おぼろ
声が聞こえる。
――あいつ逃げやがっ……
――おい、そのお嬢さん、血がやばいんじゃ。
――坊を呼べ、無理なら鈴蘭を。
――ああ、くそっ、こんなことなら最初から連れてくれば。
聞こえてくる喧しい声に蓮花は薄く目を開ける。
涙で濡れた視界はぼんやりとしているが、地面らしきものが見える。
腹というか体の表側に冷たく硬い感覚があるので、自分はどうやら地面にうつ伏せに倒れているようである、と蓮花は推測した。
聞こえてくる声は吸血鬼の弟と、おそらくはあの屋敷の主人だ。
背はいつも通りだが、噛みちぎられかけた首筋からの出血はそこそこ危ないかもしれない、と痛みでうまく動かない脳で蓮花はぼんやりと思った。
温かいものが溢れていくのがわかる、背から石をはやすだけで死にかけることがあるのにそれに加えてこの首からの出血は、おそらく死ぬ。
死ぬのは別に構わないと蓮花は思った。
しかしそれはそれとして色々と不可解な疑問が残るのでその疑問を残したまま死ぬのは少し嫌だなとも思う。
何故自分に噛み付いたのか、最愛の弟をほっぽりだしてまでやらなければならないこととはなんだったのか、そもそも何故あの時自分を生かしたのか。
――とりあえず、いったんうちに。
――離れろ!! 栫井!!
吸血鬼の弟が上げた大声が傷に響いて、蓮花は呻きかけた口を今度こそ左腕で塞ぐ。
噛み付いた左腕の痛みに安堵しつつ、蓮花の意識は今度こそ完全に落ちていく。
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