少女パパラチア

朝霧

新幹線に乗って

 新幹線の自由席に座った蓮花は思わず頭を抱えた。

 自分が寝ている間に色々あって、あの吸血鬼が現在古都にいるらしいと聞いた後に古都行きの新幹線に飛び乗ったところまではいい。

 自分が数年展示されていた博物館を襲撃・占拠してしまった魔女から超能力の暴発を抑える薬と暴発した時のための霊薬とやらももらえたから、そういった心配も今のところはそれほどしていない。

 ならば何故蓮花が頭を抱えているのかというと、あの吸血鬼にうまいこと再会できたとして一体何を話せばいいのかとシミュレーションしてみると、いっそ面白いくらい何も言葉が浮かんでこなかったからである。

 蓮花は本来ならとっくに死んでいるはずの身だった。

 それなのに生きているのは、あの吸血鬼が死ぬ寸前の自分の命をその血で無理矢理現世に繋ぎとめたためであったらしい。

 それなら言うべき言葉はお礼の言葉でいいのだろうか、と蓮花は思ったが小さく首を振る。

 蓮花はそれは何かが違うと思った。

 あの時、蓮花は死を受け入れていた、どうしようもないほどに。

 一昨日魔女によって叩き起こされたその瞬間に思わず絶望してしまったほどに、死んでしまいたかったのだ。

 あの逃避行のお終いは、自分にとって最も暖かく、そして優しいものだった。

 最期に好きな人に抱くしめてもらって、もう二度と苦しむことはないのだと目を閉じた。

 それはあの吸血鬼だってきっとわかってくれていたはずだ、それなのに彼は彼女のお終いを台無しにした。

 ならば向けるべき言葉は怒りの言葉だろうか、どうしてわざわざ自分を生かしたのだと蓮花はあの吸血鬼を罵倒すべきなのだろうか?

 それも違うと蓮花は首を小さく振る、隣に座っている小さな子供がそんな彼女を見て不思議そうな顔をしていたけど、気にはならなかった。

 蓮花は最期に見たものを辛うじて覚えている、温もりと多幸感に包まれて目を閉じる直前に視界に映ったものを。

 ひどい顔だった、泣いてはいなかったけど、どこかで見たことがある顔。

 蓮花が自分の母親を死に追いやったその日に、鏡越しに見た顔とよく似た顔だった。

 ならばやはり謝罪だろうか、あのような顔をさせてしまうほど、蓮花は彼を傷付けてしまったのだから。

 傷付けてしまったのであれば、やはり謝罪が一番か。

 そう結論付けて一息ついた蓮花は、すぐに大きなため息をついて頭を抑えた。

 謝って、それでどうすればいい?

 かけるべき言葉は拙いけどなんとか見つかった、だけどそのあとは?

 蓮花が博物館に超能力者として収容されたのは、中学に上がってすぐのことだ。

 そこから先はずっと展示品として見世物をやっていただけで、学も何もない。

 本来なら蓮花は高校生になっている年齢なのだが、果たしてこんな小娘が一人で生きていけるだろうか?

 他の超能力者達と違って蓮花にはもう帰る場所などない、誰も頼れやしないのだ。

 そうだ、自分は本当ならとっくの昔に死んでいるはずだったのだ。

 母が死んだ直後、自殺しようと思ったその瞬間に超能力者になっていなければ、運悪く博物館の人間に目をつけられてさえいなければ、とっくに首を吊って死んでいたのに。

 ――なら、死ねばいい。

 初めからそのつもりだったのだから、そうするべきだ。

 そう思った蓮花だったが、果たして吸血鬼の眷属とされてしまった蓮花が安易にその選択を取れるのかはわからなかった。

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