餓鬼という魔物

 街を歩きながら、きょろきょろとあたりを見回す一行。

建築物は中世の日本の様な形式の木造建築で、ジパングに近しい物を感じさせる。

 そして、やはり住民達は僧衣を着ていて、一行の服装は浮いている。

建築中の建物があったりもしたが、それの作業員ですら僧衣を着ているのだ。

 それだけ、仏教という物がこの国にとって重要なのだと、そう伺える。

「……。」

「大地さん、どうしました?」

「いや……。」

 竜太が大地の隣に来て小声で問うが、大地は答えるつもりはあまりないらしい。

「悩んでる事あったら言ってくださいね?仲間なんですから。」

「すまぬな……。」

「別に謝る事じゃないですよ、まあそのうち聞かせてくださいね。」

 竜太はそれだけ言うと前に戻り、蓮と先頭を歩き始める。

「……。」

 その姿を見て大地は考える、話すべきか否かを。

戦争とは関係ないごく個人的な悩みなのだから、話すべきではないという考え。

 そして、仲間なのだから話してもいいという竜太の言葉。

友達と言える存在の居なかった大地にとって、それは判断し難い事だった。

「ねえ竜太君、あの建物何かなぁ?」

「うーん、お寺っぽいけど。なんだろう?」

 蓮と竜太の視線の先には、寺の様に見えるが少し形式の違うと思われる建物が。

元居たセスティアでは見たことがない形式の建物だが、何やら人が集まっている様だ。

「人、いっぱいいるね。」

「そうだね、何かイベントかな?」

「後で何してたか聴いてみようよ!」

「後でね、今は魔物退治しにいかないと。」

 セスティアを出て以降、外園邸と港町しか見たことがない蓮は、色々と興味津々だ。

 きらきらとした目で周囲を見渡しながら、一番前を歩いている。

「蓮君は三宅島から出た事ないの?」

「うん、島から出た事無いんだ。お兄ちゃんと一緒に出たのが初めて!」

「そっかそっか、じゃあ色んなものが珍しいね。」

 修平が蓮に話しかけると、楽し気な顔をしながら答えてくれる。

三宅島に住んでいたと知っているのは修平だけで、清華と俊平はへーっとなる。

 大地はまだ何かを悩んでいる様で、反応がない。

「いっぱい色んなの見るの、楽しみ!」

「そっか、沢山楽しい物見れると良いね。」

 戦争でさえなければどれだけ良かったか、蓮の無邪気な笑顔を見て修平達は心を痛める。

 しかしそれでもこの世界に来なければ、蓮には悲惨な未来が待っていた、それもわかっている。

 だから手放しでは喜べないが、蓮が笑っていると自分達も嬉しくなってくる。

それだけ、過酷な環境で蓮は生きてきたのだ。

「ねぇ竜太君、あれなぁに?」

「あれは……、お店じゃないかな?出店っていう、お外でやってるお店。」

「へぇー!そんなのもあるんだ!」

 無邪気に竜太に問いかける蓮、その姿は本当に世間知らずの11歳の少年だ。

神に力を与えれられた特別な人間でも、虐待を受けてきた可哀想な子供でもない。

 とことこと歩きながら、色々なものを見て驚き、色々なものを見て感動している。

「……。」

 そんな蓮を見て、どうしても心を痛めてしまう修平達三人。

 もっと早く救う方法はなかったのだろうか、親殺しなどさせなければならない理由でもあったのだろうか。

そんな風に考えてしまう。

「……、儂は……。」

 そんな中、心ここに在らずといった風な大地。

まだ悩んでいるのだろう、自分の在り方を、自分の生き方を。

 熱心な仏教徒であった父や、檀家の人間達、そして嫌々ながらもずっと勉学に励んできた自分。

それを否定して今ここにいる、それは正しいのだろうか、と。

「さぁ、ささっと済ませて戻って、マグナに向かいましょう!」

「そうだな!」

「えぇ、急がないとですね。」

 そんな大地を他所に、一行は意気込んで進んでいった。


「えーっと、北東の小高い丘、ここらへんかな?」

