#3 核と飢饉と世紀末 その1

さて、「芥川龍之介の羅生門の世界」と言われて転生してきたわけだが、どうやら厳密には違うらしい。

あの状態によく似た、大飢饉と疫病が発生している核戦争後の世紀末な末法思想の異世界のようだ。

ていうかこんな異世界がよく存在したもんだ。

そんななかでオレに下された指令は、とんでもなくアクロバティックなものであった。


「……それ本気で言ってるンすか?」

「はい、まったく本気です。その世界にもはや救いはありません。全人類を別の異世界に転生させてください」


耳から蒸気が出る勢いである。

「超スゴイ医者とか農業の大革命家とか転生させてくるとかないんすか?」

めんどくさいので転生させる人数は少ないほうがいい。

「まずはやりの病の種類がわかりません。偶然抗体のある人間を転生させてこられる確率は低いでしょう」


エージェントは続ける。

「そして農業で飢饉を救えたとしても、救えるとわかった時点で『利用』されてしまいます。これを防ぐのは至難の業です」


何を言っているか、オレにはよくわかる。

なんといっても核戦争後である。文明は発達しているのだから、政治に利用されてしまうか、それか消されてしまうこともありうるだろう。


「で、人口はどれくらいなんすか」

ため息と同時に言葉が出る。

「全員です。まあ、皆が皆殺しあってるんで100人前後転生させればそれで全員になるでしょう」


いやいいのかよそれで、と思いながらオレはその世界に降り立った。


茶色い大地に、砂ぼこりで乾いた風が吹き荒んでいる。空は雲に覆われ、色を見ることすらできない。

大きな門がある。まずはそこを目指して歩いて行こう。

そういえばオレは死神だった。こういう世界はよく似合うんじゃないだろうか。

さて、大きな門だ。オレははるか上を見た。


――これ、凱旋門じゃね?

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