第29話 急な出発

「とう子ちゃん、とう子ちゃん、僕を早く外に出して! 」


ももちゃんが大きな声を出したので私はハンカチを取り出した。

そして小さくてみそうになる陶器のユニコーンを地面にいて少しはなれると、本当に瞬きするくらいの早さでももちゃんは元の姿に戻った。


「すごいね、こんなに早く戻れるの? 」

「だって、急がなきゃ、もうすぐマスターが帰ってくる」

「え・・・そうなの・・・」

水色君は、悲しそうな声でそう言った。私は藍色君から色々な話しを聞いていたから、彼の気持ちはわかったのだけれど、ももちゃんはすぐに


「一緒に外の世界に、別の世界に行ってみたいのなら、すぐに行こう! 」とかなり強引ごういんな感じで言った。すると水色君も


「そうだね、うじうじしていても始まらない。僕、行ってみたい、外の世界にも」


「そう、じゃあ行こう。とう子ちゃんと一緒ではないけれど、色々と僕が案内してあげられると思うんだ、さあ、二人とも乗って」


「うん、でも、ももちゃん二人は重くない? 」

「大丈夫だよ! さあ! 上にまっすぐ飛ぶからね!! 」

私はももちゃんの首のほう、水色君は私の後ろに乗ったので、ちょっとドキッっとしたけれど、そんな気持ちが飛んでしまうほど、ものすごい早さと風の中、気が付いたら、カカっというひづめのおとがして、私たちは喫茶店に戻っていた。


「ああ、広い、ここが外だね」


水色君は人間の大きさのまま、お店を歩き始めた。


「ああ、これ裕美ちゃんが描いたこの喫茶店の絵だ。僕達の事を描いてくれたんだよね」


 藍色のテーブルクロスが絵の中心にあって、小学生の展覧会てんらんかいで入選した作品だった。その時の審査員しんさいんの先生がお店にやって来て


「青いテーブルクロスの色が、とても美しいと皆で言っていたんですが、藍色だったんですね。小学生でこの色を表現できたのは、やはりすごいですよ」

と言ってくれたそうだ。私はあまり絵が上手ではないから、とってもうらやましいと思う。



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