「魔物、いるー?」

「見えないね、どこかに隠れてるのかな?」

 目的地と思わしき、街はずれの小高い丘に着いた一行。

 しかし、魔物の姿は見えず、平和でのどかな景色が広がっている。

「ちょっと待ってね。」

 竜太はそう言うと、魔物の位置を探知し始める。

すると、微弱だが魔物と思しき気配が周囲にある。

「反応はあるんだけど、見えないね。」

「どういう事だ?」

「魔物の気配自体はするんですけど、姿が見えないんです。どういう事なんだろう…?」

 俊平が竜太に疑問を投げた、その時。

「助けてくれぇ!魔物だぁ!」

 そう叫ぶ男の声が聞こえた。

 その声は今一行がいる所からそう遠くない所から聞こえてきて、近くに魔物がいる事を知らせた。

「行きましょう!」

「わかった!」

 修平と竜太が先頭に立ってそちらに向かう、その先で目にしたものは。


「これって、人……?」

「人間、だよな?」

 まず俊平と修平が疑問を浮かべる。

 それは人の形を成していて、ボロボロになった僧衣を着ていた。

 顔は溶けかけているかのように崩れ、ゾンビの様にも見えたが。

しかし、人間である様な気がした。

「助けてくれぇ!」

「い、行かないと!」

「あの男の人助けようよ!」

 蓮はそれに気づかず、今度こそ戦うぞという意気込みを見せる。

その声にハッとし、各々武器を構えそちらへと走り出した。

「とりゃあ!」

 まず魔物と逃げていた男の間に、飛び込んだのは蓮だった。

両刃剣をくっつけずに、片刃の剣として構える。

「今度は怖くないもん……!」

 まだ少し怖い、魔物という存在に相対するのは二度目だ。

しかし勇気をふり絞り立ち向かう、ディンに教わった事を思い出しながら。

「えぇい!」

 迫りくる人型の魔物に対し、思い切り両手の剣を横に振るう。

「だずげでぐれぇ……!ぐぎゃあぁ!」

 人型の魔物が何か言うが、それとほぼ同時に蓮の両手の剣が魔物の脇腹を滑る様に切り裂いた。

 それは蓮の耳にも入ってきたが、しかし意味がわからなかった。

魔物にも言葉を話すものがいる、程度の認識しかしなかった。

「俺達も続こう!」

「お、おう!」

 それに出遅れて、四神の使い達がたどり着く。

 その頃には周囲を人型の魔物に囲まれていて、どこからこんな量の魔物が現れたのか、という量の魔物がいた。

「これ……。」

 竜太は驚愕する、その理由は他の誰にもわからない事だったが。

「とにかく、倒さなきゃ!」

「わかっています!」

 修平はグローブを身に着け、俊平と清華は刀を抜き、大地は六尺棒を構える。

竜太はそんな中、驚愕の中にいて武器を構える事が出来なかった。

「囲まれてるぞ!」

「…。」

「ばらけて戦おう!」

 俊平と修平が戦い方を決め、五人はそれぞれの方向へと走り出した。


「とりゃぁ!」

 蓮は初めての魔物相手に少し怯えながら、しかし勇敢に戦う。

精一杯の勇気をふり絞り、魔物へと向かっていく。

 人型の魔物が何か喋っている様にも見えるが、しかし何を言っているのかはわからない。

それに注意できるほど、余裕がない。

「うぉっと!」

 その横で、俊平が魔物に向け刀を振るっていたが、爪での攻撃を受けそうになっていた。

何とか回避し攻撃に転じる俊平、その時魔物の顔がはっきりと見えた。

「……!」

 やはり、人間だ。

顔は溶けかけ崩れ落ちているが、それでも元々は人間だったのだろうと考えられる。

「っ……!」

 切れない、人間なのだから。

自分は人間を守る為に、世界を守る為に修行をしてきたはずだ。

 だから、切れない。

「俊平君!」

 怯み、魔物の爪に引き裂かれそうになった所に、修平が跳んでくる。

跳び蹴りを魔物へと繰り出し、怯んでいる俊平を助けたのだ。

「俊平君!しっかりして!」

