毒に侵された蓮
魔物との戦闘を終え、急いで街まで戻ってきた一行。
依頼所へと急いで戻ると、店主がそれを出迎えた。
「店主さん、解毒薬ってありますか!?」
「おうおう、戻ってきてそうそう慌ただしいな。どうしたんだ?」
「蓮君が魔物の毒にやられたんです!」
「毒?そいつぁ大変だ、すぐ近くに治療場があるから、そこに行くと良い。」
竜太はそれだけ聞くと店を飛び出していき、四人はそれに追随して出て行ってしまった。
「まあ、旅人に薬草が与えられるかはわからんがな。」
店主はそうぼやき、さて依頼を整理しなけらばと店の奥へと入っていった。
「ここが治療所……。」
依頼所からすぐ近く、治療所と看板の立っている建物へと五人は入った。
「あの、すみません!魔物の毒に仲間がやられてしまったんです!」
入口で大声を張り上げる竜太、蓮は竜太の背中で浅い呼吸をし、苦しんでいる。
「なんだねなんだね騒がしい、魔物の毒?それは餓鬼の毒かね?」
「餓鬼……?あの魔物の名前か……。」
奥から僧衣を着た老人が出てきて、しげしげと竜太や蓮、一行を見やる。
「お主ら、見た所旅人じゃな。旅人には薬草をやる事は禁じられておる。」
「そんな……!何とかならないんですか!?」
「それがこの国の決まりじゃ。大方金銭目当てで魔物狩りをしたのじゃろうが、その様な下賤な者達に施す物はない。」
「そんなのって……!」
あっさりと断られてしまい、どうすれば良いのかわからなくなる。
「そこをどうにか、まだ子供なんですよ!?」
「子供じゃろうがなんじゃろうが関係はない。」
修平が食い下がるが、しかし老人の答えは変わらない。
「情もくそもねぇのかよこの国は……。」
「この国は仏門に帰依している者に恵みを与える、部外者であるお主らは対象外という事じゃな。そこの僧もこの国の者ではないようじゃしな。」
「ならば、せめてその薬草がある場所と特徴、使い方を教えてください。」
「いかんいかん、仏門の加護を受けておらん者には教えてならんという決まりじゃ。そこの坊主の事は諦めるんじゃな、持って一週間といった所じゃろう。」
「……、この国は小乗の考えと言う事か……。」
「何を言われようと薬草は渡せん、さあ帰った帰った。」
老人は一行を煙たそうにしっしという仕草をし、奥に引っ込んでしまう。
「どうしましょう……、このままでは蓮君が……。」
「一度、依頼所に戻ってみましょう。もしかしたら、そういった依頼があるのかもしれないです。」
清華が不安げな声を上げると、竜太はさっさと治療所を出ていく。
一週間、それまでの間になんとしてでも薬草を手に入れ、蓮を治さなければならない。
ならば、迷っている時間は一秒もない。
蓮を助けなければならない、何とかしなければならないのだから
「店主さん!薬草を持ってくる依頼とかってあったりしませんか!?」
「やっぱ、治療所で薬草はもらえなかったみたいだな。残念だが、薬草は医者しかその場所を知らないよ。」
「そんな……、他に何か情報は?何か噂程度のものでも構いません!」
「噂、か……。そういえばいつだったか、医者だった男が破門されたという話を聞いたな。まあ、生きているとも限らんがな。」
「その噂は何処で!?」
藁にも縋る思いで、竜太が問う。
依頼所の店主は少し考える様な顔をして、黙り込んでしまう。
「お願いします!なんとしてでも助けなきゃならないんです!」
「……。街の南、外れの川辺でそいつを見たっていう噂だ。噂程度のものだから、真偽のほどはわからん。」
「……、ありがとうございます。」
店主も悩んだのだろう、その情報を与えるのかどうかを。
竜太達一行はそれだけ聞くと、店を出ていこうとする。
「まちな、報酬金を受け取りな。」
「ありがとうございます、そう言えば……。」
「なんだい?」
「あの魔物は……。いえ、何でもありません、ありがとうございました。」
報酬金を修平が受け取り、一行は外に出る。
