伍章 武器を求めて

ドラグニート到着

「あ!見えてきたよぉ!」

「あれがドラグニートっていう国なのかな?」

「船の進路から考えても、その様ですね。大地さんもようやく、安心できますね。」

「あいつ、まだ船酔いやってんのか?」

 ソーラレスの港を出て1週間、特段何かあったわけでもなく、平和な船旅をしていた一行。

 大地の船酔いを除けば何もなく、ちょっとした広い部屋があり、そこを使って軽い修行も出来た。

修行といっても組み手程度のものだったが、1日でも早く強くなりたい一行からすればありがたい。

 甲板に出ていた蓮、修平と清華、俊平は大陸が少し遠くにある事を視認し、それがドラグニートであろうと確認していた。

「中心都市まで行って、ディンさん達と合流するんだっけ?」

「その手筈のはずです、また修行の日々になると思いますが……。間に合うのでしょうか?」

「ディンがそういったなら、間に合う算段がついてるって事じゃねぇの?」

 今度はどんな修行をする事になるんだろうか?と各々疑問を浮かべる。

組み手もしてきた、実践訓練もした、後はなんだろうか?と。

「早くお兄ちゃんに会いたいなぁ……!」

「蓮君はディンさんが大好きですものね、嬉しそうで何よりです。」

「清華さんはリリエルさんと修行になるの?」

「そうなりますかね、リリエルさんは少し苦手ですが……。」

 リリエルを苦手と思うのは、性格面の話だ。

指南役としては超一流だが、いかんせん根本の考え方が合わない。

「それちょっとわかるかも、ウォルフさんって何考えてるのかよくわかんない時あるし。」

「ウォルフさん、秘密がいっぱいあるんだって!僕も教えてもらえない事、いっぱいあるよ?」

 修平がウォルフを苦手とするのは、その謎めいた考え。

底の見えないというべきか、ヴェールに包まれているというべきか、とにかく何を考えているのかがわからない。

親し気に話しかけてくるが、本心は別の所にありそうな、鈍感な修平はそんな風に感じていた。

 事実として、ウォルフは多くを語らない。

話している事が本心かどうかも、実際の所は全くわからない。

「セレンさん、鍛冶仕事してんのかな。」

「セレンさんは、武器を鍛造されているというお話でしたね。ですが、旅に加わっていては、武器も造れないのではないでしょうか?」

 俊平から見たらセレンは強いが、セレンは本来戦闘要員ではない。

俺をぬかすのもすぐかもな、と言われた事を思い出し、本来の役割である鍛冶屋として働いているのか、俊平は少し気になる様だ。

「お兄ちゃん達、どうしてるんだろうなぁ?」

「中心都市で先に待ってるんじゃないかな?早く会いたい?」

「うん!」

 蓮は、早くディンに会いたいと願う。

やはり、半年とはいえ兄弟として過ごしてきたのに、いきなり引き離されるのは辛かった様だ。

「大地君達もそろそろ呼んでこようか。」

 修平は、大地達がいる客室へ向かうべく、3人の元を離れた。


「う……。」

「大地さん、大丈夫ですか……?」

「へ、へい……、うっぷ……。」

 船内の客室にて、大地箱の1週間ずっと船酔いに悩まされていた。

食事もあまり取れず、体力がなくなってきた事も手伝い、船酔いは酷くなるばかりだ。

 竜太はそんな大地の傍にいて、背中をさすっている。

「僕が魔法使えたら……、ちょっとは楽になったかもしれないですけど……。」

「それは……、仕方の、ない事、だ……。」

 時折吐き気に襲われながら、大地は何とかこらえていた。

 ただ、不定期に吐き気の波がやってくる為、あまり眠る事も出来なかった。

「大地君、竜太君、そろそろドラグニートが見えてきたよ。」

「ほんとですか?良かったですね、大地さん。」

「う、うむ……。」

 そこに修平がやってきて、陸が近い事を告げる。

大地と竜太はそれを聞き、やっと船酔い地獄から解放されるかとホッとする。