「だって……、あれ人間だぞ!?多分だけど、元々人間だぞ!?」

「でも……、でもやるしかないよ……!人を襲ってるんだよ!」

「でもよぉ!」

 俊平の大声に、清華と大地、蓮は気づかされる。

今相手しているのが、爪こそ長く鋭くなっているが、人間なのではないか、と。

 マグナに到着したらそれは致し方ない事だとはわかっていた、しかし今ここで人間と戦う覚悟など出来ていない。

「……、くっ……。」

「ほんとに人なの!?」

 人間だと思ってしまった瞬間、戦いの流れが乱れ始める。

 ある程度の覚悟を決めてきた清華や修平は戦えているが、俊平と大地、蓮は防戦一方になってしまう。

竜太はそれを確信してしまい、戦いに参加出来ずにいた。

 探知出来る波動は確かに魔物だ、しかし人間の波動も混じっているのだ。

人間を斬ってはいけない、人間を攻撃してはいけない。

 それは、竜神の掟の一つだとディンに教わってきた。

「っ……。」

 しかし、事実として魔物と化している人間がいる。

これをどうすれば良いのかを、竜太は知りえない。

「わぁ!」

「蓮!」

 防戦一方になっていた蓮が、攻撃を受ける。

爪により腕の皮膚を引き裂かれ、怪我をしてしまった。

「いってててて……。」

 怪我した左腕を庇いながら、魔物の攻撃を避ける蓮。

 訓練中は怪我をした事がない、ディンがそれだけ手加減をしていたから、怪我をするというのも久々だ。

「負け、ないもん……!」

 しかし、その怪我が蓮の闘志にスイッチを入れた様だった。

 痛みを与える者は敵、仲間に危害を加える者は敵。

相手は魔物、人間ではない。

 そう考える事によって、戦いに対する雑念を捨てる。

それを無意識下で考え、実行する。

「とりゃあぁ!」

 魔物の一匹に向け突撃する蓮、右手の剣を思い切り振りかぶり、そして振り下ろす。

「ぐぎゃあぁ!?」

 魔物は悲鳴を上げ、倒れる。

「蓮君!後ろだ!」

「え!?」

 しかし、魔物一体に集中しすぎてしまっていた様だった。

人型の魔物が後ろから、蓮に向かい噛みつこうとしていた。

「てやぁ!」

「りゅ、竜太君!?」

 そこに竜太が跳んできて、思い切り膝蹴りを繰り出した。

 竜太は一つの結論に至っていた、魔物であれば倒さなければならないと。

 元々が人間だったとしても、今は魔物。

どういう経緯が在れど、仲間や人間に対し脅威となり得るのならば戦わなければならない。

 マグナに着いたら、たとえ人間相手でも戦わなければならないのだ。

だから、迷っている隙は残っていない。

「戦いましょう、この人達を開放する為にも……。何より、魔物をそのまま放ってはいけない……!」

「……、そう、だな……!」

「はい……、私達はその為にここに居るのですから。」

 竜太の言葉に、各々武器を構えなおす。

蓮はもう魔物に向け突撃していて、それに追随する様に攻撃を始める。

「すまねぇ……!」

 俊平が謝りながら魔物に刃を振る、その刃は袈裟に振るわれ魔物を切り裂く。

「だずげで……、ぐれぇ……!」

 断末魔の様な声を上げて倒れる魔物、しかしまだまだ数は残っている。

ゴブリンファングの様に一体一体が強い訳ではなさそうだが、しかしその分数がいる。

 体力の消耗は避けられないだろう、傷を負わずに倒せるかもわからない。

「っ……、次だ!」

 断末魔を聞きながら、俊平は次の魔物へと攻撃を繰り出す。

『ニトロバーン!』

 爆発魔法を魔物に放つ俊平、その魔法は魔物に直撃し、魔物は悲鳴を上げる。

「クソッ!どうにかならねぇのか!」

 その言葉は、何に対し吐かれた言葉なのだろうか。

魔物の多さに対してなのか、それとも魔物と化してしまった人をどうにかする手立ての事なのか。

 それは他の誰にもわからなかったが、しかし吐かずにはいられない言葉だったのは確かだ。

「委員長!アブねぇ!」

