デリカシー

その存在のことがあらかじめ分かっていて対策を取ることができていたならまだ何とかなったかもしれません。


しかし、その時点で予測され準備されていたあらゆる攻撃法がそれには通じなかったのです。


唯一、火炎放射器で怯ませることはできたという話はありましたが、それもあくまで『一瞬、怯ませることができた』だけで、まったく有効な攻撃方法ではありませんでした。


そうして私も少佐に続いて<それ>に呑み込まれ、命を落とし……


…たはずだったのに、私は、少佐に揺り起こされて意識を取り戻しました。


でもその時、信じられないものを見たのです。


「少佐!? どうなさったんですか!?」


何しろこの時、少佐は裸だったのです。それも、一糸まとわぬ……


しかも、そこは野外でした。


さらにはそれだけじゃなく、慌てて体を起こして周囲を見ると、そこには少佐と同じく一糸まとわぬ姿になった仲間達が……!


私も軍人なのでいろいろな事態に対処してきました。緊急事態であってもそれなりに冷静に対応できる自信はありました。


けれど、さすがにこの時のそれには冷静でいられなかったのです。


「ななな…! なんじゃこりゃーっ!?」


少佐の前でそんな風に叫んでしまったのは、一生の不覚です……


でも、この後がさらに大変で……


って、


「お~い! いつまで風呂入ってんだ、このビア樽! いい加減にしないとブヨブヨにふやけんぞ!」


風呂場のドアの向こうから掛けられる声。相堂しょうどう伍長でした。


『……本当に、なんってデリカシーのない……!』


私は思わず拳を握り締めてしまいます。


どうしてこんな人が惑星探査チームに選抜されたのでしょうか? 私や少佐と同じく軍からの出向組とはいえ、厳選された人材が求められていたはずですのに。


でも、いまさらそれを詮索しても仕方ありません。今はとにかく私達はここで共同生活を営んでいるのです。確かにゆっくりしすぎたかもしれません。


「今、上がります! ちょっと待っててください!」


そう応え、


「もたもたすんなよ!」


と言った伍長が脱衣所から出て行く気配を確認した後、私は急いで風呂から上がり、体を拭いて服を身に付け、脱衣所を出ました。


そんな私を、


「女ってなんでそんなに長風呂なんだ? どこ洗ってんだ?」


伍長が呆れたように見ながらそんなことを言います。だから私も、


「それ、セクハラですよ? 自重してください!」


言い返させていただきました。


なのに伍長は、


「はっ! こんなんでセクハラとか、笑わせんな!」


などと憎まれ口を叩きながら脱衣所のドアも閉めずに服を脱ぎ始めます。


「ドアぐらい閉めてください!」


私は言いながら、ビシャンとドアを閉めたのでした。


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