「う……。」

「大地君、船酔い大丈夫?」

 しかしまだここは海上、波はやってきてしまう。

大地は口を両手で覆い、吐き気に耐える。

「大地さん、あとちょっとの辛抱ですからね。」

「わか……、った……。」

 上陸さえしてしまえば大丈夫だ、と竜太は少しホッとし、大地の背中をさすり続けた。

修平はそれをやれやれと眺めているのだった。


「ドラグニート到着だー!」

 船頭が大声を出し、甲板にいた3人はドラグニートに到着した事を知る。

 船はゆっくりと陸に近づき、そして止まる。

腕程あるようなロープが船から投げられ、それを陸に固定している係船柱に巻き、アンカーがおろされる。

渡し板が掛けられ、乗客は陸へと降りることが出来るだろう。

「蓮君、大地さん達を呼んできましょうか。」

「うん!」

「俺は先降りてるぜ?」

 清華と蓮が船の内部へと向かい、俊平は一足先にと船を降りる。

船を降りた所から見える港街は、活気に満ちている様だった。

 次はどこへ出航するのか、商人と思しき人物やドラゴンと人間を混ぜた様な亜人が、馬車や荷物を持って乗船していく。

「すげぇな。」

 ドラゴンの亜人を見るのは初めてな俊平は、人間より1.5倍程度あるその体格と、腰から伸びている尻尾を眺めていた。

「俊平さーん!」

「お、大地ダイジョブか?」

「……。まだ、揺れて、おる様な……。」

 竜太に支えられながら船を降りてきた大地と、蓮に清華、修平も降りてくる。

大地はまだ周りを見る余裕はないらしく、船から降りても揺れているという感覚が抜けず、気分が悪そうだ。

「わぁー!ドラゴンさんだー!」

 蓮はドラゴンの亜人を見て眼を輝かせ、追いかけている。

 ドラゴンの亜人の一人が、そんな蓮の方を見て、にっこりと笑う。

犬の様なマズルにちょんとした鼻髭を生やした、赤を主体とした体色のその亜人は、蓮に向かって歩いてきた。

「やあ少年、君達は何処から来たんだい?」

「僕達、ジパングから来たんだ!ソーラレスにも行ってきたの!これからお兄ちゃんに会いに行くんだよ!」

「ほうほう、ジパングやソーラレスからか。遠いところをよく来たね、お兄ちゃんに会えるといいね。」

「蓮君……。すみません、お兄さん。」

 まだ若い声をしていたその亜人に、蓮がキラキラした眼を向けていると、申し訳なさそうに竜太が謝る。

もしかしたら、不愉快な視線だったかもしれない、と。

「謝ることがあるのかい?私は君の様な純粋な子は好きだ、その純粋さを失わないでおくれ?」

「はーい!ありがとう、お兄さん!」

「では、良い旅を。」

「ありがとうございます。」

 亜人はそれだけ言うと、船に乗り込む。

どうやら後から荷物が来る様で、馬車が亜人の後ろをそそくさと走っていった。

「かっこいいね!」

「そうだね。でも蓮君、あんまりじろじろ見るのはだめだよ?怒られちゃうかもしれないから。」

「はーい!」

 竜太が注意するが、蓮は亜人を見た事の興奮の方が大きかった様だ。

きょろきょろと周りを見回し、色とりどりの亜人を眺めている。

「とりあえず今日は宿を取りましょう、大地さんもまだ調子は悪いでしょうし。」

「それが良さそうですね。大地さん、歩けますか?」

「う、うむ……。」

 まだ船酔いが消えない大地は、口元を抑えながら答える。

一行は宿を探すべく、港を離れ歩いて行った。


「ふぅ、疲れたね。」

「大地はダイジョブか?そろそろ収まったか?」

「うむ、心配を掛けた……。」

 無事に宿が見つかり、夕食時になった。

 6人揃って食堂に来たが、どうやらこの宿はバイキング形式の様だった。

様々な料理が陳列されており、トングとトレイ、皿を持って自分で取って食べるとの事だ。

「何食べよう!?」

「うーん、羊肉のソーセージとかは前食べたよね。」

