機関車に乗って

 朝。

 目が覚めた蓮は、竜太がまだ寝ている事を確認すると、先に着替えを済ませ剣を腰と背中に背負う。

そのまま部屋を出ると、宿の中を散策し始めた。

「わぁ……!」

 廊下に出て眼に入ってくるのは、見た事のない絵画。

8体の色とりどりの竜が円を描いていて、その中心で白銀の1体の竜が眠っている、蓮の身長よりも大きい絵画だ。

「坊主、この絵に興味があるのか?」

「え!?うん、綺麗な絵だなって……。」

 暫く見惚れていると、男が話しかけてくる。

その男は昨日の夜宿の受付にいて、そういえば昨日顔を合わせたか?と蓮は思い出す。

「この絵はな、この国を守ってる竜神様の絵だ。言い伝えによると、中心の竜はこの世界を守護する神様だとか。俺はそういうのは信じないクチなんだが、この絵にはそんな存在がいるって思わせる様なもんがあるだろ?」

「デイン……さん……?」

「よく知ってるじゃねぇか、この中心の竜の名前はデインって名前らしい。なんでも、眠りについてから何千年も経つが、ここ千年位は眼を覚まして何処かにいる、なんて眉唾な話もあったな。」

「デインさん、いるよ!僕、デインさんに力をもらったんだもん!」

 受付の男は、おかしな事をいう子供だな、ときょとんとしている。

蓮は、右腕を男に向け突き出し、竜の刻印を見せた。

「これ!デインさんが力を貸してくれた証拠なんだって、お兄ちゃんが言ってた!」

「なんだこの刻印は、見た事も聞いた事もないな。それが本当なら、お前さんみたいな子供に力を貸した理由がなかろう?」

「それは……。お兄ちゃんが言ってたもん……、僕の力が必要なんだって……。」

 ガハハと受付の男に笑われ、少し涙目になる蓮。

 信じてもらえない事が悔しい、自分はデインの力を本当に借りているのに、と。

「まあそんな御伽噺をするお兄ちゃんってのが悪いな、坊主みたいな子供はそれを信じちまうからな!」

「ほんと……、だもん……。」

 男は笑いながらその場を離れていき、涙目の蓮だけが残される。

蓮は絵画を見ながら、どうして信じてもらえなかったのか、ともじもじする。

「あ、蓮君。どうしたの?」

「竜太君、僕、デインさんの力貸してもらったんだよね…?」

「そうだよ、蓮君の中にはデイン叔父さんの力が流れてる。ってあれ、この絵……。」

「デインさんだよね……?」

 竜太は蓮が見つめていた絵画に気づき、それを眺める。

8体の竜はそれぞれの属性を司る竜神、そして中央の白銀の竜はデインだと、すぐに気づく。

それもそうだ、竜太はデインが竜になった所を見たのだから。

 そしてこの国は竜神の治める国、デインが眠っている場所だとディンから聞いている。

だから、すぐにこの絵画の意味に気づいた。

「さっきおじさんがね……、僕の事変だって……。」

「この世界でも、デイン叔父さんの事を知ってるのはほんの少しの人だけなんだよ。だから、気にしないでいいんだよ?」


「そうなの……?」

「デイン叔父さんはずっと眠ってたから、知らない人が多いんだと思うよ。でも、蓮君に力を貸したって事は、もう目が覚めてるんじゃないかな。僕も会いたいよ、大切な叔父さんだから。」

 竜太の兄弟達も、皆デインに会いたがっている。

 デインは人間である竜太の兄弟達からしても、大切な存在なのだ。

半年程しか一緒にいた時間はなかったが、しかしそれでも大切な存在である事に変わりはない。

「竜太君、デインさんってどんな人だったの?」

「叔父さん?叔父さんはね……。ちょっと子供っぽかったけど、最後は凄い大人だったなぁ……。父ちゃんが竜になっちゃった時に、叔父さんが力を全部使う代わりに、父ちゃんが人間に戻れたんだ。その時にこの世界に父ちゃんが送ってからは、会ってないんだけどね。」

