伊達男
まったく……落ち着いて状況の説明もできないのですか…!?
私がそう思いながら部屋に戻ると、
「これが必要なのですか?」
少佐が<店>の方に出て応対してるのが分かりました。お客が来たみたいですね。
もうすっかり夜になっていましたが、獣人には夜行性の種もいるので、ここはある意味では、
<二十四時間営業>
でもありました。
とは言え、私達は本来は軍人。昼夜を問わず対応しなければいけなかったのは以前からですので、さほど負担ではありません。
一般の民間企業として見れば問題でしょうが。
店の方を見ると、暗い店内で光る二つの目。
人間向けの店舗だと煌々と灯を点して営業しているところですが、夜行性の獣人にはそれでは逆に明るすぎるので、敢えて灯は点けません。
どうやら燻製肉を求めてきたようですね。
獣人達は、基本的に狩猟や果実などの採集によって自分達の暮らしを成り立たせていますが、私達が作る干し肉や燻製肉などの味が気に入った者も少なくないようで、時折無性に食べたくなるようです。
干したり燻製することで旨味成分が増すことがありますからね。
ちなみに私達の作る干し肉は、岩塩から得た塩をたっぷりと揉み込んで殺菌した上で干したものなので、余分な塩は落としているとはいえ塩味があり、一部の獣人達にとっては珍味として重宝されています。
塩分の採り過ぎには注意も必要とはいえ、彼らもその辺りは本能的に察しているのか、一度にたくさんは食べませんし、毎日食べることもありません。ただ、たまに食べたくなったり、上手く獲物が獲れなかった時に求めてきます。
今回の
名前は<ニャルソ>。人間で言うなら青年期を迎えた若者です。
「ビアンカ~♡」
ニャルソは私に気付いた途端、口を大きく開けて歯を剥き出しにして、手を振ってきました。人間から見るとまるで牙を剥き出して威嚇しているようにも見えますが、これは彼らにとってはあくまで<笑顔>。親愛の情の現れです。
彼は、どうやら私のことが好きらしいのです。
でも、彼にはもうパートナーがいます。
もっとも、私は少佐一筋なので、彼の求めには応じられませんが。
なのに彼は諦めることなく、私を見掛ける度にモーションを掛けてきます。それはまるで、イタリア辺りの伊達男のような。
と言っても、私は、映画などの中でしかその<イタリア辺りの伊達男>を見たことがありませんけどね。
イオで生まれ育ったので。
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