「あれはドラグニートで製造されたんでしたっけ?大地さんが食べてたのが印象的です。」

「……。」

 各々席を取り、バイキングの料理を眺めていた。

赤身魚のムニエルと思しきものや、カレーやシチューといった定番の物、何やらセスティアでは見受けられない様な料理もある。

「これ、何の肉だろう?」

「おうお客さん!それかい?それはな、ここの近くで取れる熊の手の肉だよ!酒で煮込んでるから、やわらかいぞ?」

「熊……、ジビエという事ですね。食べた事はありませんが、興味はありますね……。」

「儂は……、この魚をもらおう……。」

 清華は熊肉の煮込みを、大地は魚のソース和えを皿に取る。

 蓮はカレーが美味しそうだと皿によそい、ご飯も追加した。

ご飯はセスティアで言うインディカ米の様な長粒米で、スパイスの効いたカレーによく合いそうだ。

 竜太と俊平、修平もそれぞれ美味しそうだと見えた料理を取り、テーブルに戻る。

「それじゃ、頂きます。」

「いただきまーす!」

 蓮はスプーンいっぱいにカレーを掬い、頬張る。

過去に学校で食べたそれとは違い、スパイスの効いたカレーは辛くも旨い。

「おいしー!」

「これは……。お酒の風味もあって、美味しいですね。」

 カレーを頬張る蓮の横で、清華が初めて食べる熊肉に舌鼓をうっていた。

大地も赤身魚のソースが香草の独特な香りが癖になる、と今まで食べられなかった分を取り戻そうとするが如き勢いで食べる。

「大地さん、船で食べられなかったから今いっぱい食べてるんですね。」

「んぐ……。す、すまない……。あまりに、腹が減ってしまったものでな……。」

 あまりに勢いよく食べるものだから、竜太は思わずクスクスと笑ってしまう。

それにつられて皆が笑い、大地は恥ずかしそうに頬を染める。

 しかし、長い空腹には耐えられなかったのか、魚をおかわりしに行った。

「大地君、船酔い酷くて大丈夫かと思ったけど、大丈夫そうだね。」

「そうですね、しかしこれからも船旅は続くと考えられます。その度にこの調子では、体が持つかどうか……。」

「父ちゃんに頼んで、何かいい魔法がないか聞いてみますよ。もしかしたら、そういうマイナス要素に何か出来る魔法があるかもしれませんし。」

「おかわりしてくる!」

「いってらっしゃい。」

 清華と修平、竜太が悩んでいるのを他所に、食事を取りに行く蓮と俊平。

 船の中での食事も悪くはなかったが、ここまで美味しいものはなかった。

外園は料理上手だったが、ここまでレパートリーがあるわけではなかった。

 というわけで、久々に色々な美味しい食事という事で、興奮しているのだろう。

 特に蓮は、初めて経験するバイキングだ。

好きなものを好きなだけ、というのは嬉しいのだろう。

「この後は、今は宿泊をして、明日になったら移動ですか?」

「お金が足りるかどうかがわからないので、ちょっとどうしようかって感じですけど…。多分、そうなると思います。」

「じゃあ、今日はゆっくり寝れるね。」

 大地達が黙々と食事をしている中、修平達はすこし安心している様子だ。

 竜太は旅費の不安を持っていたが、ここは竜神の治める国であるから、自分の素性を話せばある程度の融通は聞くのではないか?とも考えていた。

 取りあえず今日はゆっくりしよう、と考えながら、食事を続ける一行だった。


「清華さん達、まだ着かないのかしら?」

「まだ1週間だ、丁度この国に到着した頃じゃないか?後は機関車に乗ってここまで来るだけだよ。」

「そう、ならいいのだけれど。それで、ここで修行をすればいいのかしら?」

「うん、それもあるんだけど、武器だな。多分竜神達が造ってるだろうから、確認するためにちょっと俺出かけてくる。」

 ドラグニートの中心都市「エレメント」に滞在していたディン達は、大きな宿に泊まって蓮達を待っていた。

 リリエルは早く来ないかと急かすが、ディンはまだだと嗜め、そして転移を使い消えた。