「そうなんだ……。デインさん、なんで僕に力貸してくれたんだろう?」

「……、蓮君が辛そうだったのが嫌だったんじゃないかな?」

 闇の渦とディン達が呼んでいる、あの魔物が際限なく出てきた黒い渦。

それを蓮が生み出しかねないから、とは言えなかった。

 蓮はデインに会った事はないが、感謝しているのは知っている。

そして、ディンを本当に慕っている事も。

 だから、本当の事は言えない。

「蓮君、朝ごはん食べに行こっか。」

「うん!」

 この話題はいつかディンが話す事だ、と竜太は考えていたから、余計な事は言わなかった。

蓮を朝食に誘うと、いつもの調子が戻ってきたのか、元気よく返事する蓮。

 2人は、4人が起きてくるのを待ちながら、朝食を食べに行った。


「移動になりますが、お金大丈夫かな……。」

「残りどれくらいあるの?」

「1ゴールド位ですね……、足りるかなぁ……。」

 全員が朝食を終え、宿を出た。

 一行は道案内に沿って、機関車が出ている所へ向け移動をしていた。

待ちゆく人々の着ているのは洋服がメインで、僧衣だったり剣道着だったりする一行は少し浮いていた。

 しかし、ドラグニート自体が旅人なり行商人なりが多い為か、あまり気にする者は居なさそうだった。

ソーラレスで俊平が感じた様な視線も、ここでは感じない。

「あそこかなぁ?汽車あるよ!」

「そうだね、行ってみよう。お金が足りなかったら、ソーラレスの依頼所みたいなところを探せばいいし。」

 蓮が機関車を見つけ、走り出す。

5人はその後をついて走っていき、駅の入り口にあっという間に到着した。

「あの、6人なんですけど、中心都市までどれくらいかかりますか?」

「エレメントまでですか?……。坂崎様ご一行ですね、料金は先に頂いて居りますので、ご乗車ください。」

「え……!?お金払わなくていいんですか?」

「竜神で有られるディン様より言伝と料金を頂いておりますので、お支払いは結構です。」

 駅の窓口でお金を払おうとした所、駅員が竜太を見て運賃が必要ない事を伝える。

どうやら、ディンが先に手を回してくれていた様だ。

 竜太はその事にホッとし、蓮達も金銭を気にしなくていいのか、とありがたいと感じる。

「そうだ、言伝ってなんですか?」

「中心都市エレメントまで来たら、俺達は駅の近くにいるから探してみろ。期限は駅に到着してから1日だ、との事です。」

「わかりました、ありがとうございます。」

 竜太の共鳴探知の能力向上の為の試練、と考えられる言伝。

竜太はそのままの意味として受け取り、5人はどうしてそんな事をするんだ?という感じだ。

「じゃあ乗りましょう。」

「機関車内では部屋を取らせて頂いておりますので、案内に従いついて行ってください。」

「はい、ありがとうございます。」

 一行が機関車に乗り込むと、スーツを着た案内役の駅員がいて、個室へと通される。

 機関車の中は煌びやかに装飾されていて、ガス灯だがシャンデリアなども設置されていた。

VIP用の個室に到着すると、中は10人ほど座れるテーブルがあり、ウェルカムドリンクが注がれていた。

「これ、飲んでいいの?」

「はい、こちらの客室をお使いになられるお客様への、お飲み物でございます。また、何かございましたらそちらのベルを鳴らしていただければ、私がまいりますので。」

 ドアの横にスライド式の紐があり、それを引っ張る事で乗務員室のベルが鳴る仕組みの様だ。

乗務員はそれを説明すると一礼し、部屋を出て行った。


「ソファ、ふかふか!外園さんのお家のと同じだ!」

「そうだね、クッション柔らかいから楽だね。」

 出発を待ちながら、一行はウェルカムドリンクを飲みのんびりしていた。

