第28話 ランドセルの色


「あなたの水色・・・とってもきれい。私のランドセルの色みたい」

「うん、とう子ちゃん、そう言ってくれてうれしかった。覚えているかな、小学校に入る前、このお店で、女将さんがとう子ちゃんのランドセルの色と僕の色は一緒だって話したの」


「ああ! そうだったね!! ごめんなさい。ランドセルをえらぶのが大変だったというか・・・私が大変にしたというか・・・」


小学校に入る前から、私は水色のランドセルがしいと思っていた。お母さんとお父さんは、赤のほうがかわいいし、きっと私にはよく似合にあうと、ランドセルを売っているお店で、からってかがみで見ていた。

「ほら、かわいいじゃない、とう子」

お店の人は

「まあ、赤のランドセルが似合うおじょうさんですね」とほめてくれたけれど

「赤にしなさい」と言われているような気がしていた。するとおばあちゃんが

「とう子ちゃんの好きなものを選んだらいいわ。でもちょっと考えなきゃいけないのは、六年生まで使うということよ。やっぱりこの色にするんじゃなかったって、使わなくなったら、ランドセルもかわいそうでしょ? 」


「うん、私水色のランドセルずっと使う! 六年生まで大事だいじに使う」


そう言って、お父さんとお母さんとランドセルを買いに行く日がやってきた。でも私は実はもう決めていた。家の近所にある大きなスーパーに飾ってある水色のランドセルが、一番好きだった。

でも「せっかく、選ぶんだから、ちょっと遠くにも見に行こう」と大きな町に出かけた。


「いろいろな水色があるんだね」

「作っている会社によってあるさ」

お父さんの言う通り、まわりの縁取ふちりとかデザインもあるけれど、ランドセルそのものの色が微妙びみょうに違う。明るい水色もあれば、ちょっとくらめのもの、光っているようなものもある。大きなお店では、そんな水色のランドセルがずらりと並んでいて、確かに楽しかったけれど、私はやっぱりあのランドセルがよかった。

長い時間かけてランドセルの旅をしたけれど、結局けっきょく買ったのは家のそばでだった。


ランドセルを買った後、喫茶店に行った。

「ハハハ、良かったじゃないか、値段ねだんも安くてなによりとう子が気に入っているんだから」

「毎日のように見ていたから、きっと愛着がわいてきたのよね、とう子ちゃん」


それから小学校に入学して、おばあちゃんから


「ほら、ここの水色、とう子ちゃんのランドセルの色と同じ」

「ほんとだ! 」


とてもうれしいことだった。



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