「全く、厄介な旅人を引き寄せちまったな。」
店主はぼやく、それは破門者の事を口にしてしまった事だろうか。
真偽のほどはわからなかったが、ため息を一つつくのであった。
「急いで破門されたって言うお医者さんを探しましょう。」
「でも、街の南の川辺としか……。どう探しましょう?」
「僕の共鳴探知で…。街のはずれっていう事は人間は少ないと思います、そこにいる人間を探しましょう。」
「さっさと行こうぜ。時間、一週間しかないんだろ。」
「はい。」
清華が疑問を浮かべると、竜太は少し不安げに答える。
共鳴探知で何処に誰が居るかまではわからない竜太にとって、一人の人間を探し出すというのは苦難だ。
しかし、やらないわけにはいかない。
蓮の命がかかっているのだから、出来る事は全てやらなければならない。
「……、蓮よ、大丈夫か……?」
「はぁ……、はぁ……。う、うん……。」
竜太の背中に背負われている蓮に向かい、大地が問いかける。
蓮は苦し気な顔をしたまま答えるが、どう考えても大丈夫ではないだろう。
「急ぎましょう、まずは南の街はずれまで。」
「そうだね、急ごう。」
竜太と修平が言葉を口にすると、一行は街を南下し始めた。
破門されたという医者を探し、蓮を助けるために。
「ここら辺が南の街はずれの川、ですかね……。」
道中何か起こるわけでもなく、誰かに何かをされる訳でもなく、魔物が現れるでもなく。
一行は人気の少ないというよりも、人が住んでいるとは思えない川辺まで来ていた。
雨が降ると大変な水量になるのであろう、そのぬかるんだ地面。
家でも建てていたら、増水した川に流されているであろう、そんな地形。
そんな所に人間が住んでいるとは、とてもではないが思えなかった。
「竜太、てめぇの共鳴探知ってやつ使えばなんかわかるんじゃねぇか?」
「やってみますね……。」
竜太は目を瞑り、共鳴探知を発動する。
人外、獣や魔物の気配はする。
しかし、人間の波動は中々探知できない。
出来たとしても、今しがた通ってきた街の人間達の方角にあるだけだ。
「……。誰も居ませんね……。」
「そんな……。」
「マジかよ……。じゃあ、あの噂ってのは嘘だったって事かよ……。」
竜太の言葉に、落胆する一行。
まだ一週間あるが、あと一週間しかない。
焦りの中で解決法を考えようとするが、思いつくことすら出来ない。
「よう、君達はこの辺のもんじゃないな。何しに来た?この川はすぐ氾濫するから危険だぞ?」
「だ、誰ですか!?」
「おっとこりゃ失礼、俺は天野ってもんだ。元、だがな。」
そこに突然声をかけられ、驚きながら振り向く竜太。
そこには、ボロボロの僧衣を纏った無精髭にぼさぼさ髪の男がいた。
「僕の探知に引っかからない……、何者なんです……?」
「俺かい?俺は…、そうさな。破門された元仏教徒とでも言えばいいか?所で君達、その背中に背負ってる子は毒を喰らってる様だ。俺が治してやらん事もないぞ。」
「ほ、ほんとですか!?」
「大方街の治療所で断られたんだろ?こっちにはそんな奴らがたまに来るからな。依頼所の奴にはいい蜜吸わせてもらってるよ。」
天野と名乗った男は、蓮を見るとふむふむと一人納得した様な声を出し、話を続けた。
「ただし条件がある。薬草は自分達で調達する事、俺に金を払う事、信頼の為にここにその子以外に一人残る事だ。」
「……。わかりました、お願いします。」
天野を信用出来るかと言われれば、noだ。
しかし、それ以外に手だてがない事もなんとなくわかっている。
だから、天野の話に乗るしかなかった。
「よし、交渉成立だ。その子は持って一週間、いや四日と言った所だろう、急いだほうがいいぞ。薬草の特徴はな、魔物が現れる場所のすぐ近くの洞窟に咲いている、青い花の咲いている草だ。」
「わかりました、すぐにでも……。」
「おっと待った、一人残ってもらわなきゃ困るよ。」
全員でその場を離れ、魔物の住んでいる場所へと向かおうとすると、天野が待ったをかける。
