第四話 また会う時のために


「まじ、ですか」

「まじだよ。それこそ、私がこうやって君と最後の時をいちゃつきながら過ごしているくらいね」

「・・・離れてくれませんか?」

「やーだ」


アリスこと、災厄の女神エリスさんは、悪者っぽく俺の膝を占拠している最中だった。でもまあ、『災厄』か。もとはどうか知らないけど、世界が『割れた』のも、辻褄が合うな。


「私って、すごいでしょう?あ、ちなみにその後、つまり監獄に連れてかれる前に、ネメシスちゃんとかハーデス君とかと戦ってに滅ぼされちゃうんだけどね。まあ私のことだから、それからも逃れて、今片割れの魂として、あなたの膝に座っているというわけだよ」

「俺の処理能力が追い付かない・・・」


ハーデス?ネメシス?滅ぼされちゃうのか?それならここに座ってる片割れの子っていったい誰なんだ?

話を聞けば聞くほど混乱の海に沈んでいく。

それにここはどこだ?監獄ってこんなのどかでほのぼのとしたところなのか?


「私が滅ぶのはいいけど、君たちはだめだよ。私の道連れなんて、最高神ゼウスでも、許さざる事だよ」

「あんたは、エリスさんはどうなるんだ?」

「さあね」


ぶらっきぼうな返事が返ってくる。ゼウスか。俺が転生する途中で見た女の人だったような?ほとんどなにも思い出せないな。契約みたいなものをした気はするんだけどな。


「今後のことを説明しようか」

「それじゃあいったん俺の膝から降りましょうか」

「もう。つれないなあ」


残念そうに(なんでだよ)膝から降りる。


「君たちが今から転移して行くのは、私のも分からないランダムな世界だ」

「分からないんですか?」

「いったろう?私は片割れだよ。能力は半分以下だ。話を続けるね。その先で困ったことがないよう、私の因子を打ちこんでおく。安心して。今の私は、もう片方の私じゃない。まだ純粋な頃の私だから」


つまり、、、200歳?


「おっと、女性に年齢を聞くのはNGだぞ。だから、君は向こうではチート、というのかな。そういうことだ。ハレーム作り放題だよ」

「いらないですよ。んなもん」


ここに来て分かった。その願いがどんなにくだらないかを。ハーレムよりも、友達のほうが楽しいのだとね。それに、俺魅力ないし。


「私の能力の譲渡、およびここの世界での記憶の消去。これはお願いだけど、次の世界には黒猫と行ってきてほしい。私の大切な親友とともにね。私の大切な、宝物を守りあってほしいのだよ」

「一つ、いいですか」

「何?私にかなえられることは何でも。・・・でも、流石に露出プレイはね。ミーヤもいるんだし。でも、君がどうしてもと言うのなら・・・」


脱ぐな。脱ごうとするな!


「なんでここまで来て変態なんですか。そんなことより、記憶の削除は止めていただきたい」

「・・・どうしてだい?今まで疑問も抱かせないように操作してきた私との思い出が、恋しくなったのかな?」

「再会した時、困るでしょう」


沈黙した。もとより一言も言ってなかった黒猫も、エリスさんも。

俺も。


「は、」


突然笑い声をあげたのはエリスだ。


「ははははははははは。はーー。君は面白いなあ。そういうところ好きだよ。でもまあ、あり得るかな。もしも最高神ゼウス様が許してくださるのならば」

「許してくださいますよ、あの方ならば」

「知ったような口ぶりだなあ。どこかで会ったの?君は」


会った。もう思い出せないけど、悪い人ではなかった気がする。


「それじゃ。もう終わりだね。あっ。そういえば能力の譲渡忘れてた。ちょっと目をつぐんでかがんで」


それ忘れるか普通?言われた通りに頭をエリスさんの顔までかがむ。痛いのは無しで痛いのは無しで。


「―――――!」


俺が感じた感覚は、激しい痛みでもなく、特殊な呪文でもなく。


やわらかい唇の感触だった。


えええええ。ちょっと待てえい。俺、おれ、キスされたのか!?この童貞が!?


「感謝するがいい。最後まで、ラブコメとやらは入れておいたぞ。それに私のファーストキスも、お前に譲渡としてやったぞ。感謝するのだな!」

「めめめ、めちゃくちゃ口調変わってんじゃねえかお前。全然締まんないぞ!」

「あー。もういいっ。恥ずかしいじゃん!さっさと行っちゃえ!」


途端に視界が白くなっていく。エリスの姿も次第に霞んでいった。


「エっエリス」

「寂しかったんだよ。ずっと一人で!誰も遊びに来てくれないから。だから君を召喚したの!」


俺はエリスの友達になるために召喚されのかよ。横暴だけど、最高にうれしい理由だな。

エリスの言葉は続いた。


「好きだぞ、君のこと。ずっと、ずっとな」

「・・・なっ。言うの遅すぎんじゃねえか」

「しょうがないだろ。君のこと好きすぎて」


また世界を破壊しそうになったんだから、と意味不明な言葉を最後に、俺はある可愛くて、繊細で、不器用で、それでもって大好きな一人の少女に、再会するための別れをした。

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