第1話 火の村

 ・・・・、・・・・、・・・・、熱っつ!


 家族が目を見開いているのを見た後。おれは、意識を失った。


 周りを見ると、眼下にマグマの川。その熱気は、高い天井の亀裂に、もうもうと噴き上がっている。マグマの谷川に張り出しているこの岩に、これ以上、居たらいけない。振り向くと真っ暗な洞窟。慌てて、そこに避難した。


 これって、火の大精霊様の神隠しだろうな・・・。


 説明も何も、大精霊様の話が分かる家族は、もう、何処にもいない。それに、目を見開いていたあの様子じゃあ、説明もへったくれもなく連れて来られたんだと思う。


 はぁ~、とにかくここを出なくっちゃ。こっちにも、アヤベ家のような人たちがいるのかな?


 洞窟の奥に降ると巨大な空洞があった。そして奥に行くにしたがって、上り坂になり硫黄臭が強くなる。だけど湿度と気温はあまり上がらない。これは古い間欠泉跡じゃあないだろうか。なら、地上に繋がる道もあるはずだ。

 それにしても魔力を強く感じる。実家の修行では感じられなかったほどに、ここは、魔素が溢れている。まず、地球ではないと感じた。地球に魔素はなかったので、今までは、自分の内なる気を練って魔法の修行をしていた。


 ここは、思った通り間欠泉跡だった。奥に行くほど狭くなり、どんどん、急こう配になっていく。最後は垂直に地上に向かっていた。


「ほんと、偉い人の考えることは、分からないよ」

 おれは、ぶつぶつ言いながら、間欠泉を昇った。


 この洞窟を出たら、アヤベ家のような人たちがいると思っていたが誰もいない。その人たちに、いろいろ聞けばいいぐらいに思っていたけど当てが外れた。幸い富士山のような山の麓近くの丘陵に出た。最初に見た溶岩は、地下に沈んでいるようで、辺りは清浄だ。だけど、山の下腹辺りから煙が出ているので、人が近づけるようなところではなかった。


「そうだ、道しるべ」

 おれは、最後垂直になった古い間欠泉の中に戻り、根もとに結界を張って、姉から貰った巨大な人口ルビーの道しるべを祭った。この結界に思念を送ると光が発せられ、ルビーから天に届く赤い光が発せられる。おれは、この位置をマーキングした。カエデ姉が、自分と対になる反転した粒子をこの結界に閉じ込めなさいと言っていた。そうすると、この結界をどこに居ても光らせることができる。この結界は、転移の技の初歩。本当は、ここに瞬間移動する魔法なのだが、出来たためしはない。これができるのなら、自分の道しるべを元々祭っている現世とも行き来できる。この技は、何処に居ても結界を光らせることができるのだから、理論上は転移もできるのだと思う。それは理論だけで、家族のだれもできなかったことだから淡い希望か。とにかく、現世との繋がりがあるこの場所をキープした。



 間欠泉があった丘を駆け上ってみると、眼下に広がる樹海。その先には平野部、更に遠くには海が見える。眼下の樹海の果てに、小さな村落を見つけた。しかし、そこにコンクリートなどの現代建物はない。


 まいったな。ここから20Km以上先か?


 ただ、修行では味わえなかったぐらい身体強化がすごいことになっている。自分の気だけを練ってやっていた時とは大違いだ。これでもレベルの低い弱い身体強化だ。まだ12歳なので、過酷な鍛錬は許されなかった。これから、徐々に体を鍛えていくはずだった。だから修行は、女性が使う護身用の身体強化が中心だった。そうしないと、身長が伸びなくなるわよとカエデ姉に脅されていた。うちの母さんは、父さんより力持ち。だからと言って筋肉盛り盛なんてことはない。母さんは、身体強化の達人だった。


 体が軽い。樹の上を飛び移りながら行けそうだ。今は、危険な獣と対峙している場合ではない。まず、現状の情報収集が先だ。おれは、坂道を下るように、その集落を目指した。


 村についたがちょっと観察。木の建物に、布の服を着ているので、文明があるのが分かる。でも、身長が低い。あっても160Cmぐらいか。おれはもう、それを超えている。父さんやじいちゃんの遺伝からみて多分180Cmぐらいになると思う。体は、向うの方がゴッツい。村人を脅さないため、村を半周回って平野部から、この村に来た風を装った。午後も遅い。あまり遅くなると、野宿することになる。


 村の入り口には、槍を持った男が座っていた。村の周りに、木の柵が施したあったことから、害獣に襲われるのを警戒しているのだろう。皮で作った防具から見ても、この村は、狩猟と採取で生計を立てていると思われる。


 おれは丸腰だをアピールしながら、小さく両手をあげて声をかけて見た。


「こんにちわ」


「イブミンヒアー」


 日本語じゃあ無いとは思っていたけど・・・・・

 それも、槍を構えてきた。途中で兎を狩っててよかった。


「これ、やるよ」

 おれは、蔦で縛った兎を腰から外して地面に置いて離れた。兎は殺していない。何がタブーか分からないからだ。それにこの兎、なんか角生えているし、ここが地球でないのは決定だな。


「リヨ?」

 門番が近づいてきたところで交渉だ。おれは、まだ砂粒程度だが、ルビーを生成できる。これを門番に見せ、兎と交換というゼスチャーをした。赤い透明なルビーは珍しいはずだ。これを見た門番が、ルビーを取ろうとしたが、渡すわけがない。門番は、ウサギを受け取って、待てと腕を伸ばして村の中に消えた。


 門から垣間見える家々には、低いが床がある。文明が進んでいる証拠だ。こういう未開の地で現地人と仲よくなるにはどうすればいいかというのは、阿夜部家の歴史で聞いて知っている。うちは、おばあちゃんが跡継ぎで、じいちゃんは入り婿。阿夜部家の歴史は、ばあちゃんに聞いた。それで、先々代、つまりおれの曾爺さんは、冒険家で、未開の地に入ってこんなことをしていたという冒険譚を小さいころから聞かされてきた。古い遺跡を見つけて、歴史や古代魔法の情報を得ていたそうだ。


 おれは、ここに滞在して、現地の情報を得たい。ルビーがお金の替わりになればいいんだが。


「サニ、ハニマソシ、ミヨイナリ」

「すいません、何言っているか分かりません」


 50代に見えるけど、村長さんだと思う。大きな目をぎょろつかせて、しきりに「サニ、サニ」と言っている。


「えっと、これですか」

 おれは、今の所一番大きくできたルビーを見せた。村長は、門番と同じく、それを取ろうとした。そこは交渉だ。簡単に渡すわけにはいかない。


「サニ!」

「おっと、ダメですよ。何かと交換です」


 相手は人。それなら、ボディランゲージが通用するはずだ。ルビーと同時に、もう片手で、手のひらを上にして、くださいのジェスチャーをした。 


「リヨホム」


 リヨは、ウサギのことだよな。

「リヨ違う」 違うは、手を左右に振ってみた。

「食事がしたい」 今度は、食べる真似。


「おー、リヨ、ホドハッ」


 村長も食べる真似をしてくれた。おれは満面の笑みで、うんうんと頷き、村長にルビーを渡した。そして挨拶。

 自分を指して

「ホムラ」

 村長もそうした。

「ガルド」

 おれはそれを復唱した。まずおれを指して「ホムラ」。そして、村長を指して「ガルド」と言った。


 その日から3カ月。おれは、必死になって現地語を覚えた。まず、初日は、村に留まることを許されなかった。そこで次の日、砂粒のようなルビーをたくさん見せた。村長たちはそれを見て考えを改めた。おれは、その日から、この村の客人となった。 

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