は、四方向にばらけて攻撃を仕掛けようとする。
その考えは、基本的には正しい判断だろう。
相手は1人、四方向からの攻撃には対応しきれないはずだ、と。
「行きます!」
「うむ……!」
「行くぜ!」
「行くよ!」
四方向からのほぼ同時攻撃、しかも清華は二本の刀を使い攻撃してきている為、実質五本の武器が迫ってきている。
そんな中、ディンは良い傾向だと笑いながら、動いた。
「うぉ!?」
まずは一番早くディンにたどり着いた俊平の刀に剣を重ね、弾いてから右拳で脇腹を殴る。
「っつ……!」
続いて繰り出された修平の拳を、合気道の要領で掴み、転ばせる。
「そんな!」
次に清華の二本の刃による攻撃を、左右に剣を振り弾き、右手で胴防具を掌打。
「う……!」
最後に大地の棍を躱し、剣を消して後ろに回り、首筋に手刀を一撃。
「いい線行ってるけど、まだまだ連携が足りないな。」
大地と清華は衝撃で気絶し、俊平は痛みに悶えながら転がっており、修平は転ばされた時の衝撃で肺に空気が上手く入らず、呼吸を乱している。
「2人とも気を飛ばしときな。」
悶えている俊平の鳩尾に拳を入れ、呼吸を乱している修平の首筋に手刀を入れ、全員を気絶させるディン。
声を上げる者がいなくなり、場が静かになる。
「ディンさん、やりすぎではないですか?」
「ん?これでいいんだよ。」
呆気に取られていた指南役達だったが、外園がハッとして声を上げる。
修行とは名ばかりの、一方的な攻撃が行われていたのだから、疑問を持つのはある意味当然だろう。
戦場に慣れているウォルフとリリエルでさえ、その容赦のなさに唖然としていた。
「これでいい?ってどういう事かしら?一方的に痛めつけるのが、貴方の趣味なの?」
「違うって。命の危機に瀕する、それがトリガーってだけの事だよ。」
「トリガー?hey,どういう事だ?」
「まあ皆が目を覚ませばわかる、明日には見違えてると思うよ。」
訳が分からないという感じの指南役達と、何か確証めいた物がある様に見えるディン。
明日奈とピノも訳が分からないという顔をしていて、その場で何がしたかったを理解しているのはディンだけの様だ。
「さて、今日は撤収だ撤収。」
ディンは転移で4人を部屋に飛ばすと、竜太に預けていた蓮を抱え、右腕を消して宿の方へと向かう。
指南役達と外園、ピノと明日奈は、訳がわからないままそれについて行った。
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