「間に合うのかしら……?」

 リリエルは眉をひそめながら、清華達の到着を待つしかないかとため息を着いた。


「皆、一旦下がってくれるかい?」

「かしこまりました、テンペシア様。」

 ドラグニートの8つの神殿のうち、北西に位置する莫竜テンペシアの神殿内。

テンペシアは何かに気づいた素振りを見せると、傍仕えの者達を外に追い出した。

「これでいいかい?王様。」

「ありがとな、テンペシア。」

 傍仕え達が消えた所で、ディンが現れる。

テンペシアは要件は大体わかっている、という顔をしながらそれを迎えた。

「武器の鍛造は間に合ったか?」

「うん、4人分それぞれの属性の竜神が造らせてるよ。蓮の分は、いらないんだろう?」

「蓮の武器は暫くあれでいいからな、まあ話が早くて助かる。」

「必要になったって事は、干渉が酷くなり始めてるって事で合ってるかな?」

 テンペシアは共鳴探知の波動を使えない訳ではない、そしてそれはこの世界の中に限定すれば世界中に張り巡らせる事が出来る。

マグナの神々が、争いの中でどんどんその力を増している事に気づいていた。

 今俊平達が持っている武器は、セレンが鍛造した物だ。

確かに良い切れ味だったり良い出来をしているが、今のマグナの神々には通用しないだろう。

 だから、テンペシア達竜神は自分達の力を籠めた武器を鍛造していた。

「でも彼らは、最終的には彼らを司る四神の武器を使う予定なんだろう?僕達の武器が必要なのかな?」

「まだそれに耐えうる鉱石をセレンが見つけてないんだ、だから急場しのぎじゃないけど、合間の武器が必要って訳だよ。」

「それで蓮にデインの竜の想いを渡したんだね、ある意味デインは蓮を司る神の様な物だから。」

「当たらずとも遠からず、だな。まあ蓮なら使いこなせる日が来るだろうって思ったから、渡したんだ。」

 それじゃあ後は当人が来る、とディンは転移を使い消えた。

テンペシアはため息をつき、その時を待つのだった。


「ソーラレスと違って、ベッドなんだね!」

「そうだね、蓮君はベッドの方が寝やすい?」

「お兄ちゃんとはベッドで寝てたからね!」

 食事を終え、部屋に通された蓮一行。

宿の主人が気を効かせ、蓮と竜太、大地と俊平と修平、清華だけと部屋を割り振ってくれた。

 料金は決して安くはなかったが、ありがたい気遣いだ。

「ねぇ竜太君、一緒に寝てもいい?」

「え?いいよ?」

「やったー!」

 竜太と蓮は、蓮がディセントに来てから何度も一緒に寝ていた。

いつもはディンと寝るのだが、ディンがいない時もあったので、そういう時1人だと寂しいからと、竜太の部屋に足を運んでいたのだ。

 何故今それを言うかというと、皆がいるからある程度背伸びをしていたのだろう。

自分も戦士なのだからと、それに船では竜太は大地の世話をしていたから、一緒に眠れなかったというのもあるだろう。

「竜太君と一緒に寝るの、久しぶりだなぁ……。」

「そうだね、最近はごたごたしてたからね。」

 竜太の腕にすっぽりと入り、にっこりする蓮。

 ディンと一緒が一番良いが、ディンの次に慕っているのはやはり竜太だろう。

一番歳が近いというのもあり、仲よく遊んでいた仲だ。

 友達のいなかった蓮にとって、初めての友達というのは竜太である事に間違いはない。

「それじゃ、おやすみなさい!」

「うん、おやすみ。」

 蓮は眼を閉じると、すぐにすやすやと寝息を立て始める。

「蓮君……。」

 思えば自分がこの世界に来てから、1年以上が過ぎた。

 兄弟達は今頃どうしているか、と蓮を見ていると思ってしまう。

兄がしっかりしているから大丈夫なのだろうが、少し心配にもなってしまう。

 毎日会っていた兄弟に会えない、という寂しさもあるだろう。

「……。」

 ディンはこんな事を、千年程続けている。