「そう言えばそうでした……。」
「誰が残る?」
しばしの沈黙。
蓮を預ける以上何かしら対応する必要が出てくるかもしれないし、魔物との戦闘もあり得る。
現状、どちらにも竜太が不可欠なわけだが、それは出来ない。
「……。竜太君、蓮君と一緒に残ってください。薬草は、私達で探しに行きます。」
そう清華が申し出た。
「そうだね、蓮君の傍にいてあげて。俺達が急いで薬草探してくるから。」
修平もそれに倣う。
竜太はあくまでも指南役、いつかは戦いから退く身。
なのであれば、自分達が成長しなければならない。
清華はそう考え、修平は単純に一番蓮と一緒に居た時間が長い、竜太が残るのが妥当だと考えた。
「竜太よ……。」
「はい。」
「蓮を、頼んだぞ……。」
「はい。」
清華や修平、大地の心情を察し、それを是とする竜太。
「じゃあ、俺達行ってくら。魔物が居たとこってこた、あの場所の近くでいいんだよな?」
「君達が魔物と戦った場所は北東だな?ならその近くに洞窟がある、そこを探してみろ。」
「それじゃ、行ってくる。蓮、死ぬなよ。」
そう言うと俊平を先頭にして蓮達から離れる一行、竜太はそれを不安げな目線で追いかけたが、しかしこれも修行の一環なのかもしれないと考え、覚悟を決める。
「それじゃ、俺達は俺の住処に行くか。あんまりいい場所じゃないが、まあ許してくれ。」
「はい、お願いします。」
天野は川辺を南、下流の方へと歩き始め、竜太は蓮を背負ったままそれに続く。
「そう言えば天野さん、なんで僕の探知に引っかからなかったんですか?」
「ん?探知ってなんだ?」
「人間とか魔物、動物とかを探知する魔法の一種です。天野さんは人間なのに、僕の探知に引っかからないですぐ傍まで来てた。何でです?」
「さぁ?俺は探知なんて魔法知らないからね。たまたまか錬度不足じゃないか?」
「……。」
錬度不足、鍛錬不足。
そう言われればそう終わってしまう話なのだが、竜太はどうにも違う様な気がしてしまう。
何か特別な力か何かが働いているのではないか、と。
試しに共鳴探知を使ってみても、目の前を歩く天野の波動を探知出来ないのだ。
まるで目の前に存在しているのに、そこにいないかのように。
「どうしたね?そんな怖い顔をして。」
「いえ……、何でもないです。」
「そうかい、ならいいんだが。」
信用していいのだろうか。
天野が振り返り、竜太が眉間に皺を寄せている事を指摘すると、竜太は真顔に戻る。
「すぐ着く、まあ汚い場所だがな。」
「あの……。」
「なんだ?」
「いえ、何でもないです。今は蓮君を休ませてあげるのが先ですね。」
今は他に手立てがない、だから信用する他ない。
竜太はそう考え、天野の後をついていった。
「日が暮れて来たね。」
「そうだな、どうするか。」
一方の四神の使い達は、街に戻ってきた所で日が暮れてきていた。
夜にあの場所を捜索するのは難しいだろう、と考えられる。
「今日の所は宿をとって、明日探索するのが良いのではないでしょうか?」
「でも、蓮君がいつまで平気かわかんないし……。」
「俺もそう思う、急いで行かねぇと蓮がアブねぇんだ。」
「しかし、夜になってしまったら月明り程度しかありません。そんな中で洞窟を見つけて、探索するというのは無茶なのではないですか?」
「……。」
意見が別れてしまった。
こういう時纏め役の竜太が居ないとどうなるか、それは簡単な話だった。
「無茶をして私達まで魔物にやられてしまったら、誰が蓮君を助けるのですか?」
「そりゃ……、でも魔物にやられると決まったわけじゃねぇだろ?」
「私は反対します、無謀な事をして竜太君に余計な面倒をかける事になりかねません。」
「でも蓮君はいつまでもつかわからないんだよ……?」
「だからこそです!私達が慌ててどうするんですか!堅実にならなければ、助けられるものも助けられませんよ!」
清華が大声を上げ、周囲の僧達がざわつく。
