第104話  ドワーフの予言 

 村に入ったが誰もいない。ムサシが勝手に一軒の家めがけて歩いていく。気配探知使ったのか?俺にはわからなかったぞ?


「スキルを使うまでもない。この家に強いドワーフがいる」


 ムサシが言うとリコまで


「そうね。気配がある。お兄ちゃんもわかるでしょ?」


 すいません。わかりません。カツヨリはふと考えた。おかしい、俺は忍びの修業も前世で死ぬほどやった筈、なんで俺だけわからない?



 ムサシは家の前で立ち止まってから、


「頼もう!どなたかいらっしゃいませんか?」


 なんで頼もうなんだよ。道場破りじゃねえぞ。ムサシの声に反応して、若いドワーフが出てきた。


「頼まれた。何を作る?」


 ムサシは、こいつじゃない。もっと強いのが奥にいるとわかったがここは下手に出る事にした。カツヨリはなんで頼まれたなんだよ、と頭をかかえている。


「ここはレンドラ村か?腕のいいドワーフがいると聞いてやってきたのだが」


 若いドワーフは、にっこりしながら


「いらっしゃいませ。それでどんな武器、防具が欲しいんだい?」


 ムサシは利光を鞘から抜いて魔力を込める。刀身が黄色に輝く。


「見えるか?魔力付与だ。魔法剣に耐えうる剣を作って欲しいのだが可能か?」


 若いドワーフは剣に纏わせた魔力が見えないようだ。キョトンとしている。それを見たムサシは、店の奥に向かって、


「そこの奥にいる人。あんたなら見えるだろう。出てきてもらえないだろうか?」


 若いドワーフは焦って、


「いや、奥には誰もいない。この家には俺しか」


 すると奥のほうから貫禄のある渋い声が聞こえてきた。


「お前ではこの客人の相手は務まらんよ。珍しい物を持っているな。見せてくれるか?」


 奥から老ドワーフが出てきて、若いドワーフを押しのけた。白髪で腰も曲がっている結構な年寄りだ。鍛治とかできるの?という感じだが心を読まれそうなの気がしたのでカツヨリは想いを心の奥底に封じ込める。ムサシは、


「この剣は我が友である。簡単には見せられん。試した事は謝る。実は剣が欲しいのはわしではなく、この男だ」


 カツヨリはいい振りかただな、と思いながらこの人がそうだなと感じた。


「カツヨリといいます。カインさんに言われてレビンさんを訪ねてきました。あなたがレビンさんですね?」





 カツヨリという名前を聞いて老ドワーフは目を見開いた。そのまま数秒固まったあと、カツヨリを頭から足先まで値踏みするように凝視すると、


「生きているうちに会えて良かった。勇者殿」


 俺を勇者と呼ぶのか?名前だけで?いや、違うな。


「もしかして鑑定スキルをお持ちで?」


「腕のいいドワーフには必須のスキルだ。世の中に鑑定持ちは少ないが、ドワーフには独特の訓練方法があってな。修業をして会得したのじゃよ。今は訓練する者もなく廃れてしまっていて、使える者も少ない。ドワーフはある程度は武器や防具の良し悪しがわかる。勇者殿が町で会ったカインは鑑定は使えないがそこそこの判別はできたであろう。この若者は勝手に弟子になりたいと住み着いているゴーリーという者だが未熟ゆえまだ何も分からん。腕っ節は強いが鍛治士としては素人に近い」


 ゴーリーはでかい身体の割に下を向いてしょぼくれている。思いっきりダメ出しくらってるしね。カツヨリはレビンに聞いてみた。


「俺を鑑定して何が見えましたか?」


 レビンは、異常なステータス。そしてスキルじゃな。魔力が高いのに魔法属性がない。そして勇者ではなく勇者の影とは、誠に興味深い、と言って手招きをしながら奥の部屋に入っていった。ついてこいってことか。


 部屋の奥は通路になっていて倉庫らしい部屋がたくさんあった。作業場のような部屋にテーブルと椅子があり、カツヨリ達はそこにすわらされた。さらに奥の部屋からは熱気が漏れてきていてる。鍛冶場だろうか?そのおかげでこの作業場はあったかい。レビンは


「勇者殿ご一行の皆様。ようこそおいで下さいました。改めましてわしはレビンと申す者です。ドワーフの間では偏屈ジジイと言われております」


 想像していたのとイメージが違う。そもそも俺を探していたのはなんで?


「500年前、勇者パーティーにドワーフのカイマンという者がいてこの国を作りました。その頃勇者パーティーの武器や防具を製作していたのがわしの先祖です。多くのドワーフはその戦争で死に、その当時の技術を引き継ぐ者はわしとマーリーというドワーフのみになってしまいました。わしの家系は先祖から、いつかカツヨリと名乗る者が現れる。その方をお助けするようにと言われてきました。魔族が再び活動を起こす時、カツヨリと名乗る者が現れると言い伝えられております。カインが町に出る時にもし見かけたらという淡い期待で伝えておったのですが、これも運命というものですかな」


 ドワーフにはエルフとは違う情報があったんだと感心しながら、


「レビンさん。ここまで旅をしてきて色々な話を聞いてきましたが、俺が現れるという予言は初めて聞きました。勇者、鬼、龍が出会う時に魔族が復活するという話は聞きましたが、個人名でカツヨリというのは初めてです。ドワーフのご先祖様はなぜ俺が現れる事を知っていたのでしょう」


「わかりません。知っているとすれば王族、カイマンの直系の子孫でしょう。先程マーリーというドワーフの話をしましたが、あいつはそこまでは知りません。わしとは役割が違いましたので」


「役割ですか?」


「はい。うちの家系はカツヨリ様をお待ちし、勇者の小手をお渡しする事。そして出来る限りの武器、防具をお作りする事です。マーリーの一族は、勇者パーティーが使っていた武器、防具を処分し悪用されないようにする事です」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る