第19話 教室で


「女の子用だよ」

「ちがうよ、きっとただの飾りだ。うちも飾ってあるんだ、だれもつかっていないよ」

「でも・・・この前テレビで外国の人が飲んでいたような」

「外国の人は大体日本人より体が大きいんだから、あんな小さなカップは使わないよ」

冬も近くなった頃、教室で話しているのが聞こえた。そしてすぐに


「あ! とう子ちゃんに聞けばわかるかも。おじいちゃんコーヒーショップをやっているんだもん」

「喫茶店っていうんだよ」


と、私の所にみんなが集まった。何の事を話しているかと思えば


「ねえ、とう子ちゃん。すごく小さなコーヒーカップがあるでしょ? あれってただの飾りなの? それとも本当に何かを飲むの? 」


「ああ、あれはね、「デミタスカップ」っていって、濃いめのコーヒーを飲むためのものなんだって。コーヒーの作り方も違うのよ」


「そうなの! 」「やっぱり! 」「作り方がちがうって? 」

私はちょっとだけ自慢じまんしているように言ってみた。


「イタリアにはエスプレッソっていうコーヒーがあるのよ。おそそぐんじゃなくて、火にかけてそのままコーヒーを作るの。だからい物が出来るんだけど、イタリアではそれにお砂糖さとうをたくさん入れて飲んだりするみたい。おじいちゃんのお店のメニューにもあるけれど、あんまり注文する人はいないんだって」

「へえ、そうなんだ」「子供用か女の人用かと思った」


「おじいちゃんのお店では普通ふつうのコーヒーとデミタスカップのコーヒーのセットがあるのよ。たくさん飲みたい人と、ほんのちょっとだけ飲む人とのペアなの。けっこう人気みたい」


「さすがとう子ちゃん」


一年生の時は人気者にんきものになったみたいでうれしかったけれど、デミタスカップの事を聞いたのはその何日か前だった。それなのに自慢げに言ったからなのか、四年生になった今ではちょっと違う。


「ねえ、なかさんのおじいちゃんのお店「マンダリン」を置いてある? 」

と聞いてくるクラスメートがいる。マンダリンというのはコーヒー豆の種類で、ちょっとコーヒーの勉強もしなければいけないかなと思っている。


 するとおじいちゃんが今度はあわてた様子でお店にあらわれて。

「ああ、行かなきゃ行かなきゃ。ちょっと遠くの配達はいたつもあるんだ。

ああ、それと今日は五時半のお客さんは来ないからな、さっき連絡れんらくがあった」

気持ちをえたようなおじいちゃんが用意を始めた。

「いってらっしゃい、気をつけてね、おじいちゃん」

「ああ、ありがとうな、とう子。その言葉を聞いただけで、安全運転あんぜんうんてんしようって思うよ。じゃあ」

お店から出て行こうとすると、おじいちゃんは立ち止まって


「そうだ! またなぞなぞを出そうか。この前のコーヒーカップの話をしたらお客さんが「私もとう子ちゃんになぞなぞを出してみたい」って言っていたんだ」


「え? そう? 」


「やってみるか? 」


「う、うん。もちろん」

と答えたけれど、本当は別のことを考えていた。


「じゃあ、出すぞ、全部ぜんぶぬのは同じ色、何故だ? 」


「は???? 」


「はは、じゃあ行ってくる」


私はお店でまた一人になった。


「ちょっと遠くに行って、五時半のお客さんも来ないのはいいけれど・・・・・

布が全部同じ色ってどういうこと? 色んな色もがらもたくさんあるのに」」


大きめの声で独り言を言ってみた。






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