古都
古都に辿り着いた蓮花は、またしても頭を抱えることになった。
「どこから……どこから探せば……」
古都は結構広いのである、新都ほどではないが少なくとも蓮花が徒歩で1日歩き続けたところで一周どころか半周もできないだろう。
せめて古都のどこに行ったのかという情報があればよかったのだが、古都に行った以上の情報を蓮花は何も持っていない。
さらに言うと、蓮花が知っているのは古都に行った
「とりあえず……観光名所的なところから探すべき……?」
そもそも何故あの吸血鬼は古都になど向かったのだろうかと蓮花は首を傾げる。
あの逃避行の最中、遠くに行くのならあの吸血鬼が元々いたという英国や、今まで一度も行ったことがない古都にも行ってみたいと話したような気がするけど、まさかそれが原因ではないだろうと蓮花は考える。
きっと、何かがあるに違いない。
だとすると、ひょっとするとあの吸血鬼が長年探し続けているという彼の双子の弟、その手掛かりが見つかったのでは?
「ありえる……」
そうでもなければわざわざ古都に彼が訪れる理由もない気がすると蓮花は考えた。
それならば邪魔をしない方がいいだろうか?
彼と、生き別れになったその最愛の弟の再会に、蓮花如きが水を差すわけにはいかないのである。
ならば一旦博物館に戻った方がいいだろうかと蓮花は考え込む。
そもそも『会わなければ』と衝動的に飛び出してきたものの、よく考えれば大人しく待っていた方が無難な選択だったと蓮花は今更後悔し始めた。
それでも旅費やその他必要経費はあの魔女に借りてしまったし、着いた直後にとんぼ返りするというのもなんというか、勿体ない。
ものすごく無意味で無利益なことではあるかもしれないが、とんぼ返りするのはやはり何かが違う気がする。
そう思った蓮花は借りた旅費分はこの街で彼を探し続けることにした。
古都、というほどであるからどこもかしこもきっと古風な建物ばかりなのだろうと蓮花は勝手に思っていたが、実際はそんなことはなかった。
キャリーバッグを引きずって駅から出てみると、広がっていたのは古風というよりもむしろ都会的な風景だ。
通行人も思っていたよりも多い、また観光客なのか肌の色や髪色が派手な人もそこらかしこに見かける。
蓮花は古都というところは静かで古めかしく人も少ないという印象を幼少期から持っていたのだが、その印象は早急に捨てるべきだ、と思った。
蓮花はひとまずそこら辺をぶらぶらと歩く。
テレビで見たことがあるような古風な場所に向かうにはどちらに行けばいいのだろうかとは思ったものの、別に目的地や見たいものがあってここに来たわけではないので、考えなしにただ歩く。
道中で金色の髪を見かけるたびにひょっとしてとは思うことはあったが、探し人は見つからず。
昼になったのでコンビニで軽食をとって、またふらふらと。
そろそろ適当に歩くのをやめて目的地を一度作ってみようかと蓮花が考えた時、正面に金色の髪の少年が。
「……!?」
その顔を見た瞬間、蓮花は思わず立ち止まる。
金色の髪の少年の目は青色で、その顔はあの逃避行を共にしたあの吸血鬼とよく似ている。
しかし、よく似ているだけの別人だ。
本人ではない、その顔を見た瞬間にそれだけは確信していた。
しかし、あれだけそっくりな顔であるのならきっと、と蓮花は息を飲む。
蓮花の視線に気付いたらしき金髪の少年が、険しい顔でこちらに歩み寄ってきた。
近付いてくる少年の顔は、やはりあの吸血鬼によく似ている。
「おい、お前」
「あの!!」
少年が何かを言うと同時に蓮花は叫んでいた、自分はまだこんな声が出せるのかと蓮花は少しだけ驚いた。
唐突に叫んだ蓮花の顔を道行く通行人達がちらちらと見る。
蓮花は一度深呼吸をして、なるべくゆっくりと静かな声で金髪の少年に問いかける。
「双子のお兄さんっていますか? その、何年か前に生き別れになってる感じの……」
そう問いかけると、金髪の少年の眉間に皺がよった。
「いる、と言ったら」
「やっぱり!!」
蓮花はその場でぴょこんと飛び上がった。
やはりこの少年はあの吸血鬼の双子の弟なのだろう。
ならばきっと、やはりあの吸血鬼は彼を探すためにこの古都を訪れたのだろう。
あの吸血鬼が目の前の彼とすでに再会したのかそうでないのかはわからない、それでもきっと近くにいる。
そう考えただけで、蓮花は舞い上がった。
舞い上がって、舞い上がって。
――バキリ。
背中からそんな音が響くと同時に、激痛が。
「……っ」
激痛に、蓮花は地に倒れ込むように蹲り、同時に左腕を強く噛む。
ばきり、めきり、めきりと背中から鈍い音が続く。
「おい、お前……!!」
あの吸血鬼とそっくりな顔の少年が自分に駆け寄ってきたのを顔を上げてなんとか目視した直後に、蓮花の意識は激痛によって混濁し、消えていく。
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