「委員長と!呼ばないでください!」

 そんな俊平が清華の方に目を向けると、丁度前後左右を魔物に囲まれた清華の姿があった。

魔物の爪を刀でいなしつつ、突破口を見つけようとしている。

「……、これは……!」

 圧倒的な数の差、それを埋められる程の実力が自分にあるのだろうか。

「考えている余裕は、なさそうです、ね!」

 爪を弾き、魔物に一閃攻撃を加える。

まず一匹目の魔物が地に伏し、清華は次の魔物へと目を向ける。

「子供……?」

 それは蓮と同じくらいの大きさで、やはり僧衣を纏っている魔物だった。

顔は腐っていて表情はわからなったが、苦しそうな呻き声を上げている。

「くっ……!」

 倒さなければならない、人を守る為に。

しかし、どうしても斬れそうにない。

「つ、次です……!」

 一旦目をそらし、別の魔物に目を向ける。

そちらに居たのは大人の形をした魔物で、今度は顔が半分程残っていた。

 とても苦しそうな顔をしていて、痛々しい。

例え魔物だとしても、人型をしているのでは覚悟が鈍ってしまう。

 こんな状態でマグナに到着したら戦えるのだろうか、と清華はどこか冷静な部分で考える。

「こんな事を、考えている、場合じゃ、ないです、ね!」

 魔物と打ち合いをしながら、清華は自分の迷いを絶つ様に声を出す。

そして一閃、大人の形をした魔物を切り裂くと、次の魔物へと目を向ける。

「うわぁ!」

「修平さん!?」

「あっぶない……。」

 そこに修平の大声が聞こえてきて、思わずそちらを振り向く。

修平は何とか戦えていて、魔物の爪をかいくぐりながら攻撃をしていた。

 がしかし、如何せん数の差が酷く、多対一という状況に慣れていない修平は苦戦を強いられていた。

「せいやぁ!」

 拳を振り抜き、蹴りを繰り出し、魔物を叩いていく修平。

 徐々にではあるが、修平の周りの魔物の数が減っていく。

が、それと同時に修平の体力も減っていく、それは体術で戦う修平にとって致命的だ。

「はぁ、はぁ……。」

 魔物を10体倒した所で、呼吸が乱れてくる。

しかしまだ数がいる、まだ戦わなければならない。

「あと、どれだけいるんだ……!」

 終わりの見えない戦い、それに疲弊してしまう。

 今までの戦いや訓練では終わりが見えていた、数や時間がわかっていたから戦えていた。

 しかし今は違う、終わりの見えない、敵が何体居るのかもわからない戦いだ。

 これからはそういった戦いの方が多くなってくるのだろう、出来る様にならなければならない、やるしかないのだから。

「うおぉ!」

 11体目の魔物に膝蹴りをいれながら、修平は吠えた。

己を鼓舞し、奮い立たせるために叫んだ。

「……。」

 その声を聴きながら、大地は魔物達と対峙していた。

 襲い掛かって来る者の頭を叩き潰し、胴体をへし折り、なんとか戦っていた。

 元は人間、しかも自分と似た僧衣を着ている。

それだけでも戦いの覚悟を鈍らせるには十分だったが、竜太がああ言ったからには戦わないわけにもいかない。

「っく……!」

 魔物の攻撃を受け、それを何とかガードしながら大地は目をそらす。

 まるで、自分がこの世界に来た時の村の村人達を見ているような気がしてしまう。

焼け焦げた人間の匂いを、溶けて崩れかけている顔を見ていると思い起こさせられる。

「……!」

 そんな事を考えていたら、魔物が爪を突き出し攻撃を仕掛けてきた。

間一髪の所でそれを避け、反撃に転じようとする、が。

「だず……げで……。」

「っ……!」

 魔物が声を発した事で、攻撃が出来なくなってしまう。

 言葉を発している、人間のように見える。

それだけで、戦う覚悟を鈍らされてしまう。

「大地さん!」

 躊躇い、攻撃を受けそうになる大地。

 そこに、竜太がトンファーを構え跳んできた。

