第86話 陰流奥義 陽炎

「陰流奥義 陽炎」


 カツヨリは先手必勝といきなり陽炎を仕掛けた。この技は前世、戦国時代に剣聖 上泉伊勢守が使った技で初見殺しだ。知らなければ避けられない。知らなければ、だが。カツヨリはここで魔力を纏わせる事、スキル加速を使うのを怠った。普通に陽炎を使えば十分だと考えたのだ。カツヨリは残像を残しながらムサシの身体をすり抜け………られず、剣で受け止められた。


「何?」


 とっさに身体能力強化と加速を使い元の位置に戻る。えっ、これ初見で避けるの?カウンターを警戒して急に緊張感が増すが、ムサシを見ると固まっている。あれ!?


「今の技は陽炎。なぜ使えるのだ?おう、そうか。ヤンギュー国にいたのだから使えてもおかしくはない。だがこれは奥義、お前のような小僧が使える技ではないはずなのだが。誰に教わった?」


 何言ってるのこいつ?


「あんたこそなぜ陽炎を知っている?ヤンギュー国では有名なのか?」


「まさか。陽炎は秘伝。わしは武術師範ゆえ使えるがヤンギュー国でも一部の者しか使えん技だ。それをお主のような小僧が、信じられん」


 信じられんのはこっちの方だわさ。陽炎が使えるのは俺と上泉伊勢守、あとは…………、!!!!!ま、さ、か。


「これは全力でかからないと不味そうだ。何となくわかってきたよ、ヤンギュー国を」


 カツヨリはそう呟いて二刀流に構えた。両剣に魔力を纏わせる。


「クロスアタック」



「二刀斬龍撃」


 2人同時に両刀をクロスに構えてから振り抜き斬撃を飛ばす。カツヨリのクロスアタックに対してムサシの二刀斬龍撃が、2人の中央で斬撃同士がぶつかり火花を散らす。と、同時に前方へ駆け出し剣を振るう。何度も何度も剣がぶつかり合う。


「ウォーリャー!」


「えい、えい、とりゃ!」


 拉致があかないと見たカツヨリは徐々に剣への魔力を強めていく。カツヨリの剣がオーラを帯び始める。それを見たムサシは、


「政宗、利光、頼むぞ!」


 ムサシは剣に話しかけ、剣をぶつけていく。カツヨリの剣撃が強さを増していくが、今度は徐々にムサシの両剣がオーラを帯びていく。カツヨリは違和感を感じた、なんか変だぞ。スキル加速を使い一旦距離を取り、ムサシの剣を見るとカツヨリの魔力が移っているように見える。吸い取られた?魔剣か、あれは?


「何だその剣は?スキルか?」


「ほう、気づいたのか?どうやら魔力が見えるようだな。この剣は我が友である。こっちが政宗でこっちが利光だ。いい名だろう?」


「ちょっと、待った。どうやら予想通りになりそうだ」


 名前が和風だ、漢字なのか?て、ことはだ。カツヨリは短刀を素早く投げる。ムサシは軽く剣で弾き飛ばしながら、


「なんだこの攻撃は、舐めているのか?」


 前を見るとカツヨリの姿が残像だった。稲妻のようにジグザグに残像を残しながら近づいてくる。カツヨリの得意技、無限陽炎だ。真っ直ぐに切り抜く陽炎ではなくスキル加速と組み合わせた、本来は大勢を一気に斬る技だ。


「これは多重残像か。だがこれではどこから攻めてくるか読める、未熟者めが。グワッ!」


 ムサシの背後から短刀が飛んできて背中に刺さった。その隙をカツヨリの無限陽炎が襲う。スパっと音がしてムサシが真っ二つになった。


「うまくいった。無限陽炎は目線を前に集中させるための囮だよ。1対1で使う技じゃあないからな。しかし一生使わないと思っていた嫌な奴の技を使っちまったよ。ブーメラン手裏剣か、流石にこれは知らなかったようだな」


 カツヨリは前世の難敵、風魔小太郎の得意技を使ってしまってちょっとだけ後悔した。短刀を数本投げ、一本明らかに避けられるところに投げる。それが忘れた頃にUターンして帰ってくるという嵌め技だ。まあ見事に決まってしまった。


 審判のレイラがカツヨリの勝利を認め、ムサシの蘇生を始めた。1日1回しか使えない蘇生魔法、この国ではレイラ以外に使える者はいない。しばらくしてムサシの身体はもと通りにくっついて意識を取り戻した。


「負けたのか?おそらくあれは忍びの術。そんな物まで使うとは。師匠は誰だ?ヤンギュー国にこれほどの遣い手がいるとは、一体国に何があったのだ?」


「勝ったのは俺だ。つまり質問するのはあんたじゃない、俺だよ。ヤンギュー国は500年前に出来たんだよな?初代当主、いや王は誰だ?」


「ヤンギュームネノリ様だ。知らんのか、非国民め」


 やっぱし。





 参ったな。どうも予想が当たったようだ。ヤンギュー国は転生者じゃない、転生国ってことだ。しかも戦国から、俺のいた戦国かはわからないけどパラレルワールド?何にせよヤンギュー国は柳生の里もどきって事のようだ。何がヤンギューだよ、なんか聞いたような響きだと思ったってもっと早く気付けよ、俺!


「ムサシ。聞きたい事は山ほどある。まず、ヤンギュー国には勇者伝説はあるのか?リコは知らないっていってたけど大人のあんたなら何か知ってるんじゃないか?」


「ふむ。負けた以上答えねばならんな。ヤンギュー国には勇者伝説はない。わしもこっちの世界に来て初めて聞いた。ただ救世主伝説はあるがな」


 どう違うねん。

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