チート転生者と黒猫の異世界旅行記

@prizon

プロローグ 転生魔法

「行ってらっしゃい。柊」

「ああ。行ってくるね、母さん」


俺は汐川琉星という、ごくありふれた人間だ。ドラマで言うところの野次馬A、とかの役にぴったりな22歳である。大学の工学科に通っていて、今はバイトに行くところだ。

というか、なんで俺説明なんてしてるんだろう。

まさかの平凡な日常の最終回ーーー?なんて、かっこいい終わり方なんて、迎えるはずがないだろうに。

精々、足を滑らせて階段から落ちる程度が山だろう。駅のホームを出て、バイト先の山奥に入る。バイトはなんだって?秘密だよ。しょーもないしな。

急な坂を地道に登る。バイト始めて3ヶ月、俺も慣れたものだ。ふと、視線を感じる。

気になって後ろを見るが、そこには普段と変わらない、獣道を無理やり通れるようにしたような道が続いている。

はて、何だったのだろう。見られている気がする。

まあ良いか。俺を見るやつなんて、そこらのゴミを観察しているようなもんだし。

流石にひどいな。


「接続完了」


ん?


「転生術式起動。順調に進行中」


唐突に、脳内に何かが響いてきた。りんとしていて、少し幼い感じの声だな。エロゲーを嗜むものとして、これくらいの区別はつく。

にしても何だこれ?このあたりには誰もいないはず、、、


「転生じゅ・・・あれ?」


とぼけた声が響く。頭が痛い。


「え?ちょ、ちょっとまって。何この魔力?失敗じゃん。でもここまで来ちゃったんだし・・・」


ため息とともに流れる愚痴は、俺の脳内に入らなかった。ごめん、もうやめて?ホラーにしては怖すぎるんですけど。


「ええい、やっちゃおう!最高位魔法ーーー<転生>!」


投げやりな声の直後に、俺を中心とした円が浮かび上がってきた。眩しすぎて直視はできない。かろうじて見えるのは、幾何学的な図形だけだ。


「おいやめろよ!俺は今日バイトの金で、最新作のエロg」


俺の心からの叫びは、誰の耳にも届くことなく、消えた。

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