第二話 転生者
文脈からして、彼女はアテネというらしい。
なぜ俺に紹介しないんだよ?初対面なんだぞ。
「よし。私がこの町の店を案内するから、リュウ、こっちおいで」
おいでおいでと呼ぶ手を見て、なぜホラー映画を思い出すのだろうか。
なんとなく、手を握るとやばい気がして、本能的に反対側に行く。
ちょうどアリスさんの真横だ。
「やっぱりリュウ君は、私と同じで人見知りなんだよねー。はい、手をつないで行こ」
「は、はい・・・」
どっちに行っても、危険度は変わらない気がした。
***
とある部屋の目の前に、一人の魔族が降り立った。
黒々とした翼をもつ、魔王に仕えし魔族。
向かう先は、彼の主人の元だ。
「アノ―トス様、失礼します」
「よい。入れ」
許可をいただき、部屋に入る。
いきなり部屋の中に転移するなど、失礼極まりない行為である。
彼は、序列第三位、ファレルは、それを体で覚えている。
「つい先ほど、あちらの世界、監獄世界に、強大な力を持つ魂が移動するのを監視官ゼルシウスが確認しました」
「ああ。我も感じ取った。それだけか」
「い、いえ。その者の魂が元居た世界も、ゼルシウス殿が確認いたしたのですが」
「だからどうした?」
怒っている。
この人は―――私のご主人様は、私に対して苛立ちを覚えている。
だが知ったところで、次に起こることに比べれば、たいしたことがないと言えるだろう。
「その者が元居た世界は―――」
「・・・な、」
絶句。
あの魔王が、かつて第一次人間種戦争で、英雄ともいわれた彼が・・・絶句しているのだ。
「それは、確かなのだな」
「はっ。何度も確認したので、間違いありません」
「そうか、そうか。・・・ふ」
怖い。
正直言うと、恐怖が畏怖を通り越している。なぜ俺はこの魔王に仕えているのだろうか。
そんな疑問も、俺の中では既に打ち砕かれている。
「ふ、ふ、ふはははは。・・・どうやら狩り損ねた人間がいるようだな」
ギラリと目を光らせ、立ち上がる。
行く先はもちろん、“狭間“だろう。魔王様は、プライドが高い。
自らの仕事に穴があるなら、なおさら行くだろう。
俺に止める権利はない。
俺に止める気も起きなかった。
***
管理者『ネメシス』
彼女、もといこの女神は、彼女に与えられた世界『監獄領域』を管理するものである。
彼女は、それを何千年の時を経ても、神やそれに匹敵するものを捕らえ、封印を施してきた。
災厄の女神『エリス』
破壊神の双子『ガルフ』
魔神『ダルシア』
勇者『マサト』
暗黒神『セルシオ』
これらの神たちを、ひたすら、ただひたすら封印してきた彼女にとって、誕生して初めての衝撃を覚えた。
いや、三度目か。
「何だこの魔力。そして流れ」
異常だ。異常すぎる。
まるで時間の流れを狂わせているような感覚。
「ありえない・・・」
封印されるということは、意識を失いつつも、滅ぶことはないという絶妙な立ち位置。
だから絶対、中で何かをしようとか、意識を持つことができないはずなのだ。
考えっれる可能性は一つ。
「エリスか・・・」
あの災厄の女神、最凶の女神に、他ならない。
「これは・・・他の神に力を貸してもらうしかない、か。しかたがない。これはもう既に私の域を超えている」
確信できる。
神が犠牲になるのだと。
彼女を抑え込むだけで、一つの星が滅亡しかけたのだから。
チート転生者と黒猫の異世界旅行記 @prizon
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