ウェルカムドリンクは未成年という事もあり、オレンジジュースが出されている。

程よい酸味と果肉のプチプチ感が、飲んでて心地よい。

 ドラグニートでは15歳から酒類が飲めるが、ディンが気を利かせたのだろう。

「出発かな?」

「わくわくするね!」

「どれくらいで着くのでしょう?途中停車などもするのでしょうか?」

 機関車の汽笛と蒸気の音が聞こえ、ゆっくりと動き出す。

窓から駅が見えていたが、徐々に景色が動き出した。

「どれくらいかかるんだろうね。竜太君、地図見て何かわかったりしない?」

「僕の持ってる地図、大陸のことしか書いてないんですよ…。細かい所はまったく書いてなくて。」

「乗っておればいずれは到着する…、そう慌てる事もないだろう…。」

「それもそうですね、私が焦ってばかりですみません…。」

 ガタンゴトンと音がしながら機関車が走る中、清華は1人焦りを感じていた。

 竜太や大地も焦りがなかった訳ではないが、表に出す程ではなかった為、清華だけが焦っている様に見えてしまう。

俊平や修平はそこまで深く考えていないし、蓮は旅を楽しんでいる。

だから、余計に浮き彫りになってしまっているのだろう。

「早ーい!」

「そんなに……、ほんとだ早いね。」

 機関車が出発してから5分ほど経ったが、外を眺めると勢いよく景色が移ろっていく。

市街地だったはずの景色が、あっという間に広大な草原へと姿を変えていたのだ。

 この機関車は魔力を使い速度を増している、だからセスティアで言う所の新幹線並みの速度が出ていると感じられる。

それくらいの速度で、景色が変わっているのだ。

「森だな。」

「森だね。」

 草原を抜けた後は、森の間を走る機関車。

巨木が群生している中を、圧倒的な速度で走り抜けていく。

「蓮君は新幹線とか乗ったことあるの?」

「新幹線?」

「はやーい電車、時速200キロ以上で走るんだよ。」

「乗ったことない!電車も見た事あるだけだしなぁ…。」

 三宅島から出た事のなかった蓮にとって、電車や新幹線は無縁の存在だ。

蒸気機関車も、テレビや学校で資料として見た事がある程度だ。

「儂も、電車に乗る事もなかった……。機関車というのも、初めてだ……。」

「大地君は北海道の出身だったよね?電車位あるんじゃないの?」

「それは……、そうなのだが……。」

 寺から出た事がほとんどない、だから電車にも乗った事がない。

 父に法要の為にと車に乗せられた事はあったが、それこそ電車や新幹線、飛行機もテレビで見た事がある程度の知識しかない。

 学校に行っていなかったから、修学旅行で新幹線を使う、なんてイベントもなかった。

弟の空太から楽しいと聞いた事はあるが、それ以上はない。

「大地さんはお寺にずっといたと仰られていましたから、もしかしてですがそういった経験がないのでは?」

「その、通りだ……。」

「じゃあさ、窓側俺と変われよ。景色見て、楽しいかもしんねぇぜ?」

 窓側に座り蓮と一緒になって景色を眺めていた俊平が、大地の為に立ち上がる。

大地は少し嬉しそうにはにかみ、俊平と席を変わった。

「良い景色だ……。」

「ね!凄い速く走ってる!」

 いつの間にか機関車は森を超え、川沿いを走っていた。

何処から流れ何処まで流れているかわからない様な、長く大きい川。

透明に澄んでいるその川は、キラキラと太陽の光を反射していた。

「やっぱりさ、色々あるけど旅っていいね。」

「そうですね、見た事もない物とか見た事ない景色とか、色んなものが見れますから。」

「竜太君は旅とかしたことないんだっけ?」

「ないですよ?今回が初めてです。」

 皆で景色を眺めながら、語らい旅をする。

戦争ではある、世界の存亡の危機ではあるが、しかし楽しいとも思える。

