第101話 魔族グドラ

「リッチか?まさか実在するとは」


 エッサが叫んだ。そう、待っていたのは魔族、それもリッチだ。リッチというのは魔法使い系アンテッドの最高峰ともいえる不死身の魔族だ。長い年月修行を重ね到達することができると言われている。黒いオーブを羽織っていて赤い目が不気味だ。


「ドワーフ殿。私は魔族四天王グーリー様にお仕えするグドラと申します。ご拝察の通りリッチです。500年振りに魔族以外の方とお話ができて嬉しく思っております」


 エッサは初めびびっていた。リッチは伝説の魔物だ。出会ったなら魂を吸われアンテッドにされてしまう、そう思っていた。それなのに目の前にいるリッチは言葉丁寧な、まあ見た目が不気味なのは変わらないし負のオーラを纏ってはいるが、それ以上に謙虚な紳士なのだ。エッサの中でグドラに対する印象が徐々にいい方向に変わっていく。


「エッサという。集落の近くにダンジョンができたので偵察に来たのだ。グドラ殿は魔族なのか?」


「その通りです。500年前に勇者カツヨリとそのパーティーに魔王が倒され、その後はひっそりと暮らしておりました。その頃はこの辺りには集落は無かったのですが、皆様はその後に住み着かれたのでしょう。ずっと大人しく地下で生活をしていたのですが、最近になり突然何か変化があったようで我々の住処が大きくなり地上に通じてしまったようなのです。ご迷惑をお掛けしてしまったようで申し訳ありません」


「いや、そちらの方が古くからいたのであれば我らが逆に侵入者になる。謝る必要はない」


「エッサ殿。お言葉ありがとうございます。実はここで待っていたのはお願いがありまして、族長殿にお会いできないかと?」


 えっ、魔族だよね。どういう事だ?


「目的はなんですか?族長に聞いてみないとお答えはできない」


「そうですか。ドワーフと友好関係を結びたいのです。古の技術を持つ真のドワーフと」


 エッサは迷った。目の前のリッチは非常に丁寧な対応をしてくれている。だが、魔族だ。山にこもっているとはいえ500年前の出来事は伝わっている。ドワーフのカイマン様が勇者とともに魔王を倒しこの国ができた。つまり魔族は国の敵だったはずだ。だが今目の前にいる魔族がエッサには敵に見えない。


「俺は若輩ゆえ判断ができかねる。族長に相談して明日またここに参る。それまで待ってもらえないか?」


「わかりました。明日と言わずいつでも構いません。話がこじれるようなら何日先でも構いませぬゆえいいお返事をお待ち致しております」


 エッサ達は一度ダンジョンから引き揚げた。グドラは、


「いきなり魔族にこんな話をされれば迷うのは当然。向かってくるようなら殺しましたが会話が成立しただけ成功したと思いましょう。さて、人族なら難しいですが、山に籠っていたドワーフなら可能性はありますね」


 グドラは、見張りにスケルトンを置いてダンジョン深く潜っていった。そこには四天王グーリーがいた。


「グーリー様。近隣のドワーフと接触しました。調査通り、古の技術を持っているマーリー村の者です。数日のうちに答えが出るでしょう」


 四天王グーリーは、うむと頷いて宝箱を差し出した。


「この中に例の素材が入っておる。これができれば我らは太陽を克服できる。なんとしても手に入れるのだ」









 エッサは集落に戻りマーリーに魔族との事を報告した。マーリーは微笑んでそれから悩み始めた。

 マーリー達の集落はガッキー山のドワーフ集落では異端扱いをされている。他の集落の者達は生活をするために集落同士の交流があるのだが、マーリー達は孤立している。それには理由がある。500年前、ドワーフのカイマンは勇者カツヨリと魔王を倒した功績で国を作った。カイマンはドワーフだけではいい国が作れないと考え、異人種がともに共存できる国、サンドラ帝国を作りあげた。各地に町を作り民が安心して生活できる国造りを行なったのだ。表向きはだが。


 その裏で、勇者パーティーが使った武器や防具を製作した者達は迫害された。平和な世の中にはもう必要無い物だ。逆に強すぎる武器や防具はそれを持つ者が悪なら大変なことになる。武器を持った者が自信過剰になり欲望を満たすために使用するかもしれない。カイマンはそれを恐れた。勇者カツヨリがつけていた防具は勇者にしか特殊効力を発揮しなかったため、各国に配られたがその他の武器はドワーフの手により破壊された。破壊したのがカイマンと仲が良かった初代マーリーだった。初代マーリーは勇者パーティーの武器製作者の1人で、優れた技術を持っていた。マーリーは破壊した武器を溶かし素材に戻した。そして、カイマンから金をもらいガッキー山の奥に弟子の家族とともに集落を作った。カイマンからその素材と技術を2度と世に出さぬよう頼まれて。


 マーリー村の族長は、族長になるとマーリーを名乗ることになっている。これはカイマンとの取り決めだった。そして、族長への教えは他のドワーフとつるまない事、だ。どこからか情報が漏れる事を恐れ他のドワーフとの接触を絶ったのだった。そしてそれから500年経過した今、他のドワーフと接触を断つ理由はどこかへいってしまい、ただつるまない事だけが残されている。そのため今の族長マーリーは非常に苦労していた。腕があっても宝の持ち腐れではないか。俺達の価値はどこにあるのかと悩んでいた。

 初代マーリーは、技術だけは絶やさぬよう後世に伝えさせる事は忘れなかった。勇者パーティーを支えた技術は隔離されたマーリー集落に残された。ある一派を除いてだが。


 マーリーは魔族の申し入れをチャンスと捉えた。そして自らがダンジョンへ向かっていく。

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