「あれ? 歩美っ!」

「お?」

 おじさんとママがジタバタしてる場所の反対側まで滑って来たところで聞き覚えのある声に呼び止められた。

「木村じゃん? こんなところで何してんの?」

「いや、滑りに来たに決まってんだろ。ここで他に何するんだよ」

 それもそうか。

 このツンツン頭で目付きの悪い男子は木村 無限。元クラスメート。二年生と三年生の時は同じクラスだったんだけど、四年生に上がったところで別々に。それまではよく一緒にサッカーなんかして遊んでた。

 ただ、最近はそうでもない。私も、もう十歳だしね。そろそろ男子に混ざって遊ぶのは卒業さ。実際、連中も私が混ざると迷惑そうな顔をするようになったし。木村はそういうわけでもないみたいだけど。

「き、キグーだな。お前一人? なら、俺達と一緒に滑ろうぜ」

「いや一人じゃない。ていうか俺達って、他にも誰かいんの?」

「ああ、島本と藤田と遊びに来たんだ」

「あ、木村」

「いたいた」

 木村の言葉通り、やっぱり三年生の時にクラスメートだった島本と藤田の二人がやって来た。そして私を見るなり「げっ」と言う。

「あ、歩美!?」

「なんでここにいるんだよっ」

「滑りに来たに決まってるじゃん。ここで他に何をすんのよ?」

「そ、それはそうなんだけど」

「うう……」

 ほらね? なんか最近、男子連中は私の顔をマトモに見ようとしないんだ。たぶん女子と一緒に遊ぶのが恥ずかしくなってきたんだろう。

 はいはい、邪魔者は消えますよ。

「それじゃ、ママやおじさんと一緒だからこれで」

「おじさん? おじさんってもしかして──」

 木村が眉をひそめた時、その背後から猛スピードで何かが迫って来た。

「少年達! よけてくれ!」

「へっ?」

 へっぴり腰で両手を前に突き出した姿勢のまま、おじさんがまっすぐ突っ込んできた。

 慌てて避けるアタシと島本と藤田。

 一人だけ逃げ遅れる木村。


 ビターンと、おじさんと壁の間に挟まれる。


「や、やっぱり、このおじさん……うぐっ」

「すまん少年! 大丈夫か!? どなたか、今すぐ救急車を!」

「いやいや、そこまでしなくていいから」

 木村は頑丈だから大丈夫。一応確認してみたら案の定怪我一つしていなかった。

「うう、熊が……ものすごく大きな熊が中腰で……」

 ベンチに横たわり、うなされる木村。嫌な夢でも見ているらしい。

「この子は私が見てますから、歩美とセンパイは滑って来てください」

「むうっ、目を覚ましたら改めて謝らんとな」

「いいよいいよ木村だし。それより、練習しようおじさん。このままじゃ本当に怪我人が出るし、しかたないから私が教えてあげる」

「すまんな。その言葉に甘えるとしよう」

 というわけで私が先生になり、おじさんに滑り方の指導を始めた。普通は役割が逆だと思うけど、誰にだって苦手なことはあるからしかたない。こないだ宿題を教えてもらったお礼にもなる。

「ぬっ、ふぐっ、ぐおおおお……っ」

「だから力を入れ過ぎなの。そうじゃなくて、こう体を傾けてやれば自然に前に進むからリラックスして」

「ま、まず立っているのが難しい……」

「しかたないな。ほら、手を掴んで。支えてあげる」

「すまん」

「ふふっ、吉竹さんにまたお礼をしなくちゃ」

 ママはやはり、ニコニコしながら練習風景を眺めていた。

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