それは、貴重な体験なのではないか、と考える竜太。

 危機感が無いと言われればそこまでなのかもしれないが、ディンも旅は楽しみたいと言っていた。

だから、楽しんでもいいのではないだろうか?と思う。


「竜太達は無事機関車に乗ったな。」

「oh!じゃそろそろ来るって事か?」

「この国の機関車、特に港からここまでのは魔力を使って速度を上げてるからな。今日の夜あたりには、到着するんじゃないか?」

「それで、そこからどうするんだ?この街のどっかで修行か?」

「いや、皆にはそれぞれの指南役と一緒に、武器を取りに行ってもらう。竜神達が、それぞれ司ってるマナの属性に沿った武器を造ってくれてるから。」

 外園の淹れた紅茶を飲みながら、宿の客室でまったりしているディン達。

 この宿に竜太達が辿り着くのが先か、それとも期限が先か。

ディンとしては、竜太の成長を測るいい機会という訳だ。

「セレンさんの造られた武器も、中々上等な物とお見受けしますが。」

「セレンの鍛造した武器は確かに優秀だ、でもこの世界の魔法に則した魔力を流し込むのには、まだ向いてない。だから、それに合う武器が必要って事だよ。」

「俺この世界来てまだ1年ちょいだぞ?わっかんねぇことだらけなんだよ。」

 セレン自身は武器を他の誰かが造る、という事自体はいいらしい。

むしろ、そこから学べるものがある、と考えている様だ。

 何しろここは異世界、知らない知識や知らない鉱石が沢山あるのだ。

鍛冶屋としては探求心の強いセレンは、自然と惹かれていく。

「悔しくないのかしら?貴方、力量不足と言われている様なものよ?」

「力量っつーか、知識不足だな。こればっかりはしゃーねぇ、これから覚えてく。」

「セレンは素直だからな、こっちとしてもありがたい。」

 リリエルが聞くが、セレンはそこにこだわりはない様子だ。

 リリエルは、自分だったらプライドが傷つくだろうと考えるが、セレンは違うのだろうと頭を切り替えた。

 ウォルフはそんなセレンを見て、それは鍛冶屋として大丈夫なのか?とも考えるが、しかし素直ななのは良い事だ、とディンに賛同し頷く。

「竜神様方のお傍には、セレンさんに勝るとも劣らない鍛冶職人がいるのでしょうか?」

「竜神の剣は心の剣だ。それに似た仕組みで、武器を鍛造出来るとしたら?」

「各属性を司る竜神様方の、魔力が籠められる、と?」

「魔力もそうだし、魔力を流す力もそうだな。記録によれば、千年前の戦争の時にはドラグニートからも戦士が選出されたらしいんだけど、その戦士は竜神の与えた武器を使ってたって話だ。」

 ディンはこの世界に来てから、ドラグニートにある秘蔵の図書館に何度か足を運んでいた。

千年前の戦争の記録から、何かがわかればという考えからだ。

 その時に、千年前の戦争では、ドラグニートやフェルン、グローリアグラントからも戦士が選出されていた事を知った。

 グローリアグラントはもう滅んでしまった国だから仕方がないが、今回の戦争に何故フェルンやドラグニートが戦士を出さないのか、と竜神であるテンペシアに問うた事がある。

「今回の戦争、フェルンはもう関わりがないって決め込んでるらしいし、ドラグニートは外界からの干渉に気づいてるから俺達の介入に任せる、って感じで戦士は選んでないらしいから、まあ武器を渡すくらいしかやる事がないんだろ。」

「他の国の戦士については何処かで聞いた事がありますね…。私のいたフェルンでは、妖精が3名程戦地に赴いたと。しかし、フェルン側はマナの源流を手に入れる思惑が強かったと、記録にはありましたね。」

「グローリアグラントが、フェルンとマグナに攻撃されてたんだろ?ドラグニートはグローリアグラントに協力して土地を守ってたけど、それも防ぎきれずに戦地になった、だったか。」