大地の後ろから攻撃を加えようとしていた魔物に、思い切り殴りかかる竜太。

「大地さん!大丈夫ですか!?」

「あ、あぁ……。」

 良かった、と竜太は呟くとその場を離れる。

 竜太の中で、疑問は確信へと姿を変えていた。

純粋な魔物であれば、倒されれば塵の様に消えるはずだ。

 しかし、今戦っているそれらは死体として積み重なっており、消えていない。

それは、人間であった名残の様なものなのだろう、と。

「人間が……、魔物に……。」

 何故そうなってしまったのか、と戦いながら考える竜太。

わからない、わからないが、事実として人間が魔物と化している。

 ディンが以前何か言っていた様な気もするが、思い出せない。

「蓮君!危ない!」

 戦いながら周囲の状況を見て、必死に仲間の応援をする。

蓮が後ろから攻撃されそうになった所を、間一髪の所で助けに入る。

「ありがとう……、竜太君……。」

 息を切らし、辛そうにしながら蓮は礼を言う。

 その様子は、普段の疲れているだけの蓮とは少し違った。

「蓮君、大丈夫?」

「う、うん……。」

 苦しげに吐き出される言葉に、竜太は異常を感じる。

「まさか……。」

 行きつく可能性は一つ、普段あまり考える事が得意ではない竜太でもわかる。

「皆さん!魔物は毒を持ってます!気を付けて!」

「マジかよ!?」

 毒に侵されている、それはすぐにわかる事だった。

「蓮君、えっと、毒は動くと回りやすいから、僕の傍から離れないで!じっとしてて!」

「う、うん……。」

 ぐったりとしてきている蓮を庇う様に、竜太は立ち回る。

迫ってくる魔物にだけ注意し、迎撃をする。

「後、少し……!」

 探知をすると、魔物の気配は減ってきている。

残り少ない数で、何とか迎撃しきれそうだ。

「くっそたれぇ!」

 俊平が悪態をつきながら魔物を斬る。

「これで、終わりです!」

 清華も、自分を囲んでいた魔物を斬り伏せ、何とか戦闘を終える。

「負けて、たまるかぁ!」

 修平は風の魔力を拳に籠め、魔物を一網打尽にする。

「……、すまぬ……。」

 大地は渾身の一撃を魔物に喰らわせ、最後の魔物にとどめを刺した。

 あたりには静寂が戻り、魔物がこれ以上出現しないであろう事を感じられた。

「皆さん、怪我はないですか?」

 迎撃を終えた竜太が蓮を背負い、魔物の気配が回りに無い事を確認しながら問う。

「ねぇけど竜太、蓮はダイジョブなのか?」

「何とも言えないです……、街に戻って情報を収集しましょう。解毒剤か何かあるかも知れません。」

「蓮君、大丈夫?」

「はぁ……、はぁ……。」

 蓮はだいぶ毒が回ってしまっている様で、苦し気な表情をしている。

傷口は紫色になっており、毒が浸食しているのが伺える。

「とにかく戻りましょう、急がないと。」

 そういうと竜太はさっさと来た道を戻り始め、四人はそれに従い急いで道を戻り始めた。


「人間の魔物化か、懐かしいな。」

「おやディンさん、どうなさいました?」

「いや、竜太達がどうしてるか探知したんだけどな。人間が魔物になってたんだよ。」

「それは……?」

「原理はわかるが理由はわからない、でもそういう事実が存在するってだけだ。」

「まさか、そんな事があり得るのでしょうか?」

「あり得る、というか過去にも事例はあったんだ。」

「彼らは、苦悩するでしょうねぇ。」

「あぁ、でもそれも乗り越えて貰わないといけないんだ。じゃないと、戦えなくなっちまうからな。」

「そうですねぇ、そうしてもらわないと世界を守れませんからね。」

「その通りだ。酷だろうけど、乗り越えるしかないんだ。」

「……。ディンさん、貴方は本当にお優しい。恨みを全て受け入れるつもりなのでしょう?」

「……、それも役目さ。」

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