第94話 王の話

ええっと謁見の間とかじゃないの?まさかここに来るとは。


「驚かせたかの?また何か事件が起きて会えなくなると困るでの。こちらから出向かせてもらったのじゃ。本当はギルドまで行こうとしたのじゃが皆が止めるでの。そうそう、ゲーマルクとドリルドが世話になったそうじゃ。兄として礼を言わせてもらう」


 ゲーマルクが焦る。


「兄上、いや王様。我々の事はいいですから本題を」


「王様、ゲーマルクさん。大丈夫ですよ、別に逃げませんから。それにお礼を言うのは俺の方ですから。ラモス国の人達の助けがなければ俺もリコも多分死んでました。まずはお礼を言わせてください。ありがとうございました」


 カツヨリはまず礼を言った。その上で言いたい事を続ける。


「王様にはお願いしたい事があります。アキールの町と比べると王都の治安が悪い。富裕層と貧困層の差も大きい。貴族がいる政治だからある程度は仕方ないと思いますが、貧しい人達に活気がない。金を稼ぎ税を納める人達に活力がなく犯罪層が元気という町の状況を変えていただきたい。まあ、王様がどこまでご存知かが一番知りたいんですけどね」


 ゲーマルクがまたまた焦る。


「カツヨリ、お前いきなりなんて事を!」


「やっぱりゲーマルクさんは敬語が似合わないね。そっちでいいよ。無理難題ふっかけてでもなんとかしなきゃっていうゲーマルクさんの姿勢は好きだよ。やり方は疑問だけど」


「褒められてる気がしないのだが」


 褒めてないし。王様を見ると右拳を下顎に当てて考え事をしている。立ったまま考える人ポーズかな?ピクリとも動かない。ん?寝てる?


「すまんなカツヨリ殿。考えごとをすると固まってしまう癖があっての。普段は人前でま見せないようにしているのだがカツヨリ殿の話がピンとこなくての。まずお答えしよう。余は町の状況はわかっておるつもりであった。実は国の歴史での」


 王は盗賊団カイマックスと手を組み国を改革してきた歴史を説明した。ゲーマルクは驚いている、知らなかったようだ。


「ゲーマルクはまっすぐな性格での。この話はできなかった。この事は歴代の王とオードリー家で進めてきたのだ」


 カツヨリは盗賊団カイマックス誕生の経緯はこれまで関わった人達から聞いてはいた。でも王様から直接聞くとまた違った印象で聞こえる。


「オードリー伯爵はカイマックスを使って色々と行っていたようです。ここにいるリコもカイマックスに攫われました。カイマックスにリコを攫わせたのは王様ですよね?」




 王様はまた立ったまま考える人ポーズで固まっている。あ、帰ってきた。


「カツヨリ殿。なぜそう思う?」


「うーん、半分は勘です。今回の件、オードリー伯爵が考えたのかと思ったのですが、なんか違うな、と。だとすると王様しかいないじゃないですか。俺が勇者の生まれ変わりか試したんでしょ?ドリルドさんのお兄さんならそのくらいやりそうだから」


「すまないの。その通りだ。ただ、オードリーめ、ヤンギュー国の事は余にも隠しておった。リコ殿がまさか異国の姫だとは」


 王様は話を続けた。ラモス国に伝わる勇者伝説を。




 その昔、勇者カツヨリは最初このラモス国がある土地に現れた。次に今のマルス国のあたりで鬼族と出会った。次に獣人を仲間にし、ドワーフ、龍を仲間にした。そして魔王に挑むも敗れ、各地に眠る神獣と呼ばれる魔物を封印することにより魔王の能力を削ぎ、魔王を倒したと言われている。


「ゲーマルクから聞いたが、蜘蛛のオリジンという魔物はおそらくその神獣であろうの。伝説では神獣は4体いるらしいが詳細は伝わっておらんの」


「王様。魔王の力と神獣は関係があるのですか?」


「わからんの。神獣の種類も本当に封印したのかも伝わってはおらんの。それと勇者カツヨリは魔法剣士だったと伝わっておるの」


 情報少な!神獣は4体もいるのか?封印しないと魔王に勝てないのかな?タラさんに勝てる気しないんだけど。


「王様。で、俺を試して結果はどうでしたか?」


 王様はまた少し考えてから答えた。


「結論からいうかの。わからんの」


 カツヨリはコケた。何だよ、それ。




「不確実な事を言うのも無責任だからの。ただ、余はカツヨリ殿が勇者に変わる存在だと信じておるの」


 王様は続けた。


 ・勇者カツヨリは魔法剣士だった。だが、このカツヨリは魔法が使えない。ただこの国で魔法が使えない者はいない、つまりカツヨリはある意味異常という事になる。

 ・レベルの割にステータスが異常に高い


「異常と言う事は可能性があるという事だの。それとじゃの。運がいいのと女性に好かれるところがの、勇者に似ておるの」


 ありゃ、そうなのね。カツヨリはこの際なんでも聞いちゃえと質問責めにした。


「王様。わかればでいいので教えてください。神殿にあった勇者カツヨリ像のいわれと、無くなった理由。それと勇者の装備について」


 ロールプレイングゲームでも他の転生物でも勇者は勇者に相応しい装備を身につけている事が多い。でもこの世界に来てから勇者の装備品についての情報がない。天空のなんちゃらとか聖剣とかありそうじゃんね。


「まずは勇者像じゃの。元々神殿というのは存在していたの。女神像があったのじゃが神官という特別な者はおらんかったの。そこに勇者カツヨリが神は信仰しないと意味がないと言って各地に女性の神官を置かせたのだの。この国だけでなく、世界中そうなっているはずだの。勇者カツヨリは自分が魔王を倒したら女神像の横に自分の銅像を作るように言い残して魔王との戦いに望んだようだの。それが、カツヨリ像ができた理由だの。それと無くなったというか像が消えた理由だの。今調べているが世界中の神殿から消えたようだの。なぜ勇者カツヨリが銅像を作らせたのか?恐らくは、カツヨリ殿が未来に現れる事を想定していたと考えられるの」


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