それもそうだ、街のど真ん中で立ち止まり、こんな話を旅人がしているのだから。
「……、儂も、清華に賛成だ……。」
「大地……。」
「……、儂らが慌てていては……。」
珍しく声を出す大地、その言葉は一行を少し落ち着かせる。
「……。わかった、今日は宿を取ろう。明日から全力で探せば、間に合うかもしれない。」
「修平……。わあったよ、多数決だ、しゃーねぇ。」
「すみません大地さん、冷静さを欠いていました。」
「……。」
大地の言葉で冷静になった清華は、大地に詫びを入れる。
大地はそんなつもりで行ったわけではなかったので、少し恥ずかしくなりまた無言になってしまう。
「では、宿を探しましょう。」
「そうだね。」
そう言って辺りを見回すが、何処に宿があるのかは皆目見当つかない。
辺りはもう暗くなってきていて、松明の明かりが周囲を灯し始めていた。
「あのさー、ここら辺に宿ってないか?」
「え!?や、宿ですか?」
「そう、宿。旅人とかに向けた宿ってないか?」
俊平が近くにいた少年に声をかける。
少年は驚き戸惑っているが、俊平はあまり気にする事無く問い続ける。
「た、旅人さん用の宿なら、ここから少し西に言った所に、あ、ありますよ。」
「お、サンキュな。」
少年はそれだけ言うと、そそくさとその場を離れていく。
「西の方だってよ、行こうぜ。」
「俊平君、コミュ力あるね……。」
「そうか?こんくらい出来なきゃだろ。」
俊平をはじめに西へ向かう一行、その中で修平は驚いていた。
自分では、あそこまでナチュラルに他人に話しかける事は出来ないだろう。
それが出来る俊平が凄いと、修平は心の内で褒めていた。
「あれ、金ってあったっけ?」
「俺が持ってるよ。えーっと、5,ゴールド、で良いのかな?金色だし、ディンさんが持ってたのと同じだし。」
「良いのではないでしょうか?確かにディンさんがゴールドを求められた時と、同じ物の様に見えます。」
歩きながら、修平がずた袋の中身を見ると、確かに5ゴールド入っていた。
それがどれくらいの価値なのかはわからなかったが、大金である事には間違いなさそうだ。
「お、宿ってあれじゃね?」
俊平が松明の灯りを頼りに看板を探していると、宿と書かれた看板を見つけた。
一行は宿と書かれた看板のある建物に入ると、受付に声をかけた。
「四人泊まりたいんだけど、空いてるか?」
「旅人さんかね?四人なら空いているよ。40シルバーだ。」
「修平、支払い頼んだ。」
「はいはい、これでいいですか?」
そう言って修平はゴールドを一枚取り出し、受付に渡す。
「はいはい、1ゴールドね、60シルバーのおつりだ。」
そう言われ、60枚のシルバーを渡される修平。
「おわ、入りきるかなぁ……。」
ずた袋はぎりぎり入るか入らないかくらいにパンパンになる。
どっしりとした感覚がし、自分が金持ちになった様な錯覚を修平は少し覚えた。
「部屋は二階に上がって突き当り右の部屋だ、風呂は一階の突き当り、食堂はその途中にあるから使ってくれ。」
「あいよ、サンキュ。」
俊平が先導し、二階へ上がる一行。
他に客は居ないらしく、静かなものだ。
「ここか。」
突き当りの部屋に辿り着き、ドアを開ける。
そこには簡素な布団が四つと、窓際にテーブル一つとと椅子が二つあった。
「全員同じ部屋か、少しは気遣ってくれても良かったのにな。」
「……。まあ、仕方がないでしょう、我慢します。」
男性と一緒の部屋で寝たことのない清華は、ある種の忌避感の様なものを覚える。
が、仕方がないだろうと諦める。
これから先、こういった事は沢山あるのだろう、と。
「取り合えず今日は休んで、明日朝一番で動こう。」
「そだな、朝から動きゃ少しは成果も出るだろ。」
「お腹がすきました、食事に行きましょう。」
「そうだね。」
仕方がないのだと諦めた清華の一言で、一行は食事処におりた。
「いらっしゃい、四名様ですね?」
「あぁ、夕飯を頼む。」
「かしこまりました。」