 千年前、マグナの神々が世界の主権を奪おうと争いを起こした時、マグナ以外で唯一戦場となったのがグローリアグラントだった。

 その時に国を守ろうとして戦った戦士の全て、そして国の住人ほとんどが殺されてしまったと、ドラグニートの秘蔵図書館には記録があった。

 死の蔓延るその土地は汚染されてしまい、死の大地と化してしまったとも。

「私が100歳の頃だったでしょうか、マグナ以外の大国の連合会議によって、デスサイドと名付けられたその土地に対する、一切の立ち入りを禁止されたのは。」

「じゃあ、今でもその土地には誰もいないというの?」

「曰く、死者が怨念となりその土地に具現化しているのだとか。怨念が強すぎて、マナが枯渇してしまったとの事です。」

「oh,そりゃまた物騒だな。俺はそういう類の話は眉唾だと思ってたが、この世界ではそれが有り得るんだろう。」

 ウォルフは基本、霊や怨霊の類を信じていない。

しかし、自分のいた世界とは違う世界なのだ、それもあり得るだろうと考えていた。

「こええな……、それ……。」

「何だセレン、ビビってるのか?」

「俺、そー言うの苦手なんだよ……。」

 一方のセレンは、そういうホラーチックな話が苦手な様で、身震いをしていた。

 だが、ディンがその話をしたという事は。

もしかしたら、その土地に赴かなければならない可能性がある、という事だととらえる。

「デスサイド、マナの源流のあった土地。こりゃ、もしかしたら行かなきゃならないかもな。マナの源流は、今はウィザリアにあるんだったか?」

「はい、竜神様達がマナの流れの乱れを危惧し、ウィザリアという島に移したと聞き及んでいます。」

「そこでマナの源流に触れられれば万々歳、だな。」

 この世界の最上級に当たる魔法は、マナの源流に触れた者だけが使えるという話だ。

竜神達は勿論使えるが、他に使える者は現在はいないとテンペシアは言っていた。

 それを覚えなければ勝てない相手かどうかはわからないが、保険として覚えておいて損はないだろう、というのがディンの考えだ。

「まあ目下の所は竜太が俺達を見つけられるか、だな。どれだけ成長したか、少し楽しみだ。」

「竜太は魔法を使うのが苦手だと仰っていましたが、見つけられるのでしょうかねぇ?」

「俺の気配位は覚えてるだろ、伊達に1年間以上戦ってきた訳じゃないんだ。」

 竜太は魔法の類をほとんど使えない、共鳴探知と小規模な転移に清風と呼ばれる移動魔法しか使えない。

 だが、ディンの見立てでは魔法を使う才能自体はある。

だから、この旅で竜太にも成長してほしい、と願っている。

「竜太君も大変ね、世界を守るなんて言う父親の跡を継がなきゃならないんだから。」

「それが竜神として生まれた者の宿命みたいなもんだからな、いつか俺が居なくなった時は竜太しか頼れるのが残ってないんだ。」

「世界群を守るってのも大変だな、竜神王サンよ。」

「王の宿命だからな、こればっかりはどうしようもない。」

 ディンはため息をつき、今まで赴いた世界の事を思い出す。

竜太に同じ事や同じ思いはさせたくないが、しかし自分が死んだら継ぐ者が居なければならない。

その事実が消えない以上、竜太にも経験を積ませなければ、と考える。


「ディンさん、よろしいですか?」

「外園さんか、どうした?」

 少し時間が経って、リリエル達は部屋に戻った。

外園も一旦自分用の部屋に戻ったが、何か考えた事があるらしくディンの部屋を訪ねた。

「この戦争が終わったら、貴方達は元の世界に戻られる。その際、私もセスティアに行きたい、と言ったらそれは叶いますか?」

「そうだな……。外園さんは妖精としての特徴を隠せる、それにここディセントとセスティアは密接に繋がってる。無理ではないけど、行きたいのか?」

「以前、この戦争が終わったらどうするか?とディンさんはお尋ねになられました。私は、色々な世界を見て回りたいのです。このディセントだけでなく、貴方達のいた世界であるセスティアも。」

 そういえば以前外園邸でそんな話をしたか、とディンは思い出す。

外園なりに色々考えた結果、セスティアに行きたいと思ったのだろう。

「まずは戦争を止めてからだし、俺も外界の存在をセスティアに送った事はないから、確約は出来ない。でも、試す位なら全然かまわないよ。」

「ありがとうございます、それでは私は部屋に戻らせて頂きますね。」

 外園が伝えたい事は、今のところはそれだけの様だった。

部屋を出ていき、自分の部屋へと戻っていった。

「旅、か。」

 探求心の強い外園らしい願いだな、とディンは思う。

それだけ、平和を待ち望んでいるのだろう、とも。

 セスティアに行ったら驚く事だらけだろうな、とその姿を想像してディンは少し笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る