乙女ゲームの世界を平和に満喫するだけの話

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 乙女ゲーム「フォーチュン・ゲイザー」は神ゲーだ。


 キャラ・シナリオ・ミュージック・イラスト。


 どれも一級品のクオリティ。


 そんな「フォーチュン・ゲイザー」にはまった私は、すぐに夢中になって毎日のようにプレイしたけれど、どうやら夢中になりすぎてしまったらしい。


 学校のない長い休みを活用して、食事も忘れてぶっ続けでゲームをしてたら、心臓発作を起こしてぱったり昇天してしまった。


 次に気が付いた時は、何か神々しい場所に立っていて、転生手続きなるものをさせられていた。


 対面したのは、近所のおにーさん、みたいな気さくな神様。


「どこかご希望の世界は、あるっぽい?」


 と聞かれたのは、私は欲望のままにその世界の名前を口にした。


「あるっぽい! フォーチュン・ゲイザーにインさせてください!」






 そんな感じでその世界のご令嬢に転生した私は、「フォーチュン・ゲイザー」の世界で好きに生きた。


 小さい頃から記憶があったので、攻略対象を見つけ出して、理由をつけては絡みまくったり、イラストになった場所に聖地巡礼で足を運びまくっていたりした。また気分の良いときは人目もはばからずにどこでも神BGMを口ずさんだりも。


 原作改変とかどうでも良い!


 自分さえよければ!


 みたいな感じでそれはもう! 好きに活動した。


 で、設定資料集に書いてあったモブにも話しかける始末。道具を眺めまわす始末。


 攻略対象が話しかけた人とか、触った物とか、もはや名物でしょ!


 そんな事をやりまくったからか、年頃の娘になる頃にはすっかり変わり者扱いだ。


 町の中でも、通っている学校でもプチ有名人。


 でも良い。


 人生楽しんだもの勝ちだし。


 人目を気にして自分をおさえこむなんて、馬鹿らしいし!






 俺のクラスには、変わった女がいる。


 遠くからこっちを見てニヤニヤするだけの、変な女。


 はじめは、他の馬鹿な取り巻きと同じだと思っていたのだが、何か違う。


 俺はお金持ちの家の息子だから、おこぼれにあずかろうとして寄ってくる人間は多い。


 けれど、その女は俺から何かの施しを受けるでも、期待するでもなくただ見つめているだけなのだ。


 何かを言ってはニヤニヤ、動いてはニヤニヤ。


 何がそんなに面白い?


 得体の知れなさを感じて、何かちょっと怖くなった。


 おかげで普通の取り巻きたちに対するアレルギーがなくなったのは、不幸中の幸いだが。


 あれに比べれば、まだかわいいもんだ。


 誰かあの女が一体何なのか教えてほしい。






 僕のクラスの転校生のツンデレくんが、変わり者令嬢を気にしているらしい。


 彼、ちょっと前までは、とりまきの人達に囲まれてうんざりしてたんだけど、どうしてかその悩みをふっきったらしい。


 その理由は、変わり者令嬢だとか言ってたな。


 うーん、彼女って昔から不思議な所があるからそのせいかな。


 僕が一人ぼっちになってて、ちょっとした事で周りの人間から虐められていた時も、飽きもせず毎日会いに来てくれたし。


 今でこそ成り上がってるけど、あの当時の僕は、名もない家の子供だったんだ。どうして僕の事知ったのか、今でもよく分からないんだよね。


 でも、そこが魅力だと思ってるよ。


 一緒にいてて楽しいしね。








 あの変わりもの、また変なのになつかれてるな。

 ツンデレ転校生くんか、ふーん。


 あーあ、ナカヨクお話しちゃって。


 幼馴染くんはともかく、あんな美形まで虜にするとはな。


 天然って恐ろしいよな。


 夢も目標も失って、死んだ目をしていた昔の俺を連れまわしたあの女。


 あいつのおかげで、俺は自分の街の知らない所をたくさん知る事ができた。


 落ち込んでいた俺に、世界は広いんだってことを教えてくれた。


 できれば、恩返しがしたいけど、だからって恋愛の指南はしたくないな。


 常日頃から自衛しててくんないかな。


 ずっと天然でいてほしいけど、でもそれだと俺の気持ちにも気づかなさそうだし、困ったな。








 はぁー、人生楽しい。


 攻略対象はイケメンだし。


 校舎はイラスト通り、宮殿かってくらい綺麗で目の保養になるところばっかりだし。


 今日もあこがれの世界を満喫したなぁ。


 そういえば、鼻歌歌ってたら隠し攻略対象に話しかけられたな。


 なんでも気分転換にピアノが弾きたいけど、まったく曲が思いつかないとか。


 ふむふむ、なら私がおすすめの曲を提供しましょう!


 明日も幼馴染くんと遊ぶ約束してるし、ツンデレ転校生くんとはちょっと話すようになったし、街角王子とは放課後デートの約束してるし。


 乙女ゲーム転生の醍醐味といったら、やっぱりこうでなくっちゃ。


 私は次の一週間のスケジュールを頭に浮かべながら、気分良く微笑んだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

乙女ゲームの世界を平和に満喫するだけの話 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