第95話 旅立ち

 王様の話は衝撃的だった。勇者カツヨリが将来俺が来る事を予想していた?なんじゃそりゃ?


「それと勇者の装備じゃがの、我が国に伝わっているのはこの勇者の兜じゃの。持っていくと良い」


 カツヨリは勇者の兜を手に入れた。ってもらっていいの?国宝とかじゃ?


「カツヨリ殿に渡すのが良いと余が決めたのじゃの。勇者の兜といっても勇者カツヨリが装備していたというだけで効果は不明じゃがの。ギルドの鑑定でもよくわからなかったしの。それと、町の改善だがカツヨリ殿のおかげで盗賊は壊滅できたようだの。ドリルドに負けるわけにはいかないしの。今度カツヨリ殿が我が国に来るまでには改善しておくぞ」


「またこの国にですか?」


「神獣がおる。謎を解くにはきっと戻って来る事になるであろう。余が伝えたい事は伝えたでの。では、さらばじゃの」


 王様は応接室を出て行った。ゲーマルクは、ほっとしたようで呟いた。


「王は機嫌が良かったようだ。気難しいお方なのだが」


「そうなのですか?そんな風には感じなかったけど。ゲーマルクさんが壁を作ってるんじゃない?」


「兄とはいえ王であられる。王は象徴でもあるし親密にはできん。壁もできるさ。さて、カツヨリ。その兜だが俺はそれを初めて見る。だが王家に伝わるものであればきっとカツヨリの助けになると思う。大事に使ってくれ」


「ありがとうゲーマルクさん。やっぱり王様との関係を見直した方がいいよ。あの王様はできる人だと思う。なのに町があんな状態なのは正しい情報が王に伝わってないんだよ。王様は象徴にしない事。権限があるのに象徴なんかにしたら国が滅びるよ。お節介かもしれないけどね」


 カツヨリは会う前とは王の評価が大きく変わっていた。あの王様がいてなんでこの町はあんななのか?個人の力で国を治めるのは無理って事だ。やっぱり仲間か。王の周りは遠慮する人達しかいないのだろう。せめて弟のゲーマルクがなんとかしないとじゃねえの。まあ俺には関係ないけどまた来るかもだし、ゲーマルクさんには頑張ってもらいたいものだ。





 カツヨリ、リコ、ムサシの3人はラモス国を出てドワーフの国、サンドラ帝国に着いた。途中カツヨリとムサシはお互いの疑問をぶつけ合い衝突もしたが、ヤンギュー国の秘宝、鬼斬丸がカツヨリのものだと知ると半分は信じないもののムサシが折れた。もしそうならヤンギュー国に伝わる救世主はカツヨリという事になる。


「一緒にいれば見極められよう」


 今後ムサシは全面協力をする事になる。旅の途中ではムサシが前衛を務めほとんどの魔物を倒してしまった。街道に出て来るC,Dランクの魔物では相手にならなかった。ムサシは気配探知と身体能力強化が使える。Bランクの魔物でも単騎で勝てそうだ。

 その間、リコは聖魔法の訓練を兼ねて後方支援に徹した。MP自動回復にMP消費削減があるリコは魔法使い放題状態なのである。聖魔法は全ての魔法の上位にあるようでその威力は凄まじかった。それを見たカツヨリは思いついた事があったがすぐには実現できそうもないのでとりあえず頭の引き出しにしまった。


 サンドラ帝国。ドワーフの国だ。勇者パーティーにいたドワーフのカイマンの子孫が治めているという。なんか、カイマンて名前に縁があるような。まあ偶然だろう。


「カイマンですか?それならば国で何か聞いた事があるような?」


 ムサシが気になる事をいうが、結局思い出せない。なんだよ、思わせぶりな!そもそもヤンギュー国と関係あるわけないし。さて、サンドラ帝国の王はドワーフだが、この国には色々な人種が住んでいる。一番多いのはドワーフだが、人間も多いし獣人もいる。皆が仲良く暮らしている。


「いい国じゃん!」


 カツヨリは町を見てそう感じた。町に活気がある。笑顔がある。この町は王都ではないようだがかなり大きな町だ。いい匂いがするので行ってみると、屋台で何か肉を焼いている。なんと串焼きだ。しかも肉と肉の間にネギのような物が見える。


「まさか、ネギマか!」


「お兄ちゃん、何? ネギマって。ムサシ、知ってる?」


「わかりませぬ。なんでしょうか?」


 和風のムサシも知らないか、って現代日本の食べ物だもんな。


「ニホンの食べ物だよ。うまいんだぞ。これがあるって事は、だ」


「勇者カツヨリが残した遺産というわけですか。まずは食べてみましょう」


 ムサシが早速屋台で串を3本買ってきた。


『うまい』


 3人声を揃えてつぶやいた。ネギはどうやって手に入れたのだろう?屋台で聞いてみるとこのサンドラ帝国では普通に取れるそうだ。ネギがあるとメニューが大幅に刷新されるぞ。カツヨリは野菜を売っているところでネギを買い占めた。アイテムボックスがネギ臭くなるとは思わずに。後でリコにしこたま怒られたのは内緒である。


 宿屋に入ったあと、ムサシとカツヨリは情報入手の為に町へ別々に繰り出した。カツヨリは武器屋に、ムサシは冒険者ギルドへ向かった。ムサシも旅に出る前に冒険者登録をしている。レイラのおかげでいきなりCランクになっている。ちなみにカツヨリとリコはAランクだ。


 カツヨリが武器屋に向かったのはここがドワーフの国だからだ。鉄が取れ、職人がいるとなればいい武器があると言う読みだ。ただカツヨリが求めるものはそれではない。頭の中の引き出しにしまった物、実現するにはあれが必要なのだ。

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