コックも僧衣を着ていて、何とも不思議な光景だ。
大地にとっては見慣れた光景ではあるが、他三人は見慣れていない。
「この国の食事ってどんな感じなんだろ?」
「仏教の国というのですから、精進料理ではないでしょうか?」
「精進料理ってなんだ?」
「精進料理は仏門の者が口にして良い物だけで作られる食事の事ですね。大地さんは召し上がっていたのではないでしょうか?」
「……。」
自分は仏教を離れたと思っていたのに、また戻ってきてしまった感覚に陥る大地。
断ち切ったはずだった、この三か月で仏門を離れ、周りと同じ生活をする事を楽しんでいた。
それなのに、この世界には仏教の国という物があり、今自分はそこにいる。
引き戻された感覚の中、眉間に皺が寄ってしまう。
「でも大地、肉食ってたりしてたろ?」
「それは、この世界に来てからではないでしょうか?」
「……、儂は、この世界に来るまで……。」
「お肉食べて感動してたもんね、そういえば。」
何とも言えない空気が流れる。
それは、大地の仏門への思いをなんとなく察していたからだ。
「お待たせしました、夕食でございます。」
「お、ありがとさん。代金は?」
「お代の方は宿泊費込みとなっておりますので、ご安心ください。」
「そっか、じゃいただきます。」
そんな中出されたのはやはり精進料理、穀物や野菜を中心とした料理で、肉や魚はなかった。
大地以外の三人は物珍しそうにそれを眺め、一口食べる。
「お、うめぇじゃねぇか!もっと味薄いと思ってたぜ。」
「そうだね、お坊さんの食べる物だからもっと味が薄いと思ってたよ。」
「そうですね、美味しいです。」
パクパクと精進料理を食べる三人と、なかなか手を付けない大地。
大地は何か不満があるような様子で眉間に皺を寄せており、料理に手をつけようとしない。
「大地君、食べないの?」
「……。」
引き戻されてしまいそうな気がする。
食べることで、仏門に再び帰依する事になってしまいそうな気がする。
だから、中々手を付ける事が出来ない。
「なぁ大地、食べねぇと体力消耗するし、明日の探索無茶することになるぜ?」
「……、そう、だな……。」
今は個人の感情を云々言っている場合ではない、大地はそう考え箸を取った。
「ここが俺の住処だ。」
「なんていうか、意外と綺麗ですね。」
「そうかい?まあ君達が気に入ってくれたならそれは良かったよ。」
大地達が食事をしているのと大体同じ時間帯、竜太と蓮は天野の住んでいる場所に到着した。
家、というのは少し違う様な、簡素な作りの雨風しのげるであろうその場所は、川辺から少し離れた高台に建っていた。
ここなら川の氾濫に巻き込まれる事もないだろう、そして確かに川辺近くではある。
依頼所の店主の言葉に間違いはなかった、と言う事になる。
「坊やはそこに寝かせると良い、休ませないと体力が持たないだろう。」
「ありがとうございます。蓮君、もうちょっと待っててね。大地さん達が、きっと薬草を持ってきてくれるから。」
「うん……、はぁ、はぁ……。」
麻で出来た布団の様な敷物に蓮を寝かせ、竜太は一息つく。
苦しそうな呼吸をする蓮、これは本当にいつまでもつかわからない。
天野は四日と言ったが、四日持つのかどうかさえ怪しい所だ。
知識がない為言い切れはしないが、本能的な何かが竜太にそう伝えている様だ。
「おにい……ちゃん……。」
「蓮君……。」
毒に侵されながら譫言を口にする蓮。
ディンならこんな毒一発で治せるだろう、しかし自分にはその力がない。
竜太は、それを悔やむ。
「僕に出来る事、何かありませんか?」
「いや、君はただ待って居ればいい。仲間なんだろう?信じてやろう。」
「そう、ですか……。」
何もする事はない、何も出来ない。
そう天野に言われた気がした竜太は、悔しそうに唇を噛んだ。
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