孤独に苛まれたりしないのだろうか?と疑問を浮かべてしまう。

 今は仲間が沢山いてあまり気にする事もないが、ディンはほとんど1人で動く事もあるという。

そんな時、どんな心境になっているのだろうか、と疑問に思う。

「眠い……。」

 そんな事を考えている間に、窓から差す月明りがどんどん高くなってきた。

竜太はまた明日からの事を考えながら、眠りに落ちた。


「なあ修平、これからどーなると思う?」

「どうって?」

「世界とか、俺達自身とか、色々だよ。」

 大地は久々に満腹になったからか、すぐに寝てしまった。

まだ寝ずにいた修平と俊平は、窓辺のテーブルに寄って話をしていた。

「俺に聞かれても、俺頭よくないしなぁ……。そういうのは清華ちゃんとか、大地君の方がわかるんじゃない?」

「ゆーても清華に聞くとこえぇしなぁ、大地は答えるかわかんねぇし。」

「だからって俺に聞かれても、わかんないよ。」

 不安が募っているのだろう、だから言葉にしてしまう。

そんな俊平の心情を、修平は理解出来ずにいた。

 修平は修平なりに不安ではあったが、それよりも世界を守らなければという意思の方が強い為、そこに齟齬が生まれてしまってる様だ。

その齟齬を解明するのは、2人では難しそうだ。

 何せ俊平と修平は頭があまり宜しくない、特に俊平は他人の事を考える事が苦手だ。

「どうなっちまうんだろうな……。」

「守るしかないんだよ、俺達が。」

 修平は、妹の綾子を守るという1つの目的がある。

だから迷わない、それが全てだと思っているから。

 それが危険だとも思わないし、思えない。

「迷わねぇっていいなぁ……。」

 逆に俊平は、雑念から迷いだらけだ。

ここぞと言う時は雑念が消えるが、普段は迷ってばかり。

常に恐怖心に苛まれている、ともいえるのだろう。

「今日はもう寝ようよ、明日も動くんだし。」

「そだな。」

 盲信と迷走、対極に位置する性質を持つ2人。

かみ合わないのは、ある種当然とでもいえばいいのだろう。

 2人はベッドに入ると、それぞれ考え事をしながら眠りについた。


「ふぅ、1人というのも久しいですね……。」

 俊平達が寝た頃、風呂から上がった清華は、髪の毛をタオルで拭きながら窓辺で月を眺めていた。

 この世界に来てからは、ずっとリリエルが傍にいた、そしてリリエルと離れてからは蓮達と同じ部屋だった。

 だから、1人部屋というのは大体3か月ぶりという事になる。

「ふぅ……。」

 ルームサービスの紅茶を飲みながら、髪の毛が乾くのを待つ。

外園が淹れる紅茶より風味が薄い、さっぱりとした味わいの紅茶。

生産国が違うのだろうか?と疑問を持ちつつ、ミルクを入れて香りを楽しむ。

「私は、役目を果たせるのでしょうか……。」

 合流すれば、また修行の日々だろう。

 それは強くなれる理由になるが、同時に不安でもある。

成長の頭打ちになってしまわないか、自分にはこれ以上の才能がない事に直面してしまうのではないか、と。

リリエルの指導は的確だ、それについていけるのかどうか、とも。

「考えるよりも行動を、というのですかね……。」

 集中している時は考えないが、清華も迷いは多い。

 幼少期から、悩み事だらけで過ごしてきた。

集中を乱してはいけない、と精神を整える術自体はわかっているが、それも疲れる。

雑念のない、透き通った思考の人間を見ると、つい羨ましく感じてしまうのだ。

「髪の毛は、乾きましたね。寝ることにしましょう。」

 1人呟き、ベッドに入る。

 掛け布団は羽毛で出来ているらしく、ソーラレスやジパング、船の布団と違ってふわふわとしていた。

掛け心地の良い掛け布団に包まれていると、眠くなってくる。

 清華は静かに、ゆっくりと眠りについた。

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