第一話 猫と転生者
それは、ゆっくりと起き上がる。まだ転生直後だから、まともに思考できないだろう。一方的に話すしかないか。
見た目は私と同じくらいだが、年齢は流石に違うだろう。
「ええっと。確か・・・『こんにちは』」
ビクンと驚き、こちらを見つめる。暫く静寂が訪れた。
その中、声を出したのは、それ、召喚体だった。
「つまりここは異世界・・・そしてハーレムの始まり・・・」
「『こんにちは。私、無害です』」
ご主人様から借りた本を頼りに挨拶らしきものをする。ちなみに『無害』というのは私の造語だ。通じるかは分からないが。
「・・・こんにちは」
「ひゃっ」
「何驚いてんだよ。あなたが俺の案内役なんだろう?」
「いやいや、君驚かないの!?知らない世界に召喚されたんだよ!?」
「まあ内心驚いてますけど、仕事柄隠すのがうまいんだよ。んで、俺は何すればいいわけ?勇者ごっこは絶対しないけど」
勇者ごっこ?ちきゅうでは流行っているのか?
「いや、そんなものじゃない。君にしてほしいのはーーー」
「して欲しいのは?」
あれ、なんだったけ?確か大事なことだったような、くだらなかったような、、、
「おい、まさかお前・・・何も目的がなかったとかじゃないよな?」
「は、ははは」
何とか切り抜けよう。目的を忘れたなんて、口が裂けてもこの人には言えない。
「まじかよ。・・・それじゃああの神さんにはどう説明すりゃあいいのか」
「神様?」
まさか神にあったのか?ナニモンなんだよこの人。
「んーと、確かこの世界を統べるとかなんとか」
「そ、それって最高神アテル様じゃないか!いつ、どこで、どうやって?」
「うるさいな。ってそういえば自己紹介まだだったな」
なんでこんなに落ち着いてるんだよお。私だけじゃないか、迷惑してるの。
「俺の名前は、汐川流星。中学三年で、もうすぐ卒業します。もう無理だけどな。
職は裏社会のバイトをしてます。もう殺されるけどな。彼女はいました。もう亡くなったけどな」
「君、いろいろと終ってるんじゃないか」
なんか聞けば聞くほど不幸な人だな。こうやって今まで生きてきたのか。
「んで、お前は?」
「あー。コホン。私の名前はアリス・グウェン・トルディアンというものだ。気安く、アリスと呼ぶがいい」
「なんで急に偉そうなんだよ。てか、結局お前のご主人さんはどこにあるんだ?」
私こと、ミーヤという名の黒猫は、ようやく目的を思い出した。そうそう、ご主人様から命令されたんだったにゃん。
芋ずる式に、ご主人様から告げられた命令も思い出したにゃん。
『私は人見知りなので、あなたがこの世界の概要をサラッと教えてください』
まったく、駄目で妙に頼み方が可愛いご主人様にゃん。一回断ったけど、何度も何度もしつこく言ってきて、最後には、してくれなきゃ住処(枕)は没収すると、暴挙に出たにゃん。
ありゃ、ひどすぎるにゃんよ。
俺様も、渋々要求をのんだにゃ。世の中、世知辛いもんにゃ。
「てかさ、高校一年生としゃべる黒猫って結構シュールだよな」
と、5歳児の黒髪少年は偉そうに言ったにゃん。こいつは自分を見失っているんだにゃん。思春期かにゃん?
「それじゃあ無駄話もここまでで、全部説明するにゃん」
「なんか語尾おかしくないか?まあ猫だからしょうがないか」
「お前の適応力には気味悪くなるにゃん。正直こうしてるのも胸糞悪いにゃん」
「所々性格の悪さが見えてくるな。よっと」
拘束していた椅子から勢いよく飛び降りた。着地しようとしたのか、足元がおぼついていないにゃんね。阿保かにゃん。ここはアリス様が所有している実験棟だにゃん。俺様が来たときは、中はまるで、召喚に失敗し、爆発を起こしたような跡だったにゃん。
多分その通りニャンね。ご主人様も、ほぼ死にかけてたみたいだし。にゃん。
「え・・・あれ?なんか世界巨大化してない?」
「なんかお前が5歳児に巻きもどってるにゃん」
「・・・う」
「う?」
「嘘おおおおお」
「うるさいにゃん!」
「いやまてよ。俺が中学の時、陸上部で鬼コーチに毎日10キロ走らされたあの地獄は何だったんだよ!」
「知るかにゃん。さっさと黙るにゃん。あのくそ・・・じゃなくて、慈愛に満ちたご主人様に迷惑にゃん」
「お前今くそって言ったよな!?」
「そんなことより説明始めるにゃん。でなきゃ一話ただのトークで終わっちゃうにゃんよ」
「一話とか何言ってんだよ。それにお前がこのわたくしめの話を聞いてくださいませんかといったじゃんか」
全部うそにゃ。だまされるにゃよ。
「うざいにゃ。でも我慢してあげて、始めるにゃ」
「いちいち恩着せがましいな、お前」
やっと俺様は、この馬鹿にこの世界の概念を教えることになったにゃ。なんでお前はしゃべれるかだって?黙れにゃ。
ちなみにご主人様は、すやすや眠ってたにゃ。絞め殺したいにゃん。
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