#5 床に倒れた老婆が嗤う

老婆は『運命』に抗おうとしない。


「知ってんだぞ!おめえがアレ開発したんだろ!?顔がバレてらあ!」

「アレ…… なんだったっけなあ、名前?」

「エスカルゴだろ?」

「ラグナロクだよ!文字数しかあってねえじゃねえか!!」


ラグナロク ――北欧神話の世界における終末の日。

そのシステムが起動して、今この世界はこうなっているのだろう。皮肉なものである。


オレは老婆が死ぬのを待たねばならない。

死んだ後に、三途の川の手前で「異世界転生シテクダサーイ」と言うのだ。


みんな、あいつらオレと同じ死神だぞ。見た目に騙されるなよ。


「何とか言ったらどうなんだよお!」

老婆はうずくまっている

「……おい、これ、ヤバくないか?」

「ケッ」


どうやら、死んだようだ。オレの出番である。


「……ここは?」

老婆が起き上がる。怪我も全くない。

「いわゆるあの世の手前だ。あんたを異世界に転生させる」


老婆は目を大きく広げる

「わたしが……?」


コイツについては多少調べておいてある。


「名前は『サラ=ユーネス』24歳から物理学でスゴイかんじだったらしいな。ただちょっと不安があるんだわ。質問させてもらうぜ」

「何なりと」


サラは毅然としている。


「質問始めるぞ。核兵器についてどう思う?」

「最強の矛で最強の盾」

「やられたら?」

「やりかえす」

「科学の進歩は?」

「人類の幸せ」

「市民、幸福は?」

「義務です」


――あ、ダメだこいつ。殺すか。

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